官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム パブリックコメント提出
既存化学物質の総点検をすべき
厚生労働省、経済産業省、環境省の3省が表記のパブリックコメントの意見募集を2005年4月25日から5月20日まで行いましたので、当研究会が提出した意見を紹介します。
化学物質を規制する「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法1973年)では、新たに製造又は輸入される工業用化学物質(新規化学物質)については事前審査を受けることが義務づけられました。しかし、現に製造又は輸入が行われていた化学物質(既存化学物質)は事前審査制度の対象とせず、化審法制定時の国会の附帯決議において、「その安全性確認のため、早急に総点検を実施し、その結果、特定化学物質として指定された化学物質については、環境汚染の進行を防止するため、すみやかに回収命令の発動、勧告等必要な措置を講ずること」とされました。
しかし、この決議がなされてからすでに30年以上も経過しているのに、既存化学物質の総点検はいまだに実現していません。
欧州連合(EU)では、人の健康と環境を守るという理念の下に、新たな化学物質規制案REACHが提案されており、EUの現行法では規制の対象外となっている1981年以前に市場に出された既存化学物質も、新規化学物質と同等に規制の対象とすることとしています。そして安全性を立証する責任は当局ではなく事業者にあるとしています。
同プログラムでは、国内年間製造・輸入量が1,000トン以上の既存化学物質は、国と産業界が連携して、経済協力開発機構(OECD)の高生産量化学物質(HPVC)安全性情報収集プログラムと協調しながら、2008年度までに安全性情報を収集・発信するとしています。しかし、1,000トン未満の物質の取扱いについては今後の検討課題であるとして具体的なスケジュールを示さず、問題解決を先送りにしています。
同プログラムの問題点を要約すれば:
- 国の化学物質政策に関する基本理念と、その枠組み、すなわち、情報収集、安全性評価、法的措置、実施範囲、実施方法、スケジュールが示されていない。
- 優先して安全性情報を収集すべき化学物質の選定として「国内年間製造・輸入量が1,000トン以上」としているが、1,000トンの妥当性の説明、及び1,000トン未満の物質の取り扱いについての提案がない。
(対象となる1,000トン以上の物質はわずかか665物質であり、残りの1,000トン未満の物質は数万種に及ぶ)。
- 事業者は、自主的に本プログラムに参画することとし、優先情報収集対象物質のうち情報収集予定のない物質について民間よりスポンサーを募集して実施するとあるが、情報収集は"自主的"ではなく、事業者に"義務付ける"べきである。
- 製造・輸入量が多い物質だけではなく、環境残留性又は生体蓄積性の高い化学物質は優先情報収集対象物質とすべきである。
- 最終的な情報収集の範囲とスケジュール(完了期限)が示されていない。
提出した意見を以下に紹介します。
2005年5月20日
化学物質問題市民研究会
〒136-0071
東京都江東区亀戸 7-10-1 Z ビル 4階
環境省環境保健部化学物質審査室 御中
(意見)
1. 「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム」は、国の化学物質政策に関する基本理念と、その枠組み、すなわち、情報収集、安全性評価、法的措置、実施範囲、実施方法、スケジュール、等が明確にされた上で、議論されるべきである。
ところが、国の既存化学物質に関する政策の理念と枠組み及びスケジュールは明確には示されていない。どのような理念に基づいて、いつまでに、どの範囲を、どのような方法で、既存化学物質の情報収集、安全性評価、法的措置を実施するのか、すなわち、国は、ある製造量/輸入量以上の既存化学物質について、いつまでに、有害なもの及び安全性の確認されないものを市場からなくそうとしているのかを明確に提案し、その範囲(製造量/輸入量)、スケジュール、評価方法、実施方法等の妥当性について、まずパブリックコメントにかけるべきである。
既存化学物質の情報収集だけではなく、早急な"安全性の総点検"と"法的措置の実施"が要求されていることを認識すべきである。
(理由)
1-1. 国民の懸念は、既存化学物質の安全性情報がないことだけではなく、安全性が確認されていない非常に多くの化学物質が市場に出ているということにある。
1-2. 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律案に対する附帯決議(参議院商工委員会、昭和48年6月22日)において、「既存化学物質についても、その安全性確認のため、早急に総点検を実施し、その結果、特定化学物質として指定された化学物質、…については、環境汚染の進行を防止するため、すみやかに回収命令の発動、勧告等必要な措置を講ずること」−としており、この決議がなされてからすでに30年以上経過しているが、いまだに実現していない。
(意見)
2. 優先して安全性情報を収集すべき化学物質の選定として 「国内年間製造・輸入量が1,000トン以上」 という基準は高すぎる。また、「1,000トン未満である物質の取扱いについては今後の検討課題である」として具体的な提案をせず、問題解決を先送りしている。人の健康と環境を守るという観点から、「1,000トン以上」が妥当であるとする根拠を見出すことはできない。
(理由)
2-1. 参考4 に示される 「優先情報収集対象物質の考え方」 によれば、1,000トン以上の化学物質の検出割合は50%となっている。この検出割合の定義が示されておらず、この数値をもって「1,000トン以上」が妥当であるとすることはできない。むしろ、この検出割合50%という数値を見ると、1,000トン以下の化学物質の安全性が確認されないことについて、さらに不安が増す。
2-2. OECDの高生産量化学物質点検プログラムを実現すれば、人の健康と環境を守る上で十分というわけでは決してない。製造者又は輸入者当たり年間 1 トン以上製造又は輸入される化学物質を登録対象とする(初期評価は10トン以上)REACHの理念と比べると、あまりにも隔たりがありすぎる。
(意見)
3. 事業者は、自主的に本プログラムに参画することとし, 優先情報収集対象物質のうち情報収集予定のない物質について民間よりスポンサーを募集して実施するとあるが、情報収集は"自主的"ではなく、事業者に"義務付ける"べきである。
(理由)
3.1. 事業者である化学物質の製造者または輸入者が化学物質のライフサイクル(製造、使用、及び処分)における安全性の立証を行うべきことは、事業者の責任として当然なことである。事業者が安全性の確認されていない化学物質を市場に出すということは、人の健康と環境を守るという観点から許されない。また、そのことを法的に許してきた国にも責任がある。国は"自主的"ということで事業者の責任をあいまいにしてはならない。
3.2. 化学物質の情報を最も持っているのはその物質の製造者であり、その製造者が情報提供をするということが最も理にかなっている。
3.3. 民間よりスポンサーを募集するとしているが、必ずスポンサーがつくという保証がない。これはこのプログラムの実行可能性及び確実性に関わることである。
(意見)
4.優先して安全性情報を収集すべき化学物質の選定対象として、現時点では必ずしもその有害性が科学的に十分には証明されていなくても、環境残留性又は生体蓄積性の高い化学物質−たとえば過フッ素化合物類(パーフルオロ化合物類 PFCs)など−は含めるべきである。
(理由)
4.1. 環境残留性又は生体蓄積性は一般的には非可逆的であり、将来、その有害性が確認されてから措置をとっても手遅れになる。予防原則に基づき、事前に対処すべきである。
(意見)
5. 「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム」には、情報収集のスケジュール(完了期限)が示されていない。実施する範囲と完了期限を明確に示し、国民に対してその実施をコミットすべきである。明確な展望とスケジュールを示さず、成り行き任せで実施するということでは、あまりにもお粗末である。
(理由)
5.1 国が実施するプログラムとして、範囲とスケジュールを明確に示し、その実施をコミットすべきことはあまりにも当然である。どの範囲をいつまでに実施するのかを示すスケジュールなくして進捗管理を行うことはできない。
5.2 (意見)1で述べたとおり、国の化学物質政策の基本理念と枠組み、及びスケジュールが明確にされていないから、このようなことになる。
以上
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