ナノ物質管理」実施の第一段階 は
ナノ製品表示義務、データ提出義務、
暫定的管理グレードの設定

安間 武 (化学物質問題市民研究会)

情報源:ピコ通信第133号(2009年9月25日発行)掲載記事
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年9月27日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/japan/pico_133_090925_nano_nano_kanri.html


1.ナノ物質管理の必要性
 ナノテクノロジーの進展は目覚しいものがあり、化粧品、食品・飲料から衣料品、化粧品、電子機器、医療、エネルギー、農業、環境浄化などあらゆる産業分野に導入され始めています。しかしナノの安全基準やテスト基準はなく、安全性が確認されないままにナノ製品が市場に出ています。国は市場にあるナノ物質/ナノ製品の安全性データについてほとんど把握していません。従って人の健康と環境を守るために、早急に「ナノ物質管理の枠組み」を作ることが必要です。

 2008年6月29日に東京国際フォーラムで、環境省主催の「化学物質審査規制法の見直しに関するシンポジウム」が開催され、当研究会を含む NGO/NPO の5団体が意見を発表しました。このシンポジウムで当研究会は「ナノ物質管理法」の早急な制定を提言しました(ピコ通信/第119号2008年7月)。
 2009年4月2日には衆議院第2議員会館で開催された化学物質政策基本法を求めるネットワークによる「国会内学習会」でもナノ物質管理の必要性を議員に説明しました。

 本稿では提案する「ナノ物質管理の枠組み」について深く触れることはせず、枠組みの概要、段階的な導入、表示義務、義務的報告制度の提案について解説します。

2.「ナノ物質管理の枠組み」の概要
 枠組みは4つの構成要素から成り、個別法(既存法の必要な修正又は新規立法)と連携させながら、ビルディング・ブロック方式で段階的に構築することを提案しています。
  1. ナノ技術標準化管理
  2. ナノ物質管理
  3. ナノ技術応用・ナノ製品管理
  4. ナノ物質影響監視管理
 この「ナノ物質管理の枠組み」の提案は当研究会ウェブサイト(*)で概要を示しているのでご覧ください。枠組みの概念図を下記に示します。

3.ナノ物質管理の段階的な導入
3.1 段階的導入
 ナノ物質管理の実施に当たっては、全体の枠組みの中での位置づけを常に確認しながら、優先事項を決定し段階的に実施することを提案します。
 第1段階:暫定的なナノ物質管理
 第2段階:包括的なナノ物質管理

3.2 第1段階の暫定的ナノ管理
第1段階では次の3点の義務を事業者及び国に課します。
  1. 市場に出ている又は出そうとする製品に含まれる全てのナノ物質成分の表示義務
  2. 市場に出ている又は出そうとするナノ物質、ナノ製品及びナノ技術に関し、国の定める所定項目のデータの提出義務
  3. 提出データに基づき、国は暫定的に安全性を評価し、暫定的管理グレード(許可、制限、禁止)を決定し、規制する義務
4.ナノ製品データ表示の世界の動向
 現在、ナノ物質を含有する消費者製品は世界中で1,000種以上市場に出ていると言われていますが、それらに対するナノ物質情報の表示を義務付けている国は世界中どこにもありません。
 また、近年はナノ製品に対する消費者の懸念を恐れて、ナノテクを使用していることを隠すメーカーが多いと言われています。
 これに対し、消費者が情報に基づいてナノ製品を購入するかしないかを決定できるよう、化粧品や身体手入れ品、食品、容器包装、家庭用品など消費者が触れる又は環境中に排出される可能性がある製品を含み、全てのナノ製品にナノ物質を含有していること及び使用しているナノ物質の特性を表示するよう世界中の多くのNGOが求めています。
 欧州労連(ETUC)は、2008年6月25日の決議で消費者には製品中に何が含まれているのかを知る権利があり、ナノ物質が含まれていることを表示するよう求めています。
 欧州議会も2009年4月24日のプレスリリース で消費者製品中のナノ物質の表示を強く求めています。

5.ナノ物質データ収集プログラム
 イギリス及びアメリカは"自主的"なデータ収集プログラムを立ち上げましたが、自主的であるがためにいずれも失敗しました。
(1)イギリス
 英環境食糧地域省(DEFRA)は2006年9月に"工業的ナノスケール物質の自主的報告計画(VRS)"を立ち上げましたが、2008年9月までの2年間のパイロット期間に、わずか11社の応募しかなく、DEFRAはその失敗を認めました。英国王立環境汚染委員会は、データ提出は法的拘束力のあるものとすべきと勧告しました。
(2)アメリカ
 米環境保護庁(EPA)は2008年1月に自主的なナノスケール物質スチュアードシップ・プログラム(NMSP)を立ち上げましたが、応募は基本プログラム/詳細プログラムでそれぞれ29社/4社であり、期待した100社以上と比べて大幅に少なく、米EPAは失敗を認めました。現在有害物質規制法(TSCA)の下に義務的なデータ提出制度を検討し始めたと言われています。

6.大西洋をまたがる規制の欧米共同作業
 欧州委員会の資金援助を受けてナノテクノロジーの国際的に統一された規制を研究している英米の国際的に権威ある4団体が、2009年9月10日に発表した報告書『ナノテクノロジーの約束を確実にすること:大西洋をまたがる規制の共同作業に向けて』では、ナノ物質の環境・健康・安全リスクの監視に対する米国とEUのアプローチの体系的な比較を行い、次のような勧告を行っています。
  1. ナノテクノロジーの潜在的なリスク評価のための科学的基礎を構築するための国際的な取り組みを強化すること
  2. 環境・健康・安全リスクの調査への資金を格段に増やすこと及び研究戦略の国際的な協力を推進すること
  3. 規制当局がナノ物質の商業的利用についての包括的な情報を得るため新たな義務的な報告要求システムを構築すること
7.結論
 ナノ製品の表示義務、義務的データ報告制度の要求は国際的な流れです。また、人の健康と環境をナノ物質の有害影響から守るために暫定的な管理グレード(許可、制限、禁止)の設定による規制が急務です。日本政府にこれらの法的措置の実施を強く求めます。
(安間武)
(*)化学物質問題市民研究会の提案
ナノ物質管理の枠組み
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/nano_kanri_master.html



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