EHP 2006年7月号 サイエンス・セレクション
チメロサールの潜在的な免疫毒性影響
化合物が試験管内で樹状細胞反応を変える


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 114, Number 7, July 2006
Science Selections
Potential Immunotoxic Effect of Thimerosal
Compound Alters Dendritic Cell Response in Vitro
http://www.ehponline.org/docs/2006/114-7/ss.html#pote
Original Report:
Uncoupling of ATP-Mediated Calcium Signaling and
Dysregulated Interleukin-6 Secretion in Dendritic Cells
by Nanomolar Thimerosal
http://www.ehponline.org/docs/2006/8881/abstract.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年7月13日


 数十年間ワクチン保存剤として用いられているエチル水銀化合物であるチメロサールは、神経毒性影響との関連性を持つことが知られていたが、新たな研究はチメロサールがまた、樹状細胞が生物化学的な信号に応答する仕方を変更することによって免疫系にも影響を与えることを明らかにした。[EHP 114: 1083?1091; Goth et al.]

 樹状細胞は、体内への伝染性物質の侵入に対する免疫系の反応における影響力のある主要な作用因子である。一度活性化されると、ひとつの樹状細胞が数百の T 細胞(訳注1)に伝染性物質に対抗するよう命令する。しかし、この能力は樹状細胞が信号に対し適切に反応できるかどうかに依存する。

訳注1:T細胞/出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 他の研究者らによる以前の研究は、チメロサールが免疫毒性を持つことを示していたが、その特定のターゲットはわかっていなかった。樹状細胞は感受性が高いターゲットであるということを仮定して、研究者らは、骨髄−マウスから得た樹状細胞−を培養し、成熟及び未成熟の細胞がチメロサールで処理した後に活性にどのように反応するか分析評価した。彼らは、チメロサールのターゲットとして知られているイノシトール 1,4,5-trisphosphate 及びリアノジン受容体(IP3R and RyR1)の反応に特に焦点を絞った。細胞内部のカルシウム保存を管理するこれらの門番(gatekeepers)は、樹状細胞の機能と成熟に影響を与える信号作用にとって本質的である。

 この研究チームは、成熟及び未成熟の樹状細胞が受容体 IP3R1 と RyR1 のアイソフォーム(isoform) を発現することを初めて示した。細胞エネルギーの源であるアデノシン三リン酸(訳注2)で活性化されると、未成熟制御細胞は、RyR1が初期の IP3R1 制御のカルシウム放出、及びその後のカルシウム レベルを休眠レベルに下げる IP3R1 の作用に関与する細胞内のカルシウム濃度に測定可能な上昇及び下降をもたらした。

訳注2:アデノシン三リン酸/出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

 しかし、20ppbという低い濃度でのチメロサールへの暴露は、これらの反応のタイム・コースをが変更し、細胞内カルシウム・レベルを高める時間を引き伸ばす。これらの維持されたカルシウム・レベルのひとつの可能性ある結果は、樹状細胞がさらなる免疫系動作を引き起こす化学物質である interleukin-6 を分泌する速さとタイミングに変化を与えることである。200ppb以上の濃度でのチメロサールへの暴露は、未成熟な樹状細胞に死をもたらす。

 あるワクチン及びその他の製品中のサロメチールを連続的に使用する場合には、この化合物及びその構成成分であるエチル水銀の可能性ある免疫毒性影響のさらなる調査が必要である。研究者らはまた、ヒトの RyR1 遺伝子は非常に様々な型を持ち、免疫系の水銀に対する遺伝子的脆弱性におけるの RyR1 の役割についていくつかの疑問を提起する観察について指摘している。

ジュリア R. バーネット(Julia R. Barrett)



化学物質問題市民研究会
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