エンバイロンメンタル・ワーキング・グループ レポート 2005/07/14
体内汚染:新生児の汚染物質 臍帯血中の化学物質、汚染物質、及び農薬のベンチマーク調査 エグゼクティブ・サマリー 情報源:Executive Summary Body Burden - The Pollution in Newborns A benchmark investigation of industrial chemicals, pollutants and pesticides in umbilical cord blood Environmental Working Group, July 14, 2005 hhttp://www.ewg.org/reports/bodyburden2/execsumm.php Environmental Working Group: http://www.ewg.org/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2005年10月26日 概要 赤ちゃんの出生1ヶ月前には、臍帯は毎日少なくとも300リットルの血液を、栄養と酸素に富んだ胎盤と羊膜液の袋の中で急速に成長している胎児との間でやり取りしている。この臍帯は母親と赤ちゃんの生命線であり、生命を維持し成長を促す栄養分を運ぶ。 それほど昔ではない頃まで科学者らは、胎盤が環境中の化学物質と汚染物質のほとんどを臍帯と成長中の赤ちゃんから保護していると考えていた。しかし、現在では、器官、導管、骨格、そしてシステムが週単位の積重ねで単一細胞から完成された形にまで組み上がる重要な時期に、臍帯が生命の糧だけでなく、タバコやアルコールからの残渣のように容易に胎盤を通る産業化学物質、汚染物質、そして農薬を送り込んでいるということを我々は知っている。これは、胎内の赤ちゃんだけでなく世界の誰にでも広がっているヒトの体内汚染”body burden”である。 ”コモンウィール(公共の福祉)と連携してエンバイロンメンタル・ワーキング(EWG)が実施した調査で、二つの主要な研究所の研究者らは、アメリカの病院で2004年8月と9月に生まれた10人の赤ちゃんの臍帯中に平均200種類の産業化学物質と汚染物質を検出した。テストの結果この赤ちゃんのグループから合計287種類の化学物質が見出された。臍帯を切った後に赤十字が収集したこれら10人の赤ちゃんの臍帯血には農薬、消費者製品成分、及び燃焼石炭やガソリン、ゴミからの排出物が含まれていた。 この調査は、261種類の化学物質が初めて臍帯血テストのターゲットとなり、209種類の化合物が初めて臍帯血中で検出されたと発表している。それらの中には、最近EPAの科学諮問委員会によってヒト発がん性がありそうと特定されたテフロン化学物質PFOAを含む、ファースト・フード容器、衣類、織物などで防汚・防油として用いられる8種類のパーフルオロケミカルズ(PFCs)、多数の広範に使われている臭素化難燃剤及びそれらの有毒な副生物、及び非常に多数の農薬などがある。 臍帯血から検出した287種類の化学物質のうち、180種類がヒト又は動物に発がん性があり、217種類が脳や神経系に有毒で、208種が動物テストで先天異常又は発達異常を引き起こすことが知られている。発がん性物質、発達毒性物質、及び神経毒物質の複雑な混合物への出生前及び出生後の曝露の危険性についてはまだ調査されたことがない。 ヒトの臍帯血から検出された化学物質と汚染物質 (アイコンをクリック) 胎児期又は幼児期での化学物質曝露は、成長してから後の曝露に比べて劇的に有害となることがある。多くの科学的証拠が、子ども達は体内汚染物質により増幅されたリスクに直面するということを示している。このことは、水銀、PCB類、そしてダイオキシン類を含むこの調査で見出された多くの化学物質において特に強く見られる。子ども達の脆弱性は、急速な成長と不完全な防御系に起因する。
アメリカの産業は、約75,000種の化学物質を製造又は輸入しており、そのうちの3,000種は年間の製造/輸入量が100万ポンド(約500トン)を超える。保健当局は、これらの化学物質のどれくらいが胎児の血液を汚染し、子宮内曝露の健康影響がどのようなものなのかを知っていない。 もし、もっと広範囲の化学物質をテストしていれば、我々はほとんど間違いなく、287種以上の化学物質を検出していたであろう。しかし、産業化学物質に対する臍帯血テストは技術的には難しい。化学物質製造者は公共の又は政府の機関にヒトの体内のそれら化学物質を検出する方法を明かすことが求められていない。このようなテストを実施するための装置や専門家備えた、あるいは手法を開発するために資金投与している研究所はほとんどない。研究所では、市場に出ている広範な化学物質のほとんどに関し、ヒトの組織でテストする方法をまだ開発しておらず、研究所が実施できるわずかなテストは高価である。本報告のために臍帯血テスト分析に要した研究所の費用はサンプル当り1万ドル(約100万円)である。 発達中の赤ちゃんは、保護、栄養、そして最終的には生存を大人に依存している。社会として、我々は赤ちゃんの血液が200もの産業化学物質で汚染されることがないようにする責任がある。 PCB類、鉛ガソリン添加剤、DDT、その他の殺虫剤のように禁止されてから数十年も経つような一握りの化学物質は、ヒトの血液中でのレベルが明らかに減少している。しかしこの様な良いニュースは他の化学物質についてはほとんど見られない。 1976年の連邦法である有害物質規制法(TSCA)は、商業用化学物質の安全性を確保するためのものであり、63,000種の既存化学物質はこの法律が制定された当時、安全性に対する精査なしにひとまとめに承認して、”使用しても安全”であるとみなした。新規化学物質に対しては、この法律は政府に対し会社の申請後90日以内に承認することを求めているので、平均一日に7件のペースで承認しなくてはならない。このことはほとんど30年間、改善されておらず、この様なことは他の主要な環境又は健康に関する法律にはないことであり、子宮内での汚染物質への曝露の削減又は曝露からの安全の確保については何もなされていない。 有害物質規制法(TSCA)は安全性調査を(企業に)義務付けていないので、政府は化学物質についてもっと多くの情報を収集するための数多くの自主的プログラムを立ち上げたが、その中では高生産量(HPV)化学物質スクリーニング・プログラムが有名である。しかし、これらの取り組みは化学物質へのヒトの曝露を削減するためにはほとんど有効ではなかった。それらは子ども達を化学物質曝露の有害影響から守るための明確な法定上の要求に対する代替ではない。 この調査で判明したこと、及び、産業化学物質への生命の初期における曝露の有害性について支持する多くの科学的根拠に照らして、我々は、子どもを化学物質から保護し、出生前に産業化学物質に暴露することを最大限排除することを確実にするために、連邦法と政策を改正するよう強く要望する。社会が早く行動を起こせば、それだけ早く胎内の汚染を減らす又は止めることができる。
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