1.環境省環境ホルモン問題検討会 新たに8物質を優先リスク評価物質に
環境省の2001年度第2回内分泌攪乱化学物質問題検討会(環境ホルモン問題検討会 以下検討会)が、10月3日開かれました。今回の内容は、前年度に行われた環境ホルモンに係る環境実態調査結果と、ヒト精巣の調査結果、臍帯におけるダイオキシン類等化学物質の調査結果の報告と、今年度新たにリスク評価に取り組む物質の選定です。
検討会を傍聴しましたので、ご報告します。
表1 2000年度内分泌攪乱化学物質に係る 環境実態調査結果の概要
媒体種類 | 測定数 | 検出物質数 | 注1、注2 |
地点数 (延べ) | 物質数 |
水質 | 271 | 31 | 21 | 2物質(2/31) |
底質 | 108 | 31 | 19 | 2物質(2/31) |
水生生物 | 16 | 11 | 3 | 1物質(1/11) |
野生生物 | 175(検体) | 26 | 21 | 4物質(4/12) |
合計 | 570 | 42 | 37 | 9物質(9/39) |
注1:本調査の最大値が環境省の過去調査の最大値を 超えていた物質数
注2:()内の分母は過去の調査データのある物質 |
環境実態調査結果
- 水質、底質、水生生物、野生生物について延べ570地点で調べた。
- 対象:環境省「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」にリストアップされている65物質のうち42物質。
- 水質・底質:河川、湖沼、地下水、海(底質は地下水除く)。
- 水生生物:ウグイ、フナ、コイなどすべて魚類。
- 野生生物:カワウ、猛禽類(トビ、ハヤブサなどの死体と卵)、カエル。
- 大気については、44物質について都市部2地点、山間部1地点で調査。
- 水質調査で特に検出割合が高かったものはPCB(77%)、ビスフェノールA(48%)、エストラジオール(人畜由来の女性ホルモン)(27%)など。
同様に、底質では、PCB(98%)、トリブチルスズ(92%)、ノニルフェノール(69%)、4-t-オクチルフェノール(54%)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(98%)、ベンゾピレン(非意図的生成物)(94%)など。 ポリ臭化ビフェニール類は、水質、底質ともに検出されなかった。
- カエルの調査で、245個体のオスのうち、トノサマガエル2個体、ツチガエル2個体、ヌマガエル2個体で精巣卵(精巣内の卵様細胞)が確認された。
ヒト精巣の調査結果、臍帯におけるダイオキシン類等化学物質の調査結果の報告
- 臍帯のダイオキシン類蓄積状況(20検体)を調査した結果(中央値)は以下の通り。
- TEQ1 23pg-TEQ/g(fat)(99年度:8.5pg-TEQ/g(fat))
- TEQ2 26pg-TEQ/g(fat)(99年度:19pg-TEQ/g(fat))
- TEQ3 29pg-TEQ/g(fat)(99年度:30pg-TEQ/g(fat))
(注)fat:脂肪中 TEQ:最も毒性の強い2,3,7,8-四塩化ダイオシシンの毒性に換算した値。TEQ1:定量下限値未満の異性体を0とした場合 TEQ2:同1/2とした場合 TEQ3:同定量下限値とした場合のtotalTEQ
この値は99年度の結果と比較すると若干高い値であったが、これは99年度より定量下限値及び分析精度が向上したこと等、調査実施上の各種要因が影響していると考えられるとしている。
- 臍帯中のフタル酸エステル類(8物質)の測定を行ったところ、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(5例中5例)、フタル酸ジシクロヘキシル(5例中1例)が検出された。
- 新たに母体血・臍帯血中のエストロジェン類及び植物エストロジェン類等の測定を行ったところ、概ね既存文献値の範囲内であった。
- 精巣重量調査では、前年度までのデータ(16,935例)に加えて、2000年度集めたデータ(82検体)を加えて分析を行った。
新たにリスク評価に取り組む8物質
2000年度に優先してリスク評価に取り組む物質として12物質が選定され、現在リスク評価のための試験などが実施されています。
今回、今年度新たに取り組む物質として、8物質が決まりました(表2)。
表2 2001年度にリスク評価に取り組む8物質の用途、規制等
物質名 | 用途 | 規制等 |
(1) ペンタクロロフェノール | 防腐剤、除草剤、殺菌剤 | 90年失効、水質汚濁性農薬、 毒劇法、PRTR法1種 |
(2) アミトロール | 除草剤、分散染料、 樹脂の硬化剤 | 75年失効、食品衛生法、 PRTR法1種 |
(3) ビスフェノールA | 樹脂の原料 | 食品衛生法、PRTR法1種 |
(4) 2,4-ジクロロフェノール | 染料中間体 | 海防法 |
(5) 4-ニトロトルエン | 2,4-ジニトロトルエンなどの中間体 | 海防法 |
(6) フタル酸ジペンチル | プラスチックの可塑剤 | |
(7) フタル酸ジヘキシル | プラスチックの可塑剤 | |
(8) フタル酸ジプロピル | プラスチックの可塑剤 | |
選定の根拠は、以下の通りです。
65物質のうち上記12物質と農薬取締法で農薬として登録されている20物質を除いた残り33物質をまず、5グループに分ける。
- 化審法による規制の対象となっている物質(代謝物を含む):PCB、クロルデンなど、DDTなど。
- 過去の環境ホルモン実態調査において検出されていないか、または理由があって調査が実施されていない物質
- 工業用の用途はなく、農薬としての登録も失効している物質
- 非意図的生成物(ダイオキシン、ベンゾ(a)ピレン)
- 工業用等の用途を有する物質
このうち1.〜3.については、環境中への新たな負荷がある可能性は比較的低い。4.のダイオキシン類については別途調査研究が進められている。ベンゾ(a)ピレンについては有害大気汚染物質に係る環境基準の設定に向けて取り組みが進められている。以上から、5.の工業用等の用途を有する物質・8物質について取り組むこととする。
業界代表委員が討議時間を占領
委員による討議の中から、興味深かった発言を紹介すると、
宮本(国際純正応用化学連合):ヘキサクロロヘキサンなど、今では使っていないものが検出されるのを、どう考えるか。
森田(国立環境研究所):日本で使われていない農薬が出る例は結構多い。
香山(自治医科大):5カ所で全部で500人について調査したところ、ヘキサクロロベンゼンは8割から検出された。ノナクロールは15〜20%くらい。
安野(滋賀県立大):DDTについても、東南アジアでも使用量は減っている。ほとんどがマラリア対策だ。未だに検出されるのは魚に蓄積しているためか。
香山:先ほど話した500人調査では、魚の摂取量との相関は見られなかった。
DDTでもPCBでも、使用をやめてかなり経っていても環境中や人体から検出されるのは、素人でも知っている常識です。これら有機塩素化合物は分解性が悪いから、それが問題なのではありませんか。それを、専門家が時間とお金を使って何を今さらと腹立たしくなりました。
この宮本氏は化学業界の代表ですから、この発言の真意を測りかねました。宮本氏はもう一人住友化学の松尾氏とともに、討論の時間をいつも占領します。とにかく、”環境ホルモンなんて本当はたいしたことないんだ”という方向へ何とか持って行こうと躍起なのが見え見えです。
いったい、市民側の委員は何をしているのでしょう。ある消費者団体から出ている委員は、一度も姿を見たことがありません(傍聴しなかった時もあるので、わかりませんが)。
環境ホルモンへの世間の関心が薄れてきているのをいいことに、化学業界は環境ホルモンの疑いのある物質を65物質だけに押し込め、それを一つずつつぶしていこうとしているように見えます。ねばり強く監視していきましょう。(安間)
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