胎児期の鉛曝露と統合失調症

(訳注:米 Environmental Health Perspectives. [Online 8 January 2004] 掲載論文を POH が紹介したものです)
情報源:Protecting Our Health
Prenatal lead exposure, δ-Aminolevulinic acid and schizophrenia
Opler, MGA, AS Brown, J Graziano, M Desai, W Zheng, C Schaefer, P Factor-Litvak and ES Susser. 2004
Environmental Health Perspectives doi:10.1289/ehp.6777 [Online 8 January 2004]
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年1月24日



 オプラーらは、胎内での鉛曝露と成人してからの統合失調症(旧称:精神分裂症)との関連性を調査することで、脳発達に対する鉛の影響についての研究に新たなページを開いた。彼らの研究は統計上の有意さに若干欠けるが、ひとつの関連性を示唆している。

何をしたか?

 オプラーらは1959年から1976年の間に生まれた新生児のコホートにおいて母親の血漿中の鉛濃度を分析し、統合失調症の胎児期の決定因子を研究した。母親の血液サンプルは妊娠中に数回採取され、出生児が成人するまで米国立衛生研究所(NIH)で凍結保管されていた。

 研究者たちは研究への協力者たちの電子化された健康に関する記録に基づき、統合失調症の潜在的な症例を特定する調査を行った。記録の電子化が始まり必要な調査が可能となった1981年以降、約12,000人の協力者が健康調査計画に参加した。統合失調症及び関連条件に関し、症例の照会と評価が経験豊かな臨床医によって行われた。

 43人の対象者が統合失調症であると診断され、さらに他の28人が統合失調症的疾患を持っていた。

 技術的な理由から、オプラーらは鉛濃度の測定を間接的な方法で行った。すなわち、保存されていた母親の血液中のδアミノ・レブリン酸(δ- ALA)の濃度を測定した。鉛はδ- ALA を他の成分に代謝変換させない作用があるので、δ- ALA の濃度が高いということは鉛の曝露が大きいことを意味する。彼らはまた母親の血漿が妊娠期間の中期(second trimester)に採取された対象者だけに調査を限定した。これは二つの理由による。第一は、他の研究が妊娠中期の出来事が後の統合失調症と関連性があるということを示していたこと、第二は、δ- ALA の濃度が出産の直前は変動し、そのために鉛濃度との関連性が不明確になるからである。

 統合失調症と診断された人々(44人)の母親の妊娠中期の血漿からのδ- ALA の濃度及び関連条件は、調査コホートの中でケースが対応する人々から選択されたコントロール群 の対象者(75人)のδ- ALA と比較された。

何が分かったか?

 不明確な変数を調整しない最初の分析で、オプラーらは、母親のδ- ALA が高い人と母親のδ- ALA が低い人を比較したオッズ比は1.83、95%信頼区間が0.85〜3.95であることを見出した。
注:オッズ比
曝露の影響の程度を推定する指標。オッズ比が 1 である時には、曝露はリスクを増大させない。オッズ比が 10 ということは、リスクが10 倍高いということを示している。

 彼らは次に、母親の年齢などを含む不明確な一連の変数を考慮して分析結果を調整した。オッズ比は2.4、95%信頼区間 0.99〜5.96に上昇した。

何を意味するか?

 これは胎児期の化学物質曝露と成人後の統合失調症との関連に関する最初の調査である。統計的有意性が微妙であり、決定的なものではないが、その結果は興味をそそるものである。

 少なくとも、胎内での鉛曝露の成人後の統合失調症への寄与の可能性について、今後のさらなる調査が必要であるとしている。例えば非行に関する最近の調査 Bone lead levels in adjudicated delinquents. A case control study のように、子どもの神経系発達への鉛の影響に関する実質的な報告書があるのだから、そのような寄与は意外なことではない。

 この調査にはいくつかの制約がある。
  • 1960年代に出生コホートを確立し、成人になるまで健康記録を保守するために投資がなされたが、サンプルサイズが小さい。
  • 鉛曝露を評価するために用いられ測定されたδ- ALA は理想的ではない。
  • 胎児期の鉛曝露の影響を変えているかもしれない出生後の変数が考慮されていない。


化学物質問題市民研究会
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