ピコ通信/第24号
発行日2000年8月14日
発行化学物質問題市民研究会
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2.環境ホルモン優先評価 7物質を選定
  −環境ホルモン問題解決の道遠し−

 7月21日、環境庁の2000年度第1回内分泌攪乱化学物質問題検討会(以下、検討会)が開かれ、今年度優先的にリスク評価する物質としてトリブチルスズなど7物質を選びました。そして、今年度は約14億円の予算で、試験管内試験および動物実験によって有害性の有無を確認するとしています。
 7物質とは、トリブチルスズ(船底用塗料)の他に、4-オクチルフェノール(界面活性剤の原料)、ノニルフェノール(同)、フタル酸ジ-n-ブチル(プラスチックの可塑剤)、オクタクロロスチレン(有機塩素系化合物製造時の副生成物)、ベンゾフェノン(医薬品合成原料)、フタル酸ジシクロヘキシル(可塑剤)です。

 検討会を傍聴しましたので、報告します。

1.これまでの経過

 98年5月に公表された「環境ホルモン戦略計画 SPEED'98」で、環境庁は内分泌攪乱作用(以下環境ホルモン作用)が疑われる物質として67物質をリストアップしました。環境庁では、「これらの物質は環境ホルモン作用を持つと断定されたものではなく、優先的に調査研究を行う対象として取り上げたものであり、これらの物質について全国の環境実態調査を進めてきた」としています。
 そして、昨年10月の検討会において、

@環境実態調査結果や文献調査から、リスク評価を優先的に実施する物質としてA物質に分類された(注)4物質をはじめとし、リスク評価に着手すること

A優先して実施するリスク評価の対象物質の選定やその方法について、別途検討する場を設けること

が決まりました。

 また、国会でのPRTR法の審議において67物質について論議され、現状で何らの法的規制も受けていなく、かつ環境ホルモン作用に関する有害性の評価の知見が乏しい物質については、早急に有害性の評価を行うよう求められました。
 さらに、昨年12月19日政府が、ミレニアムプロジェクトの一つとして、2000年度から環境ホルモン作用を疑われている物質のうち、優先的に取り組むべき物質についてリスク評価を行うことを決めています。
 これらの動きを受けて、今年4月から検討会の作業グループとして専門家からなる「内分泌攪乱作用が疑われる物質のリスク評価検討会」が、2000年度に優先してリスク評価するべき物質の選定について検討してきました。

2.スチレンダイマー・トリマーは対象外に

 今回、優先してリスク評価する物質を選ぶために検討された物質は、9物質あります。

@トリブチルスズ、4-オクチルフェノール、ノニルフェノール、フタル酸ジ-n-ブチル

Aオクタクロロスチレン、スチレン2・3量体、ベンゾフェノン、フタル酸ジシクロヘキシル、n-ブチルベンゼン

 このうち@の4物質は、昨年10月の検討会でA物質に分類され、優先的にリスク評価すべきとされた物質です。
 Aの5物質は、PRTR法の審議において、何ら規制がなく、有害性の評価が不十分であるとして、有害性の評価を早急に行うよう求められた物質です。なお、ポリ臭化ビニール類(PBB)も、何ら法的に規制されていませんが、製造・輸入の実態がなく、環境からの検出もなく緊急の対応の必要性が薄い、またPCBと構造が似ていてPCBと一緒に評価する必要があるとして、今回は対象外とされました。
 これらの9物質については、文献検索データベース(主にMEDLINEとTOXLINE)を利用して文献検索を行い、有害性に関する文献を選び、信頼性評価を行いました。そして、文献情報が豊富で、環境ホルモン作用の有無に関して相反する試験結果のあるスチレン2・3量体については、さらに試験管内試験を行いました。
 そして、それらの検討の結果、9物質のうちスチレン2・3量体とn-ブチルベンゼンを除く7物質を今年度優先してリスク評価に取り組む物質としました。

3.スチレン工業会がバックの2委員発言

 検討会での委員の発言の中から主なものを拾ってみますと、(マイクを使っているのに声が小さく、言葉が不明瞭な委員が多かったので、聞き取れない発言も多かった)−

宮本純之委員(国際純正応用化学連合「化学と環境」部会 前部会長):
資料にある「今回リスク評価に進む優先物質として選定されたとしても、単に有害性の疑いがあるにすぎず曝露評価を含めた総合的なリスク評価が終了するまでは、現実的なリスクがあるとみなされるべきではない」という精神を忘れないでやっていただきたい。
松尾昌季委員(住友化学研究主幹)&宮本委員:
A,B,C,Dの分類の判断基準は問題だ。この分類に関しては10月の検討会で、座長と事務長あずかりにされたはずだ。
鈴木継美座長(東京大学名誉教授):
覚えていない。この件に関しては、ワーキンググループに下ろす方が良いかもしれない。
松尾:
オクタクロロスチレン、ベンゾフェノン、フタル酸ジシクロヘキシル、n-ブチルベンゼンの動物実験結果は肝臓がターゲットであり、死亡用量なら何が起きてもおかしくない。肝臓がやられた2次影響ではないのか。これは環境ホルモンなのか。
宮本:
67物質の中でも精査された結果、作用が無いとわかったものがいくつもある。67物質そのものの決め方が問題なのではないか。
座長:
絶対にシロ、クロとはわからない段階で裁いていかなくてはならないのだ。
森 千里委員(千葉大学医学部教授):
最近、手袋からの溶出が問題になったフタル酸ジエチルヘキシルのように、社会的に問題になったものはリスク評価が必要ではないか。
松尾:
上位(ヒトに近い)の試験で有害性が否定されたら、下位の試験はやらないと結論づけるべきだ。
井上 達委員(国立医薬品食品衛生研究所毒性部長):
どれが上位か下位かは判断が困難。作用が認められないからといって、エンドクリン・レセプターではないとは言えない。
座長:
行政的判断としては、スチレン2・3量体についてはリスク評価をもうやらないということだが、サイエンスとしては未解明であるから、新しい知見が出てくればやる。
 スチレン工業会からのかなりの働きかけが松尾・宮本委員にあったようです。

4.単に評価する物質を決めるのに こんなに手間暇かけて

 検討会を傍聴しての感想を一言で言えば、「単にリスク評価する物質を決めるために、こんなに手間暇・お金をかけていていいの? そんなことよりもっと新しい環境ホルモンをみつけたり、どうしたら減らせるかにかけて欲しい。それに、どうしてあの二人の企業側委員ばかり発言するの」ということです。

 環境庁は67物質は環境ホルモン作用が疑われる物質であり、これから有害性の有無を確認するんだと言っています。今年度は7物質ですから、単純に計算すると67物質だけで10年近くかかってしまいます。ことは急を要しているのです。評価は国際的に協力して進め、対策にこそ力を注ぐべきではないでしょうか。

 今日本で使われている化学物質は5万種とも言われていますから、環境ホルモンの評価が終わる前に人類は滅びているでしょう。仮に個々の毒性が評価できたとしても、実際にはいくつもの物質が複合して作用するのですから、本当のリスクは評価しようがないはずです。それに、ごく微量についての評価も無理でしょう。ここはまず予防原則に則って、安全性が証明されない限り、疑わしきは作らない・使わないでいくべきではないでしょうか。

 25委員のうち、学者など専門家と見られるのは20人、企業から2人(松尾、宮本両氏)、市民から2人(角田礼子主婦連合会参与、村田幸夫世界自然保護基金日本委員会自然保護室長)、もう一人増井光子横浜動物園長の立場はよくわかりません。そして、企業側委員の2人が議論のほとんどの時間を占領しているという図式なのです。これには驚きました。市民側の二人は欠席していたのかもしれませんが、一度も発言しませんでした。

 マスコミも環境ホルモン熱はとうに冷め、産業界は67物資から”精査”によって数を減らしていこうと企んでいるようです。彼らの主張はクロでなければシロなのです。だからグレーはシロ、しかし私たちはグレーはクロだと考えています。(安間節子)

注(安間):
昨年10月の検討会において、調査対象物質をA-Eの5つに暫定的に分類した。

(1)98年度環境ホルモン全国一斉調査での大気、水質、底質、土壌、水生生物及び野生生物調査での検出の有無

(2)使用量が増加傾向にあるか否か

(3)内分泌攪乱作用に関する環境濃度の報告(生体内試験)の有無

(4)同調査で測定された最高濃度(x)と内分泌攪乱作用に関する環境濃度の報告(生体内試験)の最低濃度(y)との比(x/y)の4つの判断項目によりA,B,C,D,E物質の5つに暫定的な分類を行った。

A 物質には、同各調査において検出された物質で内分泌攪乱作用に関する環境濃度の報告(生体内試験)があり、x /y比が0.001以上の物質を分類した。

B 物質には、同各調査において検出されたか、または未検出で使用量が増加傾向にある物質で内分泌攪乱作用に関する環境濃度の報告(生体内試験)があり、x /y比が0.001未満または不明の物質を分類した。

C 物質には、同各調査において検出されたか、または未検出で使用量が増加傾向にある物質で内分泌攪乱作用に関する環境濃度の報告(生体内試験)がない物質を分類し、さらに、内分泌攪乱作用に関する試験管内試験の報告が得られているか否かで分類をしている。

D 物質には、同各調査において未検出で使用量の増加傾向が認められない物質で内分泌攪乱作用に関する環境濃度の報告(生体内試験)がある物質を分類した。

E 物質には、同各調査において未検出で使用量の増加傾向が認められない物質で内分泌攪乱作用に関する環境濃度の報告(生体内試験)がない物質を分類し、さらに、内分泌攪乱作用に関する試験管内試験の報告が得られているか否かで分類をしている。

化学物質問題市民研究会
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