IPEN ニュースリリース 2023年10月31日
新しい報告書がプラスチック廃棄物を管理するという ケミカル・リサイクルの虚偽の約束を暴く 米国の全11施設を調査 11月の国際プラスチック条約会議(INC3)に先立ち、各団体は 有害なリサイクルではなくプラスチック生産の削減を呼びかける チャールス・マーグリス(IPEN コミュニケーション・ディレクター) 情報源:IPEN News Release October 31, 2023 New Report Debunks Chemical Recycling's False Promises to Manage Plastic Waste, Investigates All 11 U.S. Facilities By Charles Margulis (Communications Director at IPEN) https://stoppoisonplastic.org/blog/chemical-recycling-dangerous-deception/ 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2023年11月9日 このページへのリンク: https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/plastic/INC3/231031_IPEN_New_Report_ Debunks_Chemical_Recyclings_False_Promises_to_Manage_Plastic_Waste.html 本日、プラスチック汚染に取り組む 2つの主要組織である Beyond Plastics(ビヨンド・プラスチックス)とIPEN(国際汚染物質廃絶ネットワーク)は、この技術の長い失敗の歴史とそれが環境、人間の健康、環境正義にもたらす脅威についての批判的調査である”Chemical Recycling: A Dangerous Deception”(ケミカル・リサイクル:危険な欺瞞)を発表した。この報告書は Beyond Petrochemicals キャンペーン(訳注:Beyond Plastics を含む 60以上の団体からなる石油化学プロジェクトの拡大に反対する運動体)からの資金提供を受けて、2023年11月13日から19日にケニアのナイロビで開催される次回の国連国際プラスチック条約協議に先立って実施された。 ケミカル・リサイクル、またはプラスチック業界がよく”高度なリサイクル”と呼ぶものは、廃プラスチックを溶解および沸騰させてガス、化学薬品、油、タール、ワックスに分解し、必然的に有害物質を生成しようとする一連の技術とプロセスを指す。 古いプラスチックを新しいプラスチックに変えることに成功することはほとんどない。 産業界はプラスチック危機の解決策としてケミカル・リサイクルを推進しているが、報告書は、米国内に建設されているケミカル・リサイクル施設はわずか11か所で、それらを合わせても国内のプラスチック廃棄物のほんの一部しか処理していないことを指摘している(訳注1)。 報告書にはこれら11の施設の詳細なプロフィールが含まれており、進歩の欠如、労働者や地域社会への危険、環境上の人種差別への寄与、資金調達などを明らかにしている。 ”従来のプラスチックのリサイクルがひどい失敗に終わったのと同じ理由で、ケミカル・リサイクルも何十年も失敗してきた。 プラスチック廃棄物は収集、分別、洗浄に費用がかかり、その化学薬品、色、ポリマーの多様性により、新しいプラスチック製品に加工することが本質的に非常に困難になっている”と、Beyond Plastics の代表で元 EPA 地域管理者のジュディス・エンクは述べた。”この報告書は、プラスチック業界と化石燃料業界による誤解を招くマーケティング・キャンペーンの背後に隠された真実を明らかにする。ケミカル・リサイクルは新しいものではなく、何十年も機能していない。そして、稼働している少数の施設は地球と人々、特に低所得者と有色人種のコミュニティに害を与えている”。 エンクはまた、”たとえ米国の 11 施設すべてがフル稼働したとしても、それらが処理するのは米国のプラスチック廃棄物の 1.3% 未満であろう。 ケミカル・リサイクルは国民の注意をそらし、プラスチック汚染の危機を現実的に抑制できる唯一の方法、つまりプラスチックの生産量を減らすことを政策立案者が行うのを阻止するための、もうひとつの業界の宣伝行為にすぎない”と述べている。 報告書の調査結果は、数十年にわたる失敗に加えて、ケミカル・リサイクルが大量の有害廃棄物を生成し、有害な大気汚染物質を放出し、環境正義を脅かし、気候変動に寄与していることを明らかにしている。 ”ケミカル・リサイクルは何十年も失敗しており、失敗し続けているが、それがプラスチック汚染危機の解決に貢献するという証拠はない”と、報告書の主執筆者である IPEN 科学政策顧問のリー・ベルは述べた。 ”プラスチックに化学物質が含まれているため、プラスチックは本質的に循環経済と両立しない。 我々はプラスチック生産を大幅に削減し、業界の誤った約束ではなく、より安全で有害性のない材料を革新する必要がある”。 この報告書には、1979年から2001年までプラスチック産業協会の政府担当副会長を務めたルイス・フリーマンによる序文が含まれている(訳注2)。この報告書の発表は、いくつかの州政府が米国の環境および安全規制を緩和する法律を採択しつつある時期に行われた。プラスチック業界と石油化学業界からの激しいロビー活動を受けて、いくつかの化学リサイクル施設が建設された。 現在、20 以上の州が規制緩和政策を採用している。 ”米国のケミカル・リサイクル施設 11か所では、絶えず故障が続いており、そこで生じている最も重大なことは汚染である”と Beyond Plasticsの副ディレクターで報告書寄稿者のジェニファー・コングドンは述べた。 ”米国の施設のいくつかは、有害廃棄物の大規模発生源として米国環境保護庁に登録されており、その大部分は有色人種のコミュニティ、低所得コミュニティ、あるいはその両方に位置している”。 Beyond Petrochemicals.(石油化学を超えて)のエグゼクティブ・ディレクターであるヘザー・マクティア・トニーは、”石油化学汚染はどのような名前で呼ばれても、依然として石油化学汚染である”と述べた。”ケミカル・リサイクルはまっとうな油(オイル)の生産施設ではない。 それはまやかし(スネークオイル)の施設である。 それは機能せず、実際、すでにプラスチックや石油化学製品の製造施設からの汚染に対処している地域社会に損害を与えてる。 この報告書は、ケミカル・リサイクルが石油化学産業を拡大するための単なるかわいい(キュートな)名前であることを明らかにしている。 この業界がこの欺瞞を逃れることを許すわけにはいかない。” レポートには次の推奨事項が含まれている。
Beyond Plasticsについて 2019年に発足した Beyond Plastics(プラスチックを超えて)は、環境政策の専門家の知恵と経験と、草の根の活動家のエネルギーと創造性を組み合わせて、プラスチック汚染を終わらせ、プラスチックの代替品を促進するための活気に満ちた効果的な運動を構築する全国的な(全米)プロジェクトである。 Beyond Plastics は、政策と権利擁護に関する深い専門知識を活用し、プラスチックの生産、使用および廃棄による健康、気候、環境への悪影響から地球と我々自身を救うために必要な制度的、経済的、社会的変化を達成することを目指し、十分な情報に基づいて効果的な運動を構築している。 IPENについて IPEN(国際汚染物質廃絶ネットワーク) の使命は、すべての人々のために有害物質のない未来を達成することである。 600 を超える非政府組織からなるネットワークは、125 か国以上で、有害化学物質による人間の健康と環境への害を軽減し、排除するために活動している。 1998 年に設立された IPEN は、特に低所得国および中所得国において、有害物質の生産、使用、廃棄から人間の健康と環境の権利を保護する政策を推進する世界有数のネットワークである。 訳注1 Beyond Plastics ニュースリリース 2022年5月4日 新しい報告書が、米国のプラスチックのリサイクル率は5%〜6%に低下したことを明らかにする 訳注2 プラスチック産業協会の元政府担当副会長ルイス・フリーマンによる序文紹介 序文 ルイス・フリーマン著、元プラスチック産業協会政府担当副会長(1979年〜2001年) プラスチックは私たちの社会で最も一般的で用途の広い材料のひとつになりました。実際、特に医療分野におけるプラスチックの多くの用途は、現在、他の材料では代替不可能です。 しかし、プラスチックの使用量が過去 50 年間で 10 倍に増加するにつれて、環境に対する課題も増加しています。 米国環境保護庁がまとめた統計によると、私がプラスチック業界に関わり始めた最初の年である 1980 年には、プラスチック廃棄物の都市固形廃棄物(MSW)に占める割合は 5% 未満(680 万トン)でした ( EPA)1 。EPA の公式統計が入手可能な最新年である 2018 年までに、プラスチックが MSW 3億トンに占める割合は 12% になりました。 プラスチック産業協会(Society of the Plastics Industry/SPI)(現在はプラスチック産業協会(Plastics Industry Association)として知られるプラスチックロビー団体)の元政府担当副会長として、私はプラスチックのリサイクルに関する積極的な広告キャンペーンを促した会話を覚えています。 プラスチック業界の幹部らは、社会がプラスチックにより生成される環境汚染を認識し始めるにつれ、増大するプラスチックの社会的問題の解決策を SPI が宣伝することを望んでいました。 プラスチックのリサイクルでは大量のプラスチック廃棄物を現実的に管理できないとわかっていたにもかかわらず、企業は何百万ドル(何億円)も費やして一般の人々にそうではないと(管理できると)説得していました。 現在、実際にリサイクルされているプラスチックは 10% 未満であり、世間の混乱を招き、業界にとってさらなる社会問題となっています。2 環境、特に水路や海洋におけるプラスチック廃棄物やプラスチック原料(樹脂ペレットなど)の存在が増加していることによって、プラスチックに対する国民の懸念が特に高まっており、水生生物や鳥類に深刻な危険をもたらしています。 これはリサイクルが適切な対応ではない廃棄物問題です。 最近では、プラスチック業界は”高度なリサイクル”と呼ぶものを推進し始めています。これを、”使用済みの固体プラスチックを気体または液体の原料に変え、ほぼすべてのプラスチック製品や包装に使用できる真新しいプラスチックに作り直すこと”と業界は定義しています 3。 さらに業界は”プラスチック・リサイクル業界は、2040 年までに米国でプラスチック包装材を 100% 再利用、リサイクル、または回収するという目標を達成する取り組みの一環として、これらの技術に多額の投資を行っている”と述べています。 報告書”ケミカル・リサイクル:危険な欺瞞”では、プラスチック廃棄物の機械的リサイクルが成功していないことをレビューしていますが、その主な焦点は、ケミカル(いわゆる「先進的」)リサイクルを導入するための業界の取り組みを詳細に評価することにあります。 既存の”高度リサイクル”施設の事例研究に関するこの報告書の綿密な調査は、固形廃棄物問題に対処するこのアプローチで業界が成功する可能性について楽観的な見方をしていません。 プラスチック産業がプラスチック廃棄物に関する国民の懸念に顕著に対応し始めてから 35 年が経過しました。 それは3分の1世紀以上になります。 その間、業界は廃棄物問題への対応をリサイクルの促進に重点を置いてきました。 業界は廃棄物のリサイクル率を 1% 未満から 9% 弱まで高めるのに 35 年かかりました。 現在、そのわずか半分の17年以内に、プラスチック産業は廃棄物の 100%をリサイクルできるようになるだろうと主張しています。 この報告書は、プラスチック業界の真剣さと、定められた目標を達成する能力を疑う説得力のある主張を行っています。 ”ケミカルリサイクル:危険な欺瞞”は、プラスチック廃棄物に関する公的対話への重要な貢献です。 これは、特にプラスチック業界自体から広く注目されるに値します。 |