ナノフォーラム調査2004年12月
欧州ナノ技術戦略に関する
オープン・コンサルテーションの結果
エグゼクティブ・サマリー

著者:イネケ・マルシュ、ミレイル・オウト

情報源:Outcome of the Open Consultation on the European Strategy for Nanotechnology
Exective Summary
www.nanoforum.org, December 2004

Authors: Ineke Malsch and Mireille Oud
Data management: Oliver Bayer, Michael Gleiche, Holger Hoffschulz
Inputs: Mark Morrison, Raymond Monk

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年4月5日

 ナノフォーラムは、欧州委員会により第5回フレームワーク・プログラムの下に創設された課題ネットワークである。この報告書の内容の責任は著者にある。
 この報告書の内容はひとつの調査で収集された情報、及び、正確であると信じられる外部ソースからの誠意をもって提供された情報に基づいている。誤り、不正確、又は遺漏についてナノフォーラムには責任はない。
 ナノフォーラム報告書は http://www.nanoforum.org からダウンロードすることができる。
 この報告書に関するコメントを歓迎する。メールの宛て先 mark@nanoforum.org


エグゼクティブ・サマリー

 ナノ技術は、21世紀の主要技術のひとつとして姿を現しており、市民に利益をもたらし産業の競争力を改善することができる広範な分野にわたる発展を期待させるものである。ナノ技術の研究会開発(R&D)への世界中の公共投資は1997年には約4億ユーロ(約560億円)であったが、今日では30億ユーロ(約4,200億円)に増大している。しかし、ナノ技術のある側面は新たな健康、環境、及び社会的リスクをもたらすかも知れず、きちんとした対処が必要である。

 2004年5月、欧州委員会(EC)はコミュニケーション”欧州ナノ技術戦略に向かって COM(2004) 338”を発表したが、その中で、統合された責任あるアプローチが唱道された。このコミュニケーションは議長国アイルランド及びオランダの下に欧州閣僚理事会で政治レベルで討議された。ナノフォーラムによって実施された調査の目的は、欧州委員会が提案した戦略に対する広範な反応を評価し、将来のヨーロッパの取組を形成するためのインプットを提供することである。

 合計720人の人々が、www.nanoforum.org のオンライン質問表を介してのこの調査に参加し、さらに29人が欧州委員会に直接文書で回答し、したがって、回答人数の合計は749人となった。回答者の大部分はヨーロッパの居住者であり(93%)、その3分の1がドイツ又はイギリスであった。オンライン質問表での回答者の職業は、最も多い回答者は研究職(39%)又は管理職(29%)であるが、多くの専門家/コンサルタント(13%)及びジャーナリスト(12%)もまた参加した。中小企業と大企業もまた多く回答した(33%)。

 多くの回答者はナノ技術の研究開発に非常に深く関与している。技術的質問の多くに対し、参加者は回答しないことを選択できた。そのような場合、我々はこのエグゼクティブ・サマリーにおけるパーセンテージは意見を述べた人々だけを反映するよう、回答しなかった人々は合計数から除外した。結果は各人の個人的な意見を表すだけでなく、107組織の見解もある。(付属Tを参照)

 ナノ技術は10年以内にヨーロッパ産業(90%)及び市民(80%)に強い影響を与えるという大きな合意があった。産業分野という観点では、回答者らは最大の影響を与えるものとして、化学と材料(94%)、続いてバイオ技術(88%)、情報通信技術(79%)、ヘルスケア(77%)、安全/防衛(58%)を予測している。エネルギー、環境、装置エンジニアリング、消費者製品は中〜高程度の影響が予測されている。

 北アメリカはナノ科学(78%)とナノ技術の産業への移転(77%)の両方において世界のリーダーであると認められており、ヨーロッパとアジアははるかに後方である。多くの回答者はヨーロッパのナノ技術の研究開発(R&D)に対する投資はアメリカや日本よりも低い(80%)と信じている。ナノ技術の研究開発(R&D)に関しては、欧州委員会(EU)は、センサー応用、情報通信技術、及び健康、安全及び社会的問題への支援を強化すべきとしている。

 現在に比べて次のEUフレームワーク・プログラムではナノ技術への資金を著しく増加することに幅広い支持が示された(79%)。ある回答者ら(25%)は予算を2倍以上にすることを望み、現状と同じかあるいはそれ以下としたのはわずか12%であった。EUフレームワーク・プログラムはもっと基礎研究開発に向けられるべきか、あるいはもっと応用研究開発に向けられるべきかについては意見が分かれた。それは回答者が大学関係者であるか産業界であるかに依存した。

 ヨーロッパは一貫した基盤(インフラ)システムが欠如しているように見え、大部分が最も重大な問題であると認識する必要があるとした(90%)。回答は既存の基盤を知り活用する必要があることを示している。同時に、回答者の大部分は、新たなよりり大きな基盤をヨーロッパ(64%)及び国/地域(34%)に築くことの必要性に光を当てている。また、ナノ医療、ナノ材料、及び情報技術/ナノ電子のような分野での分野横断的な基盤の必要性を強調する多くの意見があった。

 人材は最優先事項であると特定されたが、調査への参加者のほとんど半分が10年以内にナノ技術に熟練した人材が足りなくなるとし、他の4分の1は5年以内に足りなくなるとした。またナノ技術教育と訓練の開発の緊急な必要性を参加者の90%が示し、分野横断性が重要であるとした。EU政策の目指す”研究者の移動性”、”訓練機会の増大”、及び”女性の公平な参加”は回答者の大部分から支持された。

 EUは他の諸国に対する競争力についての統合的戦略を必要とし(85%)、また確立した既存産業はナノ技術の可能性を初期に認識すべき(70%)という合意が出現してきた。回答者のほとんど半分は、EU又は国際的な団体が5年以内に(46%)又は10年以内に(25%)ナノ技術を規制すべきと感じている。中小企業と新規参入企業は新規雇用と革新の主要なソースとして重大であるが、熟練した人材の欠如、大学や研究センターとの効果的な協力、公共又は民間投資の欠如など多くの困難に直面するとしている。

 多くの回答者は、ヨーロッパは初期の段階からナノ技術のリスクと社会的影響を考慮する必要があることに同意しているが(75%)、それには公衆とのコミュニケーションと対話が求められる。関与する全ての団体は、国/地域の政府、メディア、及び欧州委員会を含んで情報を伝えなくてはならない。対話の確立の重要性とナノ技術の破壊的特性を考慮することの必要性がハイライトされた。

 公衆の健康、安全、環境と消費者保護に関して、回答者の75%以上がリスク評価は可能な限り早い時期に研究開発プロセスに統合されることに同意し、そのような評価はEUレベルで実施されるべきこと(61%)に合意した。知識のギャップにもっと目を向けた研究開発における優先事項として、人工自由ナノ粒子があげられている。これらのナノ粒子へのヒトの暴露は最も重要な懸案事項であるとみなされており(72%)、ついで環境への放出が続く(56%)。多くの回答者らは、ナノ粒子は、例えば高温燃焼プロセスを通じて、すでに環境中に放出されていると指摘している。

 産業先進国の国際的協力が重要である(96%)。回答者の多くは、ナノ技術の責任ある開発のための国際的な”行動規範(code of conduct)”に好感を示している(87%)。回答者の4分の3以上はまた、発展途上国との協力、特に研究能力の構築を援助し、知識の公平な移転を確実にすることに賛意を示している。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る