Nanowerk 2009年4月16日
サイズが問題である
微生物への毒性をナノ粒子で比較

マイケル・バーガー

情報源:Nanowerk News, : April 16, 2009
Size matters. Comparing the toxicity of micro- to nanoparticles
Michael Berger
http://www.nanowerk.com/spotlight/spotid=10128.php

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年4月25日


【Nanowerk Spotlight】 植物、水生無脊椎動物、藻類、バクテリア、及び異なる cell lines に対する合成ナノ粒子の毒性を調べる研究は徐々に増加しており、我々はこの話題を以前の【Spotlights】や我々のnanoRISK newsletterで取り扱ってきた。ナノ粒子の生物や環境に及ぼす負の影響の可能性が懸念を提起してきたが、今までの所、限られた研究しか、同じ化学成分と鉱物相を持ったナノ粒子とバルク粒子の間の相違を検証しておらず、ナノ粒子からの溶解金属イオンの毒性に目を向けていなかった。マサチューセッツ大学の研究者らによる新たな研究で、バルクの酸化物粒子と放出されるイオンの毒性が4種の酸化物ナノ粒子で評価され、サイズが問題であることが明確に示された。

 マサチューセッツ大学植物・土壌・昆虫科学部教授バオシャン・キシンと彼のグループは、ナノ粒子化された酸化アルミニウム(60 nm)、二酸化シリコン(20 nm)、二酸化チタン(50 nm)、酸化亜鉛(20 nm)を検証したが、これらは一般的な産業用添加物であり、化粧品からエレクトロニクスにいたるまで様々な分野で応用されている。

 我々は、ナノ粒子のバクテリア毒性はサイズに関連するのか組成に関連するのかをよりよく理解するためにこの実験を実施した”とキシンは Nanowerk に述べている。”我々は、ナノ粒子をそのバルクサイズの相方と比較し、溶解金属イオンの全体毒性への寄与を評価した。さらに、我々はナノ粒子とバクテリアの相互反応とその表面特性を検証した”。キシンのチームは、彼らの毒性評価を次の3つのモデルバクテリア種を用いて実施した。グラム陽性バシラス属枯草菌(gram-positive Bacillus subtilis)、グラム陽性大腸菌(gram-negative Escherichia coli)、根圏細菌(Pseudomonus fluorescens)。

 バクテリアは生態系機能と生産性に多くの重要な役割を果たすので、環境中に放出されたナノ粒子がそれらに及ぼす潜在的な影響は特に注目に値する。

 ”バクテリアとナノ粒子との間の相互作用は、一度環境中に放出されたナノ粒子が生態系に及ぼす影響について多くの情報を我々に提供してくれるかも知れない”とキシンは述べている。”同時に、単細胞生物としてのバクテリアはナノ粒子の毒性を研究するために、そしてどのようにナノ粒子が細胞/微生物に影響を与えるかを探求するために、よいテストモデルである”。

 Environmental Pollution ("Bacterial toxicity comparison between nano- and micro-scaled oxide particles")にオンラインで発表されたこの研究で、研究チーム(working with Xing were Wei Jiang as first author and Hamid Mashayekhi)は、3つの主要な発見を報告している。
  1. 酸化アルミニウム、二酸化シリコン、酸化亜鉛のナノ粒子はテストされた3種のバクテリアに有毒であったが、二酸化チタンのナノ粒子は観察できる毒性を示さなかった。酸化亜鉛は最も高い毒性を示した。
  2. 酸化アルミニウム、二酸化シリコン、酸化亜鉛のナノ粒子は、それらのバルクサイズの相方に比べて毒性が高かった。
  3. ナノ粒子の毒性は、溶解金属イオンだけでなく、バクテリアの細胞壁に取り付きやすいことにも由来する。
 ”我々の発見は、バクテリに有毒なナノ粒子は有毒ではないものに比べてバクテリア懸濁液中で異なる振る舞いをすることを示している”とキシンは説明している。”有毒なナノ粒子はバクテリアの表面全体を覆うことができるが、有毒ではないナノ粒子は、我々の実験条件下では、バクテリア細胞を覆うことはできず、お互いに凝集して塊になってしまう。バクテリアは溶液中でプラス電荷を帯びた個々の粒子又は小さな凝集塊(aggregate)をひきつけることができる。分散していればナノ粒子の移動性と毒性の両方は増大するかもしれない。したがって凝集塊(aggregate)中のナノ粒子は有毒ではないが、分散したナノ粒子はバクテリアにひきつけられ、その結果、バクテリアに対する有毒性を示した”。

 二酸化チタンだけがテストした4種類のナノ粒子の中で微生物に対して毒性を示さなかった理由は、二酸化チタンは高いマイナス電荷を帯びたナノ粒子であり、マイナス電荷のバクテリア細胞は二酸化チタンのナノ粒子をはじくからである。

 キシンは、バクテリアは水生系でプラス電荷のナノ粒子をひきつけるので、そのようなナノ粒子が水生系食物連鎖に入り込む機会が増えると述べている。

 この実験で使用された3つのバクテリア種は土壌中及び水生系に広く存在するので、それらはナノ粒子毒性の指標として開発されるかも知れない。

 ”我々の研究で発見されたナノ粒子の毒性とバクテリアへの取り付きとの関係は、ナノ粒子の製造者がナノ粒子の表面特性を調整することによって環境に適切なナノ粒子を開発するよう触発するかもしれない”とキシンは述べている。”一方、ナノ粒子の殺菌活性は自己殺菌物質の開発に応用されるかもしれない”。

 現在まで、ナノ粒子のバクテリアに対する毒性についてほとんど理解できていない側面はこの毒性のメカニズムである。ほとんどの研究者らは、バクテリへの毒性は細胞壁への損傷によって引き起こされると信じている。

 マサチューセッツ大学の科学者らによって実施されたような機械論的研究の主要な課題は、非常に複雑で統合的な構造であるバクテリアの細胞壁の変化を厳密に調べるために十分な効果的で感度の高い手法の欠如である。

 ”我々がナノ粒子の影響を生きた細胞を使用して研究するときに、どの細胞要素に変化がおきるのかを調べることは非常に難しい”とキシンは述べている。ほとんどの技術に対して、計器信号が細胞壁からのものなのか細胞内部からなのかを区別することは難しい。その代わりに、もしバクテリア細胞から抽出した要素を調べても、そこで観察される影響は、実際の生きた細胞の中で起きていることを表していないかもしれない”。

マイケル・バーガー(Michael Berger)



化学物質問題市民研究会
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