EHN 2011年11月17日
BPA 曝露は、成獣ラットの記憶に影響を与える

情報源:Environmental Health News, November 17, 2011
BPA exposure can alter memory in adults, rodent study suggests
Synopsis by Steven Neese
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/2011/11/
2011-1116-bpa-memory-adult-rats/

オリジナル論文:
Eilam-Stock, T, P Serrano, M Frankfurt and V Luine, 2011.
Bisphenol-A impairs memory and reduces dendritic spine density in adult male rats.
Behavioral Neuroscience http://dx.doi.org/10.1037/a0025959.

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年11月18日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/ehn/ehn_111014_Smoking_moms'_offspring.html


 ビスフェノールAは、アメリカの1日安全摂取用量以下のレベルで成獣ラットに1回曝露させただけで、その記憶を傷つけ、脳の構造を変更する。

 『Behavioral Neuroscience』誌に発表された研究によれば、汚染ビスフェノールA(BPA)に1回だけ曝露したオスの成獣ラットは、わずか2時間後には対象物の外観又は場所の記憶に障害を持つ。

 研究者等はまた、学習と記憶に関連する脳のたんぱく質と細胞に変化が生じることを見出した。細胞がお互いに会話する樹状突起棘(dendritic spines)と呼ばれる脳細胞の一部は、BPAに曝露した後には記憶に関わる部位の密度が小さくなった。

 この研究は特に、ある経験が記憶に変換される最初の記憶プロセスである記憶固定を測定した。

 これは1回の、低用量BPA曝露が成獣ラットの記憶プロセスと脳細胞形成に及ぼす影響を測定した最初の研究である。その結果は、BPAが同じく記憶に損傷を与えることを発見した以前の研究の再現であった。これは動物実験であるが、これらの結果は、この化学物質への曝露が記憶プロセスをかく乱し、学習に関連する脳のプロセスを阻害する可能性を持つことを示唆している。

 BPAは、様々なプラスチック製品、缶詰の内面コーティングのためのエポキシ樹脂、レジの領収書感熱紙の製造などのために大量に生産されている化学物質である。この化学物質はこれらの製品から漏洩することがあり得る。一般的な曝露経路は汚染された食物や飲料の摂取、皮膚からの吸収、及び呼吸器系での吸入である。

 BPAにはホルモン特性がある。この化学物質は、女性ホルモンであるエストロゲンの擬似作用をする。反対にBPAはまた、エストロゲンと男性ホルモンであるアンドロゲンの作用をかく乱する。エストロゲンとアンドロゲンの両方とも、記憶にある役割を果たす。

 ほとんどの研究は発達期のBPA曝露の影響を調べており、成獣(成人)の潜在的な健康影響に目を向けたものは少ない。

 研究者等は、ラットが対象物と場所を認識する能力を測定することにより、ラットの視覚と空間記憶をテストする。この研究では、オスの成獣に3分間、同等の二つの対象物を調べせた。その直後、ラットに体重1kg当り40μg(μg/kg)のBPAを注射した。現在の米EPAの参照用量は安全であるとみなされる曝露用量1日当り50μg/kg体重である。

 二時間後、対象物のひとつは新しい場所に動かすか、又は異なる対象物に取り替えられた。研究者等は、ラットが当初の対象物及び移動された対象物と新たな対象物を調べるのに要する時間を測定した。すでに知っていた当初の物体に費やす時間が多いということは、ラットが記憶していないことを示している。研究者等はまた、樹状突起棘(dendritic spines)と記憶処理に関連するある脳たんぱく質を分析した。

 BPAに曝露したラットは、新たな及び当初の対象物とその配置を調べるのにBPA投与の前と後で同じ時間を要した。一方、曝露していないラットは、当初の対象物に費やす時間は少なく、これは、それらを”記憶していた”ことを示している。

 BPAへの曝露はまた、海馬(hippocampus)にある樹状突起棘(dendritic spines)の密度と前頭葉前部皮質の記憶に重要な二つの部位の密度を減少させた。樹状突起棘(dendritic spines)は細胞間の情報伝達に重要である。

 BPAはまた、学習に重要な二つの脳たんぱく質 PSD-95 と pCREB を変化させた。脳のこれらのマーカー発現の変化は、この化学物質への曝露後に見られた記憶損傷に関連しているかもしれない。

 BPAへの人間の曝露はいたるところで行なわれているので、今後の研究はこれらの発見が人間にもまたあてはまるかどうかを確認する必要があるであろう。



化学物質問題市民研究会
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