CHEによる解説
多種化学物質過敏症(MCS) における 遺伝子型のケース・コントロール研究 International Journal of Epidemiology 33 (5): 1-8 掲載論文を Collaborative on Health and the Environment (CHE) が解説したものです 情報源: Collaborative on Health and the Environment, 2004 Case-control study of genotypes in multiple chemical sensitivity: CYP2D6, NAT1, NAT2, PON1, PON2, and MTHFR http://www.protectingourhealth.org/newscience/immune/2004/2004-0715mckeown-eyssenetal.htm オリジナル:Case-control study of genotypes in multiple chemical sensitivity: CYP2D6, NAT1, NAT2, PON1, PON2, and MTHFR McKeown-Eyssen, G, C Baines, DEC Cole, N Riley, RF Tyndale, L Marshall, V Jazmaji. 2004 International Journal of Epidemiology 33 (5): 1-8 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html 掲載日:2006年3月15日
相違が存在するだけでなく、MCS 患者は有毒物質を解毒することに重要な遺伝子の中に、解毒する能力を損なう遺伝子型を持っているようである。最も顕著な結果は2つの遺伝子を同時に見たときに現われた。MCS の女性はそうでない女性よりも、2つの遺伝子型の特定の組み合わせを18倍以上多く持っていた。この研究データは、MCS の身体的起源を強く証明する遺伝子的相違を初めて示したものである。 何をしたか? マッケオンイッセンらはカナダのトロント市の30歳〜64歳までの MCS 女性223人を初期調査によりMCS と同定した439人の中から募集した。194人のコントロール対象者には、家族医療(family practices)の中で MCS の兆候がない人々が選ばれた。 研究チームは MCS 症例として特定するためのいくつかの基準を設けた。
遺伝子型の民族による混乱を避けるために、白人女性だけを調査対象とした。 参加者を探し出すために、4,126 人に対し MCS に関連する症状について質問調査を実施した。その中で493人の潜在的なケース(訳注:MCS症状がある人々のグループ)と481人の潜在的なコントロール(訳注:MCS症状のない人々のグループ)を決めた。すなわち、30〜64歳の妊娠していない女性で、将来の調査対象として参加する意思を持ち、ケース・コントロールの基準に合致する人々である。最終的に203人のケースと162人のコントロールが調査に参加した。 研究チームは遺伝子分析のために全ての参加者から血液サンプルを収集した。彼らはこれらのサンプルから染色体 DNA を分離し、ある多型(訳注:polymorphism 個人ごとの塩基配列の違い(用語説明))が、体の化学物質への反応の仕方に重要な役割を果たすいくつかの異なる遺伝子に対し、コントロールに比べてケースの方によりしばしば起きるかどうかを決定するために特定の多型を同定した。
何が分かったか? マッケオンイッセンらは、MCS の女性と症状のない女性との間にいくつかの著しい遺伝子的相違を発見した。 特定の遺伝子における対立遺伝子頻度間の相違をテストして、彼らは、CYP2D6 遺伝子において著しい相違(p = 0.02)を、また NAT2 遺伝子において僅かに著しい相違(p = 0.07)を見出した。 ケースとコントロールの遺伝子型の分布は、CYP2D6 遺伝子(p = 0.02)と NAT2 遺伝子(p = 0.03)の間に著しい相違があった。
PONI-55 と PONI-192 遺伝子に異型な女性もまた、そうでない女性よりも MCS になりやすい(PONI-55に対してオッズ比2.05、信頼区間1.04−4.05、p=0.04。PONI-192 に対してオッズ比1.57、信頼区間1.01−2.45、p=0.04)。 MTHFR-C677T とケース−コントロールとの間には関連性はなかった。 マッケオンイッセンらは、潜在的な寄与因子(喫煙、出生場所、ビタミン剤の使用など)との統計的関連性は見出さなかった。 何を意味するか? マッケオンイッセンらのこの画期的な研究は、MCS の人々はそうでない人々に比べて汚染物質の解毒に重要な酵素に遺伝子的相違があることを初めて示した。それは MCS が身体的な現象であり、懐疑論者が主張する”患者の精神的なもの”だけではないことを明白に示す遺伝子的証拠である。 研究された酵素は、遺伝子的に異なることが知られている化学物質を解毒するために用いられる多くの重要な生物化学的経路にある酵素のほんの一部である。例えば、この研究では 2yP2D6 の4つの対立遺伝子(alleles)を検証したが、実際には46の異なる対立遺伝子が存在する。特定の化学物質を解毒する体の能力に与えるそれらの影響は異なり、あるものは増加させ、あるものは減少させ、あるものは影響を与えない。そして、2YP2D6 遺伝子は有毒成分の代謝に重要なシトクロム P450 族にある多くの遺伝子の中のひとつに過ぎない。これらの遺伝子的に異なる解毒経路のひとつあるいはそれ以上がやはりMCSへの遺伝的易罹患性に寄与することがあり得ると推定することは合理的である。 遺伝子的な分析の詳細もさることながら、これらの結果は遺伝子的な MCS への易罹患性を確立する上で重要であるが、MCS が化学物質に曝露することによって引き起こされるということを十分に示していない。研究された酵素によって影響を受ける経路は外部汚染物質を解毒することに対して明らかに重要であるが、それらはまた、体の中で自然に起こる化合物の代謝を調整することに対しても重要である。これらの異なる可能性をテストするためにさらなる研究が必要であろう。 マッケオンイッセンらは、因果関係について最終的な言葉を述べていないが、彼らの研究は、”そのような症状は存在するのか?”という議論から”特定の遺伝子型を持つ女性の MCS リスクが大きくなるのはどのような原因経路によるのか?”へ移ることに役立つに違いない。その答えは、MCS 批判者らが主張するように精神的なものではなく、遺伝子間の相互作用、それらが生成する酵素、及びそれらの酵素が解毒する化合物にある。 |