BBC News 2010年5月20日
”人工生命”の進歩
科学者らが発表

情報源:BBC News, May 20, 2010
'Artificial life' breakthrough announced by scientists
By Victoria Gill
Science reporter, BBC News
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science_and_environment/10132762.stm
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2010年7月7日


アメリカの科学者らは人工DNAによって完全に制御される最初の生細胞を開発することに成功した。

 研究者らは、バクテリアの”遺伝子ソフトウェア”を構築し、それを宿主細胞に移植した。
 それは微生物になり、人工DNAによって”指図”される生物種のように見え、振舞う。

 『Science』に発表されたこの成果は科学における画期的な出来事として喝采されているが、批評家は人工生物によって脅かされる危険があると述べている。
 ある人々は、この技術の潜在的な便益は誇張されていると示唆している。
 しかし、研究者らは、医薬品や燃料、そして最終的には温室効果ガスさえ吸収するバクテリア細胞を設計することを希望している。

 この研究チームは、メリーランドとカリフォルニアにあるJ・クレイグ・ベンター研究所(J.Craig Venter Institute)のクレイグ・ベンター博士に率いられた。
 彼と同僚らは以前にも合成バクテリアのゲノムを作り、ひとつのバクテリアのゲノムを他のバクテリアに移植した。
 今回、科学者らは両方の手法を統合し、彼らが”人工細胞”と呼ぶものを作ったが、実際にはそのゲノムだけが真に人工的である。
 ベンター博士はこの成果を細胞のための新たなソフトウェア作りに関連付けた。
 研究者らは既存のバクテリアのゲノムをコピーした。彼らは遺伝子コードを配列し、化学的にコピーを作るために”合成マシン”を用いた。

 ベンター博士はBBCニュースに次のように述べた。”我々は今、人工染色体を取り出し、それを異なる生物である受容細胞に移植することができるようになった。”
 ”この新しいソフトウェアが細胞に届くとすぐに細胞は、それを読み込んで、遺伝子コード中で特定された生物種に変換する”。
 1億回以上複製された新たなバクテリアは、構築された人工DNAを含み、それによって制御されるコピーを生成する。
 ”どのような人工DNAであれ、それが細胞の完全な制御を行なったのは初めてのことである”とベンター博士は述べた。

新たな産業革命
 ベンター博士と彼の同僚らは最終的には、有用な機能を発揮するであろう新たなバクテリアを設計し、それを作ることを希望している。
 ”それらは潜在的に新たな産業革命を作り出そうとしている”と彼は述べた。
 ”もし本当に、我々が望む生成をもたらす細胞を得ることができるなら、それらは我々から石油依存をなくし、二酸化炭素を捉えることにより、環境へのダメージのいくらかを回復することに役立つであろう”。
 ベンター博士と彼の同僚ら、有用な燃料と新たなワクチンを製造するであろうバクテリアのための染色体を設計し、開発するために、製薬会社及びと燃料会社とすでに連携している。

 しかし、批評家らは人工生物の潜在的な便益は誇張されていると述べている。
 遺伝子技術の開発を監視している組織であるジェネウオッチのヘレン・ワーレス博士はBBCニュースに人工バクテリアは危険であると述べた。
 ”もし、新たな生物を環境中に放出すれば、よいことよりももっと有害なことをすることになる”と彼女は述べた。
 ”汚染を浄化するために、それらを汚染場所に放出することにより、実際には新たな種類の汚染を放出することになる”。
 ”我々にはこれらの生物が環境中でどのように振舞うのかわかっていない”。

 ワーレス博士は、ベンター博士が潜在的な問題点を軽視していると非難した。
 ”彼は神ではない。彼はまさに人間である。彼は技術に投資した金を回収し、その使用を制限するような規制を回避しようとしている”と彼女は述べた。
 しかし、ベンター博士はこの比較的新しい科学分野を統制する規制について及びこの仕事の倫理的影響について、議論を推進”しているのだと述べた。
 ”2003年に我々が最初に人工ウイルスを作ったときに、ホワイトハウスのレベルまで上げられた広範な倫理的レビューを受けた”と彼は述べた。
 ”そして、米国科学アカデミーの広範なレビューを受け、同アカデミーはこの新たな分野に関する包括的な報告書を作成した”。
 我々は、これらは重要な課題であり、我々は議論を続けることを強く促し、我々はそれに参加したい”。

倫理的議論
 ケンブリッジ大学の遺伝子学者ゴス・ミクレム博士は、この進歩は疑いなく画期的な”研究であると述べた。
 しかし、”広範な生物の遺伝子を操作するための簡単で、安価で、強力で、成熟した豊富な技術がすでに存在する。したがって当面はこのアプローチは遺伝子操作の既存技術を置き換えるものであるようには見えない”と彼は述べた。

 合成又は人工生命の生成を取り巻く倫理的議論は続く。

 オックスフォード大学の実践的倫理学オクスフォード・ウエヒロ センターのジュリアン・サヴァレスキュ教授は、この科学の潜在能力は”はるか将来のもの”であるが、しかし現実的で重要なものであると述べた。
 ”しかし、リスクもまた空前のものである。我々はこの種の先進的な研究とそれらの軍事的又はテロリストの使用や乱用を防止するための安全性評価の新たな基準を必要とする”と彼は続けた。
 ”これらは将来、想像しうる最も強力な生物兵器を作るために用いられるであろう。課題はこの果物を害虫を寄せ付けずに食べることである”。

 この長所は生物テロリズムの形で危険を及ぼすことはないとベンター博士は述べた。
 ”それはアメリカでは、マサチューセッツ工科大学(MIT)及びワシントン国防シンクタンクからの報告書で広範囲にレビューされ、新たな危険性は非常に小さいとするされた”。
 ”ほとんどの人々は、有害性がわずかに増大すると言うことには同意している。しかし、社会に対する便益は対数的な増加がある”と彼はBBCニュースに述べた。
 来年あなたが受けるインフルエンザのワクチンはこれらのプロセスによって開発されているかもしれない”と彼は述付け加えた。


訳注:関連情報
FoEオーストラリア 2010年5月20日
実験室での世界初の人工生命の生成 規制当局に対する警鐘

 本日、ジャーナル「Scienc」に発表された記事で、問題あるアメリカの科学者−事業家クレイグ・ベンターによって率いられた研究チームがゼロから、世界初の人工生物を作り出したと発表した。科学におけるこの最新の成果である”playing God(不法執刀:映画)は、前例のない生物学的安全性(biosafety)、安全保障、倫理、法に対する挑戦であるにも関わらず、オースラリア政府は合成生物学の新たなリスクを管理する能力がない。
 合成生物学的生物は、農業燃料、農業、製造業、環境浄化、医薬品、及び軍事での利用が喧伝されている。FoEインターナショナル、ETCグループ、その他は、合成生物学は前例のない新たな生物安全性、安全保障、倫理及び法に対する挑戦であると2006年に警告した。本日、オーストラリア国立大学生物安全性センターは人工生物は化学兵器として使用される可能性があるとして警告を発した。

 クレイグ・ベンター研究所は、安全性について問題を起こしているBPエクソン・モービルから基金が出ている。この議論ある分野に産業側は強い関心を示しているにもかかわらず、アメリカには合成生物学の政府監視のためのメカニズムが文字通り存在せず、そこでこの人工生物が開発されたが、ここオーストラリアでも多くの大学がすでに合成生物学的研究に関わっている。

 FoEオーストラリアは、オーストラリア連邦政府が数百のナノ製品が市場に出ていることについて未だに対応できず、ほとんどの製品中でのナノ物質の使用は効果的に規制されていないことを懸念している。
 ナノテク規制の失敗が合成生物学で繰り返されてはならない。我々は、義務的な予防に基づく規制が実施されずに合成生物学的生物が商業的に利用され又は環境に放出されることを許してはならない。

 本日の発表は規制当局に対する警鐘である。合成生物学はもはや将来の技術ではない。それは現在起きており、そのリスクは強い政府の対応を求めている。


化学物質問題市民研究会
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