ES&T 2006年4月5日
赤血球はより小さなナノ粒子には無防備か?
ナノ粒子のヒト赤血球への浸透可否は
サイズが主要な決定要因


情報源:Environmental Science & Technolory, April 5, 2006
Are red blood cells defenseless against smaller nanoparticles?

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年4月6日


 新たな研究が、ナノ粒子がヒトの赤血球に浸透できるかどうかの主要な決定要因はサイズであるということを見出した。

 本日、ES&Tの Research ASAP website (DOI: 10.1021/es0522635) に投稿された研究は、直径が100ナノメートル以下の多くの異なるタイプのナノ粒子がヒトの赤血球に浸透することができることを示している。この研究は、ナノ粒子は他の微粒子とは異なる挙動をするという増大している証拠に付け加えられるものである。

バーン大学(スイス)の研究者らは異なる成分と表面電荷を持つナノ粒子がヒトの赤血球に浸透することができることを見出した。マイナス電荷のナノ粒子は緑色で示されている。
Barbara Rothen-Rutishauser
 過去20年間、疫学者らは、呼吸器系や心臓系の疾病を含む大気汚染の有害な影響の多くを、直径が 0.2〜2.5 マイクロメートルの微粒子の存在と関連付けてきた。しかし、増大する多くの証拠が、一般的に100ナノメートル以下で1ナノメートル以上の径を持つものと定義されるナノ粒子−これは最大のナノ粒子でも最小の微粒子よりもはるかに小さいことを意味する−は大きな粒子では到達することができなかったような場所に到達することができるかもしれないということを示唆している。その結果、ナノ粒子は同じ物質でもサイズの大きなものより毒性が高いかも知れない。

 今までの研究がナノ粒子は様々な種類の細胞に浸透できることを示したが、バーン大学(スイス)のペーター・ゲール研究所の研究者である著者バーバラ・ローゼンルティシャウザーと彼女の同僚らは、赤血球が異なる成分(ポリスチレン、金、及び、二酸化チタン)と表面電荷(プラス、中性、マイナス)のナノ粒子を吸収するかどうか決定するために実験を行った。

 微粒子を可視化するためにレーザー顕微鏡や透過電子顕微鏡を使用して、研究者らは全ての物質及び表面電荷のナノ粒子が細胞とどのような相互作用をするか観察した。多くのナノ粒子は溶液中で密集する傾向があるが、ローゼンルティシャウザーはこのようなナノ粒子の凝集ですら、径が100ナノメートル以下なら細胞に入り込むことができることを見出した。

 ローゼンルティシャウザーと彼女の同僚らは、ナノ粒子の、細胞核や細胞小器官のない比較的単純な赤血球だけとの相互作用を報告した。ザイド大学(オランダ)生命科学専門センターのディレクター、ポール・ボームは、研究結果は必ずしも生体組織に一般化できるものではないと警告している。全ての血液は、食作用(phagocytosis)として知られるプロセスにおいて、抗原であると認識しそれらを吸収するいくつかの異なる種類の特別な白血球細胞を含んでいる。”問題は、本当にこれが人工的状況であるかどうかである。血液全体には、微粒子を認識し、それらを食べる食細胞がたくさんある”-とボームは述べている。

 しかし、研究者らは、ナノ粒子が体の防御機能を通り抜けるかもしれない−食細胞により異物として認識され食べられる前に、おそらく非食細胞の細胞膜を浸透する−ことを懸念している。”体内に入り込む経路は非常にたくさんあるので、ナノ粒子が赤血球に接触することがあり得るということは想像できる”−とナピエール大学(イギリス)毒物学教授ビッキー・ストーンは述べた。

 様々なナノ粒子が肺の上皮細胞(lung epithelium)と血液脳関門を通過することが知られており、あるものは細胞膜に浸透しミトコンドリア(訳注:用語解説)中にとどまる。エジンバラ大学(イギリス)の呼吸器系毒物学教授ケン・ドナルドソンによれば、ナノ粒子は細胞機能を干渉するかもしれない。”ナノ粒子は他の粒子が入り込むことができない場所に入り込むことができるという考えは研究の推進力となる。”

 非営利環境団体であり、ナノ技術の環境、健康、及び安全への影響を監視しているエンバイロンメンタル・ディフェンスの健康計画ディレクターであるジョーン・バルブスは、細胞の研究結果から生体組織について推定することのもうひとつの困難は、ナノ粒子表面がどのように変更されているかを決定することであるとし、”これらの変更が細胞取り込みに対し量的にいかに影響を与えるかを見るために大規模な研究が必要である”−と述べている。

 ローゼンルティシャウザーと彼女の同僚らは、気管支の細胞培養モデルを含んで、もっと生物学的関連システムに研究を拡大しつつある。彼らはまた、蛍光性ラベルを用いて粒子の吸収量を定量化し、いかに吸収のプロセスが展開していくかをリアルタイムで観察すること−ナノ粒子が非食細胞に入り込むメカニズムにもっと光を当てる技術−を始めている。

 ナノ毒物学の分野は進歩しており、研究者らは生物学的システム内での粒子を研究するために、正確で信頼性のある画像化技術に依存するようになるとローゼンルティシャウザーは説明する。”ナノ粒子は非常に小さいので、細胞中で見つけることが非常に難しい。だからそれらを本当に示す先進技術が必要なのだ”−と彼女は述べている。

リザ・スラル(LIZZ THRALL)


訳注:関連記事
Northeast_India_Research, Apr 19, 2006 Are red blood cells defenseless against smaller nanoparticles?



化学物質問題市民研究会
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