EHN 2012年10月5日 論文解説
日焼け止めの意図しない結果
皮膚を損傷するオキシダント(酸化剤)

解説:クレイグブット及びウェンディ・ヘスラー
情報源:
Environmental Health News, October 05, 2012
Sunscreen's unintended consequence: skin-harming oxidants
Synopsis by Craig Butt and Wendy Hessler
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/2012/06/
2012-1004-chlorine-degrades-nanoparticle-coating/


Original:
Virkutyte, J, SR Al-Abed and DD Dionysiou. 2012.
Depletion of the protective aluminum hydroxide coating in TiO2-based sunscreens
by swimming pool water ingredients.
Chemical Engineering Journal http://dx.doi.org/10.1016/j.cej.2012.02.074

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2013年1月2日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehn/ehn_121005_Sunscreen's_unintended_consequence.html



 水泳プールの塩素は、紫外線から肌を守る日焼け止めに含まれる二酸化チタン・ナノ粒子のコーティングをはがす可能性があり、はがされたナノ粒子は水と反応して、皮膚の損傷とがんをもたらす可能性がある。有害な紫外線から保護するナノ粒子は、太陽光中でも安定するようにコーティングされている。しかし、新たな研究は初めて、保護コーティングが分解されてフリーラジカルが形成されることを示した。フリーラジカルは、DNAを傷つけ、老化させ、がんをもたらす可能性が知られている。これらの化合物への曝露に健康影響があるかどうかは不明である。しかしこの研究は人々を太陽光から保護するとみなされている日焼け止めが、同じく皮膚を傷つけることができるもうひとつのリスクを生じるのではないかという疑問を提起した。

何をしたか?

 この研究は、水泳プールを消毒するために加えられる塩素が、日焼け止めローション中の二酸化チタン上の水酸化アルミニウム(Al(OH)3)コーティングを分解するかどうかを検証した。

 研究者等は、水泳プールの水を作り、次亜塩素酸ナトリウムを加えた。次亜塩素酸ナトリウムは漂白剤中に見られる塩素化合物であり、水泳プールを消毒するのによく使用される。

 最初に、彼等は、塩素消毒された異なる濃度のプールの水がナノ粒子上のコーティングを損傷するかどうかをチェックした。二酸化チタン・ナノ粒子の日焼け止めローション(ニュートロジーナ、SPF 30)が5つの異なる濃度のプール水に加えられた。5段階の塩素レベルは0〜7ppmまで変動した。プールの水は典型的には1〜3ppmの塩素を含む。45分後、ナノ粒子はコーティングに変化があるかどうか調べるために分析された。

 次に、彼等は、塩素消毒されたプール水中のコートされたナノ粒子が太陽光に曝されたときに、どのくらい活性酸素が形成されるかを測定した。粒子は、5ppm塩素のプールの水に7日間つけられた。それから、その水は人工太陽光に曝された。活性酸素のひとつの形であるヒドロキシルラジカル(OHラジカル)の量が測定された。

何を見つけたか?

 ナノ粒子が0.2〜7ppmの範囲のレベルの塩素化されたプール水に浸けられると、保護コーティングはゆっくり分解した。コーティングの分解は塩素のレベルが0.4ppm以上のときに観察された。除去されたコーティングの量は、塩素レベルが高い水ほど高かった。塩素のないプールの水ではコーディングはそのまま残っていた。

 この調査結果は、塩素がコーディング除去に重要な働きをするということを示唆した。さらに、著者等はプールの水の中の他の要素、例えばカルシウムやリン酸塩が分解に寄与するかもしれないということを示唆している。

 この調査はまた、ひとつのタイプのフリーラジカルであるヒドロキシルラジカル(OHラジカル)は、コートされたナノ粒子が人工太陽光と塩素化された水の両方に曝されると生成されることを示した。しかし、塩素がないと、OHラジカルは形成されない。ヒドロキシルラジカルはフリーラジカルの中で最も危険なタイプである。

何を意味するか?

 塩素化されたプールの水は、太陽光中の紫外線から人々を守る日焼け止めに用いられる二酸化チタン・ナノ粒子上の保護コーディングを除去することができる。太陽光中で、保護コーティングのないナノ粒子は水と反応して有害なフリーラジカルを生成することができる。

 これらのフリーラジカルは、細胞DNAを損傷して、がんやその他の疾病をもたらすことができるが、日焼け止めナノ粒子からこのように形成されるオキシダントの全体的なヒト健康リスクは未知である。

 この調査は、二酸化チタン・ナノ粒子上の保護コーティングが水中で分解することができることを初めて示したものである。以前の調査では、コーティングは安定であると信じられていたが、それらの調査は塩素の影響を検証していなかった。

 コートされていない二酸化チタン・ナノ粒子は、太陽光と水の存在下でフリーラジカルを生成することがよく知られている。フリーラジカルは、酸化ストレスとDNAダメージに関連しており、がんをもたらすかもしれないので、人健康に懸念がある。

 研究者等は、実験室で用意した塩素化された水泳プール水を実験に使用した。この実験は、塩素濃度が高ければ高いほど、より多くのコーティングが除去されることを示した。この調査でテストされた塩素レベル(0.2〜7 ppm)は、多くのプールで使用されている塩素濃度(1〜3 ppm)と同程度であり、したがって実際の条件を反映している。

 このことは、日焼け止めローションは典型的に水泳の前に塗られるので、特に人曝露に関連性があり、多くのプールは塩素消毒されている。

 調査結果はまた、保護コーティングは湖、河川、海のように塩素化されていない水では除去されないことを示唆している。しかし、自然水系の水質化学は変動が非常に大きく、粒子コーティングの安定性と活性酸素形成に寄与する他の要素は調査されていない。

 この調査はまた、コートされたナノ粒子は、太陽光曝されたときにフリーラジカルを生成するが、それは水が塩素を含んでいる場合だけである。おそらく、フリーラジカルは塩素が保護コーティングを除去した後にのみ生成された。

 この調査は、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)コーティングという、ただ1種類のコーティングだけを調べた。粒子をコートするために用いられる他の物質には、ポリマーとシリコン、マグネシウム及び水酸化ジルコニウムなどがある。更なる研究が他のコーティングが塩素化された水の中で分解するかどうかを調べる必要がある。

 この発見は、グリーン化学者が、塩素化プール水を含む全ての種類の水の中で安定であり、活性酸素を生成しない二酸化チタン・コーティングを設計するという課題を示すものである。

 次の研究段階は、人健康へのリスクを調べることであろう。活性酸素コーティングされていないナノ粒子から生成される活性酸素種(ROS)は、がんと皮膚損傷のリスク要素である 。それらの安全性は、日焼け止めによりもたらされる便益の脈絡中で評価されるべである。



化学物質問題市民研究会
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