ピコ通信/第80号
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「G8 3Rイニシアティブ閣僚会合」が目指すものへの懸念
持続可能な社会が実現できるのか? T 会合について 4月28日から30日まで、東京で「3Rイニシアティブ閣僚会合」という、G8諸国が中心になった廃棄物処理に関する国際会議が開かれます。3Rは、Reduce(抑制)、Reuse(再使用)、Recycle(リサイクル)の頭文字の3つのRのことです。 同会合で形成されようとしている枠組みに関して、私たち環境NGO(注1)は次のような懸念をもち、「3Rイニシアティブ閣僚会合に向けた、持続可能社会を目指す市民提言」を出す予定です。
この会議の開催は、もともと昨年(2004年)6月にシーアイランドで開催されたG8サミットで採択された「G8行動計画:持続可能な開発のための科学技術:「 3R」行動計画及び実施の進捗」という行動計画を受けたものです。 3R行動計画は、3Rイニシアティブを通して、以下の5つを目指すとしています。 (1) 3Rの推進 (2) 国際流通に対する障壁の低減 (3) 関係者間の協力 (4) 科学技術の推進 (5) 開発途上国との協力 3Rイニシアティブは、「3Rの取組を国際的に普及させることを目的とし」、「3Rの国際的な推進に必要な取組や方向性を具体化する」としています。"国際的に"普及、推進が強調されているわけですが、この点について、5つの項目を少し詳しく見ながら、考えてみましょう。 (1) 3Rの推進: 経済的に実行可能な限り、廃棄物の発生を抑制し、資源及び製品を再使用、再生利用する。 先に環境省Webで公表された、同会合に向けたイシューペーパー(注2)によると、G8各国内における廃棄物の発生の削減(Reduction)よりも、リサイクル(Recycle)の方に、より重点が置かれています。また、途上国への輸出について具体的に踏み込んだ議論がなされていて、G8各国が国内の廃棄物の最終処分量だけでなく、「発生」を最小化していくのだという政治的意思は明確に示されていません。 また、廃プラスチックをはじめ廃棄物焼却の焼却熱の回収は、日本でも「リサイクル」と見なされています。焼却が環境汚染の重大な原因であり、有害物質を多量に含んだ焼却灰は、循環利用が最も困難な廃棄物であることを改めて認識する必要があります。 (2) 国際流通に対する障壁の低減: 既存の環境及び貿易上の義務及び枠組みと整合性のとれた形で、再生利用、再生産のための物品・原料、再生利用・再生産された製品及びよりクリーンで効率的な技術の国際的な流通に対する障壁を低減する。 G8諸国のうち、日本、カナダ、ロシア、イタリアは、有害廃棄物の先進国から途上国への輸出を禁じたバーゼル条約は批准していますが、リサイクル目的も含めて禁じたバーゼル条約の改定条項を批准していません。さらにアメリカは、バーゼル条約さえ批准していません(注3)。リサイクル目的を含めた輸出を禁じる条項は、批准国が定数に未だ達していないため、発効していないのです。 そのため、この状態を放置したままリサイクル目的での廃棄物の貿易障壁を低減することは、この条項の発効を阻む恐れがあります。さらに、G8諸国をはじめとする先進国で発生する有害廃棄物が、アジアを中心とした途上国へ、リサイクル目的で流れる道を広げることが懸念されます。 (3) 関係者間の協力 自発的な活動及び市場における活動を含め、様々な関係者(中央政府、地方公共団体、民間企業、NGO及び地域社会)の間の協力を奨励する。 関係者間の協力を考える上で、重要なキーワードの一つは「責任」です。 これまでに制度化されてきた拡大生産者責任(EPR)はまだ不完全です。日本をはじめG8諸国も、21世紀の循環型社会を持続させていく上で最良のEPRのあり方を見出し、共通認識を確立することが必要です。その認識を踏まえ、各国は最良のEPRを徹底して遂行することを約束し、生産者、行政、消費者が応分の負担を引き受けることの必要性と重要性を世界に向けて宣言するべきです。 (4) 科学技術の推進 3Rに適した科学技術を推進する。 (5) 開発途上国との協力 能力構築、啓発、人材育成及び再生利用事業の実施などの分野で、開発途上国と協力する。 科学技術の推進に関しては、有害物質を使わず、有害廃棄物を発生させず、廃棄物自体の発生を無くしていくことを目指した設計や流通、再生産をめざす「クリーンプロダクション」を優先することが不可欠です。そして途上国との協力にあたっては、こうした技術の推進や啓発、人材育成等の面で途上国を支援すべきです。これは途上国のみならず、G8等の工業先進諸国においてクリーンプロダクションの実施に取り組む企業の成長につながります。 また、開発途上国との協力に際して、廃プラスチック焼却熱の回収をリサイクルと見なしての技術移転がなされることはきわめて危険です。 V 3Rイニシアティブ閣僚会合に期待されること 現在、必ずしも排出削減に成功しているとはいえない日本やその他のG8各国。すでに、ペットボトルや電子機器等の例に見られるように、途上国への廃棄物流出が増加しており、その傾向は今後さらに増していくことが予想されます。ここでもし、途上国への「出口」を拡大してしまったらどうなるでしょうか。G8各国内の排出削減が更に大きく後退していくかもしれません。 同時に、国内での再使用やリサイクルの仕組みの確立を阻むことになるかもしれません。また、G8各国内でも汚染防止が難しいことを考えると、途上国での汚染防止が不十分になることも予想されます。 バーゼル条約の改定条項(有害廃棄物はリサイクル目的であっても途上国に輸出しない)の発効が難しくなって行くかもしれません。 このような事態が将来決して起こらないように、3Rイニシアチブ閣僚会合が、次のような役割を果たすことが強く期待されます。
・化学物質問題市民研究会のバーゼル条約のサイト: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/basel/basel_master.html ・環境省G83Rイニシアティブ閣僚会合のサイト: http://www.env.go.jp/earth/3r/index.html 注1:呼びかけ団体は「廃プラ燃やすな!協議会」。賛同募集中。化学物質問題市民研究会も賛同している。 注2:イシューペーパー 3Rイニシアティブが目指すものについて、より詳しく書かれた文書。上記環境省ウェブページからダウンロードできる。 注3:フランス、ドイツ、イギリスは、バーゼル条約と改定条項を批准している。 |
中学校向いの迎賓館の農薬散布で健康被害
アレルギーを持つ人のひまわりの会 ◆3人3様にアレルギー持つ 私がアレルギーに関する社会活動を始めたきっかけは、子どもたちのアレルギーを特殊扱いにして特別の所に日常から隔離して育てるのではなく、生まれた地域で普通に日常を送らせたいと思ったからです。 私と2人の子どもは3人3様、それぞれの違いはありますが、多数のアレルギーを持ち、食物をはじめ、動物やハウスダスト、ダニや金属に即時型反応やアナフィラキシーを起こし、アトピー性皮膚炎、喘息、花粉症、蕁麻疹とあらゆる症状を呈し、厳重な自己管理をしながら生活してきました。しかし、近年、化学物質にも過敏に反応するようになってきました。 もともと、子ども達はピアノの防錆剤や石油ストーブなどで喘息が出たり、蚊取りマットで蕁麻疹が出たりする事は分かっていましたが、日常生活の中で原因物質を除去する事で管理が出来るアレルギーの範疇としか捉えていませんでした。 ◆夏休み中のスミチオン散布で被害 化学物質や農薬に対する過敏性を日常的に意識するようになったのは、長男4年生、長女1年生の5年前の夏からです。 夏休み後半、教室内に害虫駆除の目的でスミチオン(フェニトロチオン)が散布されました。新学期になって、喘息、虚脱、眠気、頭痛等、今までにない不定愁訴が現れました。長距離走等にも支障なく、2年近く目立った発作もなかったので、寛解(注)は近いと思っていた矢先の事でした。 化学物質過敏症という言葉にも未だ疎く、農薬=化学物質という意識もありませんでしたし、教室や給食室などで農薬が年間何十リットルも普段に撒かれているなどとは思いもしませんでした。 学校側も「消毒」という言葉を使っていましたので、自分たちがやっている事が、室内での有機リン系農薬の散布という意識は無かったのだと思います。 その年の年末に現住所(東京都新宿区)に引っ越したのですが、3月末になると長女に下痢が始まりました。地域での農薬散布が始まったのです。お願いをして隣接する明治公園は農薬散布無しに、町会は例年のスミチオン一斉散布を中止してもらいました。 神宮外苑は事前に農薬散布を通知してもらったのですが、雨で延期になり登校させたところ、私が仕事から帰宅すると、2人ともランドセルを背負ったまま、玄関にうつ伏せで昏睡していました。 雨が降り止んだ30分ほどの間に、延期になったはずの散布が行われたのです。2人は2階と3階で別の教室にいて同じ時間帯に具合が悪くなって帰宅したのです。(その後、神宮外苑も有機リン系の農薬散布は中止しました) ◆だんだんと過敏性を増す日々 長女はおよそ半年近く、毎日3〜6回の下痢を繰り返し、クレヨンや墨汁にも反応し始めました。長男の思考や記憶の低下、立体や文章の構築が出来ない、図形の点と線が繋がらない、転ぶ、落とす、筋肉痛、頭痛、関節痛、虚脱、疲労、眠気、目や喉の圧迫感や痛み、等など・・・外出するたびにどこかで反応して帰宅。昏睡。空虚な眼で思考混濁、返事もできない日々。 こうして、だんだんと過敏性を増していきました。長男は校庭の改修工事で反応して6年生の夏休みから半年間、卒業直前まで登校できないこともありました。 そういう経緯があって、これ以上過敏にさせないようにと区の教育委員会や小学校、町会の理解と協力を得ながら何とか地域で生活を続け、中学入学を迎えました。アレルギーと違い、努力や自己管理だけでは避けられないのが化学物質過敏症なのです。 中学校周辺を教育委員会の方と散布がありそうな所をチェックして、管轄する所に事情を話し、農薬散布の際は事前に情報提供してもらうことになりました。国、都、隣接の区、そして迎賓館です。 ◆中学のすぐ前の迎賓館の農薬一斉散布 中学は迎賓館正面玄関から僅か150メートルほどの所にあります。前庭には松が何百本も立ち並び、同じ敷地内の裏手は緑うっそうとした東宮御所です。やはり、何の疑いもなく、恒例の一斉散布が行われていました。 迎賓館へは個人で交渉する事は避け、当初から教育委員会に間に入ってもらいました。1年生の時は、とにかく散布を避けるということで情報をもらいましたが、定期考査テストや学校行事への考慮は一切なく、中学から先生を派遣してもらい小学校の校長室をお借りしてテストを受けた事もありました。朝突然に「今から散布をします」と連絡が入って、慌てて防毒マスクを持って迎えにいったこともあります。 本来、農薬が残留する散布から1週間は休ませたいのですが、これ以上学校を欠席させたくもないし、欠席は3日間をメドにしていましたが、月に何度も散布されると4日目でも昏睡になってしまします。有機リン系農薬は暴露して6ヶ月は体内に残留するといわれていますが、いつも慢性的に反応している状態が続きます。国も都も新宿区も農薬の定期散布はなくなりましたが、迎賓館だけは旧態依然として散布を続けています。 ◆農薬使用についての注意通知も知らず 昨年6月、あまりの対応の悪さと改善されない散布状況に、農水省消費安全局より「農薬危害防止月間」と「住宅地等における農薬使用について」の通知文に基づき具体的に、「物理的方法で樹木管理をし、やむなく農薬使用をする場合も飛散や気散をしないように配慮し、周辺住民、特に学校などに対する周知の社会的義務のあること」など直接指導をしてもらいました。 迎賓館は国の機関であるにも関わらず、国が出す通知や運動が広報されておらず、その存在さえも知りませんでした。その後も改善の兆しもなく、患者団体として農薬散布についての質問書を2月に、患者・環境7団体(編集注:化学物質問題市民研究会も参加)と共に要望書を3月に提出しました。いずれも回答は通知の社会的意義を全く解せず、質問や要望内容を無視したものでした。 農水省の担当者は通知文を送付し何度か指導も重ね、さらに教育委員会からも通知文に基づき、善処を求めてきたにも関わらず、3月にはまた、一斉農薬散布が3回も行われました。 農水省に確認したところ、通知は全国の各自治体と、農水、厚労、環境、国交、経産、文科省の関係6省庁にしか通知広報しておらず、その他の省庁が管轄する迎賓館のような国の機関は野放し状態ということです。せっかくの運動や通知も周知徹底されなければ、何の意義もありません。これを機会に、通知されていない機関の掘り起こしや、各自治体からの一般市民への周知の必要性の啓発運動につなげたいと思っています。 注: 病気の症状が軽減またはほぼ消失し、臨床的にコントロールされた状態。 |