プレスリリース
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2005年11月7日
化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言推進実行委員会
代表:中地重晴
〒136-0071 東京都江東区亀戸 7-10-1 Z ビル 4階
本件の問い合わせ先: 安間 武
ac7t-ysm@asahi-net.or.jp

化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言
市民の賛同署名2万人 市民団体が国に要望書を提出


東京宣言の要望書提出

 化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言推進実行委員会(*参加団体は末尾に掲載)は、11月7日(土)午前、「化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言」(別添)に賛同して署名した2万人を超える市民らの署名簿とともに、東京宣言に述べられた理念を日本の環境政策の中で実現するよう小泉総理大臣宛に求める要望書を内閣府に提出した。

 東京宣言は、2004年11月23日に東京で開催された2004年REACH国際市民セミナー「化学物質汚染のない世界をめざして」において参加者有志により採択されたもので、下記を国に求めている。

  1. 予防原則を中心にすえ、より安全な物質等への代替を促進させる
  2. 安全性の不確かな化学物質を使い続けることをやめる
  3. 安全性の立証責任を行政から事業者へと転換し、汚染者負担の原則など製造者責任を強化する
  4. 製品中の化学物質情報の開示など、市民の知る権利を保障する
  5. 規制等の政策決定への市民参加を制度化する
 実行委員会は2005年2月から10月15日まで広く市民に東京宣言への賛同の署名を呼びかけるキャンペーンを展開し、個人署名20,802筆、団体署名131団体の賛同を得た。

 東京宣言は現在、欧州連合で制定に向けて審議されている新しい化学物質規制案REACHの理念を高く評価し、人の健康と環境を高いレベルで保護するという当初の目標が後退することなくREACHが成立することを強く願うとともに、日本政府に対しても人の健康と環境を守るために日本の環境政策に上記の項目を実現するよう求めるものである。

 日本には、1973年発効の「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」があるが、化審法制定以前の既存化学物質については十分な安全情報がなく、国はこれらの情報収集のために、2005年6月に「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム(Japan チャレンジ・プログラム)」を立ち上げたが、これは1,000トン以上の高生産量物質だけを対象としたものであり、また事業者への情報提出を義務付けておらず、全く不十分である。
 したがって、同プログラムを速やかに見直すとともに、環境省が現在策定を進めている第三次環境基本計画の中の「化学物質の環境リスクの低減」に係る戦略的プログラムに、東京宣言の要望を反映させるよう、強く要望する。

東京宣言推進実行委員会参加団体
有害化学物質削減ネットワーク、化学物質問題市民研究会、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、WWFジャパン、全国労働安全衛生センター連絡会議


補足説明

REACHとは

 REACHとは有害な化学物質から人間の健康と環境を守るために、欧州委員会が2001年に出した「将来の化学物質政策のための戦略に関する白書」に基づき、欧州委員会が2003年10月に発表したEUの新しい化学物質規制案で、化学物質の登録、評価、認可のことである。 (REACH - Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals)
 同案は2003年5月から7月の約2ヶ月間、国際的なインターネット・コンサルテーションにかけられた後、同年10月29日に欧州委員会から最終案として発表され、現在、制定に向けて欧州連合(EU)の議会及び理事会で審議されており、2006年後半又は2007年前半に立法化されると言われている。

REACHの主な内容

 提案された主な内容は、市場に出る化学物質の安全性を確認することを目的として、@ヨーロッパ域内の製造者/輸入者は新設予定の欧州化学品機構に、年間製造・輸入量が1トン以上の化学物質について安全性等の情報を登録する。登録義務の対象物質は約3 万物質と言われている。AEU当局は登録された内容や試験計画を評価し、必要に応じて追加情報の提供を要求することができる。B発がん性、変異原性、生殖毒性、難分解性、生体蓄積性、有毒性などの有害物質は認可の対象となる。C容認できないリスクを及ぼす物質については、その製造、販売、又は特定の使用に関して、EUレベルで制限することができる─などである。

REACHの基本理念

 REACHの根底には、有害な化学物質から人間の健康と環境を守るために、@既存・新規に関わりなく市場にある化学物質の安全性の確認、A安全性の立証責任の産業側への移行、B人間の健康あるいは環境に危害を与える恐れがある場合には原因と結果の関連が科学的に完全には証明されていなくても予防的措置をとるとする予防原則、C有害な物質やプロセスの代替を探し、より害の少ないものを使用するとする代替原則、D決定のプロセス、化学物質データを市民に公開するとする情報公開、E2020年までに有害化学物質の影響を最小にするとする一世代目標−などの基本理念がある。

アメリカ政府及び産業界の反応

 ブッシュ政権やアメリカ化学協議会( (ACC) )はREACH がアメリカの化学物質政策や産業界へ影響を与えることを恐れて、欧州委員会によるREACH策定時に、欧州化学工業連盟(CEFIC)などと連携して、REACH は広範な失業を引き起こし、アメリカ経済に打撃を与え、ヨーロッパは製造業を発展途上国に奪われて産業の空白化を招くと大々的なロビーイング・キャンペーンを展開した。
 2002年3月21日、国務長官コリン・パウエルは、EU加盟国とその他35カ国に駐在するアメリカ大使に対し、反REACH"行動要請"の電文を発信した。いわゆる"ノンペーパー"の配布である。

日本政府及び日本産業界の反応

 日本政府は2003年のインターネット・コンサルテーションにおいて、企業によるイノベーションや経済活動を阻害し、国際貿易・投資の障害にならぬよう全体の適切なバランスに配慮すべきという、産業界保護の観点からのみなるコメントを経済産業省が提出した。また、アジア太平洋経済協力機構(APEC)の一員としても同様なコメントを出した。さらに2004年6月にはWTO 宛に同様のコメントを出した。
 REACHは人間の健康と環境を守る規制案であるにもかかわらず、環境省及び厚生労働省からの公式発言はない。

 日本の産業界も日本化学工業協会を含む10以上の団体を動員して、産業に及ぼす影響についての懸念を表す同様なコメントをそれぞれ提出した。しかし、本年7月の(社)日本化学物質安全・情報センター主催の、同じく本年9月のWWFジャパン等主催の、「企業向けREACH」セミナーには多くの日本企業の担当者が参加しており、日本企業もREACHへの対応準備に動き出しているように見える。

最近のアメリカの動き

 2005年6月13日に米会計検査院(GAO)が、有害物質規制法(TSCA)の下で、EPAは既存化学物質の安全情報の入手が困難であること、新規化学物質に関し産業側の上市前テストがTSCAで求められていないことなどを指摘し、有害物質規制法(TSCA)を改正するよう議会に勧告した。

 このGAO報告書に基づき、2005年7月13日にジム・ジェフォーズや民主党のジョン・ケリー、ヒラリー・クリントン、エドワード・ケネディら有力議員5人が有害物質規制法(TSCA)の修正案(通称:子ども安全化学物質法)を議会に提出した。
 この法案は、安全性の立証を企業側に求める、安全性基準をもうける、既存化学物質の安全性の決定を優先リストに従い段階的に実施し、全ての化学物質の安全性決定を2020年までに行い、安全基準を満たさない化学物質の使用を2010年までに禁止又は制限する−など、EUのREACHの理念に匹敵する高い理念を導入した人間の健康と環境を守るための画期的な法案である。

日本の現状

化審法
 1973年、PCBによる環境汚染問題を契機に「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」が制定され、新規化学物質の製造又は輸入に際して事前に審査する制度を設けるとともに化学物質の有する性状等に応じ、製造、輸入、使用等について必要な規制を行うとしているが、化審法施行以前から市場に出ている既存化学物質は30年以上経過した現在でも、ほとんどの化学物質について安全情報がなく、したがって市場に出ているそれらの安全性が確認されていない。

Japan・チャレンジ・プログラム
 国はREACHなどの動きにあわてたのか、既存化学物質について30年間以上放置しておきながら、今年になって急遽、厚生労働省、経済産業省、環境省の3省が合同で推進会議を2回開き、5月中旬にわずか2週間のパブリックコメントにかけただけで、6月1日付けで「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム(別名Japan・チャレンジ・プログラム)」を立ち上げた。このプログラムは、アメリカ会計検査院(GAO)の6月13日の報告書で効果が疑わしいと指摘されているアメリカの高生産量化学物質(HPV)に関する自主的収集プログラムと同様なものであり、下記のような問題がある。

  1. 30年間放置していたことを、本年3月24日の第1回推進会議開催から、6月1日の立ち上げまで、わずか2ヶ月8日で決定し、国民に対する十分な説明や国民の意見をまじめに聞こうとする姿勢が全く見られない。
  2. 国の化学物質政策に関する基本理念と枠組み、すなわち、情報収集、安全性評価、法的措置、適用範囲、実施方法、スケジュールが示されていない。
  3. 優先して安全性情報を収集すべき化学物質の選定として「国内年間製造・輸入量が1,000トン以上」としているが、1,000トンの妥当性の説明、及び1,000トン未満の物質の取り扱いについての説明がない。対象となる1,000トン以上の物質はわずか665物質であり、残りの1,000トン未満の物質は数万種に及ぶ。
  4. 事業者は、自主的に本プログラムに参画することとし、優先情報収集対象物質のうち情報収集予定のない物質について民間よりスポンサーを募集して実施するとして、情報収集を事業者に義務づけていない。REACH案においても、米有害物質規制法(TSCA)改正提案においても、人の健康と環境を守るために、当局が有害性を証明するまで潜在的に有害な化学物質が市場に出ているという現状を改め、安全性の立証を事業者に義務付けている。
第三次環境基本計画
 本年2月より環境省は環境基本計画の見直しを行っており、7月19日(火)から8月31日(水)まで新しい環境基本計画のあり方についてのパブリックコメントの募集があった。その後重点分野ごとの検討が検討チームによって行われ、化学物質については「化学物質の環境リスクの低減」に係る戦略プログラムの検討会が8月24日、9月14日、10月27日に計3回行われたが、検討会の開催案内及び検討内容結果については環境省のウェブにも掲載されず、一部の関係者に示されただけである。
 この検討チームでの検討結果に基づき、第三次環境基本計画(案)が作成され、来年パブリックコメントにかけられるとのことなので、東京宣言の要望内容が第三次環境基本計画に反映されるよう強く要望する。

2004年REACH国際市民セミナー
 2004年11月23日にナディア・ハヤマさん(グリーンピース・ヨーロッパ・ユニット 政策担当シニア・オフィサー[ベルギー])とローラン・ボーゲルさん (ヨーロッパ労連 労働安全衛生部研究員[ ベルギー])を講師とする最初の国際市民セミナー 「化学物質汚染のない世界をめざして/EUの新しい化学物質規制−REACH」 を開催した。
 このセミナーにおいて、別添の 「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」 を採択した。

2005年REACH国際市民セミナー
 2005年9月17日、欧州議会でREACH策定に関与したインガー・シェーリングさん(前欧州議会議員、[スウェーデン])と、国際的に化学物質問題に取り組んでいるパール・ロザンダーさん(ChemSec代表[スウェーデン])を講師とする2回目の国際市民セミナー「どうなるEUの新化学物質政策−REACHをめぐる議論と展望」を開催した。
 また、「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」の賛同署名活動の報告も同実行委員会によって行われた。

化学物質汚染のない地球を求める東京宣言
 2004年国際市民セミナーで有志により採択された「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」は、2005年2月から10月15日まで賛同署名を呼びかけるキャンペーンにより、個人署名20,802筆、団体署名131団体の賛同を得た。
 署名簿とともに、東京宣言に述べられた理念を日本の環境政策の中で実現するよう小泉総理大臣に求める要望書を2005年11月7日、内閣府に提出した。


化学物質汚染のない地球を求める東京宣言推進実行委員会事務局
〒136-0071 東京都江東区亀戸 7-10-1 Z ビル 4階 有害化学物質削減ネットワーク気付け
TEL&FAX 03-5836-4359
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tokyo/index.html

東京宣言推進実行委員会参加団体
有害化学物質削減ネットワーク化学物質問題市民研究会
ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議WWFジャパン全国労働安全衛生センター連絡会議


(資料)
化学物質汚染のない地球を求める東京宣言

<背景>これまで人間が創り出した多くの化学物質は私たちに豊かで快適な生活をもたらしてくれました。しかしその半面、私たちの体内だけでなく地球全体がこれまで存在しなかった人工化学物質で汚染されています。この事実と近年のガン、心臓血管系疾患、呼吸器系疾患、喘息、アレルギー、生殖器系疾患、脳神経系の発達障害などの増加及び野生生物に見られる異常との関連が強く疑われています。安全性が確かめられていない多数の化学物質を大量に使用続けることを許し、有害性がわかっても迅速に対応できないこれまでの化学物質管理のあり方を早急に見直す時がきています。

<国際的動向>この問題はすでに1992年の地球サミットで合意された「アジェンダ21」の第19章でも取りあげられており、各国政府は化学物質管理において予防的アプローチ、製造者責任の原則などの採用を検討することが勧告されていました。欧州連合(EU)においては世界に先駆け1998年に欧州理事会がEUの化学物質規制の見直しを指示し、2003年10月に予防原則を取り入れた新しい化学品規制案REACHがまとめられ、現在内容の検討が行われています。

<日本の対応>EU、米国に次ぐ化学物質生産国である日本は過去に水俣病、カネミ油症などの悲惨な経験を持ち、今日においても前述するような化学物質との関連が疑われる疾患や異常等は増加の一途をたどっています。然るに日本政府においては見直しに向けた同様の動きがまったく見られないばかりか、米国と歩調をあわせREACHを弱体化させようとしています。

<汚染のない地球への道>化学物質は国境を自由に行き来するものであり、化学物質汚染のない地球を実現するためには、一部の地域だけでなく世界全体が足並みをそろえ化学物質管理の改革に取り組むことが不可欠です。ことに世界の化学物質生産の70%を占める欧州、米国、日本が率先することが重要です。

よって私たち日本の市民は、EU及び日本政府に対し以下のことを要望します。
1.欧州連合
 EUのREACHに対する取り組みを化学物質汚染のない地球への大きな第一歩として高く評価するとともに、人の健康と環境の安全を高いレベルで確保するという当初の目標が後退することなく成立されることを強く願う。

2.日本政府
 REACHに反対する日本政府および一部の産業界は、短期的な利害のために人の健康や生態系の安全を犠牲にするような干渉を即刻中止すべきである。また、わが国においても次のような観点を考慮に入れ、市民参加のもとで化学物質制度の包括的な見直しに早急に取り組むことを求める。

 @予防原則を中心にすえ、より安全な物質等への代替を促進させる
 A安全性の不確かな化学物質を使い続けることをやめる
 B安全性の立証責任を行政から事業者へと転換し、汚染者負担の原則など製造者責任を強化する
 C製品中の化学物質情報の開示など、市民の知る権利を保障する
 D規制等の政策決定への市民参加を制度化する

2004年11月23日

有害化学物質削減ネットワーク、化学物質問題市民研究会、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、WWFジャパン、グリーンピース・ジャパン、全国労働安全衛生センター連絡会議
国際市民セミナー「化学物質汚染のない世界をめざして」参加者有志

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