国際環境法センター(CIEL) 2023年11月15日
プラスチック条約交渉に登録した化石燃料と化学産業の
ロビイストの数は 70か国の合計よりも多かった

情報源:Center for International Environmental Law (CIEL) November 15, 2023
Fossil Fuel and Chemical Industries Registered More Lobbyists
at Plastics Treaty Talks than 70 Countries Combined

https://www.ciel.org/news/fossil-fuel-and-chemical-industries-at-inc-3/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年11月22日
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https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/INC3/231115_CIEL_
Fossil_Fuel_and_Chemica_Industries_Registered_More_Lobbyists_
at_Plastics_Treaty_Talks_than_70_Countries_Combined.html

【ナイロビ】 − 化石燃料・化学業界のロビイスト143人が、世界的なプラスチック条約の推進を目的とした政府間交渉委員会の第3回会合(INC-3)への出席を登録し、交渉が重要な段階に入っているこの時期に交渉への参加権を獲得した。

 グリーンピース、ビヨンド・ペトロケミカルズ、国際汚染物質廃絶ネットワーク(IPEN)、及び ブレーク・フリー・フロム・プラスチックの支援を受けた国際環境法センター (CIEL) による新しい分析は、国連環境計画 (UNEP) の INC-3 参加者暫定リストに基づいており、交渉における企業のロビー活動の影響の大きさを示している。 これは、市民社会組織科学者らが UNEP と INC 事務局に対し、交渉プロセスを業界の影響から守り、強力な利益相反政策を実施するよう請願したことを受けたものである。

 ”我々は、業界の影響力が気候変動 COP などの分野を含む環境条約交渉の実質的な進展を妨げていることを何度も見てきた”とCIEL 石油化学グローバル主任は語る。 INC2 の時には’会場では化石燃料企業の数はそれほど多くなかった’と事務局は語った。しかし我々の分析はそれがまったく真実ではないことを示しており、彼らの存在感は増大するばかりである。 プラスチック条約が科学に基づいており、化石燃料を煽る条約にならないよう、我々は直ちに軌道修正をしなければならない。

 分析の結果、次のことがわかった。
  • INC-3 には 143 人の化石燃料及び化学業界のロビイストが登録しており、INC-2 から 36% 増加した。
  • INC-3 の化石燃料及び化学会社のロビイスト 143名は、交渉に参加した最小加盟諸国の代表団 70名を上回っている。
  • 加盟 6か国の代表団には化石燃料と化学会社のロビイストがいる。
  • 化学燃料と化石燃料のロビイストの数は、太平洋小島嶼開発途上諸国からの代表者 64名より 2倍以上多い。
  • INC-3の化石燃料及び化学企業のロビイストの数は 143名で、効果的なプラスチック条約を求める科学者連合(The Scientists' Coalition for an Effective Plastics Treaty)の参加者 38名を上回っている。
 CIELの推定は控え目である可能性が高い。なぜなら、我々の方法論は、代表者らが化石燃料や化学産業の利益とのつながりを明らかにすることを前提としており、多くのロビイストがそのつながりを曖昧にすることを選択するかもしれないからである。

 プラスチック条約の交渉義務では、”プラスチックのライフサイクル全体に取り組む”包括的なアプローチが求められており、この目標を達成するには、プラスチックのライフサイクルの始点が化石燃料の抽出から始まることを認識する条約を開発することが不可欠である。プラスチックの製造に使用される化学物質の大部分は化石燃料に由来しており、これらの業界を支配する会社は、この条約が自社の根本的なビジネスモデルに影響を与えないようにする強い動機を持っている。

 INC-3 は交渉の予定された中間点を示すものであり、交渉担当者が条約文に目を通すのはこれが初めてである。 ゼロドラフト(最初のたたき台)(Zero Draft)には、プラスチック生産や化学物質管理へのアプローチに取り組むかどうか、どのように取り組むかなどの選択肢が含まれている。

 化石燃料産業は長年、プラスチックを生命線とみなしてきた。 2000年から2019年にかけて、世界のプラスチックポリマー生産量は倍増し、年間 4億6,000万トン(Mt)に達し、2050年までに2019年の水準からほぼ 3倍に増加すると予想されている。プラスチック危機に対処するための有意義な対策には、プラスチックの生産量を十分に削減するライフサイクル全体にわたるアプローチが必要である。

 ”化石燃料産業と石油化学産業は、世界的なプラスチック条約における人と地球を守る措置に激しく抵抗している。交渉における彼らの存在感の増大は非常に手ごたえがある。 2040年までにプラスチック生産を少なくとも75%削減する強力かつ野心的な合意に達するためには、株主を満足させる別の方法を見つける必要があることを意味する。 我々は国連加盟国に対し、化石燃料ロビー団体の意見ではなく、プラスチック汚染を終わらせることを求める世界中の何百万人もの人々の意見に耳を傾けるよう要請する”と、グリーンピース交渉代表団長兼グリーンピース米国グローバル・キャンペーン・リーダーのグラハム・フォーブスは述べている。

 INC-3 に代表を送っているが分析には含まれていないその他のプラスチック利害関係者には、製品メーカー、急成長する消費財会社、プラスチック代替品の生産者、さらにはプラスチック危機に対する誤った解決策の提供者である化学リサイクル業者、プラスチッククレジット会社、効果のない浄化技術の提供者などもなどが含まれる。(訳注:プラスチックオフセットとは、カーボンオフセットと同様に、プラスチッククレジットを購入するか、プラスチック廃棄物を扱う団体や環境プロジェクトに直接資金を提供することによって、企業(もしくは消費者)がプラスチック消費を相殺または補償できるというシステムである。(・・・略)プラスチックオフセット市場にはクレジットの認証方法に関する市場全体または国際的な基準 がまだないため、グリーンウォッシングを助長し易いとの批判がある。また、プラスチックのリサイクルや削減を推進する本来の規制目的を、クレジット購入によって解決する点への批判も多い。/ブライトイノベーション

 プラスチックがライフサイクル全体にわたって健康、人権、環境に及ぼす影響の全範囲を考慮するには交渉の過程で、市民社会組織、先住民族、女性と若者、独立系科学者、労働者の参加を優先する必要がある。

 ”石油化学産業の野放しの政治力はすでに世界中の地域社会に大混乱をもたらしており、それが条約交渉に影響を与えることは許されない”と、ビヨンド・ペトロケミカルズ(Beyond Petrochemicals )のエグゼクティブ・ディレクター、ヘザー・マクティア・トニーは述べた。 ”これらの手続き信頼性は、石油化学業界に欠けている共通の信頼にかかっている。 政府間交渉委員会のプロセスに参加する人々には、地球の最善の利益のために働く善良な主体となる義務がある。 石油化学産業のビジネス モデルは、地球と人々の健康と福祉を犠牲にして構築されている。 石油化学業界が鎮めようとしている最前線の地域社会の声を高め続ける一方で、この危険なレベルの影響に対処しなければならない”。

 国民の参加を保護するだけでは十分でない。政策交渉に対する業界の大きな影響力を埋め合わせる措置も講じる必要がある。 市民社会組織と独立系科学者らは、UNEP に対して強力な利益相反政策と説明責任の枠組みを採用するよう求めている。

 ヨーテボリ大学の生態毒性学及び動物生理学教授であり、効果的なプラスチック条約のための科学者連合の運営委員会のメンバーであるベサニー・カーニー・アルムロスは、”化石燃料及び化学企業のロビイスト143名が交渉に参加することを認められており、その数が我々独立系科学者の数をはるかに上回っていることは非常に問題である”と付け加えた。 ”先住民の知識保持者や科学者らはすでに、汚染者よりも人々を優先する措置を講じるよう求めている。 交渉は、確固たる独立した科学と知識に基づいていなければならない。 今こそ UNEP が行動を起こすべき時である。 彼らは説明責任の枠組みを含む強力な利益相反政策を採用し、交渉の周囲のスペースを業界の影響から保護し、先住民の知識保持者や独立した科学者の席を保証しなければならない。 そうして初めて、可能な限り最良の政策成果に向けた基礎を築くプロセスを保証することができる”。

編集者への注記

 市民社会組織や権利者らからのさらなる引用を以下に示す。

■#BreakFreeFromPlastic運動(about BFFP)のグローバル・コーディネーターであるフォン・ヘルナンデスは次のように述べた。
  • ”化石燃料権益者らが、自らが引き起こし、生み出した汚染を抑制し削減することを目的としたプロセスに影響を与えようとしたのは、これが初めてではない。 我々はこれを気候変動枠組条約のプロセスで何度も見てきたが、残念なことに、ここでもそれが繰り返されている。 彼らがナイロビに大挙して押しかけてきているということは、ここで何が、どれほどの危機に瀕しているのかを示している。 人間と地球が第一に考えられなければならない。彼らをこれらの略奪的利益の人質にしておくことはできない”。
■国際汚染物質廃絶ネットワーク(International Pollutants Elimination Network / IPEN)(about IPEN)の共同議長であるパメラ・ミラーは次のように述べた。
  • ”化石燃料、化学薬品、プラスチック企業が結集して、我々と将来の世代の健康を犠牲にして有害プラスチックの生産を飛躍的に増加させている。 我々は独立した科学に基づき、こうした利益相反のない、強力で健康を保護する条約を結ばなければなならない”。
■焼却代替のための世界連合( Global Alliance for Incineration Alternatives / GAIA)(about GAIA)のメンバーであり、青少年大使であり、ゼロ・ウェイスト・ダーバンの創設者であるタイレン・レディは次のように述べた。
  • ”若者たちは、汚染から健康への影響、気候変動に至るまで、プラスチック生産が我々にもたらす破壊を認識している。 我々は、この危機の責任者が誰であるか、そして何十年にもわたってプラスチック業界の自由な成長を許可してきた政策立案者について知っている。 我々は、何世代にもわたってグローバル・サウスを搾取してきた大手石油企業と多国籍企業が、その罪の責任を問われることを望んでいる。 我々の地球はプラスチック生産の大幅な削減を必要としており、プラスチック生産と化石燃料採掘から恩恵を受けている1%の人々の利益のためではなく、人々の健康と安全を優先する堅牢で野心的なプラスチック条約を通じてこれを達成することができる”。
■財務責任センター(Centre for Financial Accountability / CFA)(about CFA)の石油・ガス・チームリーダーであるスワティ・セシャドリ次のように述べた。
  • ”極度に汚染しているポリマーやプラスチック産業の段階的廃止を交渉している間に、汚染者が同じ部屋にいるのは正反対のこと(アンチテーゼ)だ。 どうやら、すべてのオブザーバが平等ということではないようだ。 ビジネス界の代表者と比較して、市民社会組織や権利者からの発言要請がはるかに多いことは、彼らが直接的なコミュニケーション手段を持っていることの証拠である。 我々が発言の番が来るのを待っている間、あるいは地域団体が善意で我々に門戸を開いてくれるのを待っている間に、汚染者たちはプラスチック条約の結果に公然と影響を与えており、そのことは最前線のコミュニティや歴史的に財産を剥奪されてきた人々の生活を変えるような影響を与えている”。
■先住民協会(Society of Native Nations / SNN)(about SNN)の事務局長フランキー・オロナはこう語った。
  • ”利益といわゆる進歩の名の下に何世代にもわたって我々のコミュニティを犠牲にしてきた化石燃料及び石油化学産業は、この交渉に関与する必要はない。 これらの企業とそれを可能にする国家こそが、生物多様性の損失、汚染、気候変動という三重の地球規模の危機に対して単独で責任を負っている。 彼らが世界中の先住民、黒人、褐色人種のコミュニティ、さらにはすべての人々の健康、福祉、人権に対して継続的に暴力を及ぼしていることは、どれだけ誇張してもし過ぎることはない。 彼らが交渉において不当な影響力を行使し続けること自体が犯罪だ。」
■環境調査局( Environmental Investigation Agency / EIA)(about EIA)の海洋活動家ジェイコブ・キーン・ハマーソンは次のように述べた。
  • ”これまで知らなかった方もいるかもしれないが、我々はプラスチックが化石燃料であるという事実に目覚めつつあり、気候変動交渉を弱体化させてきた同じ業界の戦略がここでも展開されているのを目の当たりにしている。 産業界の存在感の増大により、野心的なプラスチック協定が頓挫する恐れがある。 我々は既得権益と企業のグリーンウォッシングの言説を断固として非難しなければならない”。
方法論に関する注記

 この分析には、UNEP が今週発表した INC-3 参加者の暫定リストを使用し、一行ずつ収集して分析した。

 我々は、化石燃料または化学業界のロビイストとは、化石燃料会社、化学会社、及びその株主の利益を代表する人物であると考えた。 これには、化石燃料や化学産業を代表する組織や業界団体、あるいはそれらの業界から多大な支援を受けている団体、非営利団体、シンクタンクを含む組織、あるいはガバナンス(訳注:ガバナンス(governance)とは「統治・支配・管理」を意味する言葉で、企業経営において公正な判断・運営がなされるよう、監視・統制する仕組みを指す/PERSOL)に業界の人物が含まれているか、あるいは、化石燃料業界や化学業界からの支持を求めるロビー活動の実績がある団体が含まれる。 INC-3に参加した代表者全員が何らかの形で交渉に影響を与えようとしていると想定される。

 INC-3に参加した代表者らは、各国代表団、政府間組織、市民社会組織を含む代表団との交渉に出席するために登録する。 企業は参加のために直接登録することを許可されていないため、多くの場合、業界団体の代表団や国の代表団に同行して出席する。 代表者らは、登録時に、別会社や組織での役割や役職などの詳細情報を提供する場合がある。 企業や組織は、Web サイト、ロビー活動データベース、信頼できるレポートなどの公開されている情報を使用して調査されている。

 代表者らと化石燃料又は化学産業とのつながりを明確にするために、我々は、代表者らによって開示された彼等の代表団とさらなる所属の両方を含む、UNEP の暫定参加者リストに提供された情報のみに依存した。 これは、一部の代表者が業界との関係を明らかにしないことを選択する可能性があるため、我々の推定が控え目になる可能性が高いことを意味する。

メディア連絡先:
 Cate Bonacini, press@ciel.org、+1-202-742-5847 (DESK)、+1-510-520-9109 (WhatsApp)
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