Our Stolen Future (OSF)による解説
プラスチックや経口避妊薬中のエストロゲン様化学物質は
マウスの胎児の前立腺と尿道の発達を妨げる


Proceedings of the National Academy of Sciences, in press 掲載論文を
Our Stolen Future (OSF) が解説したものです

情報源:Our Stolen Future New Science
http://www.ourstolenfuture.org/NewScience/oncompounds/bisphenola/2005/2005-0502timmsetal.htm
Estrogenic chemicals in plastic and oral contraceptives disrupt development of the fetal mouse prostate and urethra
オリジナル論文:Proceedings of the National Academy of Sciences, in press. May 2, 2005
Estrogenic chemicals in plastic and oral contraceptives disrupt development of the fetal mouse prostate and urethra
Timms, BG, KL Howdeshell, L Barton, S Bradley, CA Richter and FS vom Saal. 2005


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年8月15日



 ティムスらは二つのエストロゲン様化学物質、避妊用ホルモンとして広く使われているエチニル・エストラジオールとプラスチック分子であるビスフェノールAは、アメリカ国民が普通に曝露しているよりも低いレベルでマウスの胎児の前立腺の発達に有害な影響を及ぼすと報告している。彼らの発見は、前立腺がんを含む、前立腺の疾病の増加に関連する要因に対する重要な洞察を与えるかもしれない。

 避妊のためにピルを使用している女性が誤って妊娠し、しかもそれを知らずにピルを飲み続けると、子宮の中の赤ちゃんはエチニル・エストラジオールに曝露する。これは毎年、アメリカとヨーロッパの約200万人の女性に起きていることである。

 ビスフェノールA(BPA)への曝露は、BPAが食品や飲料水用の容器に広く使用されており、またポリマー中でBPAを有する化学結合は容易に分解し接触する物質に漏れ出すために起きる。

 彼らの研究はまた、現在のEPAの安全基準をはるかに下回る濃度でのビスフェノールAに曝露すると影響があるということを確認した。産業側の科学者らは、これらの結果には再現性がないと主張してきた。最近の産業側広報担当者による声明は全く間違っている

何をしたか?

 ティムスらは、異なる物質を混ぜたコーン・オイルを妊娠したマウスに与え、受精後19日目の雄の胎児の前立腺を検証した。

 彼らはマウスを4つのグループに分け、4日間(受精後14日〜18日)給餌を管理した。
  • コントロール:コーンオイルだけを与えられた雌マウス(5匹)
  • ポジティブ・コントロール:0.1μg/kg/day のジエチルベストロール(DES)を混ぜたコーン・オイルを与えられた雌マウス(5匹)
  • エチニル・エストラジオール:0.1μg/kg/day のエチニル・エストラジオール(EE)を混ぜたコーン・オイルを与えられた雌マウス(5匹)
  • ビスフェノールA:0.1μg/kg/day のBPA)を混ぜたコーン・オイルを与えられた雌マウス(6匹)
 これとは別に、彼らは高用量のDES(200μg/kg/day)を与えたグループとコントロール・グループとの比較を同じ手順で行った。

  出生直前に胎児は帝王切開で取り出された。彼らは、子宮の中で1匹の雄と1匹の雌の間で育った雄を選択し、その雄を検証した。彼らがこのように選択した理由は、以前の研究で子宮の中での位置は生殖器官の発達に著しい影響を与えることがあることが示されたからである。子宮の中で同じ位置の胎児を選択することで、ティムスらはデータ中で混乱が起きることを事前に回避した。

 ティムスらは前立腺を解剖し、画像処理技術を用いて胎児の発達中の前立腺の3次元イメージを生成した。このことにより前立腺の形状やサイズに関する精密な分析を行うことができた。

 彼らはまた、発達中の前立腺の異なる部位で増殖する細胞を特定するために、免疫学的技術を適用した。そこのことにより細胞分裂パターンに関する処理の影響を比較することができた。

何がわかったか?

 胎児の前立腺発達は、コントロールに比べて、低用量のDES、BPA、EEに曝露したマウスにおいて著しく変化していた。BPA及びEEによる影響は実際上、DESによる影響と同等であった。

 これらの画像は出生直前のマウスの尿生殖器洞(urogenital sinus)を示している。赤は尿道(urethra)、緑、黄、青はそれぞれ、背面、側面、腹面の前立腺導管(prostate ducts)を示している。ここに示される画像は各グループ中の平均に最も近いマウスの尿生殖器洞である。DES、BPA、EEで処理したマウスは全て、コントロールとは著しく異なっている。導管の総数は総容積とともに増大している。例えば、BPAは容積が81%、導管の数は41%、増大している。

 上記の極低用量のDES、BPA、EEによる導管の数と容積の増加とは対照的に、高用量でのDES曝露(低用量曝露の2000倍)は、前立腺の背面及び側面の導管の生成が完全に停止している。このことは左側の画像で見ることができるが、これは19日目の尿生殖器を上の画像とは異なる視覚化処理をコンピュータで行ったものである。

 コントロール・グループのマウスの前立腺については、背面導管(DP)及び側面導管(LP)はよく発達しているが、これらの発達は高用量DESグループでは見られず、凝固腺(coagulating gland)となっているようである。腹面導管(VP)は異なった成長パターンを持ちはるかに小さい。

 低用量では、どのエストロゲン様化学物質も増殖細胞の数の増加をもたらした。
 低レベル曝露はまた、膀胱頚部(neck)の尿道を異常に狭くしていた。

何を意味するか?

  • それは、前立腺疾病における二つの共通なヒトへの曝露を暗示する。毎年、数百万の胎児は、この実験で用いられたレベル以上でエチニル・エストラジオールとビスフェノールAに曝露している。過去数十年にわたって、前立腺がんを含むいくつかの前立腺の病気の発症頻度が増大している。これらのマウス実験は因果関係は確立していない。その代わり、彼らは、これらの化合物への曝露が前立腺の疾病に寄与する生物学的プロセスを指摘している。人間で同様なことが起きるかどうかをテストするためのヒトのデータは現在入手することはできない。しかし、ティムスらが論文中で示唆しているように、これらの結果は関連性があると信ずるに足る強い生物学的理由がある。

  • それは、胎児期における極低用量のビスフェノールAへの曝露が前立腺の発達に有害影響を引き起こすというナーゲル(Nagel)らの以前の報告書の内容を確認し、拡張するものである。その研究では前立腺の重量を測定した。この論文では、ティムスらは前立腺中のどの組織がBPAやその他のエストロゲン様化学物質によって影響を受けるかということについて、詳細な洞察を与えている。これらの結果はまた、エストロゲン様化学物質への低用量曝露のためのポジティブ・コントロールとしてDESの有効性を確認した。これはまさに議論のポイントであった。産業側がDESをポジティブ・コントロールとして使用することに失敗した時に、その失敗は彼らの実験がうまくいかず廃棄されるべきであることを認識せずに、DESは不適切であると主張した。

  • それは、高用量での実験は低用量曝露の有害な結果を信頼性をもって予測することできないという極めて明確な事実の例を示した。ティムスらは比較的高いレベルのDESへの曝露により前立腺の腺形成が停止するが、一方、200倍低いレベルでのDESへの曝露は導管形成を促進するということを示している。従来の毒物学では数十年間、高用量での実験で十分であるという前提の下に実施されてきた。これは明らかに間違いである。したがって、これらの結果は曝露の安全性を特定するための標準手順に対する大きなチャレンジである。
 これらの結果は、環境健康展望8月号(Environmental Health Perspectives Volume 113, Number 8, August 2005 )で発表され論評 Commentary - An Extensive New Literature Concerning Low-Dose Effects of Bisphenol A Shows the Need for a New Risk Assessment、(Our Stolen Futureによる紹介)に直接基づくものである。BPAによって引き起こされるヒトの病気の例は非常に多い。影響の多くはほとんどのアメリカ人が曝露している範囲内のレベルで引き起こされている。その論評の著者ら(そのうちの一人であるボンサールはこの論文の著者でもある)は、EPAが1988年に制定した現在のBPAの規制基準は時代遅れであると結論付けている。事実、関連する研究の半分以上は2002年以降に発表されている。産業側はひどく偏向した報告を行っている。今日まで産業側の資金による11の研究のうち、有害影響を報告したものはひとつもないが、政府の資金による100以上の研究の90%以上は影響を見出している。

 この新たなティムスらによる論文は、BPA基準は著しく強化されるべきであるとする証拠の重みを今、力強く加えるものである。


化学物質問題市民研究会
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