SAFENANO 2009年11月20日
あるナノ粒子は胎盤関門を通過する可能性がある

情報源:SAFENANO 20/11/2009
Study indicates potential for certain nanoparticles to cross the placental barrier
http://www.safenano.org/SingleNews.aspx?NewsId=913

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年2月16日


 先週、 Environmental Health Perspectivesに発表された”ナノサイズ物質に対するヒト胎盤の関門能力”と題する論文の中で、スイスの研究者らのチームは、あるナノ物質は胎盤関門を通過する可能性があることを示す結果を発表し、この分野のさらなる研究の必要性に光をあてた。

 現在のナノテクノロジーの広範な適用にともない、1〜100nm のサイズのナノ物質が国際的に製造され、ヒトが暴露するかもしれないナノ粒子の数と多様性がますます増大している。この暴露が意図的であろうとなかろうと、ヒト健康と環境への可能性ある有害影響の注意深い評価がナノテクノロジーの安全な開発を確実にする上で重要な要素となる。今日までの研究の多くは、肺や気道のような大気浮遊粒子が直ぐに接触するように見える部位の細胞や組織に焦点を当ててきた。しかし、近年、妊娠中の大気汚染物質への暴露の健康影響の可能性についての懸念、したがって子宮内でのナノ粒子暴露の潜在的なリスクについての暗黙の懸念が増大している。知識のギャップを埋めるという観点から、スイスの研究チームはナノ粒子が胎盤を通過するかどうかという問いに目を向けた。

 この研究で、ピーター・ウイックらの研究者は、ナノ粒子が胎盤関門を通過する可能性を調査し、このプロセスがサイズに依存するかどうかを調べるために、二重再循環ヒト胎盤灌流モデル(dual re-circulation human placental perfusion model)(生体外の人工環境中での胎盤通過の測定を可能とする生体外システム)を用いた。このシステムで、胎盤の胎児と母親の部分は灌流回路を分離するために連結された。生体適合性と検出の容易さのために、直径 50, 80, 240 及び 500 nm の蛍光標識ポリスチレン (PS)粒子がこの研究のモデル粒子として選ばれた。

 前処理の後、25 μg/ml濃度のPS粒子からなる灌流液と14C-アンチピリン(胎盤を速やかに通過し4〜6時間後に母親及び胎児の回路の中で等しい濃度に達することが知られている放射性物質)が母親側から灌流モデルに投与された。母親及び胎児の回路中の蛍光PS粒子の濃度を調べるために、灌流媒体の部分標本が指示された時点及び、透過電子顕微鏡法(TEM)に基づき採取された。さらに胎盤の透過性がβカウンターを使用して14C-アンチピリンの胎盤通過を監視することで評価された。胎児循環中の残留PS粒子を検出するために、胎児の灌流媒体もまた灌流6時間後に採取された。
 ウイックらはこの研究の主要な発見は、径が240nmまでのPS粒子は外植された(explanted)胎盤組織の生存能力に影響を与えることなく取り込まれ、胎盤を通過することが出来ることを示したことであると報告している。径が240nmより大きな粒子はこの胎盤関門を通過することが難しく、これらの粒子の胎盤通過はサイズに依存することを示している。

 この論文の中で、著者らは体外灌流モデルの多くの限界を認めている。それらは下記を含む。

  1. ナノ粒子の胎盤通過のメカニズムは、。体外灌流モデルを用いて体内の状況と非常に近い状態で調べることが出来るが、数時間の灌流時間帯に限定される。したがって、長期間にわたる低容量の処理は組織が劣化するので可能ではない。

  2. 外植の中で測定された灌流比は、妊娠後期だけを代表しており、その場合は母親と胎児の回路間のバリア層の厚さは減少し胎児の毛細管は増大する。したがって、得られた体外灌流モデルの灌流比は体内妊娠の大部分の期間よりも高いかもしれない。

 これらの制限にも関わらず、ウイックらは、彼らの研究はポリスチレン・ナノ粒子について、健康なヒト胎盤の明確なサイズ依存能力と、灌流後の組織の生存能力及び機能の明確な分析を示した−と結論付けることが出来た。したがって彼らは、ナノ粒子は一般に胎盤通過の能力を持つと示唆している。

 さらに、研究者らはPS 粒子に関する彼ら自身の調査と対照的に、ミリネンらの研究者による最近の研究(2008)がポエチレン・グリコールでコーティングされた30nmの径の金のナノ粒子が胎盤を通過しなかたことを発見したことに言及した。したがって、彼らはナノ物質の成分と表面コーティングが通過に影響を与えるらしいことを、したがって、胎盤通過メカニズムの能力はナノ粒子のそれぞれのタイプごとに評価されるべきことを強調している。このことは、この重要な器官系に関する更なるナノ毒性学的研究の必要性を強調するものであるとウイックらは結論付けている。
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参照: Wick et al. 2009, "Barrier Capacity of Human Placenta for Nanosized Materials", Environmental Health Perspectives, doi:10.1289/ehp.0901200.



化学物質問題市民研究会
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