IEER プレスリリース 2006年5月4日
フランスは原発を廃止しても
二酸化炭素の排出を削減できる

情報源: Institute for Energy and Environmental Research (IEER)
http://www.ieer.org/index.html IEER Press Release on May 4, 2006
France Can Phase Out Nuclear Power and Achieve Low Carbon Dioxide Emissions
http://www.ieer.org/reports/energy/france/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年5月5日

新たな研究は、原発推進でもフランスの温室効果ガス排出は増加していることを示している。
プルトニウム補助金と原発推進政策は、安全で二酸化炭素低排出の将来を抑制する。


 【メリーランド州タコマパーク」】 新たな報告書『フランスは原発なしに二酸化炭素排出を削減 ( Low-Carbon Diet without Nukes in France)』は、今後数十年で二酸化炭素の排出を約40%削減しながら、フランスの原発を廃止することの実行可能性を検証している。フランスはエネルギー使用による温室効果ガスの排出が比較的低い原発による発電が全発電量の80%を占ており、原発推進による模範国であるとみなされている。エネルギー環境調査研究所(Institute for Energy and Environmental Research (IEER))の報告書は、原発を使わずに著しく二酸化炭素の排出を削減しつつ、核燃料の高利用と多量の二酸化炭素排出をともなう現在の生活スタイルと経済状態を維持することができる技術と政策を詳しく述べる最初のものである。

 ”原発産業界は原発を地球温暖化の解決策の一部であるとしているが、原発には、核拡散、深刻な原発事故、テロへの脆弱性などのリスクの形で重大な長期的安全性の問題がある”−と同報告書の共著者であり、IEERのプロジェクト科学者であるアニー・マキジャニーは述べた。”それは望ましいトレードオフではない。IEERの分析は、将来、二酸化炭素の低排出を実現するために、フランスにおいて原発は必要ないことを示している。”

 フランスは総発電量の75〜80%を原発から得ており、そのことがGDP(国内総生産)あたりの二酸化炭素排出量をヨーロッパで最も低くしている。そのために、フランスは京都議定書の下で1990年比で二酸化炭素排出を削減する義務はないが、一方他のヨーロッパ諸国は2008年から2012年までの間に1990年比で8%の排出削減(ヨーロッパ全体)しなくてはならない。

 原発はフランスにおける温室効果ガスの排出を除去するための解決ではなかった。報告書『フランスは原発なしに二酸化炭素排出を削減 ( Low-Carbon Diet without Nukes in France)』は、1973年以来フランス電力産業における石油使用の本質的な排除及び石炭使用の削減にもかかわらず、温室効果ガスの排出は高く、上昇を続けている。これは、温室効果ガスの排出は、住宅用、商用、及び産業用の石油及び天然ガスの使用に由来するとともに、運輸交通からの排出が主であるためである。

 同報告書によれば、制約はカーボンフリーのエネルギー源の欠如にあるのではなく、既存のリソースが不均衡に核エネルギーに向けられて他のエネルギー源を損なっているからである。フランスの20基の原発における燃料としてのプルトニウムの使用の公式な調査は、原発分野だけで年間約10億ドル(約1,1000億円)の助成金を得ていることを示している。一方、過去数年間のフランスの風力発電への全投資は年間のプルトニウム助成金にも達しない。

 ”フランスでは、運輸分野及び住宅と商用の熱源における効率を高めない限り、温室効果ガス排出を削減することはできない”−とIEERの代表で同報告書の共著者であるアルジュン・マキジャニーは述べた。”その技術はほとんど商用化されているかそれに近い。しかしプルトニウム燃料への莫大な助成金を含む国の核燃料への傾注は他のエネルギー政策を邪魔している。”

 IEER は、核燃料を今後30年〜40年で廃絶する一方、二酸化炭素排出を大きく削減する道を用意することを示すために、公式のエネルギー高使用経済予測を使用する2つのシナリを提示している。そのシナリオは、原発を廃止するとともに20〜40%のCO2削減を達成するために、既存の技術又はもっと進歩した技術を使用する。原発は突然やめるのではなく徐々に廃止されなくてはならないということを認めているが、それは原発がフランス電力の大きな部分を占めているためであり、また早まって既存原発を廃棄すると効率的で再生可能なエネルギー、すなわち風力発電に向けられるべきリソースが違う目的に転用することになりかねないからである。

 ”フランスがアメリカと同じ二酸化炭素排出削減率を達成するために先進技術の組み合わせをもっと開発しなくてはならないことは疑いない”とアルジュン・マキジャニー博士は述べた。”しかし、将来に投資するフランスは、温室効果ガス排出削減に関する技術的及び経済的リーダーシップをとることができる。”

 ”フランスは、不幸なことにエネルギー分野の技術的リーダーシップを核技術に求めることを選択してしまった”とアニー・マキジャニーは指摘した。”しかし、商業核エネルギー産業は核兵器用プルトニウムを作ることができるという日本の民主党党首、小沢一郎の発言のような警告のサインをフランスと世界は無視している。”

 フランス政府がその大部分を出資しているフランス企業AREVAは、日本に対し核燃料の再処理サービスを行っている。その結果、日本は大量の分離プルトニウムの在庫を持っており、一部は日本に、一部はフランスに保管されている。

 同報告書は、21世紀の中までのフランスの二酸化炭素排出削減、ゼロ原発は、著しい技術的及び政策的変化を伴うと指摘している。それらには下記が含まれる:
  • 規制による、2020年までに車の燃費100マイル/ガロン(42.5km/l)の要求と、車とトラックの配送効率の改善
  • コジェネレーションやヒートポンプなどの既存の技術を使用する住宅用及び商業用の冷暖房における改善
  • 既存技術への優遇税制に代えて、革新を推進するための先進技術(製品)の政府調達
  • 原子力発電所が寿命後(通常、運転開始後40年〜45年)、再処理及び発電設備の廃棄
  • 風力、水力、天然ガスによる発電、さらにはもっと先進技術を使用したシナリオとして、太陽光発電を電力産業の中心にすえる国の政策
 報告書全文はIEERのウェブサイトに掲載されている(PDF 650kB)。
 http://www.ieer.org/reports/energy/france/lowcarbonreport.pdf

このプレスリリース報告書サマリーはフランス語でも入手可能である。


参考資料:


化学物質問題市民研究会
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