Nanowerk 2009年11月17日
私がナノテク消費者であったことを
誰も告げてくれなかった!

マイケル・バーガー

情報源:Nanowerk News, November 17, 2009
Dude, nobody told me I was a nanotechnology consumer!
By Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=13566.php

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年12月4日


 【Nanowerk Spotlight】ナノ物質を含んでいる又は含んでいると主張している消費者製品はあらゆるところに出現している。我々は今、よいゴルフ・ボール、抗菌ソックス、透明な日焼け止め、キズの付かないメルセデスのリムジンを持っていることは素晴らしい。市場における非凡な才能の持ち主のおかげで、我々はまた、ナノ銀泡スプレー(女性用)コンドーム、ナノシール美顔用クリーム、ナノティー(お茶)(参照:The wacky world of nanotechnology consumer products)を手に入れることが出来る。ナノテクノロジー製品目録に目を通すと、現在の”ナノテクノロジー”製品は、コンピュータや消費者用電子機器中でますます見られる先進的な半導体は別として、全く”原始的”であり、ナノエレクトロニクス(ナノ電子)やナノメディシン(ナノ医学)における画期的な製品と応用という約束とはかけ離れていることが明白になる。がんを治療したり世界を救うというような代物ではまったくない。わくわくする様な先駆的な仕事が世界中の研究室でなされているが、この画期的な仕事が商品化されるまで数年かかるであろう。

 今日のほとんどの製品は、なんらかの形でナノ粒子を含んでいるので、”ナノテクノロジー製品”として定義されている。例えば、多くの抗菌コーティングはナノスケール形状の銀を含んでいる。食品と化粧品はナノ粒子を含んでいる。薬剤調合はナノスケール成分からなる。ある製品は機械的強度を向上させるためにナノ物質(例えばカーボンナノチューブ又はカーボンナノファイバー)を含んだ合成材料をその一部としている(参照:part 7 - 'commercial applications' of our "Ten things you should know about nanotechnology" series)。

 ノルウェー国立消費者研究所(SIFO)の二人の研究者、ヘラルド・スローンホルストパル・ストラドバッケンはナノテクノロジー世代における消費者の権利は自明ではなく、強化されなくてはならないものであり、消費者に権限を与え保護するために、ある程度、再定義され、確実に消費者の手に復権されなくてはならないと主張している。

 ”ナノ対応の市場製品に関する消費者の反応と影響は学問の世界を超えた関心ごとである”とストラドバッケンは Nanowerkに述べた。”もし、これらの製品のひとつ又はそれ以上が甚だしい不具合を起こす又は深刻な健康や環境へのダメージを引き起こせば、それは消費者の信用と支持に、したがって、これらの将来性のある技術の更なる開発に、重大な影響を及ぼすに違いない。もし、消費者がナノテクノロジーを用いて製造された製品に用心深くなれば、財政的及び政策的支援がなくなるかもしれない。我々の研究の焦点は市場向きの製品なので、この文脈において消費者の権利を検証することに妥当性があると考える。高い投資がなされ将来性のあるそのような新たに出現している市場における消費者の権利の状況はどのようになっているのであろうか?”

 Journal of Consumer Policyの2009年11月4日オンライン版で『私がナノ消費者であったことを誰も告げてくれなかった−ナノテクノロジーは消費者の権利という考えにどのように挑戦しているか('Nobody Told Me I was a Nano-Consumer:' How Nanotechnologies Might Challenge the Notion of Consumer Rights)』を書いた二人のノルウェーの研究者は、消費者団体、広告の内容分析、化粧品の容器とラベル、ノルウェー人消費者調査などから得たデータに基づきこの報告書を作成した。

 スローンホルストとストラドバッケンの分析の概念的出発点は、1962年に元米大統領ジョン F.ケネディによって提唱された有名な4つの基本的消費者権利、すなわち、安全が保証される権利(The Right to Safety)、情報が与えられる権利(The Right to be Informed)、選択する権利(The Right to Choose )、意見が聞き届けられる権利(The Right to be Heard)である。

 ”これらの権利の法的状況の分析は消費者法に関する学者に任せるとして、この概念の基本的な考えは、これらは消費者が目を向けるべき権利であり、消費者はそれらが侵害されている場合には当然の権利として主張することが出来るという原則である”とスローンホルストは述べている。”たとえ、これらの権利がはしばしば明示的に述べられていなくても、EUの消費者保護政策のほとんどの背景を形成している。我々の前提となる仮説は、これら4つの消費者の権利は、それが導入された当時は革命的であり必要であったが、今日の西欧社会ではほとんど自明であり議論の余地がないと考えられるということである。したがって、新しい技術からもたらされる製品が市場に導入されても、それらの権利がほとんどの消費者製品市場で危険に曝されることはないと我々は考える。ほとんどの消費者がしているように、我々は4つの権利が広く一般的に尊重されると仮定する”。

 二人のSIFOの研究者の目標は、ノルウェー消費者の実験的研究に基づいて、ナノ対応製品の市場におけるこれらの権利のそれぞれを評価し、消費者のナノテクノロジーに関する再帰性(reflexivity)(訳注1)を評価することであった。そして彼らは次のような疑問を取り上げた。従来の消費者団体の中で消費者のそれぞれの権利の状況はどうか? これらの権利に関連する課題はどのように公衆の対話の中で表現されているか? 彼らはどのように理解し、どのようにナノ対話に参加しているのか?

 ”我々の注目する点は個々の消費者の不平ではなく、ガバナンス・モデルにおける政治的主体として政治に影響を与える組織された消費者の権利である”とスローンホルストは述べている。”消費者パワーの組織はナノテクノロジー製品に関する消費者政策に明らかに関連している”。

 消費者団体の調査及び代表的なノルウェー消費者調査に基づき、スローンホルストとストラドバッケンは次のような結論に達した。

 安全に対する権利については、一般的に規制の枠組み、そして特にREACHはナノテクノロジーを十分にカバーしないと主張する。さらに異なる国家の、地域の、世界の取り組みは、むしろばらばらで、よく調整されていないように見える。OECD ナノテクノロジー作業部会(WPN)は、調整しこれらの取り組みに拍車をかけるために、力を結集し市場をもっと透明にすることによって、その努力を増大すべきである。

 情報が与えられる権利に関しては、消費者に知らせ教育するもっとよい方法の余地がある。消費者団体は入手可能な情報が欠如していることについて懸念した。政府と社会的主体は、製品中でナノテクノロジーを使用することに関連する問題についての社会的な議論を推進すべきである。市場の透明性及び、需要側としての消費者組織とともに供給側としての産業や小売業者との継続的対話が促進されるべきである。義務的ラベル表示要求はもうひとつの選択肢である。

 後者はまた選択する権利を支えるものである。消費者団体はナノ対応製品と高品位非ナノ代替品を市場で選択できるることを望んでいる。製造者らは、製品特性がナノ粒子に由来するかどうかについて製品上に及び/又は販売の時点で、意味のある製品情報を提供すべきである。例えば、布製品に”抗菌剤”と表示されているだけでは役に立たず、具体的なのナノ粒子について記述されるべきである。

 最後に、意見が聞き届けられる権利は、適切な消費者代表を通じて、そして消費者組織のための適切な財政的支援を通じて確実になされなくてはならない。

ミカエル・バーガー(Michael Berger)


訳注1 Freezing Point 再帰性 (reflexivity)
諸個人がみずからの行為に関する情報を、その行為の根拠について検討・評価し直すための材料として活用すること


化学物質問題市民研究会
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