EHN 2012年1月6日
科学者ら 厳しい水銀汚染の将来を予測

情報源:Environmental Health News, Jan 06, 2011
Scientists predict bleak future for mercury pollution
Synopsis by Roxanne Karimi and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/2011/12/
2011-1223-mercury-predictions-bleak/

オリジナル:Corbitt, ES, DJ Jacob, CD Holmes, DG Streets and EM Sunderland. 2011. Global source - receptor relationships for mercury deposition under present-day and 2050 emissions scenarios. Environmental Science and Technology http://dx.doi.org/10.1021/es202496y

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年1月8日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_111014_Smoking_moms'_offspring.html


 水銀排出の抑制は、将来に向けて地球規模での削減により、実現可能である。しかし一方、適切な措置をとらなければ逆の影響をもたらし、環境を汚染し野生生物と人間を害する水銀排出の増大を続けることになる。

 ジャーナル『 Environmental Science and Technology』に発表された新たなコンピュータ研究によれば、これらの非常に異なるシナリオは、産業活動と汚染防止のレベルがどのように影響するかを描いている。

 この研究の中で、科学者らは2050年までに、アメリカへの水銀降下は、もし化石燃料の使用を含んで要因に変更がなければ30%増大するするかもしれないと予測している。

 この研究結果は、増大する国際的な問題に関する政策を作成するために必要とされる重要な情報を提供するものである。

何をしたか?

 研究者等は、将来、水銀排出がどのように変化するかをよりよく理解するために、現在及び2050年における地球規模の水銀循環をシミュレートするためのコンピュータ・モデルを使用した。

 水銀循環(Mercury cycling)とは、水銀がどのように排出され、世界をどのように移動し、大気を通してどのように地表に循環し、陸と水の間をどのように動き、大気にどのように再び戻って行くのか−ということを指している。

 彼等は、人間活動が将来の水銀汚染レベルに及ぼす影響を定量化するために、水銀排出と水銀が堆積する場所との関係を検証した。将来の水銀汚染のパターンを見積もることは、排出に関連する現在の政策を手引きするのに役立つであろう。

 彼等は、異なる経済発展と環境規制を持つ4つのシナリオの下に、世界中の水銀排出とその移動を予測した。彼等は、石炭を多量に使用し、排出制限が緩いために水銀排出が非常に高くなる”最悪のシナリオ”がある。また、”最善のシナリオ”では、化石燃料から他のエネルギー源へのシフトと規制の強化を行なうことで水銀排出が低くなる様子をシミュレートした。

何が分かったか?

 地球の地表に堆積した水銀のあるものは、循環してその後長期間の旅を続けることができる大気に戻る。この水銀循環は、本質的に大気中でのその滞留を長くし、潜在的な汚染源となり続けることを可能とする。著者等は、これを水銀の”レガシー・ソース”と呼んでいる。

 長距離を移動するレガシー・ソースであっても、水銀は自身が排出されたと同じ半球内の陸地に戻る傾向があることを研究結果は示している。

 人間活動に由来する放出だけを考慮するとアメリカにおいては2050年までに水銀堆積は、30%増大すると推測される。これは最悪シナリオを考慮したものである。最善のシナリオを考えるとアメリカにおける堆積は10%減少するが、それはそのレベルは今日と同程度であるであろうことを意味する。

 すべてのシナリオで、アジアが最も水銀を排出し、人間の活動に由来する全ての排出の半分以上を占めており、世界に対してその寄与が増大していることを示している。最悪のシナリオでは、アジアは2050年までに現在の水銀排出量の2倍以上になるであろう。アジアにおけるこれらの排出の増大の多くは、インドの石炭使用の増大に起因する。

何を意味するのか?

 世界の水銀汚染は、もし大きな政策変更を行なわなければ、2050年までに劇的に増大することが予測される。

 この研究の結果は、人間の活動に由来する水銀排出の増加又は減少は世界の水銀レベルに劇的な影響を与えることができることを示唆している。アメリカ及びその他の国の削減なしにインド及び他のアジア諸国における石炭使用が増大すれば、水銀の世界的なレベルが上昇することは明らかである。一方厳格な管理を行なえば、水銀レベルを安定的に保つか、あるい将来に向けて削減することができるかもしれない。

 予測されたシナリオの中で、どれが現実に最も近いかを知ることは難しい。しかし、もし大きな政策変化が実施されなければ、水銀排出は間違いなく増大するであろう。現在、人間の活動は世界の汚染の3分の2を占めている。人間の活動による新たな水銀排出は世界の総排出量の3分の1を占める。レガシー・ソースと天然資源の寄与分はそれぞれ3分の1である。

 最善のシナリオにおいて、大きな政策措置をとってもアメリカにおける水銀堆積はわずか10%へこむだけであることを示している。この小さな削減ですら容易には実現できない大きな政策変化が関係している。それには、化石燃料の使用からのシフトと、排出制御技術の大幅な増加が必要である。火力発電所からの水銀排出を制限するために、EPAの強い新たな国家基準が目標に向けての第一歩である。

 これらの研究成果は、水銀問題は継続するが、その削減のための努力は環境的レベルの低減に働くかもしれない。


オリジナル:Corbitt, ES, DJ Jacob, CD Holmes, DG Streets and EM Sunderland. 2011. Global source - receptor relationships for mercury deposition under present-day and 2050 emissions scenarios. Environmental Science and Technology http://dx.doi.org/10.1021/es202496y

【アブストラクト】
 人間活動に由来する水銀を規制する世界の政策は、大陸間レベルのスケールで水銀の排出と堆積の関係を理解する必要がある。今回、我々は現在の条件と、広範な経済的発展と環境規制の推定に基づく4つのIPPCシナリオの排出源−受容先(source - receptor)との関連性を検証した。我々は、海洋表面と陸地貯蔵の高速循環を通じて水銀の発生源から、もっと長い寿命の大洋と土壌貯蔵での堆積までの水銀を追跡するために GEOS-Chem の地球モデルを利用した。
 堆積した水銀は、ローカルな要素(排出Hg(II)、堆積寿命3.7日)とグローバルな要素(排出Hg(0)、堆積寿命6ヶ月)を持っている。Hg(II)の光還元とHg(0)の表面貯蔵(氷、陸地、海洋表面)からの再放出を通じての堆積水銀の高速循環は、人間活動に由来する水銀の効果的な寿命をレガシー蓄積(土壌及び準海洋表面)の喪失を9ヶ月延ばす。この寿命は、排出源−受容先関連が強い半球特性を持つのにまだ十分に短い。
 アジアの排出は、風上の大陸からの地域発生源の影響もあるが、全ての海洋内湾への人間活動に由来する水銀堆積の最大の源である。現在の人間活動に由来する水銀排出は世界の海洋への水銀堆積の約3分の1だけであり、残りは天然の排出源とレガシー源である。しかし、人間活動に由来する排出に関する管理は、レガシー水銀が大気に再放出するのを削減する利益を加えることになるであろう。より良い理解のために、水銀の活発貯蔵(active pools)から安定的な地球科学的な貯蔵(stable geochemical reservoirs)への転換のタイムスケールが必要である。


化学物質問題市民研究会
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