ピコ通信/第82号
発行日2005年6月25日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. NPO法人有害化学物質削減ネットワーク(Tウォッチ)総会記念講演 5/22
    汚染のない世界をめざして−これからの日本の化学物質政策を考える
    立川涼さん(愛媛県環境創造センター所長)
  2. 海外情報/ビスフェノールAへの曝露は習慣流産に関連がある
  3. 高分子材料(プラスチック・廃プラスチック)の熱的ならびに機械的処理による
    化学物質の発生−(上)
    樋口泰一(関西大学 客員研究員)、林和子(日本科学者会議会員)

  4. 岐阜市の「香料自粛」呼びかけ/岐阜市議会議員 高橋 かん
  5. 化学物質問題の動き(05.05.22〜05.06.22)
  6. お知らせ・編集後記


高分子材料(プラスチック・廃プラスチック)の
熱的ならびに機械的処理による化学物質の発生−(上)


樋口泰一(ひぐち たいいち)
元:通産省工業技術院・大阪工業技術試験所(高分子)(技官)/大阪市立大学理学部化学科教授
現在:関西大学 客員研究員
林 和子(はやし かずこ)
元:通産省工業技術院・大阪工業技術研究所(研究官)
現在:日本科学者会議会員

編集注:本稿は、2004年に大阪・寝屋川市に建設された廃プラスチックのリサイクル工場の操業開始に当たり、住民、自治会からの操業差し止め訴訟に関連して、著者らが裁判所に書証として提出したものをもとにしています。

【要約】

(1) 本章の説明のために必要な語句(高分子、プラスチック、添加物、可塑性など)の説明をした。

(2) プラスチックの劣化と分解
 高分子化合物の成型品(いわゆるプラスチック)は、見かけ上、きわめて安定で、いつまでも変化せず維持・保存出来るように思われる。しかし、日常、ビニル製品の表面剥離、ひび割れ、変色、粘液状物質の滲出などをよく経験する。最近、プラスチックを常温に放置するだけで、低沸点化合物(気化しやすいもの)が発生していることの確認・研究も進められている。
 このような現象は、高分子化合物の結合が環境の熱や光、空気中の酸素等によって切断されるためである。摩擦や圧縮など、プラスチックの使用中に受ける様々な(物理的)力によっても影響を受けることが分かって来ている。これらの現象は、マクロな物理力が高分子化合物のミクロ環境に作用して化学結合・物理的結合の切断を起こしているからで、これは敢えて加熱しなくとも起こる反応であり、メカノケミカル反応である。
 上記の作用で、高分子化合物は、 1)高分子主鎖の切断、分子量の低下、分子量分布の変化、低分子化合物の生成  2)主鎖末端からのモノマー(単量体)の脱離  3)側鎖の切断、塩化水素などの生成  4)酸化、閉環その他の諸反応を起こしている。
 以上述べたように、プラスチックの特性は時間と共に損なわれていく。これを「劣化」と呼んでいる。本質は、分子内および分子間の結合の切断である。劣化には、熱劣化、機械的(応力)劣化、光劣化、生物劣化、放射線劣化、化学劣化などがある。
 プラスチックの劣化防止、耐久性持続のため、各種の安定剤が配合されて製造、市販されている。しかし、上述や(5)節にあるように、酸化防止剤は成型加工時や使用段階ですでにかなりの程度失効していて、酸化、劣化が進み易くなっている。廃プラスチック回収場はこのような劣化中の廃プラスチックの集積場である。また、東京・杉並中継所は劣化中の廃プラスチックとその他のごみとの混合集積場と見なすことが出来、廃プラスチックからの多くの化学物質の発生は上記の物理・化学的誘因によって起こされた可能性が極めて高いものと思考される。

(3) プラスチックの加熱処理による化学物質の発生
 ここでは、容器包装リサイクル法の対象となっているポリエチレン(PE),ポロプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)に限定して、熱分解生成物を表1にまとめた。プラスチックの原料(単量体)と異なる多種の生成物が検出された。
熱的処理により
 ○主鎖の切断、低分子化合物の生成・・PE,PP,PS,PVC
 ○モノマー(単量体)の生成・・PE,PP,PS、(PVCからは生成せず)
 ○側鎖の切断、脱塩化水素・・PVC
 ○閉環反応(ベンゼン環の形成)・・PVC
などの化学反応がそれぞれの単一プラスチックで起こり、幾つもの化合物が検出されている。
 ここで特に留意願いたいことは、表1には分析条件下で気化した発生化合物だけが検知・記録されているだけで、他に生成している高・中・低分子量の化合物で高沸点のものは検知・記述されていない。
 杉並中継所の場合は、検知されているが化学名が未確定のものだけでも200種以上になる。UV(紫外線)照射したPS製品の熱分解分析で、正常品の分解温度(405℃)以外に、120℃でもスチレン単量体が発生した。この事実は、製造後日時が経過したプラスチックの熱分解温度については、文献上の高い温度のみではなく、低い温度でも分解している点、とくに注目すべきである。

(4) プラスチックの機械的処理による化学物質の発生
 発生する低分子量の揮発性物質を表2にまとめた。 (比較対照物:ABS,PU)
 機械的(摩擦)処理により (合成ゴムABS,ポリウレタン(PU)は省略)
 ○主鎖の切断、低分子化合物の生成・・PE,PS,PVC
 ○酸化反応・・PE,PS
 ○閉環反応・・PE,PVC
 ○側鎖の切断・・PS(ベンゼン環などの脱離)
 ○モノマーの生成は、いずれも無し。すべての発生物は原料の単量体とは異なる。
共通して二硫化炭素が発生している。これは、熱安定化のために添加されている有機イオウ化合物の化学変化したものと見なすことができ、機械力によって分解したと判断される。熱処理と異なっているのは、空気中の酸素との酸化反応が起こっていることであり、これは、化学反応の経過中に、ラジカル(注)が発生したこと、すなわち、加熱しなくとも生起するメカノケミカル反応の進行があったことを示している。
上述の(3)、(4) はすべて単一のプラスチックについての実験結果である。杉並中継所のように、種々の廃プラスチックが混合している場合には、初めに発生した物質相互間の反応がさらに起こり、より多数の物質が発生することが、化学的見地より予想され得る。
以上をさらに短くして述べると、
 1) 高分子化合物は見た目のように安定ではなく、環境中または使用中の条件により絶えず劣化の危険に晒されているし、実際にも劣化している。
 2) 劣化したプラスチックは新品とは異なる挙動を示すようになり、一層劣化・分解し易い。金属顔料などの共存時には促進される。
 3) 小さな分子には物理的な力が化学結合を破るには至らないが、プラスチックを構成する高分子には応力が届き、化学結合が切断される。例えば、プラスチックの膜を引きちぎれば、何個かの分子鎖を切断しているけれど、氷の塊を叩き割っても、水分子の1個も壊すことは出来ない。高分子化合物の特徴である。

(5) 劣化したプラスチックについて
 一般プラスチックは、酸化防止剤などの安定剤によって一定劣化から守られているが、安定剤が無添加あるいは制限されている食品用容器包装プラスチックでは、より劣化され易い。

(6) 東京大学の研究
 PE,PVCについて放置、圧縮、破損の各実験がなされ、有害性のものも含む多くの発生化学物質が検出された。実験条件によって発生物質はかなり異なっている。保管している間にも化学物質が発生していることが示唆され、杉並中継所のような廃プラスチック集積場をこれ以上作るべきではない、と結論されている。

★注 ラジカル:自由基(free radical)のことで、つまり1つだけ独立している電子をもっている原子や分子のこと。例えば、水素ラジカル(H・)が不安定で、二つ一緒になってH:Hという水素分子(H2)になって初めて安定化する。24) 〔有機電子論解説〕。

表1 高分子材料の熱的処理により発生する代表的な化学物質(揮発性物質)
表2 高分子材料の機械的(摩擦)処理により発生する代表的な化学物質(揮発性物質)
   <高純度空気雰囲気下実験>

★表1及び表2の文献
a) K.Murata et al., J. Anal. Appl. Pyrolysis, 71,569-589 (2004). 熱分解温度:410,440℃;その他 420,430℃。
b) Alltech Appl. Note, PY001(1998). 700℃。
c) 高分子学会編、高分子の反応と分解(共立出版、1996). 450,500℃。
d) 高分子学会編、重合と解重合(共立出版、1958)。
e) 田中誠他、基礎高分子工業化学(朝倉書店、2003)。
f) 栗原福次、高分子材料の劣化と耐久性評価(日刊工業新聞社、1999). 404℃。
g) 小沢三四郎他、高分子化学、19,571-574(1962). 150,170℃。
h) Y.Tsuchiya et al., J. Polym. Sci., A-1,7, 1599-1607(1969). 360,380,400℃。
i) 平田祥一朗、東京大学修士論文(大学院新領域創成科学研究科、環境学専攻、2003).550℃。
j) H.Ohtani et al., Eur.Polym.J.,26,893-899(1990)。
k) 可児浩、北海道立工業試験場技術情報、24巻、No.4。
l) 神原周、平川芳彦、プラスチック廃棄物(理学書院、 1972). 80℃〜; 500,800,1200℃。
m) 大谷肇他、高分子、46,394-397(1997)。
n) W.Schnabel (相馬純吉訳)、高分子の劣化(掌華房、1993). 300℃、(120-140℃)740℃。
o) 笹田直他、摩擦にともなうポリ塩化ビニルの分解、第61回応用物理学会学術講演会(2000,9.6). 9.8N。

【本文】

(1) 「高分子」、「プラスチック」や「添加物」などについて
 「分子内の主鎖(−C−C−結合など)が共有結合で結合しており、分子量が1万程度以上の化合物を『高分子化合物』、『高分子物質』と総称し、そのような分子を『高分子』または『巨大分子』と呼ぶ。「1種または数種の構造単位(構成単位であり『モノマー、単量体』と言われる)が繰り返し結合、すなわち、『重合』したものが『重合体(ポリマー)』または高重合体であり・・・」と定義されている1)。また、分子量が数百までの化合物を『低分子化合物』、分子量が1,000〜1万のものを『オリゴマー』とよぶことがあり、一般に、単量体が2〜20個より成る低重合体のことを言う1)
 「プラスチック」については、「熱や圧力を加えることによって塑性流動性をもたせて、目的とする形に成形できる高分子可塑性物質である」と定義されており、合成樹脂(ポリエチレン、ポリ塩化ビニル等)と天然樹脂(天然ゴム等)を合わせてプラスチックまたは樹脂と呼んでいる1)。しかし、ゴム類はプラスチック類とは区別して、高分子物質を繊維、ゴム、プラスチックと3分類することが多い。プラスチックの分子間凝集力は繊維とゴムの中間の値を持っている2)
 ここで言われている「可塑性(かそせい)」とは単に「塑性」とも言い、固体に外力を加えて変形させた時、外力を取り去っても、そのままの形で残る現象・性質である。例えば、粘土に力を加えて変形させると、そのままで元の形に戻らない。このような体積や形の変化を「歪み」、歪みを起こさせる力を「応力」と言われる。塑性をもつ高分子化合物が「プラスチック」である。
 一般に、プラスチックは、主成分である高分子量の合成樹脂等ばかりで造られている場合はむしろ少なくて、他の物質を加えて補強したり、増量することで安価にしたり、軟化剤、流動剤を加えて(添加)、性質や成型加工性を改良したりして、市場、家庭、社会に出回っている。
 このような「添加剤」を「充填剤」と呼び、上記以外に、可塑剤、熱・光や空気(酸素)などに対する安定剤(酸化防止剤、耐熱性向上剤、耐光剤、加工安定剤など)、難燃剤、発泡剤などの各種の劣化防止剤などが目的と用途に応じて用いられている。その適用も、プラスチック物質の全体を改質、表面のみの改質、混合や共重合して改質する場合などがある。気体物質、液体物質、固体物質と広く利用されている。また、化学成分は有機化合物、無機化合物、金属、有機金属化合物、高分子化合物など、様々である。

(2) 高分子化合物・プラスチックの劣化と分解
 高分子化合物の成型品である各種のいわゆるプラスチック類は、見かけ上は極めて安定で長い寿命を持ち、いつまでも変化せずに維持・保存出来るように思われる。しかし、「ビニル製品」の表面が剥がれたり、中から液状〜粘液状物が滲出してきたり、ひび割れ、塗料のめくれ、変色、硬化等は日常よく経験することである。最近、プラスチックを放置しておくだけでも化学物質が発生していることの確認研究も進められている3)
 このような現象は、多数の化学結合をもつ高分子化合物が、熱(室温の熱でも)、光(とくに紫外線)、放射線、X線、空気(酸素)、超音波などの物理・化学的な外的な「環境因子」によって、高分子の主鎖や側鎖(主鎖から分枝している短い結合鎖、主鎖上に何箇所もある)、末端が影響を受けて、分解あるいは解重合することであり、かなり以前から知られていた4)。もちろん、分子間力も影響を受けている。さらに、日常の「使用因子」である、曲げ、摺り・擦り、せん断、引っ張り、捩れ・捻れ、衝撃、加圧などの機械的な物理力によっても影響を受けることが使用経験からも認識されており、学問的にも明らかにされてきた4〜10)
 これらの諸現象は、固体状態の高分子物質内部で、熱エネルギー、光エネルギー、化学エネルギーなどが分子内、分子間の結合や構成原子に作用、また、機械的な物理力によって自由体積の増加、ミクロ領域での昇温などにより、分子内および分子間結合の解裂その他の化学反応が起こり、分子および結晶構造の変化、低分子化合物の発生などがもたらされたことを意味している。こうして、分子量分布も変化する。これはメカノケミカル反応である5.10)
 かような変化・反応は、一見丈夫で不変の様に見える成型品の使用中、保存中でも日々に起こっていると考えられる。このため、「プラスチックの寿命」という問題が取り上げられて耐久性の向上を目的として各種の添加剤が充填されてきた。もちろん、成型加工時でも劣化は避けられない。
 固体高分子には、(A)結晶性部分と(B)非結晶性部分があり、その割合を結晶化度と言う。(A)、(B)両部分(両領域)において、例えば、ビニル系高分子の分子内では、炭素・炭素間の結合(C−C共有結合)などを作っている(「分子内結合」、強い結合)。他方、分子間では、ファン・デル・ワールス力、電荷移動力、水素結合などの「分子間相互作用」1,2)が働き(分子間での引力、斥力;弱い結合)、平衡的な相互間隔(距離)を保っている。最近では、分子間での新たな相互作用も確認されており、構造や物性について議論する場合に、分子内結合に対して、分子間相互作用を「分子間結合」と表現されることが多い。高分子の主鎖は、炭素など多数の原子によって作られており、それに水素(H),酸素(O),塩素(Cl)などの原子が(共有)結合している。それ故、たとえ弱くても多数の分子間結合が作られるので、総体として強く相互作用し合っている。
 「高分子材料と低分子材料の機械的応力に対する挙動は全く異なっている。低分子量の有機材料は通常応力を受けても化学変化を起こさない。低分子量分子の集合体に応力を加えれば、分子間結合(分子間相互作用)が緩くなる。その結果、巨視的には試料の変形、微視的には分子の変位が起こるだけである(分子の破壊、すなはち、分子内結合の切断などは起こらない)。したがって、ずり応力の影響下では、試料の或る点の或る分子の間の分子間相互作用が切れて変位が起こり、その変位後に新しい相互作用が生ずる。このことは、液体のみならず、固体でも成立する。低分子量化合物から成る結晶、または無定形固体を壊しても、化学結合切断の証拠であるラジカルは生じない。一方、高分子を機械的に処理すると、一般にラジカルが検知され、このことは化学結合の切断を意味している」5)。  ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)その他について、77K(約−196℃)でボールミル・破砕や摩砕により機械的に誘起された主鎖切断で生じる高分子ラジカルの検知が報告されている5)。このラジカルは77Kという極低温でも非常に不安定で反応性に富んでいる。これまでも、重合による高分子製造の際に用いられてきた有機過酸化物(パーオキサイド)は30〜80℃という比較的低温で容易にラジカルに分解するので、便利なラジカル源として用いられてきた24)。さらに低温でも高分子ラジカルが発生すること、後述の高分子鎖でのハイドロパーオキサイド(過酸化物の一つ)の生成することなどにより、固体プラスチック材料内での、ラジカル発生、それに続くラジカル連鎖反応、そして材料の劣化・分解が考えられる。
 以上の高分子の分解におけるエネルギーの伝達方法は物理的分解であるが、これ以外にも化学試薬による化学的分解や微生物、バクテリアなどによる微生物分解およびこれらの組合わされた場合がある。
 上記の作用・影響で、1)高分子の主鎖が任意点で切断され、重合度が低下(→分子量が低下)する「ランダム分解、無秩序分解」や側鎖の切断、脱離する場合、 2)主鎖端から単量体の脱離(「解重合」)する場合があり、さらに鎖端近傍で結合の切断、切断分子(原子および原子団ラジカル)の再結合、その他の化学反応が起こる。
 水の存在する場合には加水分解反応が、添加剤が混合されている際には高分子の分解などに伴って添加剤の遊離(分離・滲出・気化)などが併発する。
 以上述べて来た様に、プラスチックやゴム類の特性が時間と共に損なわれていく現象を「劣化」と言う。劣化を引き起こす誘因は他にオゾンや湿気もあり、まとめると、熱劣化、光劣化,酸化劣化、環境劣化および応力亀裂などに分類される。通常、これらの原因が重なって劣化が進む場合が多い1)。一般に、劣化は高分子鎖の架橋、主鎖の切断あるいは側鎖の分解を伴う1)
 「劣化」については、英語でも、degradation と decomposition があり、その定義や意味づけなどは必ずしも厳密には同一ではない。
 当意見書においては、 W.Schnabel の"Polymer Degradation" (高分子の劣化)5) の定義の章にある「合成高分子でできている材料に関し、"高分子劣化"という言葉は、巨大分子の骨格をなす化学結合の切断によってひきおこされる物性の変化を意味する。線形高分子では、これらの化学反応は分子量低下、すなわち鎖長の減少をもたらす。(中略)線形高分子の骨格主鎖の化学結合の切断、すなわち主鎖劣化(後略)」という考え方、定義に拠っている。主鎖が鎖状になっている重合体は線状重合体とか、線形高分子とか言われる。
 杉並中継所での廃プラスチックからの多くの化学物質の発生は、そのかなりの化合物が上記の物理・化学的誘因によるものと思われる。そして、その発生化学物質について、プラスチックの製造原料(モノマー、添加剤など)や高分子物質の化学構造および後節の実験結果と併せて検討・勘案すると、上記中継所からの発生化学物質の主要なものが高分子化合物・プラスチックに由来している可能性が相当に高いものと推論される。
(次号につづく)


岐阜市の「香料自粛」呼びかけ
岐阜市議会議員 高橋 かん


 岐阜市内の公共施設(庁舎・病院・学校・公共ホールなど)に「香料自粛のお願い」ポスターが4月1日より一斉に張り出された。ある中学校では待っていたように正面玄関に5枚も張り出した。先生は「授業参観で今まで困ることもあった」との話をされた。ある女性は「これを待っていたのよ」と評判は良い。
 でも急に市の対応が変化したわけではない。



◆様々な取り組みの結果、意識に変化
 以前は、化学物質や農薬に対しての専門知識は豊富だが、基準・規定を常に持ち出して問題無しとする対応に終始してきた。もちろん、総合防除の考えはなかった。それが実態であった。
 10年前に小型ヘリによる農薬散布の中止を求めたことに始まり、庁舎や公共施設で当たり前に使用されていたパラジクロロベンゼンの撤去、ダイオキシンの関係で「学校等の焼却炉」の全面撤去、市役所庁内の燻蒸の中止、市民病院での病室への農薬散布廃止と調理室の夜間の殺菌燻蒸の取りやめ、保育所や学校での使用ワックスの変更、墓地・公園・街路樹・学校樹木への農薬散布の規制・抑制、民間病院への管理指導でのチェック強化、などの取組みによって、農薬の危険性と化学物質に対する認識の変化から生じたものと考えられる。

◆水郷水都全国会議のポスターから
 サスティナブル21の小沢さんから浜松市で開催された「水郷水都全国会議」の資料をいただき、ポスターもいただいた(編集注)。議会質問は、所管窓口となる「市民健康部長」、関係施設管理者である「教育長」「市民病院長」「市民参画部長」「行政管理部長」に対して行った。各部それぞれから同主旨の答弁を得ることが、より早く実行に結びつく。その結果、3月議会が終って、4月からの一斉実施となった。
 質問の主旨は「農薬も香料も環境に放出することを目的とする。洗剤・整髪料・ティッシュから果てはオムツまで香料が付いている。学校では授業参観の保護者の化粧がかなり刺激的な場合も、これに反応する子どもが増えている。香料は個人の好み、しかし少量の香料でもアレルギーを引き起こしたり、化学物質過敏症になる人も多い。いったん過敏となると、他の物質にも敏感に反応する。公共の場では自粛のお願いを進めるべき。自粛を呼びかけるポスターをそれぞれの施設に貼付されたい」であった。

◆214ヶ所の公共施設に張り出される
 教育長は答弁で東京都の児童の例を報告し、「市内では報告を受けていないが、授業参観などで保護者に啓発していきたい」と述べた。
 担当部長も「僅かな人であっても発症する方がおられるということであれば、市民の皆さんに対し、啓発やお願いをしていく必要がある。香料自粛のポスター掲示を関係施設に要請していきたい」と答弁した。
 ポスターの掲示は、庁舎内をはじめ29保育所、健康センター・老人施設などの福祉施設、10の児童センター、看護学校、女子短大、71の小・中・養護学校、図書館・科学館・コミュニティセンターそして保健センター・休日診療所・市民病院など214カ所に張り出された。枚数はもっと多いだろう。

◆全国どこでもできる!
 あくまで「自粛の呼びかけ」ではあるが、アピールの効果は大きいといえる。職員の啓発も必要で、看護士や給食調理員が現場で強い化粧や香水を使うことはありえないことであるが、「個人の問題だから」と渋る一部の幹部職員もいた。
 少し目を離すと清掃などの請負業者の職員が、トイレ清掃で塩素系の殺菌剤を使ったりすることもあり、即座に止めさせたこともある。
 岐阜市は環境問題に関しては先進的な市といえる。化学物質問題に前向きに対応する職員がでてきたことも幸いである。
 積み重ねであろう、知識のない私でもお役に立てたのだから、全国どこでも拡大できるのではないかと思う。


編集注:
「水郷水都全国会議 in はままつ」は、2004年11月27-28日に浜松市の静岡文化芸術大学で開催された。この会議の第6分科会の要請によって「香料自粛のお願い」のポスターが会場内に掲示され、大会のホームページに掲載された。ポスターには、
「香料(香水・整髪料など)自粛のお願い
香料を楽しむ方々がおられます。
香料に苦しむ方々もおられます。
香料はアレルギーや喘息を誘発することがあります。
過敏な方もあります。」と書かれていた。

化学物質問題市民研究会
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