米化学会 EST 2010年6月24日
メチル水銀削減で
アメリカは数百億円をセーブできる


情報源:Environmental Science & Technology, June 24, 2010
Methylmercury Cuts Could Save The U.S. Millions Of Dollars
http://pubs.acs.org/cen/news/88/i26/8826news4.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年7月3日


 研究者らはメチル水銀の神経毒性について数十年間研究をしてきたが、最近、科学者らは人々が食べる魚の中に見出されるこの水銀を心臓疾患と関連付けている。これらの心臓血管系への影響を考慮した新たなコンピュータ・モデルが、水銀汚染を10%削減するとアメリカは健康関連費用を数百億円、節約することができると著者らは述べている(Environ. Sci. Technol. DOI: 10.1021/es903359u)。

 少数の疫学調査がメチル水銀と心臓疾患を関係付けているが、それらの研究は小さなサンプル集団に依存しており、決定的な結論を得るためには十分ではないとして、その関連性はまだ弱いと専門家らは述べている。しかし、ハーバード大学公衆衛生校の研究チームは、心臓疾患との関連性があるなら、米全土でのメチル水銀曝露の削減による医療費節減を見積りたいと望んだ。
 ハーバード大学のリスク専門家ジョン・エバンスと彼の同僚らはメチル水銀の神経毒性と可能性ある心臓血管系への影響に関する公開されている研究からのデータを使用し、見積もりを行なうために複雑な系を分析するために用いられる標準的な技術であるモンデカルロ・モデルを導入した。彼らは最初に、食事や性別のようなパラメータに基づきアメリカの人々の可能性ある全ての水銀曝露のレベルを計算した。人々の髪の毛と血液中の全水銀濃度に関するデータは現在のメチル水銀曝露データより信頼性が高いので、研究者らは彼らのモデル中のメチル水銀の代表として使用した。次に研究者らは、それぞれの曝露レベルごとに医療費と得られるはずだった給料のような健康関連コストを評価した。

 一方でこれらのコストの見積りを行なうとともに、エバンスと彼の同僚らは人々の水銀曝露を低減することにより生じる節約を計算した。最も高いレベルの曝露グループの人々について、日々の食事から歯科水銀アマルガムから受けるのと同等の量である水銀1μgを減らすと、年間116ドル(約10,000円)の節約になる。研究者らは全ての曝露集団を見たときには、10%の水銀を減らすことで、毎年約8億ドル(約700億円以上の)の健康関連コストの節約になると見積もった。

 しかしエバンスは、このモデルは、メチル水銀放出の削減が心臓血管系の利益をもたらすということの意識向上を意図した”思考実験”であると警告した。全ての疫学的データをコスト計算に入れると、心臓血管系研究でメチル水銀との関連性が強くないものがあるので、計り知れない不確実性をもたらすことになると彼は述べている。またこの研究は魚を食べることによる心臓血管系への利益に目を向けていないと、エバンスは言う。彼は、環境保護庁のような政府組織が、このモデルで使用している既存の研究をもっとよく評価するために毒性学と疫学の専門家の委員会を招集することを希望している。

 もっと完全な評価によって更なるメチル水銀排出削減の経済的コストに目を向けべきであると元パリ大学鉱山校の科学者で、現在は独立系環境コンサルタントであるアリ・ラブルは述べている。この汚染の主要な人的発生源のひとつは火力発電所であり、そこでの水銀排出を削減するためには高いコストがかかる。しかしこのモデルは第一段階としてはよいとラブルは述べている。”政府がもっと根拠のある決定をするのを助けるために必要な研究の例である”。


訳注:関連情報




化学物質問題市民研究会
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