米化学会 C&EN 2014年4月4日
科学者ら 新たな臭化難燃剤を
消費者電気製品中に発見

屋内環境:製造者らは有害PBDEsの代替としてこの化合物を使用しているのかもしれない

情報源:Chemical & Engineering News, April 4, 2014
Scientists Uncover New Brominated Flame Retardant In Consumer Electronics
Indoor Environment: Manufacturers may be using the compound as a replacement for toxic PBDEs
By Janet Pelley
http://cen.acs.org/articles/92/web/2014/04/Scientists-Uncover-New-Brominated-Flame.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2014年4月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/research/c&en/140404_new_BFR_in_Consumer_Electronics.html


 科学者らのグループが高速スクリーニング・テスト装置を用いて家庭の中で新たなタイプの臭化難燃剤を検出したが、そのような化合物が発見されたのは2008年以来初めてのことである(Environ. Sci. Technol. 2014, DOI: 10.1021/es4057032)。  彼らは、この化合物を2012年以降に製造された家電製品のプラスチック中に検出したが、このことは製造者らが有害性問題のために廃止された又は禁止された難燃剤の代替としてこの化合物を使用していることを示唆している。

 難燃剤は、家電製品、衣類、及び家具類を含む多くの消費者製品中で使用されており、その結果、科学者らは、これらの化学物質を屋外大気、家庭ダスト、人間の血液、及びミルク中などに見出している。2002年から2008年の間に、ポリ臭化ジフェニルエーテル類(PBDEs)として知られている臭化難燃剤の製造は、研究者らがそれらの化合物を神経毒性影響ホルモン信号のかく乱に関連付けた後に、ヨーロッパとアメリカでは禁止又は廃止された。”これらの規制の結果、代替の難燃剤の使用が急速に増大している”と、アムステルダム自由大学の分析環境化学者アナ・マリア・バルステロスゴメスは述べている。

 製造者らは消費者製品中で使用されている難燃剤を報告しないので、科学者らは市場に導入された新たな化合物を監視するために 最良の捜査技術を使用しなくてはならない。ある研究者らは PBDEs を特定するのに最適化された手法に固執しているが、これらの技術は分子量が高く揮発性が低い化合物は見逃すかもしれなかった。そこでバルステロスゴメスと彼女の同僚らは、材料の微粒子を高解像度飛行時間型質量分析計(Time-of-Flight mass spectrometer; TOF-MS)(訳注1)の入り口に投入するするために、プラスチック製品の表面をプローブ(針)でひっかく急速スクリーニング・プロセスを開発した。

 新しい化合物を探すために、彼女とそのチームは、難燃剤を含んでいそうな硬質プラスチックのケースに収納された家庭用電気製品を買いに出かけた。彼らは、2012年以降に製造されたテレビ、テーブルタップ、掃除機を含む13製品を購入した。彼らはまたアムステルダムのリサイクルセンターを訪れ、 PBDEs がまだ使用されていた2006年以前に製造された13製品を回収した。

 新たなプラスチックの質量分析は、9個の臭素原子をもつ化合物を意味する未知のピークを示した。データ分析ソフトウェアを用いて、化学者らは、その未知の化合物の可能性あるいくつかの分子式を想定した。そして科学者らは、その分子式をいくつかのオンライン化学構造データベースと突合せ、該当する物質をひとつだけ発見した。(2 4 6トリス4 2エチルヘキシルオキシカルボニルアニリノ1 3 5トリアジン: 2,4,6-tris(2,4,6-tribromophenoxy)-1,3,5-triazine (TTBP-TAZ))と呼ばれるトリアジン臭化難燃剤である。

 データベースとの適合性を確認し、プラスチック中のその化合物の濃度を測定するために、同チームはそのプラスチック試料を、質量分析計を併せ持つ液体クロマトグラフにかけた。彼らは、13の新製品のうち8製品に、製品重量の最大1.9%までのレベルでTTBP-TAZ を検出した。バルステロスゴメスは、このデータはこの新たな化合物の広範な使用を示唆するものであると述べた。研究者らは古いプラスチック中にはTTBP-TAZ を見つけることはできなかった。”製造者らは、禁止されたオクタBDE やデカBDE の代わりに硬質プラスチック中で TTBP-TAZ を使用しているのかもしれない”と述べている。

 家庭内ダストは難燃剤の人暴露への主要経路なので、研究者らはドイツの9家庭を訪問し、電気製品から、機器周辺のテーブルから、そして床から、直接ダスト試料を採取した。液体クロマトグラフと質量分析計を用いて、研究者らはダスト1gあたり160〜22,150 ng の範囲のレベルで TTBP-TAZ を検出した。これらの濃度は PBDEs で報告されていた濃度より低く、ハロゲン化リン酸エステル系難燃剤である V6 の濃度とほとんど同じである。 TTBP-TAZ は、2008年にテトラブロモビスフェノールA ビス-(2,3-ジブロモプロピルエーテル)が検出されて以来、家庭内で初めて検出された新たな臭化難燃剤であると、研究者らは述べている。

 ひとつのPBDEに対する可能性ある代替に関する2012年の米環境保護庁の報告書は、TTBP-TAZ 環境中で高い生物蓄積性及び残留性をもつと結論付けていた。欧州連合と米国はその化合物が有毒であるとはみなしていないが、PBDE類と同様な構造的特性を持っていると、デューク大学の環境化学者ヒーサー M. スタップレトンは述べている。スタップレトンとバルステロスゴメスの両者は、 PBDEs の毒性問題は科学者らが詳細にそれらを研究するまで完全には知られていなかったのだから、 TTBP-TAZ が安全かどうか決定するためにはもっと多くの研究が必要であると結論付けている。


訳注1:飛行時間質量分析計/ウイキペディア
加速させた荷電粒子(イオンまたは電子)の飛行時間を計測することにより対象の質量を測定する分析計



化学物質問題市民研究会
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