Chemical & Engineering News 2014年8月22日
研究者ら フタル酸エステル類と不妊の関係を調査
情報源:C&EN: August 22, 2014
Researchers Investigate Link Between Phthalates And Infertility
By Deirdre Lockwood
http://cen.acs.org/articles/92/web/2014/08/Researchers-Investigate-Link-Between-Phthalates.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2014年8月26日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/c&en/140822_link_between_phthalates_and_infertility.html

 食品容器や化粧品中などにみられる可塑剤のフタル酸エステル類への暴露は、ホルモン系の発達を変更し、不妊をもたらすことと関係がある。しかし、現在までのところ科学的には、この化合物が生殖にどのように影響を及ぼすのか正確にはわかっていない。今回、研究者らのチームが、潜在的なメカニズムを特定した。彼らは、あるフタル酸エステル類への暴露は、酸化ストレスのためのあるバイオマーカーと関連していることを見つけた(Environ. Sci. Technol. 2014, DOI: 10.1021/es5024898)。

 この新たな発見は、生殖力と環境の長期的調査(LIFE)と呼ばれる妊娠を望む約500組のアメリカ人カップルの調査から得られた。ニューヨーク州保健部のウォズワース・センタークルンサチャラム・カンナンと同僚らは、生殖力が生活習慣と人口統計学的要素はもとより、環境中の化学物質への暴露によってどのように影響を受けるのかを理解するためにこの調査を設計した。

 研究の一部として、研究者らはミシガン州とテキサス州で2005年から2009年の間に募集したカップルから尿サンプルを収集し、分析した。人々が、皮膚接触、摂食、又は吸入を通じてフタル酸エステル類やその他の化学物質を吸収すると、尿中に代謝物質を排泄する。液体クロマトグラフィー質量分析計を使用して同チームは、フタル酸エステル類の14の代謝物を含んで、いくつかの潜在的な環境的有害物質の代謝物のサンプルを分析した。同チームはまた、DNA に対する酸化的障害(oxidative damage)のバイオマーカーである 8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OHdG)のレベルを測定した。

 研究者らは、以前の研究が、この生物学的条件を精子の質の劣化のような生殖力の問題に関連付けていたので、酸化ストレスのバイオマーカーを調べた。そして彼らは、環境的化学物質の濃度がこれらのバイオマーカーと関係があるかどうかを調べたいと望んだ。

 疑いなく、フタル酸エステル類は、研究者らが考えていた農薬、臭素化難燃剤、PCB類を含む化学物資の中で際立っていた。

 酸化ストレスのバイオマーカーは、男性と女性の両方で様々なフタル酸エステル類の代謝物の濃度と有意に関連していた。その関連は女性の方が強かった。8-OHdG は、二つの別の化合物であるフタル酸モノエチルとフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の濃度はもとより、分析された14種のフタル酸エステル類全ての総濃度と関連していた。男性では、8-OHdG は、DEHP とフタル酸モノイソブチルと関連があった。DEHP 曝露は、以前の調査で、女性の妊娠損失はもとより男性の精子の形成異常やあるホルモンの異常なレベルと関連があった。

 男性に比べて女性は、ひとつのフタル酸エステルの代謝物を除いて全ての尿中濃度が高かった。カンナンはその理由を、ローション、液体ファンデーション、マニキュア液などを含んでフタル酸エステル類含む化粧品を女性の方が男性より多く使用するためであろうとした。

 研究者らは、彼らのデータは、あるフタル酸エステル類への暴露は酸化ストレスをもたらすことができることを示唆していると考えている。そしてそのストレスは生殖力を損なうかも知れない。このことは、あるフタル酸エステル類への男性の曝露は彼らのパートナーが妊娠するのに長い期間を要することに関連することを示した LIFE 研究の早い時期の結果と一致する(Fertil. Steril. 2014, DOI: 10.1016/j.fertnstert.2014.01.022)。

 テュレーン大学の泌尿器科専門医であり生殖力研究者であるスレッシュ C. シッカは、この研究はよく設計されており重要であると述べ、この研究チームによる結果の解釈に同意している。しかし彼は、以前の研究は酸化ストレスと生殖力の低下との関連性を確立したが、そのストレはどのくらいフタル酸エステルへの暴露に起因するのかまだ明確ではないと付け加えている。



化学物質問題市民研究会
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