EHN 2017年12月20日
化学物質への暴露を考え直す時が来た
”安全レベル”は害をもたらすことを研究が示す

ブライアン・ビエンコウスキー(EHN)
環境健康の専門家は、環境中のいたるところに存在するほとんどの有害化学物質は
低用量で人々を害するが、化学物質のテストと規制の方法を改めることで命を救うことができると言う。


情報源:Environmental Health News, December 20, 2017
It's time to rethink chemical exposures - "safe”levels are doing damage: Study

Environmental health expert says low doses of the most ubiquitous toxics are hurting people - updating how we test and regulate could save lives.
By Brian Bienkowski (EHN)
http://www.ehn.org/chemical-exposures-are-small-doses-harm-2518446452.html

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2018年1月13日
このページへのリンク
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_171220_
It_is_time_to_rethink_chemical_exposures_safe_levels_are_doing_damage.html

 我々は皆、”毒は用量次第(the dose makes the poison)”(訳注1)という古い格言を聞いたことがある。しかし、多くの汚染物質はそのことについて再検証した方が良いかもしれない。

 この数十年間の研究についての新たなレビュー訳注2)によれば、ごくありふれた、広くテストの行われている化学物質であるラドン、鉛、微小粒子状物質、アスベスト、タバコ、ベンゼンなどは、低レベル暴露においては、人の健康に対して比例的に有害になるように見える。

 ”明確な安全レベル又は閾値が存在しないばかりか、最も低いレベルでの暴露においてすらリスクの急上昇がある”と、本レビューの著者であり、サイモンフレーザー大学(カナダ)の教授で研究者のブルース・ランパール(Bruce Lanphear)は述べた。

 ここでのキーワードは比例的に(proportionally)である。40年間、1日に3箱のタバコを吸うことは、時々被る少しばかりの二次喫煙に比べるとあなたの肺にとって明らかに悪い。しかし重要な点は、副流煙(secondhand smoke)に暴露させられる非喫煙者にとって、そのリスクは”極めて大きいということである”とランパールは述べた。

 著名な環境健康専門家であるランパールは、長年、鉛の低レベル暴露が子どもの健康にいかに大きな影響を及ぼすかについて指導的な発言を行ってきた。本日の PLOS Biology 誌に発表された解説の中で彼は、鉛及びその他の有害物質への低レベル暴露に関する主要な研究を要約し、健康及び規制当局はそのような暴露を大部分無視して、公衆の健康を十分に保護していないと主張する。

 ”閾値のない有害化学物質について、我々が低〜中レベルの暴露を受けている人々を対象にするポピュレーション・ストラテジー(集団戦略)(訳注3)を採用することに注力しない限り、肥満や心臓疾患、糖尿病、がんのような、死、疾病、そして障害のほとんどを防止することはできないであろう”と、彼は書いた。

 ランパールは、それは理解することが難しい概念であり、健康専門家を含んでほとんどの人々が、有害物質の安全レベル又は閾値のことを考えるということを認めている。

 ”もし我々がこの研究に真剣に取り組めば、我々は多くの死と疾病及び障害を防止することができるであろう”とランパールは述べた。”そうなれば私は希望を持てる”。

 例を挙げると、スコットランドでは公共の場所での喫煙禁止により、非喫煙の成人の心臓発作が20%低減した。また非喫煙の妊婦の早産が15%減った。

 ”我々は、環境規制だけで早産の約15%を防止することができる”と、ランパールは述べた。

 カリフォルニア大学バークレー校の地球環境健康学の教授カーク・スミスは、ランパールは科学界の多くの人々が長年話題にしてきた好奇心をそそる潜在的に意味深い問題一式を提起していると述べた。

 しかし彼は、人々の様々な汚染物質への暴露を測定することは複雑であり、時には矛盾の多い科学であると警告した。”確かに閾値の概念は傍流になりつつある”と彼は述べた。”しかし、EPAに大気汚染又はその他の汚染物質に関して全ての規制を変えさせることは、まだできない。

 スミスは最近亡くなった科学者カール・サガンの言葉を引用した。”並外れた要求には、並外れた証拠が必要である”。

憶説に異議を唱える

 ランパールは何はともあれ、健康専門家や研究者らが、汚染暴露が多ければそれだけ結果は悪くなるという憶説をもっと疑うよう望むと述べた。

 ”これらの憶説は現在強固に確立されており、問題にされていない”と彼は述べた。変化はそうすぐに表われるものではないとランパールは言い、特に米国政府が環境規制を強化するための機が熟しているようには見えないことを認めた。

 しかし彼は依然として楽天的である。彼は希望が持てる理由として鉛暴露研究を挙げた。

 彼は、ある主要な研究が2000年に鉛暴露が低IQと関連していることを見つけたと述べた。次の10年間に新たな情報が得られ、それに基づいて研究が行われた。”最終的には米国疾病管理予防センターが子どもの血中鉛レベルのための参照レベルを下げたことにより、2012年までに解決した”と、彼は述べた。

 科学は変化の一部に過ぎない。低用量でも危険であるとするメッセージは健康専門家から懸念する両親にいたるまで、全ての人々に届く必要があると、ランパールは述べた。

 ”我々は、科学がバスを運転すると考えがちであるが、実際には科学は単に乗客である”と彼は言った。”私は科学をそのようにしてるので、いつその時が来ても準備ができている”。

ウェブ上の関連記事
The Toxins That Threaten Our Brains - The Atlantic
(我々の脳を脅かす有害物質−アトランティック)


訳注1:パラケルススの法則"毒は用量次第"
世界のEDC政策の動向/EDCsの低用量曝露(化学物質問題市民研究会)

訳注2:PLOS Biology, December 19, 2017 by Bruce P. Lanphear
Low-level toxicity of chemicals: No acceptable levels
アブストラクト
 過去30年間、最も広範に研究された有害化学物質と汚染物質のいくつかに関する一連の研究で科学者らは、”安全”又は”有害”なレベルを決定することに中核をなす疾病の発症又は死に関連する有害化学物質の量は、暴露の最少量において比例的に増大することを発見している。これらの結果は米国環境保護庁(EPA)及びその他の規制機関が化学物質のリスクを評価する方法とは相いれないものであり、我々は有害化学物質の死や疾病に及ぼす影響を過小評価してきたことを示している。ラドン、鉛、大気浮遊微粒子、アスベスト、タバコ、ベンゼンの様な広く拡散している化学物質や汚染物質がもし閾値を示さないなら、そして暴露の最小レベルで比例的に毒性を示すなら、我々は公衆の健康を守るためには暴露をほとんどゼロにする必要がある。
  • Fig 2. Examples of decelerating dose-response or exposure-response curves.:
    decelerating_dose-response_25.jpg(23390 byte)
    (A) Blood lead concentration and intelligence quotient (IQ) scores reused from [4]; (B) fine particulate matter (PM2.5) matter and natural logarithm (Ln) relative risks (RRs) for nonaccidental mortality reused from [28]; and (C) benzene and natural logarithm (Ln) hazard ratios (HRs) for leukemia reused from [14].
訳注3:ポピュレーション・ストラテジー
ポピュレーション・ストラテジーとリスク・ストラテジー(日本障害者リハビリテーション協会 情報センター)
 この2つの用語は予防医学・疫学の分野から始まって,公衆衛生活動と健康政策上の重要な概念になったものである。ポピュレーション・ストラテジー(集団戦略)とは,疾病や障害発生の危険因子をもつ集団について,集団全体の危険因子を下げる取り組みである。一方リスク・ストラテジー(リスク戦略)とは,特殊な問題をもつ少数者を,健康で特別の注意を要しない大部分の者から分離して,予防等の活動の対象とすることを意味する。



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