Environmental Health Perspectives(EHP)Volume 132, Issue 5 サイエンス セレクション 2024年5月17日 クラス全体規制法? 有機ハロゲン系難燃剤 グループ規制か 個別規制か ネイト・セルテンリッチ|科学ジャーナリスト 情報源:Environmental Health Perspectives (EHP) Volume 132, Issue 5 Science Selection 17 May 2024 A Class Act? Regulating Organohalogen Flame Retardants in Groups versus Singly Author: Nate Seltenrich | A science journalist AUTHORS INFO & AFFILIATIONS https://ehp.niehs.nih.gov/doi/10.1289/EHP14881?utm_ campaign=Monthly+TOC+Alert&utm_medium=email&utm_source=SendGrid 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2024年6月12日 このページへのリンク https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/240517_ehp_A_Class_Act_ Regulating_Organohalogen_Flame_Retardants_in_Groups_versus_Singly.html この記事は、『EHP Commentary | 4 January 2024 Opportunities in Assessing and Regulating Organohalogen Flame Retardants (OFRs) as a Class in Consumer Products.(EHP コメンタリー 消費者製品におけるクラスとしての有機ハロゲン系難燃剤 (OFRs) の評価と規制の機会)』フォローするものである。 有機ハロゲン化合物で作られた難燃剤は、発火を遅らせたり、火の広がりを遅らせたりするために、乳幼児が使用する多くのものを含めて、家具、電子機器、繊維製品などに添加されている[1]、[2]。 広く使用されている 3 種類の有機ハロゲン系難燃剤(OFRs)は、健康への影響に関する懸念から 2004 年と 2013 年に段階的に廃止されたが[3](訳注:(c-ペンタ BDE、c-オクタ BDE、c-デカ BDE の市販バージョン EPA)、 たとえば布張りの家具に難燃剤を添加しても、意図したほどの保護効果が得られないという証拠があるにもかかわらず[4]、(訳注:Chicago Tribune 2012年5月6日 難燃処理発泡材はなんら火災安全の便益をもたらさない)、他にも多くの難燃剤がまだ使用されている。実際、可燃性消費財に難燃性化学物質、特に 有機ハロゲン系難燃剤(OFRs)を使用することは、場合によっては 1 つのリスクを別のリスクに置き替えることに相当する可能性があると、Environmental Health Perspectives(EHP)の新しいコメンタリー(解説)の著者ら[1]は示唆している。 (訳注:ハロゲン系難燃剤:燃焼によって不燃性ガスを発生させて酸素を希釈する。 また、燃焼過程で生成する初期分解物質(ラジカル)を捕捉する。 ハロゲン系難燃剤には塩素系や臭素系があるが、燃焼ガスの有害性や欧州における RoHS 規制の制約から最近では使用されることは少なくなっている。PlaBase
消費者向け製品に難燃剤を使用することのリスクとメリットのバランスをとるためには、家庭火災の潜在的な危険性と、これらの化学物質への暴露に関連する健康被害の可能性の両方を理解する必要があると、同解説の著者らは書いている。現在使用されている OFRs の数と種類は非常に多いため、健康データを入手することはむずかしい。データが不足すると、「残念な代替(regrettable substitution)」[5]につながる可能性がある。これは、既知の危険性が、後に同様の(またはさらに深刻な)健康影響があることが判明した別の化学物質に置き換えられるというものである。これは、ビスフェノール A の代替品であるビスフェノール S とビスフェノール F で起こったことである[6]。 ”何百もの「OFRs」について、動物や人間を対象に広範かつタイムリーなテストを実施する能力には限界がある”と著者らは書いている[1]。代替策として、著者らは、化学構造の変型(バリエーション)に基づく推論を使用してクラスベースのリスク評価を策定する可能性と課題を調査した。このようなアプローチは前例のないものではない。米国と欧州の規制機関は、ポリ塩化ビフェニル類[7]、ダイオキシン類[8]、粒子状物質(PM)[9]、フタル酸エステル類[10]、およびパーフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物類[11]を管理するためにクラスベースのフレームワークを使用している。 この EHP コメンタリーは、米国科学工学医学アカデミー(NASEM)の2019年の報告書[12]を基に、連邦研究・規制機関、米国化学工業協会(米国の化学会社の団体)、学界の研究者らが共同執筆した。NASEM 報告書は、消費者、医師、消防士などを代表する団体から、すべての OFRs を単一の「本質的に有害な」化学物質クラスとして規制するよう請願[13]された後、米国消費者製品安全委員会(CPSC)から要請された。NASEM 報告書は、[単一の]代わりに、化学構造の類似性に基づいて161の独特の OFRs を 14のサブクラスに分割することを提案した。 ほとんどの OFRs については、ヒトへの暴露と毒性についてはほとんどわかっていない。しかし、少数の既存のデータでは、脳、甲状腺、肝臓、腎臓に有害な影響を及ぼす可能性があることが示されている[1]。乳幼児たちは、最も影響を受けやすく、最も多く暴露されていると考えられている[1]。”子どもたちの暴露の多くは、物を口に入れることによる”と、国立環境健康科学研究所(NIEHS)の元所長で、このコメンタリーの共著者であるリンダ・バーンバウムは言う。彼女は、OFRs は添加された材料と化学的に結合していないため、浸出する可能性があると付け加える。”ほこりは、子どもたちだけでなく我々全員にとって、非常に大きな暴露源になる傾向がある”と彼女は言う。 カリフォルニア大学デービス校の教授で、この EHP コメンタリーには関係していないデボラ・ベネットは、メーカーは健康データがほとんど又はまったくない難燃性化合物類をますます使用していると語る。”我々は、潜在的な毒性についてよく理解しないまま、米国民をこれらの化合物類の多くに暴露させている”と彼女は言う。 ”それは問題であり、私はこれらの[OFR]化合物類をクラスごとに規制するという考えを断固として支持する”。ベネットは、新しいクラスの難燃剤への暴露が出生結果に与える影響を調査した[15] EHP の最近の別の論文[14]の上席著者であった。これらの化合物は非ハロゲン化有機リン酸エステル類と呼ばれ、OFRs のより安全な代替品として一部の人々により提案されている。ベネットと彼女の同僚は、いくつかの化学物質類への妊娠中の暴露が、特に女の子の新生児の出産時期の早まりと胎児の成長の促進に関連していると結論付けた。 クラスベースのアプローチは実用的で効率的に思えるかもしれないが、落とし穴がないわけではないと、ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆健康大学院の助手科学者で、この EHP コメンタリーには関わっていないアレクサンドラ・マーテンスは指摘する。”我々の研究[16]の主眼は、これらの化学物質の多くは化学構造が非常に似ているため、区別するのがかなり難しいということである”と彼女は言う。”化学構造のどの違いが生物学的に違いをもたらすかという、百万ドルの価値がある疑問である。その問題は、我々が持っているデータでは、今のところ難しいままである。”マーテンスは、人間における暴露率、生物学的利用能、吸収率が最も高い化学物質類とサブクラスを特定することで、化学物質とサブクラスに優先順位を付けることを提案している。 一方、バーンバウムにとって、OFR 規制の問題は、リスク評価のより大きな問題を提起する。たとえば、この場合、彼女はそもそも難燃剤の必要性を再考することを推奨している。バーンバウムは、この問題を 10年以上追跡し、2015年に行われた米国消費者製品安全委員会(CPSC)の公聴会[17]で、OFRs をクラスとして規制するための最初の請願に関する NIEHS のディレクターとして証言した。彼女は、研究者らが難燃剤の潜在的な健康リスクについて学んだことだけでなく、くすぶっているタバコによる家庭火災のリスクが大幅に減少したこともあって、CPSC の可燃性基準の一部は時代遅れになっている可能性があると考えている[18]、[19]。”最初の難燃剤基準のいくつかが実際に適用され始めたのは、我々の歴史上、人口の大多数が喫煙していた時代であった”とバーンバウムは言う。”今日、喫煙者は[成人]人口のわずか11%で[20]、ほとんどのタバコは自己消火する[21]。我々はこう言わなければならないと思う。”本当にこんなものが必要なのか? ベビーカーに難燃剤を入れる必要が本当にあるのか?” References 1. 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