ナノ技術に関するエンバイロンメンタル・ディフェンスの展望
ナノ技術について初めて正しく理解する
ジョーン・バルブス、リチャード・デニソン
カレン・フロリーニ、スコット・ウォルシュ

情報源:Environmental Defense, Summer 2005
Environmental Defense's perspective on nanotechnology
Getting Nanotechnology Right the First Time
by John Balbus, Richard Denison, Karen L. Florini and Scott Walsh
http://www.environmentaldefense.org/documents/4816_nanotechstatementNAS.pdf

抄訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年4月9日

 政府と産業界は新たなナノ製品が広く市場に出回る前に、可能性ある健康と環境へのリスクを特定し、管理すべきである。
 ナノ技術−分子及び原子のスケールでの物質の設計と操作−は、環境を含む様々な分野で多くの利益をもたらす可能性がある。

 物質がナノスケールに達することで生じる新たな特性(表面の化学的特性、反応性、導電性、その他の特性の変化)は、様々な適用の中の環境分野では、直接的に環境改善につながるもっとクリーンなエネルギー製造、エネルギー効率、水処理、環境の浄化、物質の軽量化などの技術革新にドアを開くものである。

 同時に、これらの新たな特性は、労働者、消費者、公衆、及び環境に新たなリスクを及ぼすかもしれない。懸念を引き起こすデータは現在はまだ少ないが、あるナノ物質は、皮膚、脳、及び肺組織を損傷する、環境中で移動し又は残留する、又は微生物(食物連鎖の基礎を成す)を殺す可能性を持っているように見える。この数少ないデータは、人工ナノ物質の環境と健康への影響について、いかにわずかのことしか知られていないかということに光を当てる。(ナノ物質に関するリスク関連研究調査の文献とアブストラクトのリストは http://www.environmentaldefense.org/go/nano で入手可能である。)

 アスベスト、クロロフルオロカーボン類(訳注:用語解説)、DDT、加鉛ガソリン、PCB類、その他数多くの物質によって引き起こされた問題が示すように、製品が有用であるという事実はそれが健康又は環境に害がないとうことを保証するものではない。そして、もし製品が広く使用されるようになった後に危険が知られるようになったなら、その結果は、人が被害を受け環境を損なうだけでなく、長期間の裁判闘争、金のかかる浄化修復、訴訟費用の大きな出費、そして社会関係のおおきな歪みをともなう。現在までのところ、様々な分野でのナノ物質の急速な開発と商業的導入はその影響を理解する努力よりも早く、その安全性の確認は放置されたままである。幸いなことにナノ技術の開発と商業化はまだ初期段階なので、ナノ技術に対する賢明な取組を開始するのに遅すぎるということはない。

 ナノ技術は、事前にリスクを特定し、それらに向けて必要な措置をとり、この技術のたどる道を理解するのに役立てるために有意な利害関係者と共同することにより、過去の失敗からの教訓を適用する重要な機会提供する。ナノ技術を正しく理解するための最初の機会でもある。

懸念の理由

 ナノ粒子は燃焼などの化学反応の副産物として自然に発生又は生成されることがある。しかし、現在、その数量が増大し、非常に広い範囲の適用分野で市場に出始めている大量の人工ナノ粒子−フラーレン(バッキーボールとも呼ばれる)、カーボン・ナノチューブ、量子ドット、ナノスケール酸化金属、その他−に目が向けられている。 訳注(参考):
フラーレンの構造
典型的なナノ物質の構造/ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター

 今日までになされた研究は、これら人工ナノ物質のリスクの全体像を提供するには不適切であり、人工ナノ物質の他の異なるタイプについてのもっと多くの疑問もそのままにしている。しかし、それらの研究は我々が懸念する理由を示している。それらの研究によれば、あるナノ物質は環境中を移動し又は環境中に残留することがあり、魚やラットなどの多様な動物に有害影響を与えることがあることを示している。最近のライス大学のバッキーボールの研究調査は、個々のバッキーボールは水中では十分に溶解しないが、それらは水溶性と殺バクテリア性の両方の特性を持つ凝塊を形成する傾向があることを発見したが、このことは、多くの生態系でバクテリアは食物連鎖の底辺をなすので、生態系への影響について強い懸念をを提起するものである。さらに、ナノ粒子は吸入されると気道に堆積する。粒子のあるものは鼻道に付着し、そこで嗅覚神経に取り込まれ血液脳関門を通過して直接、脳細胞に運ばれる。30〜50ナノメートルの範囲のナノ粒子は肺の中に深く浸透し、そこでそれらは肺組織を容易に通過して体循環に入り込むことが示された。体内でのこの急速で広範な分布はこれらの物質による新たな診断と治療の適用の可能性を示すが、しかしまた、その有毒性について完全に理解することの重要性に光を当てるものである。

 一連のナノ物質は、酸化ストレス(訳注:用語)を引き起こすことによって組織及び細胞に損傷を引き起こす能力を持つ。バッキーボールは大口バスの実験で脳と肝臓に酸化ダメージを与える。他のナノ粒子は皮膚細胞と肝臓に酸化ストレスを引き起こす。ほとんどの研究は、表面にコーティングのないバッキーボールやカーボン・ナノチューブのようなプロトタイプ又は”単純”なナノ粒子を使用している。変化とコーティングの影響に目を向けた数少ない研究は、これらの変化が当初の粒子の毒性を変えることを示し、そのことは全体像をさらに複雑にし、これらのコーティングが体内や環境中で時間経過とともにどのように劣化するかという疑問を提起する。酸化ストレスはまた、カーボン・ナノチューブのいくつかの研究で観察された肺組織へのダメージの背景にあるメカニズムの一部である。ラットとマウスの肺にしみ込ませたカーボン・ナノチューブは30日以内に異常な部分的免疫病変(granulomas)を引き起こし、別の吸引研究では、この影響とともに肺組織全体の用量依存の肺繊維症も認めた。これらの研究は、あるナノ粒子は、肺の通常の排除と防御メカニズムを潜り抜けることができることを示唆している。これらの研究で使用された用量と管理の方法は実際にあり得る暴露シナリオを完全には反映していないかもしれないが、これらの研究は、あるナノ粒子は著しいリスクを及ぼす可能性があることを強く示唆している。

緊急な行動の必要性

 これらの初期の研究は、人工ナノ粒子の健康と環境への影響についていかに知られていないかということに光を当てている。すでに毎年数千トンのナノ物質が製造されており、ナノ物質が導入さた数百の製品がすでに市場に投入されていると報告されている。ナノ技術製品の世界市場は少なくとも今後10年間で1兆ドル(約110兆円)に達すると予測されている。もし、広い範囲の様々なナノ粒子によって及ぼされる潜在的なリスクの適切な理解を広げ、この知識を適切な規制に適用するのに長い時間がかかるようなら、今すぐ行動を起こさなくてはならない。

 公共及び民間部門の最大の利益は、問題が発生するまで待って矯正したり対応するのではなく、今、ナノ物質からの潜在的なリスクを特定し管理するために投資することによって得られる。ひとつの技術を受け入れる時にその全てのリスクを注意深く評価し管理しないと、人間的及び財政的な観点から非常に高いものにつくことは歴史が示す通りである。塗料、水道管、及びガソリンでの鉛の使用による有害影響を十分に考慮しなかったために、今日に至るまで広い範囲で有害健康影響をもたらし続け、浄化のために極端に高いコストで我々に負担をかけている。アスベストはもうひとつの事例であり、改善、訴訟、及び補償のために莫大な金額が民間企業によって支払われており、人の健康と環境に対する危害を緩和するために公共部門によって費やされた金額をはるかに越えている。スタンダード&プアーズ(Standard & Poor's 訳注:ビジネス・コンサル会社)はアスベスト関連損害のための法的責任のためのコストは2,000億ドル(約22兆円)に達すると推定している。

 リスクの問題は健康と環境に関するものだけでなく、この将来性ある技術の成功に対するリスクもある。もし、公衆が人の健康と環境に対する有害な結果を特定し最小化する方法でナノ技術が開発されているということに確信が持てなければ、ナノ技術の潜在的な利益の多くの実現が遅れ、低減し、さらには妨げられるような反発を招くことになる。数年前に遺伝子組み換え生物で見られたように、初期にリスクに目を向けずに急速な商業化を行うと製品禁止及び市場の閉鎖を招き、結果としてアメリカの農民と企業が年間数億ドル(数百億円)の輸出損失を被った。

 下記4つの時宜を得た行動は、最も効率的で安全なナノ技術の使用を可能とするであろう。

■リスク研究を強化すること

 ナノ技術研究開発における最大の投資者としてアメリカ政府は、ナノ技術の健康と環境への影響を評価するためにもっと資金を出し、潜在的なリスクを特定するために必要な重要な研究を早急に実施する必要がある。連邦政府がナノ技術のために1年間に使っている約10億ドル(約1,100億円)のうち、環境と健康への影響調査は、2004会計年度でわずか850万ドル(約9億4,000万)(1%以下)であり、2006会計年度では増加はしたが 3,850万ドル(約42億円)(4%以下)である。

 エンバイロンメンタル・ディフェンスはアメリカ政府に対し、国家ナノ技術イニシアティブ(NNI)の下におけるナノ物質リスク研究への連邦政府の資金供給は今後数年間は少なくとも年間1億ドル(約110億円)に増額すべきであると要求した。年間1億ドル(約110億円)という予算は現状に比べれば大幅な増額であるが、それでも連邦政府のナノ技術開発のための予算のわずかな部分を占めるだけである。さらに、ナノ技術が2015年までに世界経済で占めるといわれる1兆ドル(約110兆円)におけるリスク回避の利益と比べれば控えめな投資である。仕事の複雑さ、必要な研究の範囲、及び比較のためのベンチマークの存在を考えれば、年間億ドル(約110億円)は必要とするものに対し合理的に低い見積もりである。

 ナノ技術の潜在的なリスクに対応することは尋常ではない複雑な仕事であるという広範な合意が利害関係者の間に存在する。ナノ技術は、潜在的に限りがない技術と関連物質の集まりである。ナノ技術の圧倒的な将来性の源である潜在的な物質と応用の途方もない多様性はまた、潜在的なリスクを特性化することに関し大きな困難をもたらす。ナノ技術は、多くの基本的に異なる物質のタイプ(そして個々には数百数千の潜在的な変種)、潜在的にリスクに関連する多くの新しい特性、応用における多くの潜在的タイプ、及び、それぞれの物質又は応用の全ライフサイクルにおける複合的発生源と暴露経路、をともなう。

 ハザードと暴露が詳細に評価できるようになる前に、もっと多くの基本的な必要性に目が向けられなくてはならない。現在はナノ物質の潜在的なリスクを決定するための基本的な理解すら欠如している。ナノ物質を特性化する、又は職場環境、人の体内、環境媒体を含む様々な状況におけるナノ粒子の存在を検出し測定するために必要な手法、プロトコール、及びツールの多くは、いまだに非常に初期の開発段階にある。

 従来の化学物質についての既存の知識のうち、どの程度がナノ物質のリスクを予測するために利用することができるのかということもまた明らかではない。ナノ技術の特性−物質がナノスケールに縮小される又はナノスケールで組み立てられる時に出現する新しい特性−を定義することは、その物質が大きい場合の特性や挙動からは予測することができない新たなリスクと新たな毒性のメカニズムの可能性を明らかにすることである。リスク研究では、ナノ物質の特性、生物学的及び環境的な運命と移動、及び、急性・慢性毒性を理解する必要がある。

 これら領域のそれぞれにおいて、既存のテスト及び評価の手法とプロトコールは、ナノ物質の新しい特性に対応するために変更することができる程度を決定するために検証されることが必要であり、あるいは新しい手法で補完されることが必要である。サンプリング、分析、及び監視に関しても同様な困難さが生じ、これらの全てが生体組織及び様々な環境媒体中でナノ物質及びそれらの変換物質を検出する必要がある。

 ナノ技術リスク研究にもっともっと多くの金がつぎ込まれる必要があるという見解は、専門家の評価、従来の化学物質のハザード特性化プログラムに関連する既知のテスト費用、及び、類似のリスク特性化の取組のための研究予算、すなわち EPA の大気中の微粒子物質(PM)のリスクに関する研究、によって裏付けられる。

専門家の評価

 様々な分野の専門家らは、国家ナノ技術イニシアティブ(NNI)の現在のナノ技術リスク研究のための資金供給はもっと顕著に増される必要があるということを言明している。NNI によって主催された2004年9月のワークショップに招待された政府、産業界、及び学会の専門家らは、ナノ技術リスク関連研究に対する政府の出費を少なくとも10倍は増加し、2004会計年度には約1,000万ドル(約11億円)とすることを要求した。英国王立協会・王立技術アカデミーはイギリス政府に対し、ナノ物質の実際のテスト環境を整えるために必要な手法と装置を開発するための一部として10年間、毎年500万〜600万ポンド(900万〜1,1000万ドル/約10億〜12億円)出すよう要求した。NNI によって要求された化学産業界の”ナノ技術開発のロードマップ”は、人の健康と環境へのハザードの評価のための費用は、今までに産業界に求められた最優先研究の累積研究開発費のレベルになるであろうということを示している。ブッシュ大統領の科学顧問ジョーン・マーバーガーVは、現在、NNI を通じて実施されている毒性研究は、実施すべき必要に比べて”バケツの中の一滴”であると指摘した。

ハザード最終評価項目テストのコスト

 化学物質ハザード評価プログラムから入手できるいくつかの見積りは、危険特性のためのナノ物質テストのコストに関する少なくとも低い領域を知るために使用することができる。これらのコストは、関心あるハザード最終評価項目(毒性プラス環境的運命)の組み合わせのための従来の化学物質のテスト用のものである。特に、それらは、リスク評価を必要とする暴露評価に関連するコストを含んでいない。後に実施される精査の優先順位を設定するだけのために化学物質をスクリーニングするよう設計された基本的なハザード情報であるスクリーニング・インフォメーション・データ・セットを生成するために、化学物質あたり概略25万ドル(約2,800万円)かかると見積もられている。欧州連合で提案されている REACH の下で高生産量化学物質に適用されるもっと広範なデータ要求を満たすためには化学物質あたり200万ドル(約2億2千万円)を越えると見積もられている。アメリカの法の下に農薬を登録するために必要な一連のテストには、農薬あたり1,000万ドル(約11億円)かかると言われている。

大気中微粒子物質(PM)のリスクのためのEPA研究予算

 国家研究諮問委員会(National Research Council)からの勧告を受けて、EPAは、大気浮遊微粒子物質(PM)により及ぼされるリスクに関する最初の6か年研究プログラムに毎年4,000万ドル〜6,000万ドル(約44億円〜66億円)を費やした。ナノ物質に関する必要な研究範囲は非常に広範囲であり、したがって大気浮遊微粒子物質(PM)よりもはるかにコストがかかると考えられる。これはひとつには、大気浮遊微粒子物質(PM)は、個別の発生源(非常に拡散しているが)と吸入という単一経路を通じて暴露が生じる比較的よく研究されてきた化学物質混合物であるからである。それとは対照的にナノ物質は次のような特徴がある。
  • 多くの全く新たな、そしてほとんど特性化されていない物質のクラスからなっている。
  • 呼吸、飲料水摂取、皮膚吸収を含むもっと多くの経路を通じて放出及び暴露する可能性あ生じるやり方で適用され使用される。
  • 水中、排水、及び広範な製品中に存在するかもしれない。
  • 製品中への導入を通じて一般公衆や労働者とともに消費者の暴露を引き起こすかもしれない。
  • 考慮される必要のある環境及び人の健康へのリスクをもたらす。

 したがって、最終的に特定されるリスクの程度にかかわらず、リスク評価が必要な研究は、大気浮遊微粒子物質(PM)よりナノ物質の方がはるかに影響があり、金がかかる。

 ナノスケール科学、エンジニアリング、及び技術に関する大統領の小委員会は、ナノ技術のための国家の研究の出費に関する調整と情報交換における役割をすでに果たしている。その調整の役割は、個々の機関がその所掌領域で必要とする研究を実施するための十分なリソースを持つことを確実にするための責任と権限とともに、全ての緊急な必要に目が向けられることを確実にするための機関をまたがる全体の連邦リスク研究課題を形成し志向する能力を強化することである。ナノ物質が急速に市場に出されることに照らして、この追加される権限は時宜を得て正しい質問がなされ回答されることを確実にすることが本質的に重要である。

 これは、アメリカ政府だけが単独で、あるいは主なるナノ物質リスク研究への資金供給者になるべきであるということではない。他国政府もまた、ナノ技術研究開発を促進するために大いに資金を使っており、彼らもまたナノ技術のリスク研究に対して応分の資金を用意すべきである。政府のリスク研究は、ナノ物質リスクを特性化し評価するために必要な基盤を整備するために演じる重要な役割を持っているが、民間企業も彼らが市場に出そうとしている製品に関する研究とテストの大部分に資金を出すべきである。もし政府と企業が冗長を避け効率を最適化するために彼らの研究活動を調整すれば、全ての関係団体が利益を得ることは明らかである。

■規制の政策を改善すること

 アメリカは環境と健康のリスクに対応するために多くの規制プログラムを持っているが、これらのプログラムは、その設計において包括的でもないし、実施において欠陥がないわけではない。その結果、ある物質は規制の隙間に落ち、規制されないままに置かれ、有害影響が広く顕在化するまで発見されないリスクを及ぼしている。あるナノ物質もこれらの隙間に落ち込むかも知れない兆候がある。いくつかの事例を検討する。
  • 多くの物質と製品について、それらが市場に出される前に政府のレビューは受けない、ほとんど受けない。規制は問題が生じたあとに行われる。
  • 他のプログラムは、物質が”新規”であるとみなされた場合にのみ適用される。少なくともあるナノ物質製造者らは、彼らの製品は新たな特性を持っているにもかかわらず、新規ではないという前提の下に開発を進めており、環境機関はこれらの物質の規制状況を明確にしていない。その結果、新規の特性を持ったナノ物質は、製造者が保証する潜在的な健康と環境への影響の精査を受けずに市場に出されている。
  • ”新規”物質のためのあるプログラムは製造者に対するデータ提出要求が歴史的に非常に限定されており、その代わり既存の化学物質に関する情報からの推定に依存している。しかしナノ物質には既存のハザード・データがほとんどないので、このアプローチをナノ物質に適用することは非常に疑問がある。
  • 多くの規制プログラムの下では、重量ベースの閾値又は基準によって規制される。しかしナノ物質はその表面積が重量に比べて非常に大きいという特性やその他の特性のためにナノ物質はしばしば従来の物質に比べて劇的に増大した能力や活性を示し、それは既存の重量ベースの措置には反映されていない特徴である。
  • ある潜在的なナノ技術の適用は、複数の規制プログラムの管轄の隙間に落ちるかもしれない。例えば、酸化チタンのナノ粒子を使用した日焼け止めは消費者への即座の健康影響の可能性については食品医薬品局(FDA)によってレビューされるが、FDAもEPAもこれらの日焼け止めが洗い流された時に、酸化チタンのナノ粒子が水生環境にどのように影響を与えるかについてレビューを行っていない。
 ナノ粒子は従来の物質と比べて新たな特性がないということが実証されない限り、EPAはそのナノ物質は新規であると明確に言うことができるし、また言うべきである。
 この点において、連邦政府機関は彼らの既存の法的権限を可能な限り効率的に潜在的なナノ物質リスクに目を向けるために厳格に使用する必要がある。残念ながら、この点に関する措置をとる兆候はほとんどない。例えば、EPAは、有害物質規正法の適用において、どのナノ粒子か”新規”で、どのナノ粒子が”既存”の化学物質なのかについて、すっかり沈黙したままであるが、新規化学物質だけが上市前届出とレビューの要求が適用されるので、その区別は重要である。ナノ粒子は従来の物質と比べて新たな特性がないということが実証されない限り、EPAはそのナノ物質は新規であると明確に言うことができるし、また言うべきである。さらに、少なくとも、ナノ粒子の”低生産量”と”低暴露”の適切な定義がなされるまでは、ナノ物質は低生産量又は低暴露であるとみなされて上市前届出条項から自動的に免除されることはないということを明確にすべきである。同様に、ポリマーの既存上市前届出条項からの免除がナノ物質に適用されると仮定する前に、EPAはナノ粒子が免除の根拠を満たすかどうか、すなわち、ナノ物質の分子は生物学的に利用するために十分に大きく、それらはすでに評価済みの物質にのみ分解するかどうか、検証する必要がある。EPAはまた、ナノ物質のハザード及び暴露データがその潜在的なリスクを特性化するために十分でない場合には、そのナノ物質の商業的製造は承認されないということを公に言明すべきである。

 政府機関が既存の権限を適用するように(あるいは、怠慢でやっていないかもしれないが)、次にとるべきステップははっきりしている。非効率な部分を特定する包括的で独立したプロセスが重要である。

■企業の管理基準を開発すること

 自己の利益だけを求めるという観点から抜け出し、産業界は、他の利害関係者と協力して、ナノ物質のリスクを評価し、管理することに主導的な役割を果たさなくてなならない。
 最も楽観的なシナリオの下においても、現在、市場に投入されている、又は投入されよとしているナノ物質に対応できるだけの十分な速さで適切なナノ物質条項を導入しそうにはとても思えない。自己の利益だけを求めるという観点から抜け出して、産業界は、他の利害関係者と協力してライフサイクルをベースとしたナノ物質のための”管理基準”を早急に確立して、ナノ物質のリスクを評価し、管理することに主導的な役割を果たさなくてなならない。

 これらの基準は、労働者の安全、製造中の環境への放出と廃棄物の発生、製品使用、及び製品廃棄を考慮して、製品の全ライフサイクル通じてナノ物質のリスクを特定し管理するための枠組みとプロセスを含むべきである。管理基準はまた、ナノ物質のリスクとリスク管理の実施について仮定の精度をチェックするための環境と健康監視プログラムを含む、フィードバック・メカニズムを含み、また、それに直ぐに反応できなくてはならない。そのような基準は、リスク同定とリスク管理システムの仮定、プロセス、及び結果を公開することを含んで、透明性があり、説明責任のある方法で開発され実施されなくてはならない。理想的には、そのような管理基準は、道理にかなった規制政策のためのモデルを提供することに役立つことが望ましい。このことは、自主的なプログラムに参加する会社だけでなく、全ての会社が安全にナノ物質を管理するために必要なステップを踏むということを公衆に保証することになる。このことはまた、責任ある会社が手を抜く会社に比べて不利益をこうむらないようにするために、全ての会社に同じレベルの土俵を設定することになる。

■多様な利害関係者を参加させること

 今日までに、政府も産業界も、その立場がこのナノ技術からの利益とリスクの両方に立脚する労働団体、健康団体、消費者団体、地域団体、及び環境団体を含む広い範囲の利害関係者を十分に参加させてこなかった。政府と産業界はこれらの様々な利害関係者を関与させ、この将来性ある技術をその利益を最大にしリスクを最小にする方法でいかに開発し管理するか決定するための彼らの見解を考慮する必要がある。

 ほとんどの場合、”利害関係者の参加”は、実際には、(意識的に又は怠慢で)意思決定プロセスから除外されていた人々に対し最後の決定だけを伝えるか、又は技術を推進するためにそして技術の推進者らは根拠がないと主張する懸念を緩和するために人々を”教育”することであると解釈されている。参加は単にトップダウンのコミュニケーションではない。それはナノ技術の期待と懸念を特定するために役立ち、研究と活動の優先度を設定するのに役立つ役割を彼らに与えるために最初から利害関係者を参加させることを意味する。そして、これらの利害関係者の多くはナノ技術に利害を持つだけでなく、彼らはまた提案すべき展望、経験及び専門性を持っている。

 ナノ技術について初めて正しく理解する機会である。リスクの削減と市場及び公衆の許容の増大に関する潜在的な結実は、ほとんど間違いなく、これら重要な声を議論に招くために必要な投資をはるかに上回る。

 少なくとも初期の研究で示されたいくつかのナノ物質による潜在的なリスクをともなった急速なナノ技術の商業化は、政府と産業界が彼らのナノ技術開発への投資のうちのもっと多くを潜在的なリスクを特定し、それらに対応する方向に緊急に振り向ける必要を促すものである。政府と産業界はナノ技術の潜在的な都合のよい面を強調し、その開発を推進してきたという点では大きな仕事をしてきたと言えるが、彼らは都合の悪い面を特定し回避するという同じように重要な役割をまだ果たしていない。ナノ技術が意図しない有害な影響をもたらさずにその将来性ある期待を実現するためには、これら二つの役割の間のバランスがとれていなくてはならない。リスク研究の強化、規制監視の改善、企業の自主基準、及び利害関係者の参加が適切にバランスした時に、我々はナノ技術について初めて正しく理解する機会を得たことになる。

僕は、地ビール(microbrews)の役員だが、ナノピザ(nanopizza)は技術が進んでいるなー。




化学物質問題市民研究会
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