ピコ通信/第81号
発行日2005年5月23日
発行化学物質問題市民研究会
e-mailsyasuma@tc4.so-net.ne.jp
URLhttp://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

目次

  1. 官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム パブリックコメント提出
    既存化学物質の総点検をすべき

  2. 第8回全国化学物質過敏症患者会−化学物質過敏症と医療
    ■CS合併患者さんの手術を経験して学んだこと
     (馬場紀行・束京共済病院乳腺内分泌外科部長)

    ■化学物質過敏症の治療の現状と課題
     (長谷川真紀・国立病院機構相模原病院臨床環境医学センター診療部長)

  3. 理解されないワックスの害〜学校の対応と企業の対応〜
    小樽子どもの環境を考える親の会

  4. 海外情報/全米の家庭のダストに有毒化学物質が
  5. 化学物質問題の動き(05.04.21〜05.05.21)
  6. お知らせ・編集後記


官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム パブリックコメント提出
既存化学物質の総点検をすべき



 厚生労働省、経済産業省、環境省の3省が表記のパブリックコメントの意見募集を2005年4月25日から5月20日まで行いましたので、当研究会が提出した意見を紹介します。
 化学物質を規制する「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法1973年)では、新たに製造又は輸入される工業用化学物質(新規化学物質)については事前審査を受けることが義務づけられました。しかし、現に製造又は輸入が行われていた化学物質(既存化学物質)は事前審査制度の対象とせず、化審法制定時の国会の附帯決議において、「その安全性確認のため、早急に総点検を実施し、その結果、特定化学物質として指定された化学物質については、環境汚染の進行を防止するため、すみやかに回収命令の発動、勧告等必要な措置を講ずること」とされました。
 しかし、この決議がなされてからすでに30年以上も経過しているのに、既存化学物質の総点検はいまだに実現していません。

 欧州連合(EU)では、人の健康と環境を守るという理念の下に、新たな化学物質規制案REACHが提案されており、EUの現行法では規制の対象外となっている1981年以前に市場に出された既存化学物質も、新規化学物質と同等に規制の対象とすることとしています。そして安全性を立証する責任は当局ではなく事業者にあるとしています。

 同プログラムでは、国内年間製造・輸入量が1,000トン以上の既存化学物質は、国と産業界が連携して、経済協力開発機構(OECD)の高生産量化学物質(HPVC)安全性情報収集プログラムと協調しながら、2008年度までに安全性情報を収集・発信するとしています。しかし、1,000トン未満の物質の取扱いについては今後の検討課題であるとして具体的なスケジュールを示さず、問題解決を先送りにしています。
 同プログラムの問題点を要約すれば:
  1. 国の化学物質政策に関する基本理念と、その枠組み、すなわち、情報収集、安全性評価、法的措置、実施範囲、実施方法、スケジュールが示されていない。
  2. 優先して安全性情報を収集すべき化学物質の選定として「国内年間製造・輸入量が1,000トン以上」としているが、1,000トンの妥当性の説明、及び1,000トン未満の物質の取り扱いについての提案がない。
    (対象となる1,000トン以上の物質はわずかか665物質であり、残りの1,000トン未満の物質は数万種に及ぶ)。
  3. 事業者は、自主的に本プログラムに参画することとし、優先情報収集対象物質のうち情報収集予定のない物質について民間よりスポンサーを募集して実施するとあるが、情報収集は"自主的"ではなく、事業者に"義務付ける"べきである。
  4. 製造・輸入量が多い物質だけではなく、環境残留性又は生体蓄積性の高い化学物質は優先情報収集対象物質とすべきである。
  5. 最終的な情報収集の範囲とスケジュール(完了期限)が示されていない。
 提出した意見を以下に紹介します。


2005年5月20日
化学物質問題市民研究会
〒136-0071
東京都江東区亀戸 7-10-1 Z ビル 4階
環境省環境保健部化学物質審査室 御中

(意見)
1. 「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム」は、国の化学物質政策に関する基本理念と、その枠組み、すなわち、情報収集、安全性評価、法的措置、実施範囲、実施方法、スケジュール、等が明確にされた上で、議論されるべきである。
 ところが、国の既存化学物質に関する政策の理念と枠組み及びスケジュールは明確には示されていない。どのような理念に基づいて、いつまでに、どの範囲を、どのような方法で、既存化学物質の情報収集、安全性評価、法的措置を実施するのか、すなわち、国は、ある製造量/輸入量以上の既存化学物質について、いつまでに、有害なもの及び安全性の確認されないものを市場からなくそうとしているのかを明確に提案し、その範囲(製造量/輸入量)、スケジュール、評価方法、実施方法等の妥当性について、まずパブリックコメントにかけるべきである。
 既存化学物質の情報収集だけではなく、早急な"安全性の総点検"と"法的措置の実施"が要求されていることを認識すべきである。

(理由)
1-1. 国民の懸念は、既存化学物質の安全性情報がないことだけではなく、安全性が確認されていない非常に多くの化学物質が市場に出ているということにある。
1-2. 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律案に対する附帯決議(参議院商工委員会、昭和48年6月22日)において、「既存化学物質についても、その安全性確認のため、早急に総点検を実施し、その結果、特定化学物質として指定された化学物質、…については、環境汚染の進行を防止するため、すみやかに回収命令の発動、勧告等必要な措置を講ずること」−としており、この決議がなされてからすでに30年以上経過しているが、いまだに実現していない。

(意見)
2. 優先して安全性情報を収集すべき化学物質の選定として 「国内年間製造・輸入量が1,000トン以上」 という基準は高すぎる。また、「1,000トン未満である物質の取扱いについては今後の検討課題である」として具体的な提案をせず、問題解決を先送りしている。人の健康と環境を守るという観点から、「1,000トン以上」が妥当であるとする根拠を見出すことはできない。

(理由)
2-1. 参考4 に示される 「優先情報収集対象物質の考え方」 によれば、1,000トン以上の化学物質の検出割合は50%となっている。この検出割合の定義が示されておらず、この数値をもって「1,000トン以上」が妥当であるとすることはできない。むしろ、この検出割合50%という数値を見ると、1,000トン以下の化学物質の安全性が確認されないことについて、さらに不安が増す。

2-2. OECDの高生産量化学物質点検プログラムを実現すれば、人の健康と環境を守る上で十分というわけでは決してない。製造者又は輸入者当たり年間 1 トン以上製造又は輸入される化学物質を登録対象とする(初期評価は10トン以上)REACHの理念と比べると、あまりにも隔たりがありすぎる。

(意見)
3. 事業者は、自主的に本プログラムに参画することとし, 優先情報収集対象物質のうち情報収集予定のない物質について民間よりスポンサーを募集して実施するとあるが、情報収集は"自主的"ではなく、事業者に"義務付ける"べきである。

(理由)
3.1. 事業者である化学物質の製造者または輸入者が化学物質のライフサイクル(製造、使用、及び処分)における安全性の立証を行うべきことは、事業者の責任として当然なことである。事業者が安全性の確認されていない化学物質を市場に出すということは、人の健康と環境を守るという観点から許されない。また、そのことを法的に許してきた国にも責任がある。国は"自主的"ということで事業者の責任をあいまいにしてはならない。

3.2. 化学物質の情報を最も持っているのはその物質の製造者であり、その製造者が情報提供をするということが最も理にかなっている。

3.3. 民間よりスポンサーを募集するとしているが、必ずスポンサーがつくという保証がない。これはこのプログラムの実行可能性及び確実性に関わることである。

(意見)
4.優先して安全性情報を収集すべき化学物質の選定対象として、現時点では必ずしもその有害性が科学的に十分には証明されていなくても、環境残留性又は生体蓄積性の高い化学物質−たとえば過フッ素化合物類(パーフルオロ化合物類 PFCs)など−は含めるべきである。

(理由)
4.1. 環境残留性又は生体蓄積性は一般的には非可逆的であり、将来、その有害性が確認されてから措置をとっても手遅れになる。予防原則に基づき、事前に対処すべきである。

(意見)
5. 「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム」には、情報収集のスケジュール(完了期限)が示されていない。実施する範囲と完了期限を明確に示し、国民に対してその実施をコミットすべきである。明確な展望とスケジュールを示さず、成り行き任せで実施するということでは、あまりにもお粗末である。

(理由)
5.1 国が実施するプログラムとして、範囲とスケジュールを明確に示し、その実施をコミットすべきことはあまりにも当然である。どの範囲をいつまでに実施するのかを示すスケジュールなくして進捗管理を行うことはできない。

5.2 (意見)1で述べたとおり、国の化学物質政策の基本理念と枠組み、及びスケジュールが明確にされていないから、このようなことになる。

以上



第8回全国化学物質過敏症患者会
化学物質過敏症と医療



 5月15日(日)、東京都品川の国民生活センターにおいて、第8回全国化学物質過敏症患者会が開催されました(主催:化学物質過敏症患者の会)。化学物質問題市民研究会も協力団体として参加しましたので、概要を報告します。

 当日は、患者、一般市民、医療関係者、研究者、事業者など160余名が参加。岡山、大阪、岐阜、愛知など遠方からも様々な症状を抱える患者が参加、化学物質過敏症(CS)問題解決への切実な思いが伝わってきました。
今回のテーマは「化学物質過敏症と医療」。馬場紀行・東京共済病院乳腺外科部長と長谷川真紀・国立病院機構相模原病院臨床環境医学センター診療部長の講演と質疑応答が行われました。
なお、午前の部は、脱化学物質・物づくりキャンペーンとして、無肥料栽培野菜、食品、患者・市民の手作り品などの展示、試食。また、無肥料栽培と有機栽培、安全な住宅の新築体験、グルタルアルデヒドによるCS発症から労災認定の体験談などの報告が行われました。
ここでは、講演と質疑応答について紹介します。


■CS合併患者さんの手術を経験して学んだこと
 馬場紀行・束京共済病院乳腺内分泌外科部長

 学物質過敏症(CS)の患者さんは多くの薬剤に対して危険なアナフィラキシー反応を起こすリスクがある。患者さんの数は決して少なくはないが、厚生労働省が疾患として認定していない現在、われわれ医師の間でも認知度は低い。
 このことはCS患者さん、医師両者にとって大変危険かつ不幸な状況である。正常な患者さんでは何も起こらないはずの処置や投薬が、重大な医療事故につながる可能性があるからである。そのためにCSの患者さんは自ら反応を起こす可能性のある薬剤についてリストをまとめ、常時持ち歩かなければならない。
 医療者の目から見るとこれは本末転倒である。われわれが、まずCSについて疾患の概念を理解し普及させなければ、いつ何時不幸な事態に直面するか予想することさえできない。
 私は、たまたまCSとすでに診断されていた患者さんの乳癌を治療する機会に遭遇した。患者さんは57歳女性で左乳癌T2NOMO、2A期であった。CSについて理解を示す施設が少なく、数施設を受診後当院に来院された。理学的診察、画像診断にて診断はほぼ確実であり、画定診断をえるために局所麻酔下に針生検を行おうとしたところ、CS患者であることを告げられ、使用不可能な薬剤のリストを提示された。
 それまでCSという病名すら聞いたこともなく、危険物リストの多さに困惑した。歯科麻酔の経験があることからキシロカインを局部麻酔として使用して針生検を行った。しかし帰宅途中に咽頭違和感の症状を自覚し、以後キシロカインは使用不可薬品リストにのることになった。
 病理組織診断にて乳癌と確定することはできたが、問題は治療にかなりの制限が予想されることであった。消毒剤、麻酔、抗生物質、鎮痛剤など通常の手術で当然使用しなければならない薬物について、使用可能なものは極めて限定された。またCSに関する知識が全くなかったために、医学書や雑誌などを検索したがあまり充分な情報はえられなかった。
 そのため、主治医(北里研究所病院)に数度連絡を取り、疾患の概念、使用不可能な薬剤について指示を受けた。正直言ってあまりの制約の大きさに一度は治療を断念しかけたが、他に紹介先もなく、当院で治療することを決意した。これにはかなりの勇気が必要であった。麻酔医とも相談し、ほとんど薬剤を使わずに麻酔をかけてもらい、手早く出血量の少ない手術を心がけることで問題をクリアすることにした。
 手術法としては単純乳房切断術を採用した。臨床上腋窩リンパ節転移はなく、術後化学療法を行うことは不可能であったため、腋窩リンパ節郭清(取ること)は省略した。点滴は生理的食塩水をメインとし、抗生物質、筋弛緩剤は使用しないこととした。
 麻薬を併用し、吸入麻酔剤(ゼボフルレン)の濃度を可及的に低くするように工夫した。手術は予定通り55分、出血量53mlにて終了した。術後は鎮痛剤などを用いず、食事も本人の用意したものをとってもらい、順調に退院した。
 入院した病室は築後50年を経過し、有害な環境汚染物質の飛散がなかったことも良好な結果に貢献したと考えられる。患者さんは現在術後経過観察中である。残念ながら新病棟落成にともない旧病棟を取り壊したために、現在CS患者さんを受け入れることができるかは不明である。
 その後同じような患者さんを手術するために他院の外科医師から問い合わせを受けたことがあるが、あまり疾患について積極的に理解をしようとする姿勢がなく、今更ながら医師に対するCSの啓発の重要性を痛感した。現状では多くのCSの患者さんがその病態を理解されずに種々の医療処置を受けている可能性があり、大変危険な状況である。厚生労働省による疾患の認定、健康保険適応を受け、疾患に関する啓発を積極的に行うことが必要と考える。

質疑応答
 CS患者の手術で事故は起きているのか。
 医療事故は表に出にくいので、情報が詳しく公開されないと、そういう事故が起きているかどうかは分からない。外科学会の手術中のリスクというテーマで、CSという言葉は一度も出てきていない。

 病院内での害虫駆除の薬剤散布について考えを聞きたい。改正ビル管理法で、害虫がいるかどうか確かめてから駆除することや、散布後に残らないことも義務づけられた。
 私の勤務する病院では定期的に、大体、患者さんのいない日曜日にやっている。翌日は、私も具合が悪くなる。しかし、害虫がいると困るので、難しい。しかし、これから考えていかなくてはならない問題だと思う。
 患者の会として、これまでオーダーメード医療をお願いしてきたが、今、どのような方向にあるか。
 オーダーメード治療はtailored medicineなどの邦訳。標準治療は合併症のない場合の治療で、リスクを抱えた人に対しては当然オーダーメード治療をせざるを得ない。これは2000年に米国厚生省が出したガイドラインに書いてあること。オーダーメード治療は特別なものではない。

 CS患者は消毒薬は何を使えばいいのか。
 ヒビテン(成分:グルコン酸クロルヘキシジン)はアレルギーを起す可能性大。アルコール、ホウ酸のうち大丈夫なものを使う。

 電磁波過敏症の患者は心電図はとらないほうがいいのか。
 心電図は電磁波を感知するものだからあまり関係がない。電磁波を出すレントゲン、MRIは関係がある。


■化学物質過敏症の治療の現状と課題
 長谷川真紀・国立病院機構相模原病院臨床環境医学センター診療部長

 臨床環境医学センターの建物は、2002年の4月にできた。面積は200u強あり、活性炭フィルターを通して外気を入れ、中の空気は化学物質に関してひじょうに清浄な状態を保っている。
シックハウス症候群という言葉は、医療面で問題になるより前に社会的な問題から作られた。シックビルディング症候群から作られた 和製英語。昨年、健康保険の病名として認められた。ただ、シックハウス症候群とカルテに書いても、どういう検査・治療が認められるのかが未だはっきりしていない。ひょっとすると、やった診療内容が査定において不要だとして保険が適用されない恐れがある。
 シックハウス症候群とは、室内環境、とくに室内空気質に起因して起こる健康被害。例えば病原微生物(レジオネラ菌など)、アレルゲン(ホコリ、ダニなど)、化学物質とくに揮発性有機化合物(Volatile Organic Compound-VOC)などが考えられる。先の二つは従来の医学・医療で対処できるが、化学物質については従来の医学・医療分野からははみ出してしまう。
 化学物質過敏症とは、
「過去にかなり大量の化学物質に接触し急性中毒症状が発現したあと、または有害化学物質に長期にわたり接触した場合、次の機会にかなり少量の同種、または同系統の化学物質に再接触したときにみられる不快な臨床症状」と定義される。注意していただきたいのは、すべての人がそうなるわけではないということ。
 いったん発症すると、多種類の、構造的に互いに関連のない化学物質に、極微量で反応するようになる。
 アレルギーは免疫反応で、ある特定の原因物質に対してある特定の反応を起して結果として臨床症状を起すもの。だから、アレルギー学会は、化学物質過敏症の発生機序にアレルギー反応は関係がないだろうという立場をとっている。

 化学物質過敏症の国際コンセンサス定義は、
 ・症状の再現性がある
 ・微量の化学物質暴露に反応する
 ・関連性のない多種類の化学物質に反応する
 ・原因物質の除去で改善、あるいは治癒する
 ・慢性疾患である
 ・症状が多臓器にまたがる

 CSと判別しなくてはいけないのは、CSと実によく似ている慢性疲労症候群と線維筋痛症(Fibromyalgia)。
 臨床環境医学センターにおける診療の流れは、まず電話で予約していただいて、
 ・初診(約1時間):病歴、身体所見、臨床検査(血液、尿、喀痰、胸腹部X-p、呼吸機能、心機能等)
 ・再診:検査結果の説明、化学物質過敏症の可能性の説明
 特殊検査として
 ・化学物質負荷試験
 ・居住環境の調査(ホルムアルデヒド、他の揮発性有機化合物の測定 パッシブサンプラーを使った簡易法)
 このうち、最後の化学物質負荷試験と居住環境調査は保険がきかない自由診療である。混合診療(保険と自由診療の混合)は認められていないので、初診と再診の説明までは保険でできるが、この二つは自由診療となる。
 この3年の間に200名近くが来院されたが、データが得られた150名のうち可能性があると考えられたのが50名(女性38名、男性12名)であった。一番多いのは40代の女性、次いで30代、50代の女性。
 CSの発症機序についてはアレルギーとは関係がないことが分かっているが、なんらかのアレルギー疾患の既往、あるいは合併のある患者が42名(84%)であった。

 治療については、今のところ特効薬・治療がない。色々なことを組み合わせて、患者さんの状態をいいほうへ持っていこうというのが、現在の治療である。

1. 環境整備
・換気
 部屋全体が換気されるようにする。
・化学物質発生源の除去
 芳香剤、除臭剤、殺虫剤、除草剤、合板の家具、ワックス、石油ストーブ、トイレクリーナー、漂白剤、防蟻剤など
・場合によっては改築、転居も必要
2. 生活上の注意
・規則正しい生活
・疲れを持ち越さない
・バランスのいい食事 特にビタミンの摂取に気をつける
・定期的な運動 汗をかくような強めの運動を定期的に
3. 薬物療法
・中和療法、変調療法(当院ではやっていない)
・体内からの有毒物質の排出

 有機燐系殺虫剤にたいするアトロピン  フリーラジカルscavenger投与(Vit.A C B6 E、CoenzymeQ10、Zn、Mg、Se)
 グルタチオン
・酸素吸入

質疑応答
 CSの男女の子どもは最初からCSになってしまうのか。
 化学物資に暴露されて化学物質に過敏になるという状況がないとCSにはならない。両親がCSでも、クリーンな環境で生活するように気をつければいい。
 近くにCSに対応してくれる病院がない。CSを知らない先生に診てもらう時はどう説明したらいいか。  化学物質過敏症という言葉を使うと否定する医者がいる。むしろ私はこういうものはだめですと具体的に言うのが良い。例えば、プラスティックの手袋に反応したことがあるなど。

 社会復帰できた人の数、何年かかったか、治った人の特徴を知りたい。
 完全に社会生活がだめという人の数はむしろ少ない。特に環境整備に力を入れて体調を良くし活動性を上げるよう努めている。良くなってくる方は自分でも積極的に動く人。

 負荷試験が受けられなければ、診断は得られないのか。
 負荷試験は、診断を補強するための試験。それをやらないからといって、CSではないと診断するわけではない。

 食べ物との関係はどうか。
 CSのすべてが空気質からとは考えていない。ただ、食べ物、薬の添加物などは診断するのが大変難しい。

 保険病名として認められるにはどうしたらいいのか。
 それは私にも分からない。ただ、シックハウス症候群が認められたのだから、それに加えてCSも書けばいい。CSが病名として認められるに越したことはないが、むしろ、シックハウス症候群の病名のもとでこういう診療ができるということを示してくれたほうがいい。

 CSの場合、家に住めない、あるいは空気の良い所へ一時転地する必要がある場合が多いが、入院治療はできるのか。  クリーンな入院設備が一つだけある。しかし、入院は転地療養とは違って一時しのぎにしかならない。入院設備は緊急避難的なもの。ただ、ビタミン点滴、酸素吸入などをすれば、入院費用そのものも全部自費負担となってしまう。

 CSは、治癒は可能なのか。
 寛解のほうが適切だと思う。環境改善にかなり成功して、症状のない状態、軽い状態を長く続ければ、過敏性の軽減は得られると考えている。
(注)寛解:病気の症状が軽減またはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態
(安間 節子)



理解されないワックスの害〜学校の対応と企業の対応〜
小樽子どもの環境を考える親の会



◆シックスクール症候群とわかるまで

 我が子がシックスクール症候群ではないかと気づいたのは、5年生の秋でした。年々、原因不明の鼻水、湿疹がひどくなり、小児科医から「学校は問題ないのか」と聞かれて、はじめてシックスクールという言葉が身近になりました。それまでは、長期休暇の後に鼻水がでるのを風邪だと思い、また学芸会の度に体調を崩していたのは、自家中毒?と思って見過ごしていました。しかし、過去の受診記録をひも解いてデータを作り、毎日の体調を記録した結果、原因は学校にあることが判明したのです。
 その後、この病気は我が子だけの問題ではないと考え、友人たちと「子どもの環境を考える親の会」を結成し、今日に至っています。

◆T小学校の対応

 我が子が通うI小学校に、子どもが化学物質に反応し体調を崩すことを伝え、ワックスを塗らないことと、換気を徹底することをお願いしました。しかし、教頭は「ワックスは教育委員会から塗るように言われている」と返答。(教育委員会は、ワックスを塗る塗らないは、各校長に一任していると食い違う)担任に換気のお願いをしたら「冬に窓を開けると、熱効率が悪くなるから、開けないようにと教頭に言われている」と言われる有様でした。
 しかし、新教頭になってから「ワックスで具合の悪くなる子がいるのなら塗りません」と、6年生の時から塗らなくなりました。それでも、年2〜3回塗っていた体育館には、入ることができず、体育は欠席。大きな行事の時はマスクをつけて直前に入る、事前に窓を開けるなどして対応しました。
 有害化学物質の室内濃度測定でも、換気で濃度が下がるという結果がはっきりしているにもかかわらず、体育館の窓の開閉は「面倒くさい」という先生もいました。換気については、当会で行ったアンケートでも長期休みの後や、ワックスを塗った後に、具合が悪くなるという児童がいたので、諦めずにお願いし続けました。このように学習、体験をしてきたはずのT小学校ですが、我が子が卒業したその春に、再びワックスを塗ったのです。「あの子一人のために、塗れなかった」という学校側の考えが見え、ショックでした。
 当会では、教育委員会や学校と連絡をとり、有害化学物質は我が子だけではなく、他の児童や大人たちも同じように暴露していることを伝えてきました。今、症状がなくてもいつかは化学物質が体から溢れて取り返しがつかなくなること、ワックスの害や被害例を紹介したり、必要のない化学物質はできるだけ使わない、持ち込まないことを繰り返しお願いしてきました。
 それなのに、この春、T小学校のむせ返るような臭いと、ピカピカになった床を見たとき、「いったい学校は苦しむ子どもの姿から何を学んだのか」と思わずにはいられませんでした。

◆2005年度小樽市内の小中学校のワックス塗布の現状

 当会では、教育委員会にT小学校の空気を始業式までに調べることと、市内の小中学校で、春にワックスを塗った学校名を公表することを要望しました。検知管法で空気を調べたT小学校は、基準値をクリア。しかし、昨年の検査では、ワックスを塗っていないにもかかわらず、バッシブ法で基準値を超えていました。今回は簡易検査で、しかも室温16度という低い温度で測定したため、クリアしたと思われます。
 化学物質は温度上昇と共に揮発することは明らかです。それなのに、暖房を切って測定したのでは意味がありません。条件を統一しない検査はお金と時間の無駄、基準値をクリアすることを目的にした検査は本末転倒だと言わざるを得ません。 次に、小樽市内の小中学校でこの春にワックスを塗った学校は、41校中11校。うちデータシートを取り寄せていた学校は2校のみ。とても子どもたちの健康のことを考えているとは言い難い現状です。

◆いい加減なワックス会社のMSDS

 当会では「ペンギン」ワックスと、「リンレイ」ワックスの、製品安全データシート(MSDS)を調べましたが、とても安全性を確認できる代物ではありませんでした。
 ペンギンの「ジムトップ」は、含有する化学物質名を記載しておらず、質問に対しても「調べて折り返し回答する」と言ったまま1ヶ月以上連絡がありません。リンレイの「ノンヒールネオ」も、化学物質名の記載されていないMSDSを送ってきました。化学物質に過敏な児童がいることを説明し、物質名を知りたいとお願いしましたが、公表できないと断られました。シックハウス疑惑物質、環境ホルモン対象物質などにも触れられていません。さらに、有害性情報はデータなしなのです。つまり「検査をしていないのでデータがない」と言うのです。

◆小樽市教育委員会への要望

 当会では、小樽市教育委員会に「独自に検査をしなければ成分が分からないものや、不誠実な製品安全データシートを提出してくる企業のワックスは使用すべきでない」と伝えました。また、学校がどうしてもワックスを塗ると言うのならば
 @ 使用するワックスが将来にわたって害を及ぼす恐れのないことを、責任を持って確認すること。(製品安全データシートを鵜呑みにしないこと)
 A 換気の徹底を再度、学校に指導をすること。の2点を要望しました。(2005.4.20)
 北海道は、冬の窓明け換気が難しいにもかかわらず、換気扇などの設備がほとんどされていません。それなのに、シックスクールが問題化した今も、冬にワックスを塗り続ける学校側の感性と行動には、親として怒りを覚えます。

◆S中学校の対応

 ただ一つ嬉しかったことは、我が子が今年入学したS中学校での対応です。
 実はS中学校は3学期にワックスを塗っていました。教育委員会からの昨年の連絡が不十分だったことも否めません。しかし、4月に当会の説明を受けてからは、ワックスを塗らないと約束。即日、製品安全データシートを取り寄せ、資料、ビデオなども関係者の方々が視聴し、職員会議も数回行なうなど、かつてない対応でした。また、いじめや偏見がないようにと担任が生徒たちへの説明もして下さいました。
 痛みの分かる先生に出会えたことに感謝するとともに、このような先生たちが増えることを願うばかりです。シックスクールは、ある意味、先生たちも被害者なのですから、自分たちの職場環境を良くするという発想で取り組んでいくべきです。現にシックスクールで苦しんでいる先生が何人もいます。学校こそ、子どもたちと一緒に環境問題を学ぶ絶好の場ではないでしょうか。

化学物質問題市民研究会
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