2005年5月12日欧州委員会採択
欧州ナノ技術戦略に向かって COM(2004) 338 エグゼクティブ・サマリー及び安全性関連の紹介 情報源:Towards a European strategy for nanotechnology, COM(2004) 338 Final adopted on 12 May 2004 and approved by the Council of European Union on 24 September 2005 http://europa.eu.int/comm/research/industrial_technologies/pdf/nanotechnology_communication_en.pdf 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) 掲載日:2006年2月27日 内 容 エグゼクティブ・サマリー 1. はじめに 1.1. ナノ技術とは何か? 1.2. なぜ、ナノ技術は重要なのか? 1.3. ナノ技術の安全を確保するためにはどのアプローチを採用すべきか? 2. ナノ技術研究開発における世界の資金調達と活動 2.1. 第三諸国のナノ技術研究開発 2.2. ヨーロッパのNナノ技術研究開発 3. 無限に小さい世界への道:進歩を促進するための5つの原動力 3.1. 研究と開発:弾みをつける 3.2. 基盤: European "Poles of Excellence" 3.3. 人材への投資 3.4. 産業の革新、知識から技術へ 3.5. 社会的側面の統合 4. 公衆の健康、安全、環境、及び消費者保護 5. さらなる段階へ:国際的協調 付属: ナノ技術における公共投資の見積り エグゼクティブ・サマリー ナノ科学とナノ技術は、原子及び分子レベルで物質の基本的な構造と挙動を制御することを目指す研究と開発(R&D)に対する新しいアプローチである。これらの分野は、ミクロ及びマクロのスケールにおいて利用することができる新しい現象の理解と新しい特性の生成の可能性が開かれている。ナノ技術の適用が新たに出現しており、全ての市民の生活に影響を与えるであろう。 過去10年間にわたって、欧州連合(EU)はナノ科学に強力な知識ベースを確立してきた。EUは主要な競争相手より投資が少なく、必要とする重要な大衆を奮い立たせる世界のトップクラスの基盤(”poles of excellence”)が欠如しているので、この優位な立場を維持する能力がEUにあるかどうか確かではない。これは国家 EU 計画における各国の投資は急速に、しかし個別に増大しているにもかかわらずである。 ナノ科学における欧州の卓越は最終的には商業的に存立できる製品とプロセスに変換されなくてはならない。ナノ技術は、リスボン戦略(訳注1)のダイナミックな知識ベースの目標に向けて新たな弾みをつけるために、最も将来性があり急速に拡大している研究開発の分野のひとつとして出現しつつある。しかし、革新のための良好な環境を、特に中小企業(SMEs)のために作り出すことが非常に重要である。 訳注1:リスボン戦略 2000年3月、リスボンで開催された欧州理事会で設定されたEUの10カ年戦略。この戦略の下で、持続可能な発展と充実した社会を確実にする社会政策及び環境政策と並んで、より強い経済が雇用を生み出すことができるとした。 ナノ技術は安全で責任ある方法で開発されなくてはならない。倫理的原則が厳守されなくてはならず、また可能性ある規制の準備のために安全または環境に対するリスクも科学的に研究されなくてはならない。社会的な影響が検証される必要があり、考慮されなくてはならない。公衆との会話は、”科学的フィクション”のシナリオなどより、現実の懸念の問題に注意を払うことが重要である。 この文書(COM(2004) 338)は、ナノ科学及びナノ技術における欧州の研究開発を維持し強化する統合的アプローチの一部としての行動を提案する。社会の利益のために研究開発を通じて生み出される知識の生成と活用を確保するために重要な問題を考慮する。これに関して、首尾一貫した行動の観点から組織レベルでの下記の議論を展開することは時宜にかなったことである。
[1] Presidency conclusions can be downloaded from http://ue.eu.int/en/Info/eurocouncil/index.htm [2] "The European Research Area: Providing new momentum - Strengthening - Reorienting - Opening up new perspectives" COM (2002) 565 final 1. はじめに 1.1. ナノ技術とは何か?(訳省略) 1.2. なぜ、ナノ技術は重要なのか?(訳省略) 1.3. ナノ技術の安全を確保するためにはどのアプローチを採用すべきか? 欧州条約にしたがって、ナノ技術の適用は、高いレベルの公衆の健康、安全、消費者[7]及び環境の保護[8]の要求を満たす必要がある。この急速に展開する技術が可能な限り速い段階で(現実の又は知覚される)安全性の懸念を特定し、解決することが重要である。好結果をもたらすナノ技術の開発は消費者と商業の双方の信頼のための健全な科学的ベースを必要とする。さらに、職場における健康と安全を確保するためにあらゆる措置がとられるべきである。 ナノ技術製品の安全な開発、製造、使用、そして廃棄を確実にするために、研究開発の端緒から商業的活用にいたるまで、これらの技術の開発の統合された一部として、リスクの側面に目が向けられることが重要である。 ナノ技術はまた、リスク評価及びリスク管理のために新たな課題を提起する。したがって、技術的開発と平行して、リスク評価を行うための、そして必要ならリスク評価手順を調整するための、毒物学及び生態毒物学に関する定量的なデータ(ヒトと環境の用量反応及び曝露データを含む)を供給するために、適切な研究開発が行われることが重要である。公衆の健康、環境、安全、及び消費者保護に関連する行動は、後にこの文書の中で目を向ける。 [7] Treaty Articles 152 and 153 respectively require that a “high level of human health protection […] be ensured in the definition and implementation of all Community policies and activities” and that “consumer protection requirements […] be taken into account in defining and implementing other Community policies and activities.” [8] Treaty Article 174 has, among others, the objectives of “preserving, protecting and improving the quality of the environment”,“prudent and rational utilisation of natural resources” and “promoting measures at international level to deal with regional or worldwide environmental problems.” 4. 公衆の健康、安全、環境、及び消費者保護 ナノ技術に関連する可能性ある健康又は環境リスクの科学的調査と評価は、研究開発と技術的進歩を伴うことが必要である。現在、いくつかの特化された研究は潜在的なリスクを評価するために実施中であるが、それらはまたナノ技術分野における、FP6 IPs と NEs プロジェクトによっても検証されている。 特に、ナノ粒子は、そのサイズが小さいために[46]、予測できない仕方で振舞うかもしれない。それらは特別な課題、例えば、製造、廃棄、取り扱い、貯蔵、及び輸送に関する課題を示すかもしれない。 研究者から労働者、消費者にいたるまで全ての主体者を考慮して、関連するパラメータを決定し、必要なら規制を準備するために、研究開発が必要である。この研究開発はまた、ライフサイクルの全体を通じて、例えばライフサイクル評価ツールを用いることによって、ナノ技術の影響を考慮する必要がある。そのような問題は世界全体の懸念なので、国際的なレベルで知識を体系的に蓄えることががよい。 もっと一般的には、公衆健康、環境及び消費者の保護のためには、研究者、開発者、製造者、及び、流通者を含む、ナノ技術の開発に関与する全ての人々が、適切な手法を用いて信頼性のできる科学的データと分析に基づき、可能な限り早い時期に、どのような潜在的なリスクにも目を向けることが求められる。 古典的物理学及び量子力学の双方の影響を考慮する必要があるので、ナノ技術ベースの製品の特性を予測することは難しく、課題が生じる。多くの方法で、ナノ技術を用いた人工物質は新たな化学物質を生成することに関連付けられる。結果として、公衆の健康、環境、及び消費者に対するナノ技術の潜在的なリスクに目を向けることは、毒物学及び生態毒物学に関する(用量反応及び曝露データを含む)既存のデータの再利用の可能性の評価とナノ技術特有の新たなデータの生成を求める。 このことはまた、リスク評価手法を検証し、必要があれば、調整することを求める。実際、ナノ技術に関連する潜在的なリスクに目を向けることは、リスク評価をナノ技術ベースの製品のライフサイクルの全ての段階に統合することを必要とする。
46 See e.g. the EC-funded projects: Nanopathology “The role of nano-particles in biomaterial-induced pathologies” (QLK4-CT-2001-00147); Nanoderm “Quality of skin as a barrier to ultra-fine particles” (QLK4-CT-2002-02678); Nanosafe “Risk assessment in production and use of nano-particles with development of preventive measures and practice codes” (G1MA-CT-2002-00020) |