ピコ通信/第36号
発行日2001年8月16日
発行化学物質問題市民研究会
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どうなる?塩ビのおもちゃ

厚生労働省の審議会で初めて検討


 7月27日、厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性・器具容器包装合同部会で、塩ビのおもちゃの規制をどうするか、が初めて検討されました。塩ビのおもちゃが問題視されるようになって3年余り、警告さえ出したことのなかった厚生労働省がやっと動きを見せはじめました。
 今、日本では、食品衛生法で「厚生労働大臣の指定するおもちゃ」について規格基準を定めて、その安全性などを守ることになっています。今回の合同部会では、この「おもちゃの規格基準」と「製造基準」をどう改定するかという案が出てきました。

 審議会(合同部会)の規格基準(案)に対して、「見直そう!子どものおもちゃ」実行委員会は、同日に記者会見をし、声明を発表しています。同実行委員会の「厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会毒性・器具容器包装合同部会の審議に関する声明」より趣旨をご紹介します。

フタル酸エステル類を含有するポリ塩化
ビニルに関するおもちゃの規格基準(案)

  • 合成樹脂性のもので、乳幼児が口に接触することをその本質とするおもちゃの製造には、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)[DEHP]、あるいはフタル酸ジイソノニル[DINP]を含有するポリ塩化ビニルを使用してはならない
  • 合成樹脂製のものの製造には、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル[DEHP]を含有するポリ塩化ビニルを使用してはならない
 つまり、「口に入れる塩ビ玩具はDEHPとDINPを、それ以外の厚生省が定める塩ビ玩具はDEHPを使用してはならない」という案です(注:この案は審議する前から用意されていたもので、審議によって出てきた案という意味ではありません)。
 この案にはどのような問題があるか、検証してみましょう。

規格基準(案)の問題点
  1.  使用禁止になる物質が1物質(おしゃぶり類については2種類)に限定されており、これでは他の物質による曝露が高くなるという危険が一切考慮されません。
     2種類の可塑剤だけを規制対象とした場合、他のフタル酸エステル類やフタル酸以外の化学物質が代わりに使われる恐れがあります。クエン酸など、フタル酸代替として使われはじめた可塑剤よりも、フタル酸エステル類の方が分解し難いため、ユーザーにとって使い勝手がよいといわれています。
     実際、欧州では、1999年に規制開始されたとき、こうした規制対象外のフタル酸エステル類への曝露が増える危険性があることを重要視して、頻繁に使われるフタル酸6種類の全てを規制対象としました。その理由としては、欧州委員会が禁止を決定した文書にこう書かれています。

     「2種類だけを規制した場合、もしも残りの4物質が代替として使用を許されることになれば、これらの物質への子どもの曝露は増すであろうし、その結果危険性は高くなるであろうと考える。よって、欧州委員会は、予防原則を採用し、(禁止の)決定は残る4種類のフタル酸エステル類についても適用すべきであると考える」

     また、フタル酸以外の可塑剤(アジピン酸、クエン酸、トリメリット酸等)の安全性は、十分確認されていません。この、トリメリット酸というのは、塩ビの可塑剤として、電線被覆などに使われてきた物質ですが、毒性についてはよく調査されていません。食品やおもちゃに使われていることが判ったのは、今回の厚生科学研究が初めてです。

  2.  おもちゃ以外、例えば粉ミルクや離乳食から摂取するフタル酸エステル類の量も高いことが厚生労働省の研究でも今回明らかになりました。それなのに、おもちゃで問題にされているのは、おもちゃから摂取する量だけで耐容一日摂取量に届くかどうか、ということでした。「一つの摂取源だけで耐容一日摂取量に達するかどうかで判断する」ということでは、実際には子どもが耐用レベル以上にフタル酸エステル類を摂取してしまうケースが防げません。

  3.  規制の対象になるおもちゃの範囲の問題です。2種類のフタル酸が規制されたのはおしゃぶりなど、口に入れるために作られたおもちゃだけでした。小さい子はなんでも口に持っていくし、おしゃぶり以外のおもちゃを長く口に入れていることもありますから、おしゃぶりかどうかだけで線を引くのは、子どもの生活の実態には合っていません。

     3時間に亘る審議会で、おもちゃの検討は30分程度。でも翌日の新聞やTVなどでは、塩ビのおもちゃのことが大きく取り上げられました。しかし、“塩ビの玩具の法規制への方針を決めた”という報道は、問題点をきちんと伝えてはいませんでした。基準案の中身をよく読むと、上記の通り、何も安心できることはありません。日本がよくやる「忍法抜け穴の術」で、「規制をする」と言いつつ、規制の意味がなくなるほど範囲が狭められているわけです。
     それでは子どもの安全を守れる「本物」の規制は、どうあるべきでしょうか?
[塩ビのおもちゃ規制に求められるもの]
  1. 乳幼児の曝露を防ぐべき物質はDEHP、DINPだけではない。塩ビのおもちゃには、他のフタル酸エステル類や、カドミウム、鉛、スズなどの重金属や、ビスフェノールA、ノニルフェノールなどの内分泌かく乱化学物質、あるいは毒性が十分調べられていない化学物質も使われています。こうした有害物質の使用は、当然回避すべきです。

  2. 塩化ビニルは、他の素材と比べても、可塑剤を始め多種多様な添加剤を必要とするプラスチックで、たとえば上記1.の物質も、塩ビの子ども用品に使われています。こうした添加剤は、溶出の危険が避けられません。このことから、乳幼児のおもちゃには軟質塩化ビニルを使用するべきではありません。

  3. 子どものおもちゃの問題は、子どもの健康と安全に関わる問題であり、また、フタル酸エステル類で指摘されている毒性は、生殖毒性や精巣毒性、がんなど、深刻な問題に関わるものです。すでに動物による試験では影響が認められています。人体影響との因果関係がはっきりするまで待たずに、危険を回避し予防原則に則って規制を行うべきです。

  4. 食品など、おもちゃ以外の経路からのフタル酸エステル類摂取も極めて高くなることがあり、また大気(室内や車内の空気)経由の汚染もあります。フタル酸エステルの摂取量をTDIと比較する場合には、各々の曝露経路からの摂取をすべて勘案するべきです。
塩ビのおもちゃのパブリックコメントを出そう!
厚生労働省では今、この規格基準(案)に対して、市民の意見を募集しています。
以上に見てきたように、この審議会の規格基準(案)は、今のままでは別の物質による汚染を引き起こす恐れがあったり、食べ物からの摂取量が考えられていないといった問題があります。
こうした問題を念頭に入れて、皆さんの意見を厚生労働省に送りましょう。
意見の提出先:
電子メール:kiguomo@mhhw.go.jp
郵送:〒100-8916 東京都千代田区霞ヶ関1-2-2
   厚生労働省医薬局食品保健部基準課調査指定係あて
※締め切りは8月31日です。
意見の提出方法の詳しいことは、厚生省ホームページの
http://www.mhlw.go.jp/public/boshuu/p0801-1.html
に出ています。インターネットを使わない方は、
厚生労働省の上記の係へ(電話番号 03-5253-1111)
(関根)

(関根)


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