グリーンピース/シエラクラブ水銀調査中間報告
EQI水銀報告カバーレター 2006年2月8日
ヒトの毛髪中の水銀レベルに関連するEQIによる調査

情報源:Sierra Club, February 8, 2006
Cover Letter to the EQI Mercury Report
http://www.sierraclub.org/mercury/downloads/2006-02_eqicoverletter.pdf

Greenpeace USA, February 08, 2006
One in Five Women Tested Nationwide has Mercury Levels Higher than EPA LimitInterim Results of Largest Mercury Hair Sampling Project Confirm Impacts of Dirty Power
http://www.greenpeace.org/usa/press/releases/one-in-five-women-tested-natio

Environmental Quality Institute at The University of North Carolina-Asheville, October, 2005
An Investigation of Factors Related to Levels of Mercury in Human Hair
http://www.sierraclub.org/mercury/downloads/2006-02_eqifullreport.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年5月2日

はじめに

 ノースカロライナ大学アッシュビル校(UNCA)環境研究所(Environmental Quality Institute (EQI))による報告書『ヒトの毛髪中の水銀レベルに関連するEQIによる調査』は全米からのボランティアの毛髪中の水銀レベルについて実施中の調査に関する現時点の結果を示すものである。

 この中間報告によれば、6,583人の毛髪サンプルについて水銀濃度が分析された。その中で、2,834人が妊娠可能年齢(16-49 歳)の女性である。そのグループの中で、640人の女性(22.58%)が、米環境保護庁(EPA)が設定した、子ども、妊娠可能年齢女性、及び妊婦のための参照用量(reference dose)に関連する毛髪中水銀レベルに等しいかそれ以上であった。もし、この調査のサブグループの年齢構成が一般的人口構成と異なるなら、このパーセンテージは全米の人口構成における妊娠可能年齢女性の割合とは一致しないかもしれない。この中間報告書が書かれた時点のサンプルに加えて、他の7,520の家庭用サンプリング・キットが購入され、2,402サンプルが分析された。

目的

 グリーンピースは水銀汚染の地球規模の問題に注意をを向けるために”水銀毛髪サンプリング・プロジェクト”を立ち上げた。水銀汚染の主要発生源は石炭火力発電所からの水銀排出であり、このプロジェクトの参加者に水銀排出を削減するクリーンな代替エネルギーについて情報を提供することが目的であった。グリーンピースは石炭火力発電所だけが水銀汚染源ではないことを認める。それにもかかわらず、それらは地球規模の水銀汚染の元凶であり、石炭燃焼をやめ風力発電や太陽光発電を導入することにより水銀排出を著しく削減することができる唯一の産業分野、”電力産業”によるものであるからである[1]。

 1999年から2000年の米疾病管理予防センター(CDC)全国健康栄養調査(NHANES)は 1歳から5歳までの子ども838人、及び16歳から49歳までの女性1,726人の毛髪水銀レベルを評価した[2]。これらの結果に基づき、血中水銀レベルについての同様な調査結果、及び2000年の出生数に基づき、毎年、300,000 から 630,000 のアメリカの新生児が、有害な神経発達影響のリスク増大がないと考えられるEPAの制限値を超えるレベルで、メチル水銀に子宮の中で暴露しているかもしれないということが推定された[3]。一方、全国健康栄養調査(NHANES)はアメリカ国民を代表するサンプルを選択したが、グリーンピースのプロジェクトは個人の参加に制限を加えず、したがってこの二つの調査は統計的には比較することはできない。グリーンピースのプロジェクトは性別、年齢、又は民族に関係なく自主的に参加するより大きな調査グループをテストすることを目指している。このことは最終的には全国健康栄養調査(NHANES)によるグループとは異なるグループの水銀レベルについて新たなデータを提供するであろう。さらに、グリーンピースは参加者に対し、水銀汚染の影響と潜在的な長期的解決について情報を提供している。

[1] Analysis of U.S. EPA's1999 National Emissions Inventory for Hazardous Air Pollutants as cited in Northeast States for Coordinated Air Use Management (NESCAUM), Mercury Emissions from Coal-Fired Power Plants: The Case for Regulatory Action, October 2003.

[2] McDowell, Margaret A., et al. "Hair Mercury Levels in US Children and Women of Childbearing Age: Reference Range Data from NHANES 1999-2000." Environmental Health Perspectives 112(11) (August 2004): 1165-1171.

[3] Mahaffey, Kathryn R., Clickner, Robert P. and Bodurow, Catherine C. "Blood Organic Mercury and Dietary Mercury Intake: National Health and Nutrition Examination Survey, 1999 and 2000" Environmental Health Perspectives 112(5) (April 2004): 562-570.
Mahaffey, K. U.S. EPA. Methylmercury: Epidemiology Update, a presentation to the Fish Forum. San Diego 2004. http://www.epa.gov/waterscience/fish/forum/2004/presentations/monday/mahaffey.pdf



共同作業

 グリーンピースは、ノースカロライナ大学アッシュビル校(UNCA)環境研究所(Environmental Quality Institute (EQI))にアメリカのボランティアの毛髪水銀レベル評価するために研究調査の実施を委託した[4]。この委託契約に基づき、EQIは、調査の設計、実施、分析、品質管理、及び結果の報告について責任がある。したがって、サンプリングの設計と実施及び分析に関する質問はEQIに向けられるべきである(http://www.unca.edu/eqi/)。EQIとの契約に基づき、グリーンピースは水銀汚染と潜在的な解決について公衆に情報を提供するために、このプロジェクトとその結果を使用する権利を持つ。しかし、EQIは収集したデータを所有し、グリーンピースの同意を必要とせず、将来のプロジェクト及び出版に使用することができる。

参加者

 この実施中の調査の参加者はグリーンピースのイベントで、ヘアーサロンで、シエラ・クラブ、アベンダ・サロン、全国水道連合などの連携組織に毛髪サンプルを提供することによって、又はメールによって参加することを選択したボランティアであり、通常の手数料(サンプル分析と本質的な経費のみ)で実施する。参加者の大部分が参加手数料を支払ったので、グリーンピースとEQIは、このプロジェクトの参加者を特定の年齢、性別、民族、又は魚の摂取量に限定せず、サンプルが適切に収集されたと考えられ書類が完備していれば、全てのサンプルを受け付けた。参加者の自己選択及び潜在的バイアスに関する情報はEQI報告書に反映されている。

EPA と FDA の参照用量

 参照用量(RfD)は子どものような感受性の高い集団を含むヒト集団が生涯にわたり摂取しても有害影響を及ぼさないであろうと考えられる1日当たりの摂取暴露量である。参照用量(RfD)は、一般的に有害影響を生成する閾値又は下限用量値として用いられる。EPAと米食品医薬品局(FDA)は、共同でメチル水銀の参照用量(RfD)を 0.1mg/kg体重/日と設定したが、これは 、妊娠可能年齢女性、妊婦、授乳中の女性、及び子どもに対する1μg/g (毛髪1グラム当たり水銀1μグラム)の毛髪水銀濃度に対応する[5]。この参照用量(RfD)は一般人口集団には設定されていないので、この特定のカテゴリーに当てはまらない人々には適用することができない。現在、男性及び高年女性のための健康指針又は政府の参照用量(RfD)は設定されていない。ヘルスケアー専門家及び科学者らはメチル水銀への慢性的暴露はどの人口集団に対しても有害影響を与える心臓血管系疾病を引き起こすことを懸念しているが、これらの影響のための参照用量(RfD)を決定するための研究調査は確立していない[6]。


[4] http://www.unca.edu/eqi/
[5] U.S. EPA. Reference Dose for Mercury. External Review Draft. U.S. Environmental Protection Agency, National Center for Environmental Assessment NCEA-S-0930 (2000).
[6 ]Guallar E., et al. "Mercury, fish oils, and the risk of myocardial infarction." New England Journal of Medicine (2002) 347(22): 1747-1754.
Rissanen T., et al. "Fish oil-derived fatty acids, docosahexaenoic acid and docosapentaenoic acid, and the risk of acute coronary events." Circulation (2000)102:2677-2679.
Salonen J.T., et al. "Mercury accumulation and accelerated progression of carotid atherosclerosis: a population-based prospective 4-year follow-up study in men in eastern Finland." Atherosclerosis (2000) 148:265-273


水銀汚染源

 アメリカでは、石炭燃焼火力発電所が産業水銀排出の最大汚染源であり、約 41 %を占める[7]。しかし、水銀は世界中に汚染源のある地球規模の問題である。石炭はヨーロッパ及びアジアでも火力発電所の燃料として大量に使われている。アメリカの石炭消費量は世界の全消費量の約20%である[8]。水銀はまた、廃棄物焼却炉や塩素製造プラントのような化学産業を含む広範な他の発生源からも排出されている[9]。さらに、火山噴火や岩石・土壌からの溶出のような天然の排出源もある。

 ヒトの主要な水銀暴露源は、水銀を含む魚の摂取である。ある条件下で元素水銀は、土壌中あるいは水中のバクテリアによって生物学的にもっと有毒なメチル水銀に変換される。魚類は、バクテリアから小さな生物、そして小さな魚という食物連鎖を通じてメチル水銀を体内に蓄積する。より大きな捕食性魚類はよりひどく水銀汚染するが、最近の政府のテストによれば、マグロの缶詰など、水銀汚染が低いと考えられていたようなある種の魚類もまたテストの結果、高いレベルで水銀汚染しているとみなされた[10]。同時に、アメリカの多くの淡水魚もまた水銀で汚染されている。個々の人間や魚の水銀汚染源を特定することは難しい。しかし、点源水銀排出の低減は世界規模の水銀汚染の環境影響を制限するだけでなく、点源近くの局部的に高い水銀レベル(ホット・スポット)の潜在的な影響を低減することができる[11]。したがって、石炭からクリーンなエネルギーへの転換により火力発電所からの水銀排出を削減することを含んで、主要排出源での水銀排出削減に取り組むことは可能である。

健康影響

 メチル水銀のような有機水銀は水銀の中で最も有毒な種類である。非常に少量であっても長期間わたりこれらの化合物に暴露すると体内組織に蓄積し、神経障害を含む健康影響をもたらす。胎児、乳幼児、子どもに対する水銀の主要な影響は神経発達系への影響である。母親が食物からメチル水銀を摂取することによる水銀暴露であっても、発達中の胎児の脳と神経系に有害影響を与える。子宮中で中程度のレベルで水銀に暴露した子どもたちは、記憶、集中力、言語、その他の機能に影響を受けることが観察されている[12]。

毛髪サンプリング

 毛髪サンプリングは個人の体内の水銀を監視するために有効な方法のひとつである。しかし、毛髪は近い過去における水銀摂取と汚染に関するスナップショットである。人の髪の毛が伸びるとき、その時点での血液中の水銀レベルの指示計の働きをする血流中の水銀の一部を毛髪が取り込む。血液分析はもっと直接的に体内の水銀レベルを決定する方法であるが、毛髪分析も厳格なプロトコールに基づけば、大規模調査のためには、また、ある期間にわたる暴露について価値ある指示として受け入れられている。しかし、毛髪水銀は人が慢性的な水銀中毒になっているかどうかを決定するためには使うことはできない。そのような評価のためにはさらなるテストと医学的分析が必要である。毛髪サンプリングがこのプロジェクトで選択された理由は、多くの人々からサンプリングするのに容易で比較的安価にきるからであり、また上述の全国健康栄養調査(NHANES)で疾病管理予防センター(CDC)によって用いられた分析手法と可能な限り一貫性を持たせようとしたためである。

母乳

 メチル水銀は授乳により母親から子どもに伝わるが、グリーンピースは母乳の利益は一般集団の水銀暴露のリスクよりも勝ると信じている。もし、あなたが異常に高いレベルの水銀に暴露したと信じる理由があるなら、医師と相談することを勧める。最近の研究によれば、へその緒の血液中の水銀汚染は母親の血液系よりも高いことを示しており、そのことは従来推定されていたよりも胎児のリスクが高いことを示唆している[13]。


[7] Analysis of U.S. EPA痴 1999 National Emissions Inventory for Hazardous Air Pollutants as cited in Northeast States for Coordinated Air Use Management (NESCAUM), Mercury Emissions from Coal-Fired Power Plants: The Case for Regulatory Action, October 2003.
[8] International Energy Annual, Key World Energy Statistics, 2004
[9] United Nations Environment Programme. Global Mercury Assessment (December 2002).
[10] http://www.cfsan.fda.gov/~frf/seamehg2.html
[11] http://www.dep.state.fl.us/secretary/news/2003/nov/pdf/mercury_report.pdf
[12] http://www.epa.gov/mercury/health.htm


魚の摂取

 魚は、体にオメガ3脂肪酸を供給する食物源であり、心臓血管系疾病やその他の心臓疾患のリスクを低減することが示されている。オメガ3脂肪酸の他の食物源としてはブロッコリー、ほうれん草、レタス、ケールなどの暗緑色野菜、クルミ、亜麻の種、豆類(緑豆、白インゲン、ぶちインゲン、インゲン)、えんどう豆、かんきつ類、メロン、さくらんぼなどがある。EPAとFDAは共同で、小さな子ども、妊婦、妊娠の可能性ある女性、授乳中の女性のための魚勧告を発表した[14]。多くの科学者らはこの勧告に懸念を示した[15]。EPAとFDAは複数の勧告シナリオを検討し、妊娠可能年齢、妊娠中、及び授乳中の女性、及び小さな子どもの5.9%が参照制限を越える水銀レベルを体内に持つことを許す魚摂取量の勧告を選択した[16]。グリーンピースは、FDAが実施した魚類組織分析、EPAの勧告及び天然資源防衛協議会の分析、及び水銀政策プロジェクトに基づき下記の魚類摂取勧告を行う。
  1. 水銀濃度が高いので食べないこと:
    ハタ、マカジキ、オレンジ・ラフリー(マルスズキ科)、サメ、メカジキ、サワラ(king mackerel)、アマダイ(tilefish)

  2. 避けること(月に6オンス(170グラム)のものを3回以下):
    ブルーフィッシュ(ムツ科)、クローカー(ニベ科)、オヒョウ、ロブスター、メバル、スズキ、シートラウト、ビンナガマグロの缶詰、マグロのステーキ

  3. 控えめにすること(月に6オンス(170グラム)のものを6回以下):
    コイ、タラ、アメリカイチョウガニ、ブルークラブ、ズワイガニ、マヒマヒ、アンコウ、淡水パーチ、ガンギエイ、フエダイ、ライトツナ缶詰

  4. 適度に食べること:
    養殖アワビ、アンチョビー(カタクチイワシ科)、バターフィッシュ(マナガツオ科)、キャラマリ(イカ)、ナマズ、養殖キャビア、ハマグリ、タラバガニ、イセエビ、カレイ、モンツキダラ、ヘイク(タラ)、ニシン、ロブスター、大西洋サバ、養殖ムラサキカイ、カキ、海産パーチ、スケトウダラ、野生サケ、イワシ、ホタテガイ、ニシンダマシ、小エビ、シタビラメ、養殖チョウザメ、テラピア、マス、白身の魚

  5. 地域の湖、川、又は海岸で家族又は友人が釣った魚の安全性については地域のアドバイザーに聞くこと。もしアドバイズが得られなければ、週に6オンス(一尾平均)までとし、その週は他の魚を食べないこと

  6. 特定の魚種の釣り又は養殖は環境的懸念がある。Ocean Friendly Seafood Guideを参照すること。 http://www.blueocean.org

[13] Stern AH, Smith AE. 2003. An assessment of the cord blood/maternal blood methylmercury ratio: implications for risk assessment. Environmental Health Perspectives 111:14651470 Mahaffey, K. U.S. EPA. Methylmercury: Epidemiology Update, a presentation to the Fish Forum. San Diego 2004.
http://www.epa.gov/waterscience/fish/forum/2004/presentations/monday/mahaffey.pdf

[14] http://www.epa.gov/waterscience/fishadvice/advice.html

[15] http://www.mercurypolicy.org/new/fdaletter022404.html

[16] "How We Got There: The Process FDA and EPA Used in Developing the Advisory" presented by EPA scientist Denise Keehner, PhD, at the Mercury: Medical and Public Health Issues Conference in Tampa, FL April 2004


■魚介類等に含まれる水銀内観する各国の注意事項の比較(日本、米国、EU)/厚生労働省
http://www.nihs.go.jp/hse/food-info/mhlw/news/050812/050812-3.pdf

■魚介類等に含まれる水銀について (各種資料)/厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/suigin/index.html



化学物質問題市民研究会
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