UCサンディエゴ2008年5月6日ニュースリリース
UCサンディエゴの研究者ら
腫瘍を小さな”ナノワーム(ナノ虫)”で標的にする

キム・マクドナルド

情報源:UC SanDieg Neews Release May 6, 2008 News Release
UC San Diego Researchers Target Tumors with Tiny ‘Nanoworms’
By Kim McDonald
http://ucsdnews.ucsd.edu/newsrel/science/05-08Nanoworms.asp

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年2月20日

 カリフォルニア大学サンディエゴ校、サンタバーバラ校、及びマサチューセッツ工科大学(MIT)の科学者らは、体の免疫防御システムからの有意な干渉なしに、小さな抗がんミサイルのように、血流中を移動することが出来るナノメートルサイズの”ナノワーム(ナノ虫)”を開発した。

 『Advanced Materials』誌の今週号で詳細に報じられることになっている彼らの発見は、1966年の科学映画”Fantastic Voyage”をしのばせるが、その映画では潜水艦が顕微鏡サイズに小さくなり、外交官の脳から凝血を取り除くために血流中に注入された。

分節構造の”ナノワーム”は磁性酸化鉄とポリマーのコーティングからなり腫瘍を見つけ、取り付くことできる。画像 Credit: Ji-Ho Park, UCSD
 ナノワーム(ナノ虫)を用いれば、医師は最終的には、従来の方法で検出するには小さすぎる成長中の腫瘍を標的にしてその位置を見つけることが出来る。腫瘍上の特徴を標的にして”貨物”を運ぶこれらの顕微鏡サイズの乗り物はまた、将来、体の他の部分に有害な影響を及ぼさずに高濃度でこれらの腫瘍に有毒な抗がん剤をもっと効果的に運ぶ手段を提供することが出来るはずである。

 ほとんどのナノ粒子は体の防御メカニズムによって認識され、数分以内に血流で捕獲されて血流から除去される”とこの研究チームを指導しがカリフォルニア大学サンディエゴ校の化学及び生物化学教授ミカエル・セイラーは述べた。これらのワーム(虫)がそのようにうまく機能する理由は、それらの形状の組み合わせと、ナノワームがこれらの自然の除去プロセスを回避出来るよう表面にコーティングしているポリマーである。その結果、我々のナノワームは何時間もマウスの体内を循環することが出来る。

 ”薬剤を添付すると、これらのナノワームが直接腫瘍に薬剤を届けるので薬剤の効能が増す”とこの研究の一部を担ったMITの健康科学テクノロジーの教授で医師であり生物技術者であるサンジェタ・バチアは述べた。”それらは正常な組織が暴露しないよう制限することによって有毒な抗がん剤の副作用を低減し、腫瘍と異常なリンパ節のよりよい診断を提供することが出来る”。

 科学者らは彼らのナノワームを、長さが約30ナノメートル、すなわちミミズより約300万倍小さい粘着質の虫状の構造にするために、ナノワームをミミズのセグメント(分節)のようにつなげた球形の酸化鉄ナノ粒子から作り出した。彼らの酸化鉄成分は、ナノワームが診断装置、特にMRI(magnetic resonance imaging/磁気共鳴イメージング)、腫瘍を探すために使われる機械、ではっきり見えるようにすることを可能にする。

 ”ナノワーム中で使用される酸化鉄は超常磁性の特性を持ち、MRI中で非常に明るくはっきり見える”とセイラーは述べた。”典型的にはひとつのナノワームで8個の酸化鉄セグメントの磁性を結合すれば、セグメントが分離している場合に観察されるであろう信号よりはるかに大きな信号を得ることが出来る。これはより小さな腫瘍を見るために優れた能力であり、がんの初期段階で医師ががんを診断できることを期待される”。

 生体高分子デキストラン(訳注:血漿の代用とする多糖類)に由来するポリマー・コーティングに加えて、科学者らはナノワームを腫瘍に特化した標的分子でコーティングしたが、それは 生物学者でありUCサンタバーバラのバーンハム医学研究所の教授エルッキ・ルオスランテの研究室で開発されたF3と呼ばれるペプチドである。このペプチドが腫瘍を標的としてナノワームを届けることを可能とする。

 ”その細長い形状のために、ナノワームは腫瘍の表面に同時に結合することが出来る多くのF3分子を運ぶことが出来る”とセイラーは述べた。”そして、この共同効果はナノワームが腫瘍に取り付く能力を著しく向上させる”。

 科学者らは彼らの実験で、ナノワームを腫瘍のあるマウスの血流に注入し、腫瘍上のナノワームの凝集を追求することによって腫瘍場所にナノワームが届くことを確認することができた。彼らは、ナノワームが同様なサイズの球形ナノ粒子が免疫システムによって血中から除去されるのとは違い、血流中に数時間留まることを見出した。

 ”ナノワームが血流中に留まる時間が長ければ長いほど目標を攻撃する機会が多くなるので、このことは重要である”とセイラーの研究室で働く物質化学工学専門のUCサンディエゴの大学院生ジホ・パクは述べた。

 パクは、ナノ粒子の凝集体である粘着性ナノワームはサイズが比較的大きいにも関わらず、数時間、血流中に留まるということを偶然発見したという背景が、彼の研究に対する推進力となっている。

 科学者らにとって”ナノワーム”の柔軟な動きがなぜなのかはまだ明確ではないが、細長い一次元構造であることが血中での長時間寿命のひとつの理由かもしれないとパクは述べた。

 研究者らは現在、ナノワームに薬剤を添付する方法の開発、及びナノワームを体内の特定の腫瘍、器官、その他の場所に運ぶことができる特定の化学的な”郵便番号”でナノワームの外部を処理する方法の開発に取り組んでいる。

 ”我々は現在、次世代の知的な腫瘍標的ナノディバイスを構築するためにナノワームを使用している”とルオスラティは述べた。”我々はこれらのディバイスががんの診断用イメージングを向上させ、がん様腫瘍の治療においてピンポイント標的を可能とすることを希望している”。

 この開発に関わった他の研究者らは、Michael Schwartz of UC San Diego, Geoffrey von Maltzahn of MIT, and Lianglin Zhang of UC Santa Barbara. The project was funded by grants from the National Cancer Institute of the National Institutes of Health である。


化学物質問題市民研究会
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