米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)
安全なナノ技術へのアプローチ:NIOSHとの情報交換
潜在的な健康への懸念

NIOSH ウェブ掲載:2006年8月10日現在

情報源:NIOSH Safety and Health Topic: Nanotechnology
Approaches to Safe Nanotechnology: An Information Exchange with NIOSH
Potential Health Concerns
http://www.cdc.gov/niosh/topics/nanotech/safenano/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年8月10日

訳注:
 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)/安全なナノ技術へのアプローチ:NIOSHとの情報交換は、2006年8月10日現在、下記で構成されており、ここでは Potential Safety Hazards を日本語訳して紹介します。

A.暴露経路

 職場における空気中浮遊粒子への最も一般的な暴露経路は吸入によるものである。他のタイプの空気中浮遊粒子の堆積と同様に気道(respiratory tract)での離散したナノ粒子堆積は粒子径によって決定される。ナノ粒子の塊は、ナノ粒子の構成成分ではなく、塊の径に依存して堆積するであろう。現在、ナノ粒子の凝集作用及び分離作用に寄与する物理的要素、及び吸入されたナノ粒子毒性におけるこれらの構造の役割を決定するための研究が行われている。

 離散ナノ粒子は、より大きな吸入可能は粒子に比べてかなりの程度に肺に堆積し[ICRP(国際放射線防護委員会) 1994]、堆積は身体的な活動の間Jaques and Kim 2000; Daigle et al. 2003] 、及び肺疾患の既往症がある人々の間では増加するかもしれない[Brown et al. 2002]。動物モデル実験で報告された研究に基づき、離散ナノ粒子は血流に入り込み他の器官に移動するかもしれない[Nemmar et al. 2002; Oberdorster et al. 2002]。

 鼻部位に堆積する離散ナノ粒子は、最近のラットで観察されたように嗅覚神経に沿って移動して脳にまで達することがあるかもしれない[Oberdorster et al. 2004]。50、200、及び500ナノメートルの不溶解性粒子のaxonol transportもまた同じ研究で報告された。この暴露経路はヒトでは調査されておらず、関連性を評価するために研究が続けられている。

 経口摂取はナノ粒子が体内に入り込むかもしれないもうひとつの経路である。経口摂取は非意図的に物質を手から口に運ぶことで起きることがあり得る。このことは従来の物質でも起こることであり、それはナノ粒子を含む物質を取り扱い中にも起こりえると仮定することは科学的に合理的である。また mucociliary escalator を通じて気道から除かれる粒子を飲み込むこともあリ得るので、経口摂取は吸入暴露を伴うこともある[ICRP 1994]。ナノ粒子の経口摂取による可能性ある有害影響についてはほとんど知られていない。

 ある研究は、ナノ粒子はまた職業的暴露で皮膚を通じて体内に入り込むことがあり得ると示唆している。英国王立協会と王立技術アカデミーは、日焼け止めに使われている酸化チタンのナノ粒子は表皮を越えて浸透しないことを示す未公表の研究を報告した[The Royal Society and The Royal Academy of Engineering 2004]。しかし、この報告書はまた、ナノ粒子皮膚浸透の分野における更なる、そしてもっと透明性のある情報の必要性に目を向けた多くの勧告を行っている。 ティンクルら[2003]は、1μm(訳注:1,000nm)より小さい粒子は機械的に曲げられた皮膚サンプルを貫通するかもしてないことを示した。これがナノ粒子の暴露経路として実際に起こり得るかどうかを決定するための研究が現在、行われている [http://www.uni-leipzig.de/~nanoderm/]。培養細胞を使用した試験管でのいくつかのラボ研究は、カーボン・ナノチューブは皮膚細胞中に吸収され堆積し、潜在的に細胞毒をもたらすことがあり得ることを示唆している [Monteiro-Riviere et al. 2005; Shvedova et al. 2003]。しかし、職業暴露の実際の状況とこの細胞モデル研究を比較するための更なるデータがなければ、これらの発見からどのように潜在的な職業的リスクが推定されるかについては分らない。

B.動物研究に見られる影響

 ラットでの実験的研究は、同等の用量でテストされた超微粒子は同様の成分からなるより大きな粒子に比べて肺の炎症、組織ダメージ、及び肺腫瘍を起こしやすいということを示している[Lee et al. 1985; Oberdorster and Yu 1990; Oberdorster et al. 1994; Heinrich et al. 1995; Driscoll 1996; Renwick et al. 2004] 。

 人工ナノ粒子の特別の形状はその毒性が他のナノ粒子と異なるかもしれない。単層カーボン・ナノチューブ(SWCNT)は intratracheal instillation 経由で暴露されたラットとマウスを使った最近の研究で評価が行われた。マウスとラットの肺に注入された単層カーボン・ナノチューブ(SWCNT)はカーボンブラックと石英に比べて、初期繊維症、肉芽腫、及び間質性肺疾患毒性の増大を引き起こす[Lam et al. 2004; Warheit et al. 2004]。ひとつの研究は、SWCNTは肺の炎症又は細胞増殖が起きないので、他の吸入汚染物質とは異なるメカニズムで作用するかもしれないことを示唆した。

 米国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の研究者らは最近、黒鉛の労働安全衛生法(OSHA)許容暴露基準(5 mg/m3)に相関した投与技術を用いて SWCNT に暴露させたマウスの肺における有害影響を報告した[Shvedova et al. 2005]。この研究は、黒鉛の許容暴露基準で、概略8時間−20日労働で暴露したヒトに堆積をもたらす用量に相当する用量を含んでいる。この研究結果はマウスのSWCNへの暴露は、肺の炎症、酸化ストレス、多病巣性肉芽腫肺炎及び繊維症の発症をもたらすことを示唆している。

C.微粒子及び超微粒子に関する疫学的研究からの所見

 微粒子及び超微粒子を含むエーロゾル(訳注:一般的には気象用語エーロゾル解説)に暴露する労働者の疫学的な研究が、肺機能の低下、呼吸器系症状、慢性的肺疾患、及び繊維症を報告している[Kreiss et al. 1997; Gardiner et al. 2001; Antonini 2003]。さらに、例えばディーゼル排気粒子 [Steenland et al. 1998; Garshick et al. 2004] 、又は溶接ヒューム[Antonini 2003]のような、ある超微粒子に暴露した労働者の中で肺がんが高まっていることが発見されている。しかし、他の研究では肺がんの高まりは見つけられていないので、これらの研究の影響ははっきりしない。また職場のエーロゾル中の超微粒子の観察される健康影響への寄与はまだ結論が出ておらず、現在積極的に研究が行われている。

 一般の人々を対象にした疫学的研究は、微粒子大気汚染と、呼吸器系疾患及び心臓血管疾患の罹患率及び死亡率の上昇との間の関連を示している[Dockery et al. 1993; HEI 2000; Pope et al. 2002; Pope et al. 2004]。いくつかの疫学的研究は、有害健康影響が汚染大気中の超微粒子への暴露を示しているが[Peters et al. 1997; Penttinen et al. 2001; Ibald-Mulli et al. 2002]、観察される有害健康影響における超微粒子の他の汚染物質に対する相対的な役割にははっきりしない点がある。

D.動物及び疫学的研究からの仮説

 動物実験及び人間の疫学的調査から報告された研究は、人工ナノ粒子の潜在的な健康影響に関するいくつかの仮説を導く。研究が続けられるに従い、もっと多くのデータが出てきて、これらの仮説を支持する又は否定することを可能にするようになるであろう。

1.人工ナノ粒子は、同様な物理的及び化学的性質を持ったよく特性化された超微粒子と同様な健康影響を持っているように見える。

 げっ歯類及びヒトの研究が、超微粒子の一種であるナノ粒子は同様な化学成分を持ち同じ質量で粒子がより大きい物質に比べてより大きな危険を呼吸器系に及ぼすかもしれないという仮説を支持している。既存の粒子の研究は、超微粒子(例えばディーゼル排気微粒子、溶接ヒューム)に暴露した労働者の有害健康影響を示しており、動物研究は、超微粒子は同様な成分を持ち同じ質量のより大きな粒子に比べてラットの肺で炎症及び腫瘍を起こす性質が高いことを示している[Oberdorster and Yu 1990; Driscoll 1996; Tran et al. 1999, 2000]。もし、人工ナノ粒子が超微粒子で報告された影響と関連するような同じ特性を持つなら、それらにはまた、同じ懸念があるであろう。

 既存の超微粒子と人工ナノ粒子は本質的に異なるかもしれないが、これらの研究から導き出される毒性学的及び処方学的な原理は人工粒子にも当てはまるかもしれない。粒子に関連する肺疾患(例えば、酸化ストレス、炎症、そして細胞分裂、炎症性細胞遊走因子(chemokines) 及び細胞成長要素の生成)[Mossman and Churg 1998; Castranova 2000] の生物学的メカニズムもまた超微粒子又はナノ粒子に対する肺の反応に関連するように見える[Donaldson et al. 1998; Donaldson and Stone 2003; Oberdorster et al. 2005]。毒物学的研究は、超微粒子の運命と毒性に影響を与える重要な要素である化学的及び物理的特性はナノ粒子に対してもまた重要であるということを示している[Duffin et al. 2002; Kreyling et al. 2002; Oberdorster et al. 2002]。

2.表面積と活性、粒子数、及び溶解性は、質量に比べて潜在的な危険性のよりよい予測指標である。

 同じ質量の場合、より大きな粒子に比べるとナノ粒子は粒子数又は表面積がより大きくなり、このことが潜在的な危険性がより大きくなることと関連している[Oberdorster et al. 1992; Oberdorster et al. 1994; Peters et al. 1997; Moshammer and Neuberger 2003]。この仮説は、様々なタイプの微粒子又は超微粒子に暴露したげっ歯類の研究(例えば、酸化チタン、カーボンブラック、硫化バリウム、ディーゼル排気ガス、石炭飛散灰、トナーなど)、及びナノ粒子を含むエーロゾルに暴露したヒトの研究(例えば、ディーゼル排気ガスや溶接ヒューム)で観察された影響に主に基づいている。
 これらの研究は、ある質量の粒子に対し、相対的に非溶解性のナノ粒子は同様な化学成分と表面特性を持つより大きな粒子よりも毒性が高いということを示している。微粒子及び超微粒子の研究は、表面活性が低い粒子は毒性も低いことを示している[Tran et al. 1999; Duffin et al. 2002]。しかし、たとえ固有の毒性が低い粒子(例えば酸化チタン)でも十分に高い粒子表面積で投与すると肺の炎症、組織のダメージ及び繊維症を引き起こすことが示されている[Oberdorster et al. 1992, 1994; Tran et al. 1999, 2000]。

 エンジニアリングを通じて、ナノ物質に特定の特性を持たせることができる。例えば、最近の調査は、フラーレンの分子構造を変更することにより(例えば水酸化によって)、水溶性のフラーレン(訳注:百科事典『ウィキペディアWikipedia)』のフラーレン解説)の細胞毒性が数桁のオーダーで減少することができることを示している[Sayes et al. 2004]。これらの構造変更は、おそらく実験動物で細胞膜のダメージと細胞死を起こすメカニズムである酸素ラディカルの発生を減少させることにより細胞毒性を減少することを示している。

 超微粒子の研究は、予備的なハザード又はリスク評価を行うための、そして更なるテストの仮説を設定するための有用なデータを提供するかもしれない。
 新たな人工ナノ粒子の潜在的な安全性又は有毒性を最もよく予測するこれらの特性を含んで、空気中浮遊粒子に関連する毒性と疾病の発症に影響を与える特定の粒子の特性とその他の要素についての更なる研究調査が必要である。

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