プレスリリース
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2005年8月22日
化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言推進実行委員会
代表:中地重晴 (有害化学物質削減ネットワーク代表)
〒136-0071 東京都江東区亀戸 7-10-1 Z ビル 4階
問い合わせ先: 安間 武 (化学物質問題市民研究会)
ac7t-ysm@asahi-net.or.jp

2005年国際市民セミナー 9月17日(土)開催
どうなるEUの新化学物質政策−REACHをめぐる議論と展望−


2005年国際市民セミナー開催

 化学物質汚染のない地球をめざす東京宣言推進実行委員会(*参加団体は末尾に掲載)は、9月17日(土)、13時〜17時、全水道会館(東京・水道橋)で、2005年国際市民セミナー「どうなるEUの新化学物質政策−REACHをめぐる議論と展望−」を開催する。
 同セミナーは、昨年11月に開催したREACH国際市民セミナーに引き続くものであり、欧州議会でREACH策定に関与したインガー・シェーリングさん(前欧州議会議員/スウェーデン)と、国際的に化学物質問題に取り組んでいるパール・ロザンダーさん(ChemSec代表/スウェーデン)に、REACHとは何か、現在何が議論されているのか、そしてその展望は−などについて最新の情報を提供していただく。
 また、昨年11月の国際市民セミナーの場において採択された「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」の賛同署名活動の報告も同実行委員会によって行われる。

セミナー参加申込: メール(comeon@toxwatch.net)又は FAX(03-5836-4359) (先着150名)
東京宣言推進実行委員会のウェブサイトからのオンライン申込も可。資料代:1000円は会場で。
詳細は実行委員会ウェブサイト: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/tokyo/

REACHとは

 REACHとは、有害な化学物質から人間の健康と環境を守るために、欧州委員会が2001年に出した「将来の化学物質政策のための戦略に関する白書」に基づいて、欧州委員会が2003年10月に発表したEUの新しい化学物質規制案で、化学物質の登録、評価、認可−REACH(Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals)のことである。
 同案は2003年5月から7月の約2ヶ月間、国際的なインターネット・コンサルテーションにかけられた後、同年10月29日に欧州委員会から最終案として発表され、現在、制定に向けて欧州連合(EU)の議会及び理事会で審議されており、2006年後半又は2007年前半に立法化されると言われている。

REACHの主な内容

 提案された主な内容は、市場に出る化学物質の安全性を確認することを目的として、@ヨーロッパ域内の製造者/輸入者は新設予定の欧州化学品機構に、年間製造・輸入量が1トン以上の化学物質について安全性等の情報を登録する。登録義務の対象物質は約3 万物質と言われている。AEU当局は登録された内容や試験計画を評価し、必要に応じて追加情報の提供を要求することができる。B発がん性、変異原性、生殖毒性、難分解性、生体蓄積性、有毒性などの有害物質は認可の対象となる。C容認できないリスクを及ぼす物質については、その製造、販売、又は特定の使用に関して、EUレベルで制限することができる─などである。

REACHの基本理念

 REACHの根底には、有害な化学物質から人間の健康と環境を守るために、@既存・新規に関わりなく市場にある化学物質の安全性の確認、A安全性の立証責任の産業側への移行、B人間の健康あるいは環境に危害を与える恐れがある場合には原因と結果の関連が科学的に完全には証明されていなくても予防的措置をとるとする予防原則、C有害な物質やプロセスの代替を探し、より害の少ないものを使用するとする代替原則、D決定のプロセス、化学物質データを市民に公開するとする情報公開、E2020年までに化学物質の全ての有害な影響を最小にするとする一世代目標−などの基本理念がある。

化学物質による健康影響や環境汚染の低減が期待される

 REACHは化学物質に関するEUの既存の多くの指令を統合した総合的な化学物質規制として導入されるので、EU全体で効果的に機能し、化学物質による健康影響や環境汚染の低減が期待される。
 またREACHは、EUに輸入される化学物質に対しても適用されるので、EUに化学物質製品を輸出する全世界の製造者がREACHにより求められる安全情報を提出することになり、これによりEUのみならず全世界の市場に安全性が確認された製品が出ることが期待される。

REACHは世界の化学物質政策に影響を与える

 REACHの高い基本理念が各国の化学物質政策に影響を与えることが期待される。REACH に強く反対しているブッシュ政権のアメリカでも、最近、米会計検査院(GAO)からEPAの化学物質のリスク評価と規制能力を改善するための勧告が出され、これに基づき7月に、民主党のジョン・ケリーやヒラリー・クリントン、エドワード・ケネディら有力議員らによりREACHに見られる理念を織り込んだ有害物質規制法(TSCA)の改正提案(別名:子ども安全化学物質法)がなされた。日本ではこのような動きは見られない。

アメリカ政府及び産業界の反応

 ブッシュ政権やアメリカ化学協議会( (ACC) )はREACH がアメリカの化学物質政策や産業界へ影響を与えることを恐れている。そこで欧州委員会によるREACH策定時に、欧州化学工業連盟(CEFIC)などと連携して、REACH は広範な失業を引き起こし、アメリカ経済に打撃を与え、ヨーロッパは製造業を発展途上国に奪われて産業の空白化を招くと大々的なロビーイング・キャンペーンを展開した。

日本政府及び日本産業界の反応

 日本政府は2003年のインターネット・コンサルテーションにおいて、企業によるイノベーションや経済活動を阻害し、国際貿易・投資の障害にならぬよう全体の適切なバランスに配慮すべきという、産業界保護の観点からのみなるコメントを経済産業省が提出した。また、アジア太平洋経済協力機構(APEC)の一員としても同様なコメントを出した。さらに2004年6月にはWTO 宛に同様のコメントを出した。
 REACHは人間の健康と環境を守る規制案であるにもかかわらず、環境省からの公式発言はない。
 日本の産業界も日本化学工業協会を含む10以上の団体を動員して、産業に及ぼす影響についての懸念を表す同様なコメントをそれぞれ提出した。しかし、本年7月に開催された、(社)日本化学物質安全・情報センター(JETOC)主催の「REACH」セミナーには多くの日本企業の担当者が参加しており、日本企業もREACHへの対応準備に動き出しているように見える。

現在、EUで何が議論されているのか

(1) 産業界との議論
 EU の産業界は、REACHはコストがかかりEU化学産業の競争力と革新を阻害すると主張している。
 しかし、REACHのビジネスへの影響については欧州委員会が2003年のREACH最終提案時に予想コストと利益に関する影響評価を発表した。予想コストは既存化学物質の登録期間である11年間で28〜52億ユーロ(約3,700〜6,800億円)であり、EU の域内総生産(GDP)への総合的影響は限定されたものであるとし、一方、環境と人間の健康に対する予想利益の概算は30年間で500億ユーロ(約6兆5千億円)としている。
 また、新規物質の登録手続きが容易となり、既存/新規物質は同等に扱われることで、より安全な代替物質を開発する動機付けとなり、EU化学産業に革新をもたらすとしている。
 これに対し、欧州産業界は、国際的なコンサルティング会社KPMGに影響調査委託し、その結果が2005年4月に欧州委員会のワーキング・グループで検討されたが、中小企業が若干の影響を受けるが、それ以外は欧州産業が影響を受けるという証拠はほとんどないとしている。
 EU の産業界はまた、REACHは手続きが複雑で実行可能性に問題があるとしているが、産業界、加盟国、及び欧州委員会からなるSPORT((Strategic Partnership on REACH Testing)プロジェクトが2005年7月に、REACH規制案の実行可能性を検証した報告書を提出した。それによれば、現状のREACHの条文は調整と明確化が必要であるが、REACHは実行可能であることを示した。また、同報告書はREACH実施のためのガイダンスとツールが必要であると強調したが、ガイダンス及びITツールの開発作業は欧州委員会のREACH 実施プロジェクト(RIPs)が行っている。

(2) 欧州議会での議論
 欧州議会では10の異なる委員会が修正項目を検討中である。環境委員会からだけでも1,000以上の修正項目が出されており、主要なものとして@1物質1登録(OSOR)、A低生産量物質(約20,000種)の登録方法、B免除の範囲、C優先順位の設定、D欧州化学品機構の役割強化−などがあるが、REACHの内容を大幅に変更するものではないと言われている。

REACHの早期立法化が期待される

 2001年にEUの白書が出されて以来、様々な議論が提起され、また産業側からの強い圧力を受けてREACHの立法化は遅れているが、本年7月19日のEU環境委員スタブロス・ディマスのスピーチによれば、現在、欧州議会内の各委員会でREACH修正案が討議されており、本年中の議会及び理事会での承認を目指しているとのことなので、2006年後半又は2007年前半に立法化されることが期待される。
 欧州委員会は、REACHは「人の健康と環境の保護」及び「EU産業の持続可能な発展」とを両立させるものであるとしている。しかし、有害な化学物質から人間の健康と環境を守るためのREACHが、EU化学産業の競争力を守るという名目の下にこれ以上後退し遅れることなく、早急に立法化されることをEUだけでなく世界の多くの市民、消費者、労働者、環境団体、消費者団体、そして労働組合は願っている。

化学物質汚染のない地球を求める東京宣言

 同実行委員会の参加団体を含む7つのNGOは、昨年11月23日にナディア・ハヤマさん(グリーンピース・ヨーロッパ・ユニット 政策担当シニア・オフィサー[ベルギー])とローラン・ボーゲルさん (ヨーロッパ労連 労働安全衛生部研究員[ ベルギー])を講師とする最初の国際市民セミナー 「化学物質汚染のない世界をめざして/EUの新しい化学物質規制−REACH」 を開催するとともに、別添の 「化学物質汚染のない地球を求める東京宣言」 を採択した。
 同宣言の賛同署名キャンペーンが同実行委員会によって行われており、7月31日現在、個人15,000人以上、団体110以上の賛同署名が寄せられている。8月31日に集約し、賛同署名簿とともに、東京宣言の要望を日本政府に伝える予定である。

東京宣言推進実行委員会参加団体

有害化学物質削減ネットワーク化学物質問題市民研究会ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議WWFジャパン全国労働安全衛生センター連絡会議


(資料)
化学物質汚染のない地球を求める東京宣言

<背景>これまで人間が創り出した多くの化学物質は私たちに豊かで快適な生活をもたらしてくれました。しかしその半面、私たちの体内だけでなく地球全体がこれまで存在しなかった人工化学物質で汚染されています。この事実と近年のガン、心臓血管系疾患、呼吸器系疾患、喘息、アレルギー、生殖器系疾患、脳神経系の発達障害などの増加及び野生生物に見られる異常との関連が強く疑われています。安全性が確かめられていない多数の化学物質を大量に使用続けることを許し、有害性がわかっても迅速に対応できないこれまでの化学物質管理のあり方を早急に見直す時がきています。

<国際的動向>この問題はすでに1992年の地球サミットで合意された「アジェンダ21」の第19章でも取りあげられており、各国政府は化学物質管理において予防的アプローチ、製造者責任の原則などの採用を検討することが勧告されていました。欧州連合(EU)においては世界に先駆け1998年に欧州理事会がEUの化学物質規制の見直しを指示し、2003年10月に予防原則を取り入れた新しい化学品規制案REACHがまとめられ、現在内容の検討が行われています。

<日本の対応>EU、米国に次ぐ化学物質生産国である日本は過去に水俣病、カネミ油症などの悲惨な経験を持ち、今日においても前述するような化学物質との関連が疑われる疾患や異常等は増加の一途をたどっています。然るに日本政府においては見直しに向けた同様の動きがまったく見られないばかりか、米国と歩調をあわせREACHを弱体化させようとしています。

<汚染のない地球への道>化学物質は国境を自由に行き来するものであり、化学物質汚染のない地球を実現するためには、一部の地域だけでなく世界全体が足並みをそろえ化学物質管理の改革に取り組むことが不可欠です。ことに世界の化学物質生産の70%を占める欧州、米国、日本が率先することが重要です。

よって私たち日本の市民は、EU及び日本政府に対し以下のことを要望します。
1.欧州連合
 EUのREACHに対する取り組みを化学物質汚染のない地球への大きな第一歩として高く評価するとともに、人の健康と環境の安全を高いレベルで確保するという当初の目標が後退することなく成立されることを強く願う。

2.日本政府
 REACHに反対する日本政府および一部の産業界は、短期的な利害のために人の健康や生態系の安全を犠牲にするような干渉を即刻中止すべきである。また、わが国においても次のような観点を考慮に入れ、市民参加のもとで化学物質制度の包括的な見直しに早急に取り組むことを求める。

 @予防原則を中心にすえ、より安全な物質等への代替を促進させる
 A安全性の不確かな化学物質を使い続けることをやめる
 B安全性の立証責任を行政から事業者へと転換し、汚染者負担の原則など製造者責任を強化する
 C製品中の化学物質情報の開示など、市民の知る権利を保障する
 D規制等の政策決定への市民参加を制度化する

2004年11月23日

有害化学物質削減ネットワーク、化学物質問題市民研究会、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、WWFジャパン、グリーンピース・ジャパン、全国労働安全衛生センター連絡会議
国際市民セミナー「化学物質汚染のない世界をめざして」参加者有志

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