EHSC / CHEJ 報告書 2004年12月
塩ビ:悪いニュースが”3”のスタンプに
(目次、序言、エグゼクティブ・サマリーの翻訳紹介)

著者:ミシェル・ベリビュー、環境健康戦略センター(EHSC)
   ステファン・レスター、健康・環境・正義センター(CHEJ)

情報源:PVS, Bad News Comes In Threes:
The Poison Plastic, Health Hazards & The Looming Waste Crisis
by CENTER FOR HEALTH, ENVIRONMENT AND JUSTICE and
ENVIRONMENTAL HEALTH STRATEGY CENTER
Michael Belliveau, Environmental Health Strategy Center (EHSC)
Stephen Lester, Center for Health, Environment and Justice (CHEJ)
http://www.besafenet.com/PVCDisposalReport_2-Column_R6.pdf

訳:安間 武  (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年2月7日

目 次
■序言 : アメリカの約束を守る:有毒なプラスチック、塩ビを排除して安全で健康な将来を実現する
     ローアス・マリー・ギブス
■エグゼクティブ・サマリー
第1章はじめに:塩ビ 有毒プラスチック
第2章塩ビ世代:大量のそして増大する塩ビ廃棄物
第3章ライフサイクルの出発点での問題:塩ビの生産と使用
第4章極めて有害な関連:塩ビ、塩素、ダイオキシン
第5章焼却するな:塩ビ廃棄物焼却の危険性
第6章場所がない:塩ビ埋め立ての問題点
第7章リサイクルの厄介者:塩ビはリサイクルの取組みを損ねる
第8章買わない:塩ビの安全な代替物が存在し、効果的で、手ごろな値段
第9章行動を起こせ:塩ビの使用と廃棄による被害を守る
補遺A塩ビを含む日用品と包装・容器
補遺B各州の塩ビ生産量、焼却量、埋め立て量
参照


序言
アメリカの約束を守る:有毒なプラスチック、塩ビを排除して安全で健康な将来を実現する
ローアス・マリー・ギブス(Executive Director, Center for Health, Environment and Justice)

親愛なる皆さん

 この報告書は、事実と、社会が公衆の健康と環境を守るためになすことができる最も重要な変革のひとつのための行動計画を提供するものです。

 塩ビは”有毒なプラスチック”です。それは我々の健康と環境を数十年間にわたって損ねてきた後に付けられた名前です。塩ビの破壊的な毒性の一生は、製造に始まり、製品としての使用を経て、廃棄において大きな汚染問題を引き起こします。私は塩ビほどその全ライフサイクルを通じて破壊的な製品が他にあるとは思えません。

 ルイジアナでは、近隣で健康問題が増大してきているのは地域のプラスチック化学工場の排出と関連があるのではないかと話をするために近隣の家族たちが集まります。マサチューセッツでは、彼らの谷間にがんの発生率が増加していること、近くの焼却炉が大量の塩ビを燃やしていること、そしてダイオキシンが大気中に排出されていることを議論するために家族たちが集まります。

 私は、塩ビの製造や廃棄で毎日危険に曝されている地域の人々を訪ねて国中を旅行しました。これらのアメリカの家族たちは、彼らの家が突然、価値がなくなったことに気付き、プラントや焼却炉からの汚染が彼らの健康を損ねたということを証明しようと試みつつ、挫折の悪夢に悩まされます。これらの地域の問題の多くがこの報告書の中で簡潔に記述されています。

 わが国の消防隊員と救急隊員は、彼らが消火作業を行うたびに塩ビの有毒なガスに曝露することを懸念しています。消費者は、しばしば、”異様な臭い”がすると言って、有毒ガスを排出するビニル・プラスチックのテーブルクロスやシャワーカーテンについて心配します。親たちは子どもたちがかつて遊んだ塩ビ製のおもちゃから有毒化学物質が浸出することについて懸念します。

 塩ビによって引き起こされる破壊と危害の裏にある悲しい真実は、ほとんどの場合、それが必要ないものであるということです。今日、市場で容易に手に入る代替物質がたくさんあります。消費者は店の棚から塩ビボトル(リサイクル表示マークとして3、又はVがついている)か、あるいは、より安全な非塩ビ・プラスチック・ボトルのシャンプーを選ぶことができます。塩ビの使用を廃止することを決めた責任ある企業が増えていますが、一方、無責任な企業はより安全なプラスチックに移行することを拒絶しています。

 この報告書の重要な所は、塩ビが”ない所”はないという事実がよく報告されていることです。一度作られた製品から逃れる方法はないということです。それは我々が永久の遺産を次世代に残すということです。それを焼却することはできません−焼却すれば、他の非常に有毒な汚染物質、ダイオキシンに変わります。それを埋めることができません−化学物質が周囲の土壌や地下水に漏れ出します。リサイクルすることができません−リサイクルプロセスを汚染します。

 この報告書は、我々の社会が将来、いかにに塩ビを廃止することができるかを、今、その廃止を始めるための明確なモデルを示しながら、希望を与えてくれます。あなたはこの報告書で、今日入手可能で、より安全で、手ごろな値段の塩ビの代替物について学ぶでしょう。

 我々は、いかに塩ビを廃止するかについての全国的な対話を地域毎に開始する必要があります。消費者として我々は、塩ビを排除するための取組みに抵抗する企業に対し強いメッセージを送り、我々はそのような製品は購入しないということを知らせる必要があります。我々は有毒プラスチックである塩ビを使用しない新しい製品を開発するために、創意工夫をする会社を勇気づける必要があります。そして、我々は塩ビを廃止するための強い政策を通すために政府の全てのレベルから支援を取り付ける必要があります。

 我々は速やかに行動を起こす必要があります。70億ポンド(約320万トン)の塩ビ廃棄物を毎年発生させるようなことを続けることはできません。我々は埋めることもできないし、燃やすこともできないし、リサイクルすることもできません。塩ビ廃棄物は地球上の人間の寿命を超えて存在し続け、次世代に悲惨な遺産を残すことになるのです。

 社会がいかに塩ビを排除することができるかを示す”道路地図”がこの報告書に含まれています。もし、だれでもがこの道路に踏み込めば、我々は塩ビ廃止を達成し、公衆の健康と環境を守ることができるでしょう。私はあなたが我々に加わり、子どもたちをもっと健康でもっと持続可能な世界に残すために手助けをしてくれることを望みます。

ローアス・マリー・ギブス
健康・環境・正義センタ−理事長 Lois Marie Gibbs
Executive Director
Center for Health, Environment and Justice


エグゼクティブ・サマリー


アメリカでは、数十億ポンド(数百万トン)の有毒化学物質、塩ビが廃棄されている。しかし健康を脅かす塩ビ関連の化学物質から逃れるすべはない。”

 塩化ビニル(塩ビ)の廃棄は公衆の健康と環境を脅かす。塩ビの製造からその最終使用までのライフサイクルにおいても問題を生じるが、特に塩ビの廃棄は絶え間ない危険を及ぼす。  塩ビは、塩ビ・パイプ、建材(例えばビニル・サイディング、窓)、消費者製品、使い捨て包装容器、その他多くの日用品などで広く使用されている。
 我々は入手可能な、より安全でコスト効果のある代替物で塩ビを代替し、塩ビ廃棄物の焼却や開放焼却を止めることによって、塩ビからの危害を防ぐことができる。
 この報告書は、アメリカにおける塩ビの製造、使用、そして廃棄に関するデータをまとめているが、塩ビの環境健康への危険性についての結論は世界各国どこにでも適用できる。


どのくらいの塩ビを我々は使用しているのか?

 数十億ポンド(数百万トン)の塩ビが毎年廃棄されている。

 アメリカでは毎日、大量の塩ビが廃棄され続けている。年間、約70億ポンド(約320万トン)の塩ビが個体廃棄物、医療廃棄物、そして建設残材及び解体廃棄物として自治体の処理場に廃棄されている。塩ビ廃棄物は、鉛、カドミウム、有機スズの主要な排出源であると共に、ダイオキシンを形成する塩素及び危険なフタル酸エステルの最大の排出源である。ダイオキシン類は、がん、生殖障害、発達障害、免疫障害を引き起こすことが知られている猛毒化学物質である。ブリスタ包装材やその他の包装材、プラスチックのビンや容器、プラスチック・ラップ、バッグ、その他多くのものを含む20億ポンド(約100万トン)以上の非耐久性(短期使用)塩ビ製品がアメリカの家庭のゴミ入れ容器に捨てられる。実際、アメリカの自治体の固体廃棄物処分場に廃棄される塩ビの70%以上は非耐久性製品である。世界的には、過去30年〜40年の間に建設用及びその他の長期用途で使われた推定3,000億ポンド(1億5,000万トン)の塩ビがその耐用年数が終わり廃棄される。

塩ビは何がそんなに悪いのか?

塩ビ:本当に”有毒な”プラスチック

 塩素を含まない多くのプラスチックとは違い、塩ビはそのライフサイクルの初めから深刻な環境健康の脅威を及ぼす。塩ビの製造には高度な汚染物質である塩素、発がん性のある塩化ビニルモノマ(VCM)や二塩化エチレン(EDC))のような原料の製造が必要である。アメリカにおいて塩ビ化学工場の周辺地域−その半分がルイジアナ州にある−では、地下水、地表水、そして大気が深刻な有毒化学物質汚染の被害を受けている。ルイジアナ州モッシビルの町の住民はその血液中のダイオキシン濃度が通常よりも3倍高い。塩ビはまた、安定性と使用性を改善するために大量の有毒な添加剤を必要とする。これらの添加剤は、塩ビ製品の使用中にそして廃棄後に排出され、その結果、フタル酸エステル、鉛、カドミウム、スズ、その他有毒な化学物質に人間が曝露することになる。塩ビの焼却によるダイオキシンの放出は、大量の塩ビを使用しているビルと自動車の年間100万件の火災によって定常的に起きている。

使用済み塩ビの廃棄はどうすればよいか?

塩ビ製品+廃棄物焼却炉または開放焼却=ダイオキシン放出

 ダイオキシン生成が塩ビのアキレス腱である。57%の塩素を含む塩ビは、食物連鎖中に蓄積する非常に有毒な化学物質のグループであるダイオキシン類を生成する。塩ビは主に4つの焼却によりダイオキシンを大気に放出する。自治体の固体廃棄物焼却炉、家庭の裏庭でのドラム缶焼却、医療廃棄物焼却、そして再生用銅溶解炉である。アメリカにおけるダイオキシン発生源に関する最近のEPAの資料では、これら4つの発生源が1995年に収集されたデータに基づくダイオキシンの大気放出量の80%以上を占めている。それ以来、多くの焼却炉の閉鎖と厳しい規制により、廃棄物焼却炉からのダイオキシンの大気放出は削減されたが、一方埋立地に、焼却灰と共に廃棄されるダイオキシンの割合は増加した。焼却炉に供給される廃蒸気中の塩ビ含有量は、煙突からの排気と焼却灰中の高いレベルのダイオキシンと関係がある。

 塩ビ含有廃棄物の焼却と開放焼却は公衆の健康と環境にに深刻な影響を与える。アメリカでは100以上の自治体の廃棄物焼却炉で5〜6億ポンド(25〜30万トン)の塩ビが毎年焼却されており、ダイオキシンを生成して大気への放出及び焼却灰として埋立地に廃棄されている。最大の塩ビ焼却を行っている州には、マサチューセッツ州、コネチカット州、メーン州があり、これらの州が全国の半分以上の塩ビ廃棄物を焼却しており、さらに、フロリダ州、ニューヨーク州、バージニア州、ペンシルベニア州、メリーランド州、ミネソタ州、ミシガン州、ニュージャージー州、インディアナ州、ワシントン州などがある。他のどのような廃棄物よりも塩ビ含有量が多い医療廃棄物の焼却は、最終的には全米で、よりクリーンな非焼却技術に置き替えられようとしているが、そのような技術は、環境意識の高い病院による地域での長年の活動とリーダシーップのおかげである。塩ビを含んだ家庭のごみの裏庭での焼却は連邦政府レベルでは規制されておらず、州レベルでもほとんど規制されていない。ミシガン州とペンシルベニア州では裏庭での焼却に制約はない。30州で部分的に制約されており、18州で禁止されている。

塩ビ製品+埋立処分=地下水汚染

 塩ビの埋立処分もまた問題がある。埋立地への塩ビの廃棄は、有毒な添加物の地下水への浸出、埋立地の火災によるダイオキシンの生成、そして、有毒な埋立ガスの放出により、長期的な環境への脅威を引き起こす。毎年アメリカでは約1800の自治体の埋立地で20億〜40億ポンド(100万〜200万トン)の塩ビが処分される。建設残材及び解体廃棄物中の塩ビの大部分は埋立処分されるが、処分場の多くはライニングされておらず、浸出液を防ぐことはできない。アメリカでは毎年、平均8,400件の埋立地での火災が報告されており、塩ビ廃棄物の焼却とダイオキシン汚染が起きている。

塩ビ製品+リサイクリング=全プラスチック・リサイクル工程の汚染

 残念ながら、塩ビ・リサイクリングは答ではない。リサイクルされる塩ビ製品の量は無視できるほどのものであり、0.1%〜3%程度であると推定される。塩ビ製品を作るために多くの異なる調剤が用いられているので、リサイクルをすることは非常に難しい。塩ビ製品を作るのに多くの添加剤が用いられるのでその成分は多様である。このように異なる塩ビの成分が混合されると、リサイクルで塩ビをもとの成分にするために必要な分離が容易にはできなくなる。まして特定の用途のための使用に合わせた成分にすることなど実際には不可能である。塩ビは同じ品質の製品にリサイクルすることはできない。すなわち、通常は、低品質で強度も必要としない公園のベンチや車止めなどに用いられる。

 塩ビ製品が、プラスチック産業界が推進する”全ボトル”リサイクリング・プログラムで行われているような非塩素系プラスチックと混合すると、リサイクル工程ス全体を汚染することになる。非塩素系プラスチック系のものが全てのプラスチック・ボトルの95%以上を占めているが、たった1個の塩ビのボトルがリサイクル工程に入り込むと、100,000個のボトルを汚染し、在庫全体が新たなボトルあるいは同等の品質の製品を作ることを不可能にする。塩ビはまた、コンピュータ、自動車、波板材などの廃棄物リサイクル過程でその有毒性の影響を高める。

塩ビに替わるより安全な代替品が入手可能である

 塩ビに替わるより安全な代替品は広く入手可能であり、建材、医療用品、包装・容器、事務用品、おもちゃ、消費者製品などほとんど全ての用途で入手可能であり有効である。塩ビは環境的に最も有害なプラスチックである。天然の素材が入手可能でない場合でも、塩ビにより安全な他の多くのプラスチック樹脂が存在する。

 塩ビの代替品は手ごろな価格であり、すでに市場で競争力を持っている。多くの場合、代替品は塩ビよりほんのわずかに高いだけであり、ある場合には、その製品の有用性を考えれば代替品のコストは塩ビに匹敵する。より安全な代替品を導入して塩ビを廃止することは経済的に達成可能である。塩ビを廃止しても、全体の雇用は塩ビ製造の場合と変わらないであろう。現在のアメリカの塩ビ製造に関わる雇用(塩化ビニルモノマ及び塩ビ樹脂製造で9,000人、塩ビ成形組立で126,000人)は単純により安全な樹脂からの製造現場にシフトスルだけのことである。

どうすれば塩ビを取り除くことができるのか?

塩ビ処分によってもたらされる数々の問題をなくすために、我々は次のような方針と活動を推奨する。
  • 地方、州、及び連邦レベルの政治家は、塩ビ処分の影響を着実に削減する法律を作成して施行し、10年以内に塩ビの使用と焼却処分を完全に止めること(下のボックスを参照のこと)。
  • 塩ビ使用を着実に削減するために、塩ビの供給源の積極的な削減につながる新たな物質政策を採用すること。
  • 連邦政府及び州の廃棄物管理政策は塩ビの焼却を極力行わない方針とすること。
  • 暫定的に、発生した塩ビ廃棄物は焼却ではなく、危険廃棄物として埋立てること。
  • 消費者は非塩ビ製品を購入するようにし、家庭の危険廃棄物として管理し、通常のごみとして出さないこと。
  • 地域住民は、より安全な代替方法を推進しつつ、廃棄物焼却炉のような塩ビ関連のダイオキシン発生源に反対する活動を続けること。

塩ビのない政策活動目標



 ■ 3年以内に達成
  1. 全ての廃棄物の開放焼却を禁止すること
  2. 公衆に対し塩ビの危険性の知識を広めること
  3. 塩ビ廃棄物の焼却を禁止すること
  4. 塩ビを他の廃棄物から分別収集すること
  5. 暫定的に塩ビ焼却から危険廃棄物埋立に転換すること

 ■ 5年以内に達成
  1. 塩ビについての我々の知る権利を確立すること
  2. 全ての塩ビ製品に警告ラベルを付けること
  3. 非塩ビ製品の購入を推進すること
  4. ビンと使い捨て包装材での塩ビ使用を禁止すること
  5. 鉛又はカドミウム入りの塩ビの販売を禁止すること

 ■ 7年以内に達成
  1. 使い捨て塩ビ製品の使用を廃止すること
  2. 危険度の高い塩ビ製品の使用を廃止すること
  3. より安全な代替製品が入手可能でない場合には塩ビ廃止期限を個別に延期すること
  4. 製品の塩ビ含有量削減の取組みに対し基金を給付すること

 ■ 10年以内に達成
  1. 残りの耐久性塩ビの使用を廃止すること
  2. ゼロ排出に賛同して自治体の廃棄物焼却炉を取り壊すこと


参照:  Environment NEWS SERVICE, December 8, 2004
 PVC 製品 有毒プラスチック・キャンペーンの目標に


化学物質問題市民研究会
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