Nanowerk 2009年5月25日
ナノテクノロジー規制
国際的なアプローチ

マイケル・バーガー

情報源:Nanowerk News, : May 25, 2009
Nanotechnology regulation - international approaches
Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=10791.php

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年5月27日


【Nanowerk Spotlight】 カナダのカールトン大学公共政策行政校の最近の報告書『International Approaches to the Regulatory Governance of Nanotechnology (ナノテクノロジー規制的管理への国際的なアプローチ)』は、5か国・地域(米国、英国、EU、豪州、カナダ)がどのように市場における最近のナノテクノロジーベースの製品に対応したかの概要と、そのことがどのように次の3つの領域における活動の引き金となったか述べている。(a) 公衆と利害関係者の議論、(b) 初期政策意見の展開、(c) データ不足の状態における規制的管理の展開。

 報告書の大部分は、5か国・地域における現在の状況(2009年3月まで)を述べており、この部分は特に他でカバーされていないような新たな情報は含んでいない。しかし、このデータの分析にあたり、著者らは(カールトン大学規制的管理イニシアティブのジェニファー・ペレイとマーク・サナー)、いくつかの興味ある観察をしており、彼らは規制者の検討用に6つの規制的管理原則(regulatory governance principles)の提案の展開を試みている。

 ”ナノテクノロジー政策開発に対する各国・地域のアプローチはどこも非常に似ている。各国・地域の大部分でとられる政策開発における第一段階はナノテクノロジーに関する戦略(又は政策声明)の発表である。OECDのナノテクノロジーに関する作業部会によって作成されたドラフト文書は、2008年現在、調査した24 OECD 諸国のうち17か国(71%)が、国家政府及び/または政府機関レベルでナノテクノロジーに特化した戦略を開発していることを示している。米国、EU、豪州の全てはナノテクノロジー戦略と明示している。英国もまた、戦略とは称していないが特化したものを持っている。

 検証した各国・地域の大部分はナノテクノロジー規制に関する政策声明を追加的に発表している。ペリーとサナーは、これらの声明は二重の目的に資するよう設計されていると主張する。”一方では、これらの声明は、当該国・地域はナノテクノロジーの開発を継続することを約束し、したがって企業がこれらの国・地域で投資することが安全であることを産業側に伝えている。
 他方では、それらは消費者に当該国・地域政府はその市民と環境の健康と安全の継続を確実にすることを約束している。

 著者らはまた、そのような政策声明の重要性が矮小化されるべきではないということを警告している。”それらは政策開発プロセスの透明性を確保する主要な側面であり、、当該国・地域政府はこの問題を知っており、解決の開発に向けて利害関係者とともに働くことを約束したことを一般大衆、産業、及び市民社会組織等、全ての関心ある団体に等しく伝えるために役に立つ”。

 これらの声明は各国・地域を通じて著しく似ているということは驚くに当たらない。
  1. その様な声明は、最初にナノテクノロジーの潜在的な便益に言及し、それから将来の経済的利益という観点からナノテクノロジー研究と開発を追求するという政府の意図を述べる。
  2. 次に、そのような声明の中で、しかしナノテクノロジーは潜在的なリスクを伴うが、それらの程度はまだ十分に分かっていないと一般的に述べる。
  3. そして、国・地域は、ナノテクノロジーの潜在的なリスクについてもっと情報が得られるまで、消費者の健康安全、及び環境の活力を確保するために、既存の規制の枠組みは十分に厳格であると強調する。
  4. 次に、国・地域は、現在のナノマテリアルの新奇な特性についての情報の欠如、及びハザード及び暴露評価、そして全体のリスク評価を実施するための測定基準、方法論、及び基準の欠如に言及する傾向がある。
  5. 最後に、国・地域は将来ナノ特定の規制の枠組みの必要性をレビューし、既存の規制の枠組みを必要に応じて更新するであろうと述べる。
 また、ナノテクノロジーを規制するための政策オプションの開発に対する規制者の段階的なアプローチの取り方ついて多くの共通性があるように見える。
  1. ナノテクノロジーに関する政策の公式表明、又は国・地域の戦略の準備
  2. ナノテクノロジーに関連する潜在的なリスクについてもっと多くの知識を得るための試み
  3. 規制のギャップ分析の実施又は依頼
  4. ナノテクノロジーを”間接的に”規制するために現在の規制の利用
 著者らは、特に最も厳格な意味での規制はまだ出現し始めたばかりであることを考えれば、ナノテクノロジーの規制が機能するかしないかを評価するのは早すぎると警告する。”しかし、規制的管理の展望は非常に広い展望を採用し、公開議論、政策発表、データ管理アプローチ、自主的スキーム、産業の自己規制などを含んで規制の目的のためのすべての活動を含むことを可能とする”。

 報告書のために収集された叙述的証拠に基づき、ペレイとサナーは規制者の検討のために提案する6つの主要な規制的管理原則を述べる。
  1. 規制への対応は調整されるべきである。これは国際レベルで、国家間で、省又は加盟国間で、さらには各国・地域における省庁間及び機関間での調整を含むべきである。
  2. ナノテクノロジーへの規制アプローチは柔軟性と適応性があるべきである。
  3. 適応的規制システムにおける最初の主要なステップである情報収集システムはエンドポイントを念頭に置いて設計されるべきであり、参加のためのインセンティブを提供すべきであり、産業と学界双方の研究者を関与させるべきである。
  4. リスク管理アプローチは、ナノテクノロジーの潜在的なリスクを管理するためにライフサイクルアプローチを導入することにより包括的であることを求めるべきであり、また範囲と時間の制限の重要性を念頭に置いて設計されるべきである
  5. リスク管理アプローチは規制することのコストと便益のバランスと釣り合いを求めるべきである。”義務的対”間接的”アプローチ対規制なし”の規制の影響が検討されるべきである。
  6. 誰に説明責任があるかということと合わせてナノエクノロジーの受益者とリスク負担者のプロフィールを理解することは、技術と規制監視の両方の適切な開発を確実にすることに向けて必要なことであるが時間がかかるであろう。利害関係者は適切に参加する機会を与えられ、規制のシステムは透明であるべきである。
マイケル・バーガー(Michael Berger)



化学物質問題市民研究会
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