2006年3月30日、31日 ブリュッセル
”ナノと環境”ワークショップ報告書
エグゼクティブ・サマリー


情報源:Report from the “Nano and the Environment” workshop,
Executive Summary
Brussels 30 and 31 March 2006
http://www.nanoforum.org/nf06~modul~showmore~folder~99999~scid~383~.html?action=longview_publication&
nanoforum.org
http://www.nanoforum.org

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年6月16日

アブストラクト

 ナノフォーラムと環境・持続可能性研究所 JRC イスプラは、”ナノと環境”に関するワークショップを2006年3月30-31日にブリュッセルで開催した。この報告書は、ワークショップでのプレゼンテーションと討議の結果を記述し、この重要な話題に対する考え方を広めるためにナノフォーラムのウェブサイトに発表した。全ての関心ある団体はこの報告書を読み、そこで提起された論点に関し、ナノフォーラムのディスカッション・ボードを通じてコメントすることが奨励される。このコンサルテーションの結果は、欧州委員会に対し研究資金に関する将来の政策決定における検討のための最終報告書となるであろう。


エグゼクティブ・サマリー

  ”ナノと環境”ワークショップは、ナノ技術は環境の利益のために利用することができるが、一方、どのような新技術にも伴うリスクについての理解が全く取り残されたままであるということを反映し、その方法を議論するために開催された。ワークショップには、、環境に責任あるナノ技術の実施についての主要な論点に関し、異なる経験と展望を持つ約50人の様々な利害関係者が、学界、環境研究、産業、産業団体、規制当局、及び政府機関から参加した。ワークショップは3つの連続セッションに分けられた。監視、改善と汚染、及び資源保全である。それぞれのセッションは、専門家らによる短いプレゼンテーションと、同じ時間の広範な問題についての議論からなっていた。

 議論は広範囲にわたったが、以下のようにまとめることができる。

 検出方法:ナオ技術は、(ソリッドステート・センサー及びバイオ・センサーを通じて)大気中及び水中の汚染物質の改善を提供するが、ナノ粒子の検出と特性化を可能とする適切なシステムはまだ存在しない。特に、表面積、形状及び化学的反応に関連する主要なパラメーターを測定することを可能とする技術は、大きすぎて炉リ扱いにくく、検出速度が遅い装置に限られている。

 ライフ・サイクル・アナリシス(LCA):新規物質と製品は完全な LCA が行われなくてならず、それは異なるシナリオを採用し適用し、製品の製造(廃棄物質及びそれらの処分を含む)から、使用、そして廃棄処分又はリサイクルまで、原材料及びエネルギー消費の全てを考慮に入れる方法論である。
 その LCA はまた、社会的影響(例えば、新製品の導入は、人々に同様な製品よりも購買意欲を高めるか、又は市場にある既存の製品より広範囲に使用させることができるか)に依存するであろう異なる使用シナリオを考慮しなくてならない。

 持続可能性:ナノ物質製品は原材料の使用とエネルギー消費の著しい節約をもたらすが(例えば、高い断熱効果のあるナノフォーム、又はもっと強力で高エネルギーをチャージできるバッテリー)、しかし、新製品は理想的には再生可能な又は十分な量のある資源を使用することが望まれる。
 もし、これが可能でないなら、理想的には物質の閉鎖ループ及びエネルギー要求の徹底的な検討に基づく物質の回収又はリサイクリングのための強固な戦略が立てられなくてはならない。このことは特に、製品中に少量使用されて製品とともに広く市場に出回り、したがって環境中に広く拡散する希少物質(例えば、排気ガスを通じて排出されるプラチナ触媒、又液晶画面又は太陽電池中のインジウム)にとって重要である。
 これらの物質移動の問題を理解することはLCAの適切な実施を行う上で本質的である。

 リスク評価:最初にこれは、生物学的システム(すなわち、個々のナノ物質を評価するよりも潜在的リスクの予測モデルを構築すること:例えばナノ粒子の溶解度が増すとそれらの毒性は減少することはよく知られている)に影響を与える新規ナノ物質の構造−機能関連とメカニズムに焦点を当てるべきである。
 リスク評価は、特定の物質によって示される危険性(hazard)、及びその物質がヒト又は環境中の生物に及ぼす暴露の可能性(probability of exposure)と環境中への放出可能性の両方を十分に考慮すべきである。

 矯正:ナノ粒子は、環境中からの有害物質の除去(例えば、地下水からのヒ素の除去)のための既存の戦略を著しく改善することを提示しているが、矯正のために自由ナノ粒子を使用することについて(持続可能性及びリスクの両方の理由で)懸念がある。安定した基盤(matrix)中に固定する又はナノ構造表面(ナノドメインが自由ナノ粒子と本質的に同じ機能と活性を持つ)の使用は物質を一ヶ所に集め、したがって、拡散を防ぎ、回収を容易にし、暴露の可能性を減少する。

 商品化への課題:公共投資によって支えられる研究と、その研究の結果が産業によって商品化される結果の程度との間にギャップがある。いくつかの要因が関連する。ひとつは、物質をかなりのボリューム必要とする(研究ラボで容易に生産できるよりはるかに大量)パイロット生産にまでスケール・アップすることが難しく、これを実現できる施設は比較的少ない。
 もうひとつは、技術の市場ニーズの創出である。新たな技術は、改善された機能、エネルギー消費、感度、効率、寿命、環境影響の低減(例えば水質の向上)、などの主張に対し応えることを確実にするために、既存の技術に対するベンチマークが必要である。
 このプロセスには中小企業を関与させ、新たな技術の開発に関する遠大な展望を展開することが必要であり、そのためには欧州技術プラットフォーム(European Technology Platforms (ETP))を役立てることができる。

 コミュニケーション:これは重要なことであり、特定されたニーズは満たされており、持続可能性は製品開発の開始時に確立されており、これを支える適切な規制又は法的枠組みが存在することを確実にするために、研究科学者、技術者、ライフサイクル評価者、政策立案者、及びその他の利害関係者が関与すべきである。
 また、ニーズを特定し新たな応用を市場に出すために、学界研究者と産業側との間のコミュニケーションが重要である。後者に関しては、政策立案者は規制と法的枠組みを通じて環境に優しい製品の上市を促進することを支援することができる。

 政策イニシアティブ:これらは、環境的ナノ技術の開発とその取り込みを推進すべきである。これには、微粒子と汚染の環境的安全性限界(これは、要求される監視装置の技術開発と商品化を促進する)に関する明確なガイドラインの発行、及び新たに要求される提案の中に環境基準を設定することをを含む。

 協力:研究開発に関わる科学者と、環境と健康に及ぼす物質の影響を調査する研究者の双方は、新たな物質と技術は環境と健康の両方に優しいものとして開発されることを確実にするために、新たな開発の初期の段階から協力し知識の共有をはからなくてはならない。

 教育:これは、全ての利害関係者が(開発者から、規制当局、消費者まで)、既存と新規の製品の環境影響(肯定的及び否定的の両方)を理解することを確実にするために必要である。そうすれば彼らは開発、規制、又は購入のために、情報を与えられて選択をすることができる。

 社会的影響:個々の説明責任は至るところに設置される検出器システム(ubiquitous sensor systems)の開発によって増大するであろうが、しかし、このことはまたプライバシーの問題を引き起こす。また、福祉又は市民の権利が存在する源からの物質の利用に関連して倫理的疑問が存在する。


オリジナル報告書
Report from the workshop organized by
Nanoforum and the Institute for Environment and Sustainability, JRC Ispra
30 and 31 March 2006
CDMA Building, rue du Champs de Mars 21, Brussels
http://www.nanoforum.org/dateien/temp/Nano%20and%20Environment%20workshop%20report.pdf?15062006221847


化学物質問題市民研究会
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