(毎日2004年3月6日) 続発シックスクール 子供を守るために(1) 体と心に二重の傷/対策遅れ、周囲も理解不足 深刻な立場の子供たち 字校内で化学物質などに反応して児童、生徒らが体調を崩す「シックスクール」問題が、都内で広がりを見せている。都が今月中に対策マニュアルの配布を計画するなど自治体も動きはじめた。症状のつらさだけでなく、周囲の理解不足や対策の遅れから、子供たちが深刻な立場に立たされるケースも少なくない。その現状を報告し、被害拡大を防ぐために何が必要なかを考えた。(文中の児童、生徒の名前は仮名にしてあります【太田裕之】 1年半後も消えぬ不安 調布市立調和小 調布市西つつじヶ丘の市立調和小学校(児童数400人)の6年生、秋子さんは昨年5月、教室内で「香水のにおい」をかいだ直後に突然倒れた。目がチカチカして気分が悪く、足が動かなかに。同小のシックスクル問題が浮上したのは02年月。秋子さんも頭痛などが続いたが、その後、校舎内の化学物質濃度は国の基準値以下に下がっていただけに、症状にショックを受け、心まで深く傷ついた。 「シルクハウス症候群から化学物質過敏症(CS)への移行途中」。港区の病院で、そう診断されたのは昨年9月。「ごく微量の、しかも多種類の化学物質に反応する」という医師の説明に秋子さんは、5月に倒れる直前にかいだ「香水のにおい」を思い出した。 調和小の新校舎は使用直前の02年8月の測定で、トルエンが国の基準値の約15倍、ホルムアルデヒドも約1.3倍検出された。だが、学校側は「濃度は下がるはず」として使用を始めた。 秋子さんはすぐに発症し、10月半ばに「急性薬物中毒」と診断された。別の小学校へ通う一時避難を始めたが、不安が募って数日で登校拒否に。同じころ、同級生の和雄君も持病のぜんそくが悪化するなどして学校を休んだ。まもなく、不登校児のための施設に一時避難し、秋子さんも同施設に通うようになった。 市教委の委託で同小を調査したNPO法人は昨年1月、「全児童の20%がシックハウス環境の影響を強く受けたと考えられる」と発表した。秋子さんや和雄君ら5人が一時避難したほか、5人は転校。市教委などは、シックスクールへの認識と対策が甘かったことを認めている。 秋子さんと和雄君は今も理科の実験や家庭科の授業に普通には出席できず、図書室で自習する。教材に化学物質が含まれていることが多いからだ。香水などをつけている友達にも近づけない。今春、中学に進学すれば、化粧品や整髪料などを使う生徒も増える。体と心の二重の傷に、将来の不安が追い討ちをかける。 教材で頭痛、勉強に支障 都立世田谷泉高 世田谷区北烏山の都立世田谷泉高校(生徒数約500人)では、改修した校舎で昨年4月にシックスクール問題が起きた。生徒8人がシックハウス症候群かCS、またはその疑いがあると診断され、別の7人は経過観察が必要とされた。 そのうちの一人、3年生の健一君は、化学物質の濃度低下後も頭痛や吐き気に苦しむ。先月26日には、写真の授業で接着剤を使い、激しい頭痛に襲われた。授業中は何とか我慢したが、放課後に保健室で横になったまま起き上がれなくなり、救急車で病院に運ばれた。その10日前にも、金属研磨剤を使った彫金の授業で頭痛を起こしている。 昨年5月に同症候群と診断され、6月には一時入院。だが、8月に化学物質の濃度が下がってからは、「授業を受けないと卒業できない」と学校側に言われて登校を続けている。 同高でも調和小と同様、改修した校舎内の化学物質濃度が基準値を超えている状態で使用を始めており、健一君の母親は「精神的にも苦痛を受けた。学校を信用できない」と不満を口にする。 健一君と同様の診断を受け、昨年5月半ばから学校を休んだ3年生の真弓さんも「他人の香水でも気分が悪くなる」。学校でも電車の中でも、さまざまなにおいに反応して症状が出るようになった。「そんなことを言ってるとキリがないから」と、9月から登校を再開したが、薬品を使う写真の授業は、実習室に入るだけで気分が悪くなり、受けられない。「楽しみにしていたのに、悔しい」。悲しそうに、そう話した。 発生実態把握していない国 シックハウス症候群は、建物の建材や接着剤から発散する揮発性有機化合物を吸うことで、せきや目の痛み、頭痛やアトピー症状の悪化などを引き起こす。国内では94年ごろから問題化した。厚生労働省は97年から化学物質の室内濃度の指針値を定め、13物質について設定。国士交通省も02年7月に建築基準法を改正し、対策を義務付けた。 一方、シックスクールと呼ばれる、学校施設での同症候群への対策は立ち遅れている。文部科学省が学校環境衛生基準にホルムアルデヒドやトルエンなど4物質の検査を盛り込んだのは02年2月。同4月から、校舎の新改築の際、濃度が基準値以下であることを確認したうえで業者から引き渡しを受けることにした。 また、国はシックスクールの全国的な発生実態を把握していない。文科省は専門家による調査研究会を設置したが、調査方法を検討している段階。NPOなどのまとめでは、児童・生徒らが症状を訴えたケースは、全国で少なくとも十数校に上っている。このうち都内では調和小と世田谷泉高のほか、江東区立元加賀小と墨田区立八広小が含まれている。 |