ES&T 2007年10月24日
銅ナノ粒子はゼブラフィッシュに害を与える
ナノサイズの炭素や二酸化チタンよりもはるかに危険

情報源:ES&T Science News - October 24, 2007
Copper nanoparticles harm zebrafish
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2007/oct/science/nl_coppernano.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年10月29日


 ナノサイズの銅粒子は溶解銅イオンとは異なる影響を及ぼし、ナノサイズの炭素や二酸化チタン(TiO2)よりもはるかに危険である。

 研究者らは、ナノサイズの銅粒子は、溶解銅イオンとは異なる未知のメカニズムを通じて、魚のエラに影響を与えることを発見した。ES&T (DOI: 10.1021/es071235e)に発表された研究結果は、銅ナノ粒子は炭素や二酸化チタン(TiO2)のナノ粒子に比べてはるかに危険であることを示唆している。研究者らは、この研究はナノスケールの銅や他の金属の影響を評価する最初の段階なので、この結果をまだ警告とはしていない。

 銅は魚に有毒であることが知られている。この金属のほんのわずかの量でもサケの”嗅覚”を損傷したり、マスの肝臓を破壊することができる。

 以前の研究では、二酸化チタンなどのナノ粒子の紅マスへの影響を調査した。二週間の評価で、プリマウス大学(英)のリチャード・ヘンリーらは、銅のような金属イオンやナトリウム及びカリウム・イオンの存在におそらく関係した魚の呼吸障害及びその他の致死的な影響を発見した(Aquat. Toxicol. 2007, 84, 415-?430)。

 新たなES&Tでの研究では、フロリダ大学のデービッド・バーバーらはもっと短期間ではあるが、同じような実験を行った。ゼブラフィッシュを銅ナノ粒子に暴露し、2日間で粒子に何が起きるかを観察した。彼らは、銅ナノ粒子が、天然水中で通常よく見いだされる天然の有機物質やイオンを含む水道水中で溶解するかどうか、あるいは離散粒子として留まるのかを追跡した。ナノ粒子はそのような条件下では特別なコーティングを施さないと凝集する傾向があるが、研究チームは約3分の1のナノ粒子は48時間遊離したままで溶解しないことを見いだした。

 2日間の致死濃度を決定した後に、バーバーらはゼブラフィッシュを非致死的なナノ粒子レベルに暴露させた。魚が100 μg/Lのナノ粒子に暴露された時、溶解銅に暴露した場合に比べて、ある場合には同じレベルでも、異なる遺伝子発現のパターンと形態学的変化がエラに見られた。

 ”用量測定の問題に目が向けられなくてはならない”とバーバーは述べている。それぞれの場合における金属の質量は必ずしも2、3、あるいは24時間以上後の混濁液中に存在する質量である必要はないと彼は述べている。同チームは、銅ナノ粒子は、ミジンコ中の二酸化チタン粒子による実験、あるいはミノウ(コイ科の魚)中のフラーレンのような炭素ベースのナノ粒子による実験で示されたものよりもはるかに低い濃度で、”ゼブラフィッシュに対し激しい致死性がある”と結論付けた。

 しかし、ある研究者らは、バーバーのチームにより用いられた実験レベルは環境中で生じそうな濃度より高いと指摘している。天然水中では銅やその他のナノ粒子に凝集作用が起こり、したがって野生生物はそのような高濃度にはさらされないとヨーク大学(英)のアリステア・ボグザールは述べている。それにもかかわらず、同チームは比較的不純な水を用いたので、この実験は他の多くの実験より実際の水での暴露に近いと彼はコメントした。

 銅ナノ粒子は現在、大部分がマイクロエレクトロニクス(電子集積回路技術)の分野で使用されているとボグザールは述べており、”したがって環境中への排出は最小であるように見える”。しかし、例えば、もしそのようなナノ粒子がもっと広範囲に身体手入れ用品中などで使われるようになれば、それらはいずれ直接、あるいはそれらをろ過できない廃水処理設備を通じて水系中にいたるかもしれない。後に農業用畑で肥料として使われるバイオ固形物に吸着したナノ粒子は環境中に入り込む。

 ”現時点では、ほとんど何も何も分っていないので、どのような研究も重要である”とパーデュ大学の水系生態学者マリソル・セプルベダは述べている。彼女は、バーバーらが実施したような時間経過にともないナノ粒子に何が起きるかの評価、あるいはナノ粒子のサイズ分布の特性化を行った研究は比較的少ないと述べている。この実験は、銅ナノ粒子への暴露は長期的な影響を及ぼしそうであることを示唆していると彼女は述べている。さらに、慢性暴露はもっと内部組織に影響を与え、”長期暴露はエラ以外にも影響を与えるかもしれない”。

 しかし、ライス大学の生物化学者であり細胞生物学者であるメアリー・レーンは、銅ナノ粒子に対する物理的及び遺伝子反応は、ゼブラフィッシュが”ダメージに対して一貫した反応”を起こすことを観察している。”この2日間の実験で、このナノ粒子は”溶解銅より有害性が幾分低い”かも知れない”とレーンは結論付けているが、”明白なことはこの物質が悪いものであることは疑いの余地がないことである”。

ナオミ・リュービック(NAOMI LUBICK

訳注:関連記事:
Nanowerk, October 24, 2007 Copper nanoparticles harm zebrafish



化学物質問題市民研究会
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