シドニー・モーニング・ヘラルド 2017年7月2日
潜在的に有害なナノ粒子がオーストラリアの 乳児用粉ミルクから検出された エスター・ハム 情報源:The Sydney Morning Herald, July 2, 2017 Study finds potentially toxic nanoparticles in Australian baby formula By Esther Han http://www.smh.com.au/business/consumer-affairs/study-finds-potentially -toxic-nanoparticles-in-australian-baby-formula-20170622-gwwb2j.html 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2017年8月9日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/170702_Study_finds _potentially_toxic_nanoparticles_in_Australian_baby_formula.html 潜在的に有害な微小の針状ナノ粒子がオーストラリアの乳児用粉ミルク中で見いだされた。
通常のハイドロキシアパタイトは自然由来で、骨や歯を強くするカルシウムの多い鉱物であり、したがって粉ミルク中にそれが存在したことは理解できる。時には、栄養補助食品として使用される。 しかし、ある健康専門家らは、それが針状でナノサイズであることを懸念している。その極めて小さいサイズがもたらす独自の特性と挙動のあるものは未知であり、有害かもしれないからである。 欧州諸国は、そのような粒子を潜在的な危険性のために、練り歯磨きのような口腔ケア製品から排除することを検討している。 アリゾナ州立大学(ASU)にテストを委託した地球の友((FoE)オーストラリアは、潜在的に有害なナノ粒子がオーストラリアの食物供給中だけでなく(訳注2)、乳児用粉ミルク中に存在していることが明らかになったのだから、規制当局は直ちに影響を受ける製品を回収し、さらなるテストを実施すべきであると述べた。 FoE オーストラリアは、針状ナノ・ハイドロキシアパタイト(水酸燐灰石)は潜在的に有害であり、歯磨きや歯ブラシのような口腔ケア製品中で使用されるべきではないと結論付けた欧州連合の消費者安全科学委員会(SCCS)による最近の研究(Opinion on Hydroxyapatite (nano) )を引用している。その研究はまた、これらのナノ粒子は、(申請者によれば) ”完全に合成物質(fully synthetic)”であるとしている。 ”それが練り歯磨き中で危険なら、乳幼児用粉ミルク中でも使用されるべきでないことは明らかである”と、FoE のジェレミー・ターガー氏は述べた。 ”赤ちゃんの免疫系はまだ発達中であり、乳児用粉ミルクはしばしば、乳児が摂取する”唯一の食物なので、赤ちゃんは食物の安全リスクに特に脆弱である”。 オーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ)は、人工のナノ粒子が食品中で使用されているのかどうか、もし使われているならそれらは消費者に安全なのかどうか、明確な回答をしなかったとターガー氏は述べた。 同基準局(FSANZ)の報道担当官は、アリゾナ州立大学(ASU)の研究は、当該粉ミルクが公衆の健康と安全のリスクを及ぼしたかも知れないことを示唆するどの様な新たな情報も、もたらさなかったと述べた。 同基準局(FSANZ)はまた、欧州連合の消費者安全科学委員会(SCCS)の潜在的な毒性についての結論を退けて、その研究は口腔ケア製品に関連する ”不十分な” データに基づいており、したがって、乳児用粉ミルク中の微量のナノ・ハイドロキシアパタイトへの関連性は限定的であると述べた。 ”サイズにかかわらず、添加物スケジュール中にない物質が食品中に存在しても、そのことが安全の懸念があるということを意味するわけではない”と報道官は声明の中で述べた。 ”ナノスケールの粒子、又はそうでない粒子は、食品のプロセス技術の結果として、食品中に非意図的に存在することはあり得る”。 オーストラリアで販売されている全ての乳児用粉ミルクは 食品基準コードに厳格に合致しなくてはならず、 許可された添加物及び栄養物質だけが含むことを許される。 地球の友アメリカが昨年、委託した同様な調査と結果に対して、FSANZ はそのウェブサイトに、ナノスケールの二酸化チタンと二酸化シリコンはもちろん、ナノスケールのハイドロキシアパタイト(水酸燐灰石)は、”オーストラリア及びニュージランドでは乳児用粉ミルクの添加物又は鉱物の形態として許可されていない”とする見解を発表した。 フェアファクス・メディア(訳注:シドニー・モーニング・ヘラルド紙の親会社)は、FSANZ がアリゾナ州立大学(ASU)の調査はオーストラリアの乳児用粉ミルクであったということに気付いてから、そのウェブページを削除したと理解している。 FSANZ は、なぜそのウェブページを取り下げたのか、又はそれは見解の変化を反映したものなのかについての質問に答えなかった。 乳児用粉ミルクの中で使用される、安全使用の実績のない、又は ”異なる形状/構造を持つ、又は本質的に異なる手法や技術を使用して製造される” どのような物質についても、上市前評価を実施すべきと述べている大臣政策ガイドラインに従わなくてはならないということを考慮した時に、それをしていないことが適切なのかという質問に答えなかった。 FSANZ は、針状ナノ・ハイドロキシアパタイトを新規、非在来、又は新奇食品と考えるのかどうかについての質問に答えなかった。 ネスレとファーマケアの説明 ナノテクノロジーは、急速に開発されており、食品会社は、1メートルの10億分の 1、又は毛髪幅の 1万分の 1 のスケールに加工された人工のナノ粒子を、食品の味や香り、そして賞味期限を改善するために、ますます食品中で使用するようになっている。 欧州連合の消費者安全科学委員会(SCCS)報告書は、原材料中のナノ・ハイドロキシアパタイトは、”完全に合成物質(fully synthetic)”であると述べ、アリゾナ州立大学(ASU)の調査チームを率いたポール・ウェスターホッフ教授は、フェアファックス・メディアに対して、彼が知る限り、針状タイプのものは”人工(man-made)”であると述べた。 ターガー氏は、このことはナノ粒子が意図的に乳児用粉ミルクに加えられたことを示していると述べた。 ネスレと、ネイチャーズウェイを所有するファーマーケアの両社は、彼らの乳児用粉ミルクにナノテクノロジーやナノ粒子を使用しておらず、彼らは製品の品質と手順を維持していると述べた。 世界の乳児用粉ミルク市場で最大のシェアをもつネスレは、ナノ粒子は粉ミルク製造のプロセス中できっと生成されたにちがいないと述べた。 ”針状ナノ・ハイドロキシアパタイト粒子は、・・・天然由来のものか、又は非意図的なナノ粒子である”と、報道担当者は述べた。 ”対照的に、工業ナノ粒子はナノスケールで意図的に製造され、形状、サイズ、又は表面特性に関連する非常に特定の特性を持つよう設計される”。 ネスレは、 SCCS 報告は”関連性があるとは考えてない”と述べ、誰かが製造プロセス中に知らないでナノ粒子を加えたかもしれないという示唆を、そのようにする理由はないとして、はねつけた。 ネスレは、 NAN HA 1 Gold は 2016年の初めに純粋に商品戦略の理由で廃止されたと述べた。 オーストラリア人が所有するファーマケア研究所は、その乳児用粉ミルク Kids Smart は食品基準コードに準拠しており、また製造者と供給者はハイドロキシアパタイトは添加されていないと明言したと、述べた。 ”製造手順は非常に基本的な 3 つの成分の混合であり、他の物質が加えられる余地はない”と、その国内製造者は述べた。 ”ハイドロキシアパタイトに関しては、添加されるカルシウムの大部分は炭酸カルシウムに由来するので・・・、微量のハイドロキシアパタイトが存在することは想像できる”。 ファーマケアはまた、アリゾナ州立大学(ASU)の30分間の超音波処理を含むテスト・プロセスが通常の粒子をナノ粒子に分解したという可能性を提起した。 ウェスターホッフ教授は、”そうではない。我々が人工物として針状粒子を生成することは不可能である。我々は多段階のバリデーション・プロセスを通じて確認した”と述べて、その示唆を封じた。 確かなことは、7つのサンプルのうち、2つに針状ナノ・ハイドロキシアパタイトが含まれていることが発見されたことであり、欧州連合の消費者安全諮問機関がそれは合成物質であり、潜在的に有害であると述べたことである。 他の 5 製品に関して、Heinz Nurture Original 1 は直方体ナノ・ハイドロキシアパタイトを、Aptamil Profutura 1 と Blackmores Newborn Formula はカルサイト(方解石)ナノ粒子を含んでいることが発見された。これらのナノ粒子の安全性に関するデータは不十分であった。 残りの二つの乳児用粉ミルクはナノ粒子を含んでいなかった。Karicare Plus 1 及び A2 Platinum 1 である。 サイズと形状が問題なのか? FSANZ は、乳児用粉ミルク中で検出されたハイドロキシアパタイトの非常に小さいサイズと針状については、”胃の中で簡単に溶解する”ので、心配していないと述べた。 どのような安全問題もその成分であるカルシウムとリン酸塩に関連するが、それらは”有益であり、乳児用粉ミルクに添加することが求められる”と、FSANZ は述べた。 しかし、多くの専門家らは、ナノ粒子は化学的により活性であり、様々な器官や個々の細胞にすら蓄積するようなので、安全性とリスクの評価が必要であると信じている。 彼らはサイズと形状は、無害の物質を有害なものに変えることがあり得ると述べている。 しかし、キャンベラ大学毒性学及び薬学准教授アンドリュ・バルトロメウスは FSANZ に同意して、 FoE はデマを流していると述べた。 FSANZ の前リスク評価部門長である彼は、ハイドロキシアパタイトの結晶は胃の中で溶解するのでそれらのサイズや形状は無関係であると述べた。 ”例えわずかな量が吸収されても、自然由来のハイドロキシアパタイトの結晶が我々の体内で処理される様に、組織中で処理されるであろう”と、彼は述べた。 会社の主張を確認しつつ、大量の針状結晶は人工的に作らなくてはならないかもしれないが、このことは少量のものは天然に産することはないということを意味しないと、彼は述べた。 ”二つの表面をこすり合わせるだけでナノ粒子は生成される”と彼は述べた。”人間の母乳はナノ食品であり、アイスクリームもそうである”。 しかし、オーストラリア国立大学法律校及び医学校教授トーマス・ファンスは、そのナノ粒子がリスクフリーであるということには疑いがあると述べた。 ”胃酸がその大部分を分解するかもしれないというのは真実であるが、頬または歯茎からの吸収という問題に応えていない”と彼は述べた。 ”赤ちゃんがミルクを口に入れて飲むのを見れば、それは EU の消費者安全科学委員会(SCCS)が練り歯磨き中のナノ・ハイドロキシアパタイトが頬から吸収されることを問題にしたのと同じ問題である”と、彼はつづけた。 ”赤ちゃんの場合は、免疫系と神経系がまだ発達中なので、より問題がある”。 アリゾナ州立大学リスク・イノベーション・ラボのディレクターであるアンドリュー・メイナード教授は、最終的には、乳児用粉ミルク中のナノ粒子が健康リスクをもたらすという彼を納得させる証拠はないと述べた。 ”それどころか、それらは急速に胃の中で溶解するといういくつかの証拠があり、したがってそれらのサイズ及び形状がもたらすとするどのような不確かなリスクも低減し、排除される”と、彼は述べた。 ”そうは言っても、もしそれらが乳児用粉ミルク中で使用され続けるなら、そのナノ粒子の安全性を確立するために、製造者と規制当局は更なる研究を支援することが賢明であろう”。 FoE のターガー氏は全ては予防原則に帰着すると述べた。 ”安全であることの証拠がないときに、安全が確認されるまで、そのような物質の使用を禁止するために予防原則が適用されるべきであると、我々は主張する”と、彼は述べた。 このことは、不可能な立証基準を意味するのではなく、安全の証拠がないことを十分な基準として単に受け入れるのではなく、安全を究明するための作業に着手することを意味する。 訳注:関連記事 訳注1:針状ハイドロキシアパタイト
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