米国立環境健康科学研究所ジャーナル
EHP 2009年10月号 サイエンス・セレクション
ダカールで集団鉛中毒
バッテリー・リサイクルで多数の犠牲者


情報源: Environmental Health Perspectives Volume 117, Number 10, October 2009
Science Selections
Mass Lead Poisoning in Dakar
Battery Recycling Exacts a Heavy Toll
http://www.ehponline.org/docs/2009/117-10/ss.html#mass

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年10月2日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehp/09_10_ehp_Lead_PoisoningVDakar.html



致命的な鉛中毒を起こしたダカールの子どもの父親が手にする使用済みのカーバッテリー、2008年9月
image: AP Photo/Rebecca Blackwell
 セネガルのダカールのある地域で18人の子どもたちが2007年11月から2008年3月の間に激しい中枢神経系疾病で死亡した。世界保健機関と現地の保健当局の専門家らがその死亡の調査に呼ばれたが、文化的禁制により子ども達の検死ができなかった。そこで研究者らは、死亡した子どもたちの兄弟姉妹32人と彼らの母親23人及び、死亡した子どもたちとは無関係の近隣の18人の子ども及び8人の成人を検査した。彼らは、死亡原因は深刻な鉛中毒によるものらしいと結論付けた[EHP 117:1535?1540; Haefliger et al.]。次に鉛の発生源は使用済み鉛−酸バッテリーの回収に由来するものであると結論付けた。鉛−酸バッテリーの回収は、途上国においてほとんど汚染防護のない野外で行われる儲かるビジネスである。

 1995年以来、現地の人々は自動車や機器からバッテリーを取り出して分解し、近郊の砂地で部品をえり分けていた。彼らは売るために貴重な鉛のスクラップを袋に入れて家に持ち帰った。人々は恐らく鉛のダストを吸引したり摂取することで暴露し、特に子ども達は手を口にやり汚染された土が口に入って暴露した。

 子どもの神経系の発達は特に鉛の有毒影響に脆弱である。血中鉛濃度が10 μg/dLであっても神経系の発達を阻害し、一生の知的障害をもたらす。しかし、最近の証拠によれば、暴露の安全閾値は存在しないことが示唆されている。

 テストを受けた50人の子どもの達の血中鉛濃度は、39.8〜613.9 μg/dLであった。50人の子どものうち17人は、けいれん、短気、攻撃性などを含む神経精神病学的症状を示し、21人は食欲不振や吐き気のような胃腸障害を示した。成人の血中鉛濃度は 32.5 〜 98.9 μg/dLであり、最も共通して報告された症状は胃腸障害であった。

 リサイクル作業は、公衆の意識向上キャンペーン従って2008年3月に終了したと報告されており、近隣の土壌は部分的に浄化された。それにもかかわらず、今回砂地の作業場所で測定された鉛濃度は209,000 mg/kgに達し、家の中の濃度は14,000 mg/kgに達した。米住宅都市開発省は子どもの遊び場の土壌中の鉛の基準値として 400 mg/kg を設定している。セネガルにはこれに相当するような基準はない。

 この調査における鉛中毒は深刻であり保健専門家の注意をひいたが、世界におけるバッテリーのリサイクルによる鉛の中毒事故の状況は不明である。著者らは、鉛の毒性を認識し診断し管理するための地域当局のリソース不足のために、途上国において多くの事例に対して目が向けられていないと信じている。 しかし、彼らは鉛中毒は公衆の教育と鉛リサイクルのガイドラインの実施強化などの措置により防ぐことができると書いている。



化学物質問題市民研究会
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