ローウェル国際会議
(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会
情報源:The International Summit on Science and the Precautionary Principle,
September 20-22, 2001, Lowell, MA
http://www.uml.edu/centers/lcsp/precaution/
掲載日:2003年7月20日


ローウェル国際会議
The International Summit on Science and the Precautionary Principle, September 20-22, 2001, Lowell, MA
(Sponsored by Lowell Center for Sustainable Production University of Massachusetts Lowell)
http://www.uml.edu/centers/lcsp/precaution/

 2001年9月20日〜22日に開催された 「科学と予防原則に関する国際会議」 に17カ国85人以上の科学者たちが参加して、大きな不確実性や複雑性があっても、未然防止(preventive)あるいは予防的(precautionary)な政策を決定できるような環境科学の方法を探るために話合いを行なった。
 ローウェル・センターは、このウェブサイトを定期的にアップデートして、科学と予防措置に関する当センター主催のこの企画に関する新しい情報を提供する。(Lowell Center for Sustainable Production, University of Massachusetts Lowell


科学と予防原則に関するローウェル声明 2001年12月17日
http://www.uml.edu/centers/lcsp/precaution/stat.html

 この地球に及ぼす非常に大規模な人間による影響が知られるようになるにつれ、環境保護政策を決定する方法、及びこれらの決定に対する科学知識の関与の仕方を変える必要性があるということが認識されるようになった。
 科学者や専門家達は地球環境の改善を約束しているので、我々は、環境と健康に関する政策決定における重要な要素として、とりわけ複雑で不確実な脅威に対処しなければならない時には、予防原則を認めるよう求めるものである。

 我々は1998年の予防原則に関するウィングスプレッド声明を再確認するとともに、この原則の有効な実施にあたって、下記要素が必要であると信じる:
  • 国連人権宣言にある通り、健康なそして生命を維持する環境に対する個人(及び将来の世代)の基本的な権利を支持すること
  • 被害が起きている、あるいは起ころうとしているとする信頼できる証拠が存在する時には、例え、その被害の正確な特性や程度が完全には理解されていなくても、早期警告に対する行動を起すこと
  • 社会の要求に合った最も安全で実施可能な措置を特定し評価すること
  • 本質的に危険な行為を行なおうとする者に対し、徹底的に調査してリスクを最小にするとともに、独立した検証の下、必要性に合致した最も安全な代替案を選択する責任を負わせること
  • 全ての関係者と共同体、特にその政策決定により潜在的に影響を受ける人々の参画を拡大する、透明で包括的な意思決定プロセスを採用すること

 予防原則の有効な適用には関連科学分野の研究だけでなく、その研究及びその成果に伴う不確実性を明確にすることが必要である。予防措置の政策決定は一貫して”健全な科学”でなくてはならない。それは、複雑な生態系への我々の理解、有機体の相互関連性、及び複数の危険性における相互的、累積的影響の可能性の中に、不確実性と無知が大きく存在するからである。
 これらの不確実性のために、科学は環境における潜在的危険性についての重要な疑問に対する明瞭で確かな答えを提供することができないことがある。このような場合、政策決定は、入手可能な科学的情報に加えて、健全な判断、開かれた討議、その他の公的価値に基づいてなされなくてはならない。
 疑いの余地のない被害の科学的証拠を待って、予防的措置がとられないならば、生態系及び人間の健康や幸福だけでなく、経済に対しても深刻で取り返しのつかない被害を及ぼし高価につく誤りをおかす危険性が増大する。

 政策策定に現在適用されている科学情報の手法のいくつかは、例えば科学的知識における限界を誤り伝えることで、予防原則の適用と相反する働きをする。
 政策決定者はしばしば、その政策を勝手に決めたという非難を受けないようにするために、行動を起す前に技術とリスク間の高度な因果関係を捜し求める。しかし、しばしば、高度な証明を得ることはできず、また、将来それを達成できる見通しも立たない。
 環境リスクの理解における現状での限界に関するもっと完全で開かれた科学からの提示があれば、潜在的リスクと不確実性が大きい時には予防的措置が思慮深い有効な戦略であるという考えを政府の政策決定者や公衆に受け入れさせるのに役に立つ。

 改善を要するのは科学者と政治家のコミュニケーションだけではない。科学的調査に関する現在の方法の中には予防的措置を遅らせるものもあると我々は信じている。例えば、研究はしばしば、問題の中の狭くて定量化できる部分にのみ焦点を合わせるので、人間をその一部として含む複雑な生態系における異なる要素の中での潜在的な相互作用について検討することを見落とすことになる。
 健康と環境に与える大きなリスクが存在する時に、科学知識を細分化することは、科学が警告を早期に検出して調査する、あるいは被害から守るための選択肢を展開することを妨げる。
 不幸なことに、科学的ツールの限界及び因果関係を定量化する能力の限界は、しばしば、政府の政策決定者、科学者、及び危険な行為を行なおうとする者によって、安全であることの証拠であるとする誤った説明がなされている。
 しかし、ある行為が有害かどうか分からないということと、それが安全であるということとは同じことではない。

 予防原則の有効な実施には、改善された科学的手法、及び、リスク、確実性、不確実性に関する改善されたコミュニケーションと共に、知識の更新を継続的に行なう科学と政治の新しいインターフェースが必要であるということを我々は主張する。
 これらの点を頭に置きながら、我々は、科学的研究課題、優先順位の設定、科学教育、そして科学政策を再評価することを要求する。これによる最終的な目標には下記のことが含まれる:
  • 危険に関する研究及び未然防止と復元に関する拡大された研究との間のより有効な関係
  • 定量的及び定性的データのより良い統合を含む科学と政策における関連分野の協調
  • 生態系と人間が暴露する様々な危険に関する累積的及び相互作用的影響の分析のため、集団と系に与える影響の検証のため、及び脆弱な部分集団と不均衡な影響を受ける共同体に対する危険性の影響の分析のための革新的研究方法
  • 行為の意図しない結果を回避するための、及びリスクの早期警告を特定するための、監視及び管理システム
  • 潜在的な危険性と不確実性(分かっていること、分からないこと、できること)の分析と伝達のためのより総合的な技術

 我々は、人間の行為には必ずリスクが伴なうと理解している。しかし、より健康的で経済的に持続可能な将来を目指して確実に進みながら生態系と健康への被害を守る科学と政治の完全な可能性を社会が認識していないことを我々は強く主張する。
 予防措置の目標は被害を防ぐことであり、発展を妨げることではない。我々は、予防措置的政策を適用することで、より良い材料、より安全な製品、そして製造プロセスの代替に関する改革が促進されると信じている。

 我々は、すでに被害が出ている場合には迅速な防止措置及び復旧措置をとると共に、潜在的なリスクが存在する時に不確実性の下で環境と健康に関わる政策を決定する場合には、予防原則を採用するよう政府に強く求める。
 上述したような予防原則を取り入れた政策決定プロセスの要素は、人間の行為が生態系と人間の健康に及ぼす悪影響を防ぐための健全で合理的なプロセスの必要な側面を表わしている。
 このような取り組みは、核となる価値と医療及び人々の健康に関する未然防止の伝統とを共有するものである。

(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会)


化学物質問題市民研究会
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