米国立環境健康科学研究所 EHP 2007年8月号 レビュー
カーボン・ナノチューブの
環境とヒトへの影響に関する知識ベースをレビューする

アブストラクト紹介

情報源:Environmental Health Perspectives Volume 115, Number 8, August 2007
Review
Reviewing the Environmental and Human Health Knowledge Base of Carbon Nanotubes

Aasgeir Helland,1,2 Peter Wick,3 Andreas Koehler,1 Kaspar Schmid,4 and Claudia Som1

1Technology and Society Lab, EMPA (Swiss Federal Laboratories for Materials Testing and Research), St. Gallen, Switzerland; 2Institute for Human-Environment Systems, ETH (Swiss Federal Institute of Technology) Zurich, Zurich, Switzerland; 3Laboratory for Biocompatible Materials, EMPA, St. Gallen, Switzerland; 4Institute for Occupational Health Sciences, Lausanne, Switzerland

http://www.ehponline.org/docs/2007/9652/abstract.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年8月27日

アブストラクト
Abstract

 カーボン・ナノチューブ(CNTs)は、多くの技術的適用のために興味深い特性を持っており、ナノ技術において最も将来を期待される物質のひとつであると考えられている。合成、精製、後処理の手法が異なると、それに対応して異なる物理的特性をもった CNTs が製造され、それらの特性は化粧品から医療、電子技術、エネルギー貯蔵に到るまで様々な分野で適用される。
 CNTs は広い範囲で使用されるので、それらの潜在的な有害影響を理解することが重要になる。この環境健康影響に関する文献レビューで、我々は毒性学的研究の結果のかなりの範囲を調べた。整合性については、今後の更なる標準化及び参照資料の導入によって改善されるべきである。
 しかし、現時点でのレビューによって得られた結果はいくつかの重要な点を示唆している。
  a) 異なるタイプの CNTs が存在するが、それらは同一の物質グループと見なすことはできない。
  b) 環境中においては、生物に対して bioavailable (生物学的利用能)である。

 CNTs の特性は、食物連鎖による生物蓄積性及び高い残留性の可能性を示唆している。生体中における CNTs の吸収、分配、代謝、排泄、及び毒性は、CNT 機能、コーティング、長さ、及び、CNT の製造、使用、及び処分の段階における外部環境要因に影響を受ける凝集性のような固有の物理的及び化学的な特性に依存する。
 したがって毒性学的研究を行う時には特性化した暴露シナリオが有用である。しかし、CNTs は十分な量が肺に到達すると有毒な反応を起こす。この反応は時間依存−用量依存で起きる。人の健康と環境への潜在的リスクの特定は、将来の適用における CNTs の導入を成功させるために必須である。

キーワード:カーボン・ナノチューブ、細胞毒性学、生態毒性学、環境、環境的運命、人の健康、インビトロ、インビボ、ナノ物質、ナノ技術、ナノ毒性学
Key words: carbon nanotubes, cytotoxicology, ecotoxicology, environment, environmental fate, human health, in vitro, in vivo, nanomaterials, nanotechnology, nanotoxicology.

イントロダクション
(Introduction)

 政府、産業、及び個人投資家によるナノ技術の研究開発への世界の投資総額は、2005年には96億ドル(約1兆2,000億円)に達すると見積られている((Lux Research Inc. 2006)。その大きな部分は、様々な適用のために期待の大きい多くの貴重な物理的化学的特性のために、ナノ粒子物質の開発に向けられている。これらの新たな物質のひとつが、様々な製造業分野で商業的期待がかけられているカーボン・ナノチューブ(CNTs)である。

 しかし、大気汚染の疫学的研究は、微粒子物質は心臓疾患と強い関連性があることを示唆している(Pope et al. 2004)。ある研究は、ナノ粒子は、もっと大きな粒子に比べて質量当たりの表面積が大きいので、人の体内に容易に入り込み生物学的に活性であるかもしれないことを示している(berdorster G et al. 2005)。消費者製品中での人工ナノ粒子の予期される広範な使用は、環境的、職業的、及び公衆の暴露を劇的に増大させるかも知れない。その結果、異なる利害関係者らは人工ナノ粒子の健康影響に関し深刻な懸念を提起している(Helland et al. 2006)。ナノ粒子の潜在的毒性に関する最近のレビュー記事(Nel et al. 2006; Oberdorster G et al. 2005)は、ナノ粒子の毒性は特定の物理化学的及び環境的要素に依存すると結論付けている。したがって、ナノ粒子のそれぞれのタイプの潜在的な毒性は個別に評価されなくてはならない。

 ここでは我々は、CNTsの人の健康と環境に及ぼす潜在的なリスクに関する入手可能な文献をレビューする。異なる環境への放出が製造時だけでなく製品の使用、及び廃棄処分の段階で起き、間接的又は直接的に人へ暴露をもたらすかもしれないので、我々はまた、CNTs のライフサイクルを調査した。しかし、発表されている文献は多くの答えのない疑問を明らかにしている。したがって、我々はまた、世界的な7人の科学者に体系的にインタビューし、彼らの当時の知識をこのレビューに反映した(付属資料参照:http://www.ehponline.org/docs/2007/9652/suppl.pdf)。これは我々が疑問を特定し、提案を作成するのに役に立った。インタビューを行った科学者は、人の健康又は環境に及ぼす CNTs の潜在的な影響を調査し報告した主要な著者あるいはプロジェクト・リーダーであった。この組み合わされたアプローチを通じて、我々は科学的討議のために当時の知識ベースを更新して示すことができる。

 このレビューでは、我々は、単層カーボン・ナノチューブ(SWCNTs)及び多層カーボン・ナノチューブ(MWCNTs)を含む物質の一般的側面について述べるときに、”カーボン・ナノチューブ”という言葉を使用した。ここで”多層(multi)”は、2あるいはそれ以上の層として定義されている。単層カーボン・ナノチューブ(SWCNTs)及び多層カーボン・ナノチューブ(MWCNTs)という言葉は特定の場合に使用されている。


(訳注:残りの下記章については後日紹介予定)
  • カーボン・ナノチューブ物質への暴露(Exposure to Carbon Nanotube Material)
  • 人の健康(Human Health)
  • 討議(Discussion)


化学物質問題市民研究会
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