米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)
NIOHSナノテクノロジー研究のための戦略的計画
知識のギャップを埋める 2005年9月
エグゼクティブ・サマリー


情報源:NIOSH Safety and Health Topic: Nanotechnology
Strategic Plan for NIOSH Nanotechnology Research
Filling the Knowledge Gaps, September 2005
Executive Summary


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年12月30日

 この情報は、関連情報品質ガイドラインの下にピアレビューの目的だけのために配布されるものである。CDC/NIOSHによって公式に配布されるものではなく、NIOSHの決定又は政策を表すものと解釈されるべきではない。

 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、NIOHSナノテクノロジー研究のための戦略的計画:知識のギャップを埋める 2005年9月 を発表することを喜ばしく思う。この戦略的計画は、新たに出現した技術の課題に対応できる研究取組を構築するための指針を提供する。それは時宜を得た研究課題を示し、ナノテクノロジーの開発について新たな情報が利用可能となり、もっと完全な科学的理解を可能とするようにするものである。戦略的計画は多次元研究課題を述べる。それは、ナノテクノロジー研究において協調的に労働安全衛生関連コミュニティーを主導するために内部的及び外部的にNIOSHが何をしているのかに目を向ける。戦略的計画(完全版html)はナノテクノロジーの分野におけるNIOSHの活動のフル・テキストである。(完全版PDF422 kb, 69 pages

 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)は、職業関連の怪我、疾病、死亡を防止するために研究を実施し勧告をすることに責任がある連邦政府の機関である。NIOSHは、アメリカ保健社会福祉省の疾病管理予防センター(CDC)の一部門である。労働安全衛生への影響や適用がまだよく特定されていないナノテクノロジーのような新規の技術に対し、NIOSHは重要な役割を担っている。多様なパートナーとの協力において、NIOSHは知識と理解における重大なギャップを埋めるために新たな研究を推進しなくてはならない。

 米国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)が定義しているように、ナノテクノロジーは、新たな構造、物質、及び装置を生成するために、寸法が概略 1〜100 ナノメートルの物質を理解し支配する技術である(ナノ・メートル=10億分の1メートル)。ナノスケールのレベルでは、もっと大きなレベルで生成される場合とは物理的、化学的、及び生物学的な挙動が異なる独特な特性をしばしば示す。これらの独特な特性は、ナノ物質の製造と使用における職業的曝露の結果として生ずる潜在的な健康影響に関して疑問を提起する。

 答えを見つけるために、科学者らは現在の知識にある著しいギャップを埋める必要がある。この必要を満たすために、NIOSHは、アメリカ国内及び海外の民間及び公共の機関と協力して、強固な研究プログラムを推進している。

 米国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)の下で、国立科学技術審議委員会のナノ技術・エンジニアリング・テクノロジー小委員会(NSET)のメンバーとして、NIOSHは、ナノ技術の責任ある開発と使用を支援する研究を計画し、実施し、促進する他の連邦政府機関及び民間企業組織と密接に協力している。これらのパートナーシップは、アメリカが世界市場の中で強い競争力を維持するための助けになる。

 強い関係者間パートナーシップに立脚し、適切な科学的実験研究を実施し、信頼性ある産業衛生政策とその実施の展開によって得られたNIOSHの経験と専門性は、ナノテクノロジーの労働安全衛生への影響と適用に関する国家の共同研究を主導するためにNIOSHは理想的な機関である。もっと具体的には、溶接ヒュームやディーゼル微粒子のような超微粒子の特徴、性質、及び影響に関する研究と定義に関するNIOSHの経験は、現在のナノテクノロジー研究活動に強い基盤を提供するものである。


戦略的目標
 NIOSHはナノ技術研究課題の一部として、4つの戦略的目標を設定した。個々の目標についての詳細は、戦略的目標の中で議論される。それらの目標は:
  1. ナノ粒子/ナノ物質によって引き起こされる可能性のある労働関連の怪我と疾病を理解し防止すること

  2. ナノ技術製品を適用することによる労働関連の怪我と疾病を防止するために研究を実施すること

  3. 介入、勧告、及び能力構築を通じて健康な職場を推進すること

  4. ナノ技術に関する国際的な協力を通じて世界の職場の安全と健康を向上させること
〔概要については各項目をクリック〕


重要な主題
 この急速に発展している技術についていくために、NIOSHはナノ技術から生じる労働安全衛生問題に関連する重要な主題のリストを開発した。10の主題に基づき、NIOSHは、知識のギャップへの対応、戦略の開発、及び労働者の保護を確実にするための勧告を行うであろう。これら重要な論点についての詳細は、戦略的目標の中で議論される。
〔概要については各項目をクリック〕
  1. 曝露と用量
  2. 毒性
  3. 疫学と調査
  4. リスク評価
  5. 測定手法
  6. 管理
  7. 安全
  8. コミュニケーションと教育
  9. 勧告
  10. 適用
 戦略的計画はまた、特定の研究プロジェクト、NIOSHが研究プログラムを調整する内部組織構造、パートナーと利害関係者、及びNIOSHがプログラム中の目標と目的を満たす達成度を評価する手法を含むNIOSH研究プログラムの他の主要な要素を議論する。戦略的計画は動的な文書として設計されている。それは、既存の科学的疑問が解決された時に、潜在的な新たな科学的疑問が生じた時に、そしてパートナーと利害関係者の懸念が提起された時に、展開するであろう。NIOSH研究プログラムについての現状の情報と戦略的計画についての更新は http://www.cdc.gov/niosh/topics/nanotech/ で入手可能である。


NIOSHナノ技術戦略的目標
  1. ナノ粒子/ナノ物質によって引き起こされる可能性のある労働関連の怪我と疾病を理解し防止すること
    1. この目標を達成するために、ナノ物質の毒性を決定し、これらの物質の初期使用から健康影響を特定し、ナノ物質を取り扱っている個々の労働者の健康を監視する必要がある。
    2. 曝露評価の手法を開発し確認するために研究が実施される。

  2. ナノ技術製品を適用することにより、労働関連の怪我と疾病を防止するための研究を実施すること
    1. この目標を達成するために、ナノ技術に特有な特性がナノ技術に基づく代替解決を調査、開発し、ナノ物質の可能性ある健康影響を調査するために用いられる。
    2. 研究はナノ物質を用い、ナノディバイスやナノマシンで検知し通信しながら実施される。

  3. 介入、勧告、及び能力構築を通じて健康な職場を推進すること
    1. この目標を達成するために、エンジニアリング管理、個人防護装置、及びナノ物質の安全な取り扱いに関する指針を開発し評価する必要がある。
    2. 一旦、適切な指針が開発されたなら、NIOSHは広範な公衆にその情報を広め、それを訓練プログラムと既存の安全衛生システムに導入するための取組がなされる。

  4. ナノ技術に関する国際的な協力を通じて世界の職場の安全と健康を向上させること
    1. この目標を達成するために、既存の国内の及び国際的パートナーシップを育成し、研究の必要性とアプローチを特定するための新たなパートナーシップ、及び労働者の安全と健康を確保するための成果を確立する必要がある。
    2. 確固としたパートナーシップは、労働者と労働安全衛生の専門家らに対する情報と教育の開発と普及を可能にする。


ナノ技術から生じる労働安全衛生問題に関連する重要な主題
  • 曝露と用量
    • ナノ物質の製造、拡散、蓄積、及び職場への再入に影響を与える要素を決定すること。ナノ物質が吸引される又は皮膚に付着した時の可能性ある曝露を評価すること。作業工程により可能性ある曝露がどのように異なるかを決定すること。ナノ物質が体内に入り込んだ場合、何が起きるのかを決定すること。

  • 毒性
    • ナノ粒子の毒性に影響を与える物理的及び化学的特性(例えば、サイズ、形状、溶解性)を調査し決定すること。ナノ物質が臓器や組織(例えば肺)に与える短期的及び長期的影響を評価すること。毒性影響のための生物学的メカニズムを決定すること。可能性あるハザードの評価を支援するためにモデルを生成し統合すること。毒性を決定するために質量以外の他の手法がもっと適切かどうか決定すること。

  • 疫学と調査
    • ナノ物質が使用されている場所において、既存の疫学的職場調査を評価すること。疫学的調査を行えばナノ物質の理解を進めることができるであろう場合の知識のギャップを特定し、新たな調査を実施する可能性を評価すること。ナノ技術安全衛生問題を既存のハザード調査手法に統合し、さらに追加的なスクリーニング手法が必要かどうか決定すること。ナノ技術についてのデータと情報を共有するための既存システムを利用すること。

  • リスク評価
    • 現状の曝露反応データ(ヒト又は動物)はハザードを特定し評価するのに利用することができるかどうか可能性を決定すること。ナノ物質への曝露のハザードを評価し、リスクを予測するための枠組みを開発すること。
  • 測定手法
    • 空気中で吸入され得る粒子の質量を測定する手法を評価し、この測定がナノ物質の測定に利用することができるかどうか決定すること。職場の空気中に浮遊するナノ物質を正確に測定する実際的な手法を開発しフィールド・テストを行うこと。サンプリング・ツールを比較し確認するためにテストと評価のシステムを開発すること。

  • 管理
    • 労働者をナノエアゾールから保護するエンジニアリング管理の有効性を評価し、必要なら新たな管理を開発すること。現状の個人防護装置を評価し改善すること。ナノエアゾールからの労働者保護を確実にするための勧告を開発すること(例えばガスマスクの適切性テスト)。追加情報が必要な場合にはバンディング技術管理の適切性を評価すること。代替物質有効性を評価すること。

  • 安全
    • 適切な労働者の保護とならない現状の作業方法を特定すること。職場の危険を排除するために代替作業方法を勧告すること。

  • コミュニケーションと教育
    • 研究の必要性を特定し共有することを可能とするパートナーシップを確立すること。労働者とその他の安全衛生専門家のために訓練教育資料を開発し普及を図ること。

  • 勧告
    • 労働者の保護の継続を確実にするために、質量ベースの空気中浮遊粒子の職業曝露限界を評価し更新すること。有害物質規正法(TSCA)に基づく既存の質量ベースの要求事項が改定される必要があるかどうか決定すること。ナノ物質を取り扱う作業のために、現状の分類、毒性データ、及び勧告を反映して製品安全データシート (MSDS)を更新すること。

  • 適用
    • 労働安全衛生に適用できるナノ技術利用を特定すること。労働者とその他の安全衛生専門家に対する有効な適用を評価し普及を図ること。


化学物質問題市民研究会
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