米国立環境健康科学研究所 EHP 2007年3月号
カーボン・ナノチューブの懸念
ナノチューブは血管系にダメージを与える


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 115, Number 3, March 2007
Science Selections
Carbon Concerns
Nanotubes Cause Cardiovascular Damage
http://www.ehponline.org/docs/2007/115-3/ss.html#carb

Original: Cardiovascular Effects of Pulmonary Exposure to Single-Wall Carbon Nanotubes

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年3月10日

 ナノ技術において最も一般的に使用されている物質のひとつである単層カーボン・ナノチューブ(SWCNTs)の肺への沈着は部分的な有害影響を引き起こすことはすでに知られていることである。今回、科学者らはそのような沈着はまた、動脈硬化プラーク(atherosclerotic plaques)形成の促進などマウスの血管系にダメージを引き起こすことを示した[EHP 115:377?382; Li et al.]。この発見は単層カーボンナノチューブへの暴露は全身的な有害影響を引き起こす可能性があるという懸念をもたらすものである。

 この研究チームはマウスの肺に単層カーボン・ナノチューブをしみ込ませつつ、一連の実験を行った。肺外影響の初期スクリーニンングで、Ho1-luc reporter 遺伝子導入マウスに10または40μgの単層カーボン・ナノチューブを一回暴露させた。酸化ストレスのバイオマーカーである Heme oxygenase-1(HO-1)遺伝子が暴露7日後にマウスの肺、動脈、及び心臓組織の中で発現し、その後、28日後までにコントロール・レベルまで減衰した。これは初期の一時的な炎症性反応を示しており肺の毒性研究と一致した。

 同様な投与が一般的に使用されるC57BL/6マウスを用いて行われたが、投与の後、7、20、及び60日後に用量に関係なく大動脈ミトコンドリアDNA(mtDNA)のダメージを示した(訳注1:ミトコンドリアDAN)。mtDNAは酸化ダメージに非常に敏感であり、アテローム性動脈硬化症の初期症状であると考えられる。処置を施されたグループの中で、酸化ストレスの他の二つの指標であるグルタチオンとタンパクのカルボニル・レベルもまたそれぞれ有意に減少及び増大し、単層カーボン・ナノチューブへの暴露は酸化損傷を引き起こすこという証拠を新たに加えた。コントロール・グループでの超微小ブラックカーボン粒子への相当用量暴露では大動脈mtDNAへのそのようなダメージは生じなかった。

 研究チームは次に、ヒトのアテローム性動脈硬化症のモデルとして広く使われている ApoE-/-マウスで単層カーボン・ナノチューブの影響をテストした。彼らはマウスに20μgの単層カーボン・ナノチューブを1週間に1回、8週間、暴露させた。その時に、そのマウスは通常のエサか、またはアテローム性動脈硬化症にしばしば先んじる脂質濃度を高める高脂肪のエサをその期間の前半に与えられた。単層カーボン・ナノチューブ暴露はマウスの脂質特性の変化と関係なかったが、脂質濃度の高いエサを与えられた暴露マウスはコントロールに比べて大動脈中及び腕頭静脈中に高い病変形成が観察された。

 研究者らは、単層カーボン・ナノチューブへの暴露の結果起きる血管系影響は肺から全身循環系への粒子の移動の直接的な結果か、あるいは肺での炎症性メディテータの放出による、または変更された肺機能による間接的な結果のどちらかであると言及した。(しかし、暴露したマウスでは、測定された炎症性メディテータに増加は検出されなかった。)これらのデータは潜在的な職場での暴露シナリオである単層カーボン・ナノチューブの肺での沈着が全身的なダメージを引き起こし血管系の疾病の原因となるかもしれないことを示している。

エルニ・フード(Ernie Hood)



化学物質問題市民研究会
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