EHN 2013年4月18日
胎児の肝臓のBPAレベルは、
成人の曝露より高い


情報源:Environmental Health News, April 18, 2013
BPA levels in fetal livers higher than adult exposures
Synopsis by Virginia T. Guidry and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/2012/12/
2013-0219-fetal-bpa-exceeds-adult-exposure/


オリジナル:Nahar, MS, L Chunyang, K Kannan, DC Dolinoy. 2012. Fetal liver bisphenol A concentrations and biotransformation gene expression reveal variable exposure and altered capacity for metabolism in humans. Journal of Biochemical and Molecular Toxicology http://dx.doi.org/ 10.1002/jbt.21459

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年4月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_130418_BPA_can_cross_placenta .html


 新たな研究が、ビスフェノールAは胎盤を通過し、胎児の発達中の肝臓に入ることができることを示している。もっと重要なことは、胎児の肝臓中で測定されたBPAの80パーセントは、BPAの活性がより高いタイプであり、健康影響引き起こすと考えられている 遊離型BPA(free BPA) であるということである。この種の最初の研究のひとつからの結果は、胎児の肝臓は成人の肝臓より高いレベルであることを示した。この化学物質は、食品缶詰の内面ライニング、ある種のレシート用感熱紙、ポリカーボネート・プラスチックなどに見出される。

何をしたか?

 研究者らは、妊娠初期及び中期の胎児からの肝臓50サンプルを分析した。胎児の組織は、妊娠中絶を選択している女性から許可を得て収集された。検死からの二つの成人の肝臓はコントロールとして使用された。

 遊離型(free)及び抱合型(conjugated)BPA(訳注1)レベルが、それぞれのサンプルで測定された。サンプルはまた、肝臓機能に影響を及ぼすことが知られている4つの遺伝子についてテストされた。もし遺伝子が”発現”すれば、それらは活性化されており、多分、BPA処理の機能が働いている。

何が分かったか?

 BPAは胎児の肝臓サンプル中で検出され、その大部分−80%近く−は、より有害な遊離型BPAであった。成人肝臓コントロールのBPAレベルは、非常に低いか、あるいは低く過ぎて測定できなかった。

 成人の血液又は尿中のBPAを測定する他の研究は、遊離BPAの割合は典型的には10〜20%であり、胎児の肝臓で見出されたこととは逆であった。

 4つの代謝遺伝子のうち3つが、成人と比べて発現が低かった。4番目の遺伝子は(成人の発現と)異なっていなかった。このことは、胎児の肝臓は成人の肝臓のようには機能していないことを示唆している。

 しかし、遺伝子発現の低下は、組織サンプル中の高い遊離BPAレベルとは直接関係なかったので、BPAはどのように胎児の肝臓中で処理されるのかについて、多くの疑問が残る。

何を意味するか?

 胎児は成人比べて、もっと有害な多種の遊離BPAにもっと高容量で曝露するかもしれない。これが成人と胎児の肝臓の機能の仕方の相違の結果かもしれない。

 この結果は、重要な発達段階の期間にBPAに曝露すると胎児の発達を変更し、後の人生に健康影響を及ぼすかもしれないので、重要である。

 この研究は、胎児のBPAへの高い曝露をもたらすかもしれない可能性あるメカニズムを特定するための最初の試みである。驚くべきことに、胎児の肝臓組織中の遊離BPAのレベルは、成人のコントロールや、成人の血液や尿中で典型的に測定されものより、はるかに高いということである。

 遺伝子発現の相違がこれらの相違に役割を果たしたということは、あり得ることである。この研究からの結果は、明確な関連を提供しなかった。 この研究のひとつの限界は、著者らが認めているように、比較のために二つの成人の肝臓しか使用されなかったということである。

 これは、肝臓中のこの化学物質の二つの要素を測定することにより、胎児のBPAへの曝露を直接評価した二つしかない研究のうちのひとつである。この研究の結果は、胎盤及び羊水中のBPAを測定する他の数少ない研究と一致する。



訳注1:ビスフェノールA (NIHS)
http://www.nihs.go.jp/hse/chem-info/ntp/ntpj/BisphenolA-j.pdf

遊離型/抱合型(8頁)

 身体がビスフェノールA に曝露されたときに、ビスフェノールA をどのように処理・排泄するかを解明することは、ビスフェノールA のバイオモニタリングデータを解釈する際に役立つ。
ビスフェノールA は体内に取り込まれると、大半はすぐにグルクロン酸に結合して、ビスフェノールA グルクロニドになる。この代謝のプロセスはグルクロン酸抱合と呼ばれ、主に肝臓にある酵素が担う〔(2)でレビュー〕。ビスフェノールA は、グルクロン酸抱合を受けると水に溶けやすくなるため、尿中に排泄されやすくなり、体内における生物学的処理との相互作用も働きにくくなる。程度は小さいが、非抱合型の親の(一般的には、「遊離型」と呼ばれる)5ビスフェノールA は、別の代謝物(主に、硫酸ビスフェノールA)に変換される。ビスフェノールA がどの程度、代謝されるかを解明することは、ビスフェノールA がヒトの生殖発生に潜在的な危険を生じさせるかどうかを判断する上で非常に重要である。遊離ビスフェノールA とその主要代謝物(グルクロン酸ビスフェノールA と硫酸ビスフェノールA)は、いずれもヒトにおいて測定できるが、生物学的活性があるのは遊離ビスフェノールA だけと考えられる。ビスフェノールA は、「初回通過効果」のため、吸入などの非経口曝露後よりも、経口曝露後の方が、速やかに代謝される。



化学物質問題市民研究会
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