ES&T 2007年3月7日
脂質コーティングのナノチューブはミジンコに容易に摂取される
脂質コーティングされた水溶性ナノチューブはミジンコに容易に摂取され、構造的に変化する

情報源:ES&T Science News - March 7, 2007
Lipid coating increases uptake of nanotubes
Lipid-coated water-soluble nanotubes are easily ingested and structurally modified by water fleas.
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2007/mar/science/rc_lipid.html(リンク切れ)
Nanowerk News March 7, 2007
Lipid coating increases uptake of nanotubes(同一記事)

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年3月10日


腹の減ったミジンコの空の腸(左)と
水溶性ナノチューブで満たされた腸(右)
Stephen Klaine et al.
 急速に拡大するナノ技術産業はより新しくより複雑な物質を次々に作りだすので、これらの物質の環境に及ぼす潜在的な影響について多く人々が懸念を持っている。

 ES&TのResearch ASAP website (DOI: 10.1021/es062572a In vivo Biomodification of Lipid-Coated Carbon Nanotubes by Daphnia magna)に本日発表された新たな研究は、カーボン・ナノチューブは天然の脂質を塗ることで水溶性になり、ミジンコに急速に摂取され、構造的に変化することを示した。ナノチューブはまた、高い濃度ではミジンコに毒性がある。

 ES&T で以前に表された論文(及び関連記事)は水溶性が高まるとナノチューブは水性環境中で残留性が高まることを示したが、生物組織への直接的な影響についてはテストしなかった。

 カーボン・ナノチューブは非水溶性であることが知られている。しかし、界面活性剤やある種の天然ポリマーのような様々な物質で処理すると水溶性になる。

 水溶性の単層カーボン・ナノチューブの潜在的な毒性を調査するために、クレムソン大学の環境毒物学者ステファン・クラインと彼の同僚らは腹の減ったミジンコが入ったいくつかの水カップに脂質コーティングしたナノチューブを異なる濃度で入れた。研究者らはナノチューブの濃度が高まると生き残るミジンコが多くなることを知って驚いた。ナノチューブを入れていない水では、20%が生き残ったが、0.5mg/L の濃度では約90%が生き残った。0.5mg/L を越えるとミジンコは死に始めカップの底にに落ちた。”ナノチューブはしばらくの間はよいが、後には有毒となる”とクラインは述べた。

 クラインはナノチューブとミジンコを含んだ水カップに水藻を入れて実験を繰り返した。水藻があるとほとんど100%のミジンコが 5mg/L までの全てのナノチューブ濃度で生き延びた。10mg/L では80%弱のミジンコが死んだ。この結果は、ナノチューブの毒性は摂取によるものであり、水藻が存在するとミジンコは水藻をより多く食べ、ナノチューブは少ししか食べないことを示した。研究者らはまた、電子顕微鏡でミジンコを観察し、ミジンコの腸はナノチューブに暴露すると45分から1時間でナノチューブで満たされることを発見した。

 ミジンコが水溶性ナノチューブを腹いっぱい食べると、コーティングされていない非水溶性ナノチューブが水中で示すような黒い沈殿物がカップの底に堆積することを発見した。ミジンコはナノチューブを飲み込み、脂質層をはがして食物とし、裸ナノチューブを吐き出すので、再びそれらは非水溶性となるのではないかと考えた。研究者らは分光測光法技術を用いて、その黒い沈殿物はまさに元の加工される前のナノチューブと同じ分光分析特性を持っていることを確認した。これらのことを合わせると、ミジンコは単にこれらのナノチューブを食べているだけでなく、それらを”劇的に変化させている”ことを意味するとクラインは述べている。

 この研究はまた、コーティング、非コーティング両方のナノ物質は特に異なる水溶性特質を有しているので、それらの環境への影響評価の重要性を描き出しているとクラインは述べている。”その影響は水溶性ナノ粒子は川下に移動するということである”と彼は指摘している。このことは、”生物はナノ粒子放出場所から遠く離れた水の中でも影響を受けることを意味する。一方、非水溶性ナノ粒子は、沈殿物中に残留する。したがって全く異なる生物が影響を受ける”と彼は述べている。

 しかし、この研究はこれらの粒子がミジンコを殺すメカニズム、あるいはミジンコがどのように脂質層を食物として摂取しているのかについてはっきり説明していないと彼は付け加えた。

 ”これはすばらしい研究だ”と微生物に対するナノ物質の環境影響を研究しているパーデュ気候変動研究センターの環境毒物学者ロナルド・ターコは述べている。”ミジンコによるナノチューブの変化は環境の世界にとって本当に興味深い発見である”と彼は付け加えた。現在まで、ナノ粒子の環境毒性に関する研究はほとんど行われていない。”この研究はコーティングの問題を示している。我々は内部よりも外部に塗るものに注意深くなくてはならない”とターコは述べている。

 しかし、これはそのような水溶性ナノ物質の環境的影響に関する最終的な結論ではないとクラインもターコも警告している。それらの環境的影響評価のまだ序の口である。”このことは他の生物に対しても同様な研究をするよう促している”とクラインは述べている。

リーツ・チャタジー (RHITU CHATTERJEE


訳注:同一記事
Nanowerk News March 7, 2007 Lipid coating increases uptake of nanotubes



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る