ニューヨークタイムズ 2009年11月21日報道の紹介
研究室からコレストロールに向けた新兵器

情報源:The New York Times, November 21, 2009
From the Lab, a New Weapon Against Cholesterol
http://www.nytimes.com/2009/11/22/business/22novel.html?_r=1

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年2月26日


 血流を通じてコレストロール(訳注1)を運ぶ粒子は一般的に、”悪玉”叉は”善玉”として知られている。悪玉は、もし血管内壁に堆積すると血管を詰まらせる可能性があり、一方、善玉はそれらを肝臓に運び排泄させる。

 現在、科学者らは研究室で、コレストロールが成長して危険なプラーグになる前に取り除く善玉キャッリアー(運搬体)を模倣する小さな粒子を作り出した。これらの新たな粒子の表面は脂質とたんぱく質でコーティングされているので粘着性のコレストロールしっかり結びつけ、それを血流を通じて運搬する。

 この粒子はいつの日か、心臓血管系の疾病の治療に重要となるとカリフォルニア大学ロサンゼルス校ナノテクノロジー環境影響センターのディレクターでナノ医療部門のチーフであるAndre Nel博士は述べた。

 ”研究者らは、これらの人工の粒子に血中を循環する自然の粒子、高密度リポタンパク質(HDL)と同じ特性を与えた”と彼は述べた。この人工の運搬体は、除去しなければ血管が破裂して、脳卒中(脳梗塞)や心臓発作(心筋梗塞)をもたらすプラーグを取り除くことが出来る。

 この粒子は心臓血管系の治療だけでなく、診断にも有用かもしれない。研究者らは、医療イメージングによく映るように粒子の中心に金やその他の金属芯を配置したとNel博士は述べた。そのようなイメージングは、例えば血管中に形成されるプラーグを監視するために使用することが出来る。

 この人工のHDL(善玉)ナノ粒子はノースウェスターン大学シカゴ キャンパスでC. Shad Thaxton 博士と Chad A. Mirkin 博士らにより作り出された。彼らはこの技術を商品化するためにAuraSenseという会社を設立した。

 ノースウェスターン大学の研究者らは自然のHDL(善玉)分子中に見出される脂肪核(fatty core)を金ナノ粒子で置き換えたとMirkin 博士は述べた。”金の核は自然に生成されるHDLの表面上にあるものと同じ分子を添付するために足場として機能する”と彼は述べた。”我々は、合成HDLが研究室だけでなく動物実験でもコレストロールを非常に強く結びつけることを示した”。同グループは動物実験のパイロット研究を実施したが、直ぐにもっと規模の大きな、動物を使用する研究を開始するであろうとThaxton博士は述べた。

 マンハッタンのマウント・サイナイ医科大学の助教授Willem J.M. Mulder博士らは、おもにイメージングと診断の用途に意図されたHDL様ナノ粒子を開発した。この粒子は使用されるイメージングのタイプに依存して金叉は他の金属の核を持っている。

 ”我々の関心のひとつは、プラーグによって引き起こされるアテローム性動脈硬における生物学的プロセスのイメージングである”と彼は述べた。

 金のナノ粒子は、コンピュータ断層写真と呼ばれるイメージングのタイプのひとつでよく映え、酸化鉄ナノ粒子は磁気共鳴イメージング(MRI)でよい画像が得られると彼は述べた。

 ノースウェスターンとマウント・サイナイのグループの研究はアテローム性動脈硬化プラーグのある人々にいつか役に立たせることになるであろうと、セントルイスにあるワシントン大学医学部のGregory M. Lanza教授は述べた。

 ”これらのグループは両方とも、HDL様ナノ粒子はコレストロールを吸収することが出来る”と彼は述べた。いつか、このグループによって生成されたこのような粒子は、心臓疾患の治療に組み込まれるかもしれないと彼は述べた。”それらは、食事、非喫煙、及びコレステロールの合成を阻害する薬剤であるスタチン(statins)等と共に、アテローム性動脈硬化に対する管理の一部となるかもしれない”。

 しかし、そうなるためにはもっと多くの研究が必要であろうとUCLAのNel博士は言う。”我々は金ナノ粒子が体内に蓄積したときに何が起きるのかを調べなくてはならない”と彼は述べた。”これは、薬剤を長期間投与する慢性疾病の治療にとって問題である”。

 アーモストのマサチューセッツ大学の化学教授でナノ粒子を研究する Vincent M. Rotello教授はこの意見に同意して、”現在、ナノ粒子は診断と急性疾病の治療には素晴らしいが、この粒子を治療に使用する前に解決されるべき問題がある”と彼は述べた。

 ”金は有毒ではない。しかし体内に蓄積する。我々はその蓄積の影響を知っていない”。粒子が小さければ排泄されると彼は述べた。しかし、より大きな粒子は肝臓に蓄積するかもしれない。マイアミ大学ミラー医学校臨床科長ウイリアム・オニール博士ほこの人工粒子を歓迎した。”もし我々がそれらに副作用がないことを証明することができれば、冠動脈中のプラーグを小さくする薬剤として投与することが出来るであろう。それは心臓病学に革命を起こすことになる”と彼は述べた。


訳注1:コレストロール
「健康が一番!」ウェブサイト/コレステロールについて



化学物質問題市民研究会
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